【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第445話 終わりの月と救い

 今のケイはネームレスには到底及ばない存在である。

 その魔力量から経験に至るまで全てがまっさらな赤子とも言うべきケイの実力は、ソルシエラと呼ばれた過去からは考えられない程だ。

 

 トリムに対抗できるのは0号である星詠みだけ。

 しかしその前提は、星詠み自身が潜在能力を全て引き出せている場合に限った。

 

 故にこれは本来勝負としての形を成していない。

 それでも今、ケイが戦場を駆けネームレスと戦えているのは偏に頭の中に響く何者かの声のおかげだった。

 

「しつこいなぁ!」

「――っ!」

 

 黄金の砲撃陣が展開される。

 その数50。

 ケイはその圧倒的な数に頭が真っ白になり足を止めた。

 

『そのまま前に進んで。恐れに体を支配されては駄目。星は何物にも縛られないわ。例え、自分自身の恐怖でも』

「っ」

 

 何も考えられない頭だからこそ、その言葉は頭の奥へと染みるように浸透していった。

 ケイの足は自然と前に進む。

 その横を次々と砲撃は通り抜け、直撃しそうなものは全てが彼女へと到達する前に強固な障壁により防がれた。

 

 ネームレスのブラフを全て読み切り必要最低限の行動だけで処理するその姿は、かつてのソルシエラを彷彿とさせる。

 強いて違いを挙げるならば、その目はかつての彼女からは考えられない程に真っ直ぐで、澄み渡っていた。

 

「っ……本当に記憶ないのかよそれで」

「トアちゃん、皆が貴女の帰りを待っているよ。だから帰ろう」

 

 どれだけ否定されようとも、ケイは言葉を向ける。

 傷つき汚れた今の彼女は、酷く小さくか弱い存在に見えた。

 

「帰る? 私の居場所なんてもうないんだよ!」

 

 黒い焔が迸りネームレスの姿が消える。

 

『右斜め後ろ、大鎌を軽く振りなさい』

 

 言葉に従いケイは大鎌を杖の様に振るう。

 すると銀の鎖が大量に射出され、丁度姿を現したネームレスを拘束した。

 

「チイィッ!」 

「きっと辛い事が沢山あったんだよね。自分を許せなくて、弱い自分が嫌で……」

「ソルシエラだったお前に何がわかるんだよ!」

 

 鎖がガラスの靴により弾き飛ばされる。

 拘束を解いたネームレスはそのままケイへと大鎌を振り下ろす。

 

「っ」

『大丈夫よ。だから目を瞑らないで。大切な物まで見落としてしまうわ』

 

 その言葉を信じてケイが目を開けた次の瞬間、視界には黒い羽根が舞っていた。

 そして映るのはネームレスの背中。

 自分が転移をしたという事に気がつくまで数秒ぼうっとしていたケイの脳内に再び言葉が響く。

 

『呆けないで。星は常に輝き続けるの』

「っ、わかった……!」

 

 ケイは頷き、ネームレスの背中へと再び声を掛けた。

 

「トアちゃん!」

「っ、いつの間に後ろに――」

 

 ネームレスはすぐに反撃を警戒して構える。

 しかしケイはその場に佇んで、変わらず言葉を投げかける。

 小さな星は、変わらずネームレスを照らそうとしていた。

 

「今の私ね……最初はすっごく不安だったんだ。弱くて、みじめで、皆に迷惑を掛けて……でも、それが私なんだよ! こんな私でも愛してくれる人がいる。トアちゃんだってそうだった。貴女が愛してくれたから、きっとソルシエラはソルシエラでいれたんだよ」

「私が愛した子はお前じゃない……お前じゃないんだよ……!」

 

 それはネームレス自身の行動と願いを全て否定する言葉だった。

 現実から目を背けるようにネームレスは大量の蛙を生み出し、手当たり次第に爆発する。

 

「綺麗ごとじゃ世界は救えない! 結局は力だ! だから私は力を手に入れた! この力があれば、私は死ぬことが出来る! 英雄になって、皆に許してもらうんだ!」

「そんなの間違ってる!」

 

 爆発は全てが障壁により無力化された。

 しかし油断はできない。

 

『来るわよ、真正面から』

 

 言葉の通り、爆炎を突き抜けてネームレスが姿を現す。

 目にいっぱいの涙を溜めて、怒りと悲しみが混じったような表情で彼女は大鎌を何度もケイに振り下ろす。

 

「間違ってるのは私という存在だ!」

「っ!?」

『安心しなさい。私の言う通りに動けば当たらないわ――』

 

 ケイの脳内にいる何者かはまるで詠うように指示を出していく。

 その声に合わせて体を動かせば、ネームレスの攻撃を次々と躱すことが出来た。

 

「私がいたから皆は死んだ! 無駄に気を使って、体を張って犠牲になった!」

 

 攻撃が当たらない苛立ちが募り、声を更に荒げる。

 対するケイは冷静に努め、その攻撃を避け続けた。

 

「私なんて、いなきゃよかった……。フェクトムで私が生きた時間は、全部が無駄だったんだよ」

「――それは違うっ」

 

 声に従い避け続けてきたケイは、その時初めて自身で行動を選択する。

 ネームレスの大鎌を真正面から受け止めるという選択を。

 

「くっ……!」

『無茶な事をするのね。真正面から受け止めるだなんて』

 

 刃を受け止めた柄から火花が散り、次第にケイは押し込まれていく。

 それでもケイは攻撃を受け流すことなく、その細腕で精一杯に受け止めようとした。

 

「そんな悲しい嘘をついちゃ駄目だよトアちゃん。楽しかったでしょ? 温かかったでしょ? あの場所は、貴女にとってかけがえのない居場所だった。違う?」

「違う!」

 

 真っ直ぐな目に射抜かれて、ネームレスは恐れるように距離を取る。

 そのまま押し込めれば優位に立てていたにもかかわらず、彼女はその輝きを見つめることを拒否した。

 

「違う……違う違う違う違う! 私は死にたいだけなんだ! 私に変な幻想を抱かないでよ!」

 

 宙に浮いた彼女は、今までで一番大きな砲撃陣を展開した。

 半狂乱で大鎌を振るい収束砲撃の準備をするその姿は、もはや獣に等しい。

 辺りの物質が黄金の魔力へと分解され天へと昇っていく光景は、まるで世界の終わりにも見えた。 

 

『心を揺さぶられて暴走状態になっているわね。これ以上言葉を届けたいなら、まずはあのわからずやの頬を叩いてあげないと』

 

 脳で響く言葉は、どこか悲しげだった。

 

 ケイは意を決して空を見上げる。

 浮かぶ金の月は、まるで嵐の様にその力を吹き荒れさせ自壊を始めていた。

 

「……私が行かないと」

 

 決意するように、ケイはその言葉を口にする。 

 そして、流れるような動作で大鎌の柄を空へと向けた。

 

 まるでそうするべきであると知っているかのように。

 

『いい子ね。そうよ、星は決して逃げない。どんな夜でも変わらず輝き続けるの』

「……っ」

 

 ケイの足元に小さな魔法陣が展開され、魔力の収束を始める。

 それは彼女が生まれて初めて放つ収束砲撃であった。

 

『引き金に指を添えて、狙いは……そう、あの子の後ろにある魔法陣』

 

 声は優しく導いていく。

 やがて収束が終わると同時に、二人は同時に引き金を引いた。

 

「星に祈りを」

「届いて!」

 

 黄金の魔力が天から降り注ぐ。

 対抗するように地上から向けられた銀の光は、細くか弱いものだった。

 

 やがてそれは空中でぶつかり合い、激しい爆発を巻き起こし――。

 

 

 

 

 

 

 砲撃がぶつかり合う轟音がまだ耳に残響として居座る中、ケイが次に目を開けたときに映っていた世界は、まるで幻想のようだった。

 

 天と地の境界が溶ける、宇宙のような世界。

 

 平らでどこまでも澄んだ水面が広がりその鏡面には満天の星空が寸分違わず映し出されている。

 上を見ても、下を見ても、同じ銀河が果てしなく続く。

 まるで宇宙の中心に立っているかのような静寂があった。

 

「――ふふっ、上出来よ」

 

 その中心で、蒼銀の髪を持つ少女が笑っていた。

 自分に瓜二つの姿をした彼女は、しかしまるで別人かのように妖艶な雰囲気を醸し出している。

 

「……貴女は」

「あら。賢い子なら、もうわかっていると思ったのだけれど」

 

 彼女の髪は星の光を吸い込み、淡く輝いている。

 揺れるたびに細い銀糸がこぼれるようで、その姿は夜に溶け込みながらも、確かに存在を主張していた。

 

 ケイはその少女を見てこぶしを握る程に緊張する。

 脳内へと響いていた声との一致。

 戦闘への膨大な知識量。

 そして、星たらんとするその生き様。

 

「……ソルシエラ」

「正解。褒めてあげるわ」

 

 互いの影は水面に落ちることなく、ただ星々の光と混じり合うように浮かんでいる。

 

 天と地が星に満ちる世界に、間もなく夜明けが訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ネームレスの砲撃、うめ……うめ……!』

『逆上させ砲撃を撃たせて吸収……!? それにこの魔力で自我を塗り替えようと……! なんて人の心が無い作戦なんですか貴女!』

『生まれたての魂に殺し合いをさせた奴の言葉ではないぞテム子よ』

『トリム由来の魔力が染みるねぇ^^ 今から私達に利用されるとは知らずに^^』

『おぉ……行くぞ、星天形態のお披露目と行こうではないか……!』

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