【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第446話 再誕と始まりの星

 足元から頭上まで全てが星空に支配された世界は、まるで夢のような光景である。

 呼吸を忘れてしまう程に美しい世界は、瞬く星全てがかの少女の支配のもとにあった。

 

 歴代最高にして最強。

 星詠み――ソルシエラ。

 

 彼女はその蒼銀の髪を魔力の風に揺らしてケイの事を見つめている。

 瓜二つである筈なのに、彼女に見つめられるとそれだけで息を呑んでしまう。

 

 仮に、天に輝く全ての星が自分だけを見ていたとしたら。

 そんな荒唐無稽な事を考えてしまいそうになる思考を振り切って、ケイは決意した。

 

「お願いします! トアちゃんを助け「静かに」……え?」

 

 視界から外していない筈のソルシエラはいつの間にか目の前に移動しており、人差し指でケイの唇を抑えた。

 そして優しく微笑み、瞳を閉じる。

 

「ここは鏡界との繋がりが強いの。だから、普段は聞こえない星の声がよく聞こえるわ」

 

 手本を示す様に、静寂へと耳を傾けるその姿を真似てケイも目を閉じる。

 自分の心臓の鼓動が響き、風に揺られる髪の微かな音もよくわかった。

 静寂の中に生まれる微かな音たちに耳を傾けている内に、ケイの心は静まっていく。

 そのころ合いを見計らったように、ソルシエラはポツリと呟いた。

 

「ネームレスを救いたいのでしょう?」

「……はい」

「ふふっ、貴女って本当に純粋なのね。私から生まれたとは思えないわ」

 

 ソルシエラはそう言って頭を撫でる。

 

「あの子を救うのは難しいわ。フェクトムの総力を結集してもね」

「わかっています。けど、私なら……星詠みであるソルシエラなら出来る。違いますか?」

 

 ケイはそう言って目を開いた。

 ソルシエラは相変わらず微笑んでいる。

 しかしその瞳には微かに憐憫のようなものがあった。

 

 自分へと向けられた、慈悲の眼差し。

 それを見て、ケイは確信する。

 

「……私が貴女に戻れば、ソルシエラとして記憶を取り戻せば助けられるんですね?」

「ふふ、私は何も言っていないわ。……けれどそうね、星の輝きは全てを照らす。もしも私がもう一度戦えるのなら必ず救えるでしょうね」

「なら、お願いします」

 

 食い気味にケイは願い出るが、ソルシエラはすぐには頷こうとはしない。

 それどころか、諭す様に問いかけた。

 

「貴女はその代価を理解しているの?」 

「はい」

 

 ケイは力強く頷く。

 

「私が消えちゃうんですよね? ……なんとなくですけれど、そんな予感がするんです」

「……そう」

 

 ソルシエラは少しの間、黙り込んだ。

 その間も、ケイの頭を撫で、髪を梳かしていく。

 

 再び世界を静寂が支配し、目の前にいるソルシエラの息遣いが聞こえた。

 視線を落とし瞼を閉じれば、まるで夜空が呼吸をしているようだ。

 

「今の貴女は、私の理想の一つなの」

 

 ソルシエラはふとそう言った。

 目を開き、顔を上げようとしたケイだったが、頭の上に置かれた手がそれを許さない。

 頭を撫でたまま、ソルシエラは自身の表情を悟らせないように言葉を続ける。

 

「素直に笑って、皆と仲良くなる。そんな幸せ、とっくの昔に諦めたと思ったのだけれど。どうやら私の潜在意識には、まだお子様な部分があったようね」

「皆、優しい人ですよ。今からでも心を開けば……って、私が言う事でもないですよね」

「ええ、わかっているわ。本当に、素敵な人達だもの」

 

 まるで眠る前に子供に聞かせるような優しい声でソルシエラはそう答えた。

 

「だからこそ、貴女には理解してもらいたい。その温もりと愛を自ら手放す選択を貴女はしようとしているのよ?」

 

 それはソルシエラからの最後の警告だった。

 きっとここから先は後戻りできないのだろう。

 それでも、ケイの答えは決まっていた。

 

「……私、自分の生まれた理由がわかりませんでした。いろんな人から戦う理由を聞いて、頑張る理由を教えて貰って、ようやく最期に答えらしいものが出たかもしれないんです」

 

 頭の上に置かれた手を握る。

 そして、ケイは勢いよく顔を上げ、ソルシエラの瞳をまっすぐに見返した。

 

「私はトアちゃんを救いたい! 私が伝えるべきことはもう伝えました。後は貴女が、ソルシエラである貴女があの子に伝えて欲しいんです!」

「随分とまっすぐで暑苦しいのね」

 

 ソルシエラはケイの頬を撫でる。

 言葉とは裏腹に、その手つきに嫌悪感は見られない。

 

「でも、嫌いじゃない。その意思は確かに受け取ったわ」

「……ありがとうございます」

 

 精一杯の感謝と、自身の死を悟って襲い来る恐怖にケイの胸は満たされる。

 不思議な感覚だった。

 

 恐れるべき死が穏やかに、そして自身の願いの成就と共に訪れる。

 今、きっと自分は笑うべきなのだ。

 

 そう理解していながらも、ケイの眼から涙が零れ落ちる。

 ソルシエラはそれを指先で受け止めた。

 

「泣いているの?」

「……いいえ」

 

 否定しながらも、ケイの脳裏には願望が泡の様に浮かんでは消えていく。

 

 もっとクラムと一緒にいたかった。

 きっと彼女は自分の薄暗い心すら愛してくれただろうから。

 

 もっとヒカリと遊びたかった。

 太陽の様に眩しい彼女は自分を照らしてくれただろうから。

 

 もっとミユメと話をしたかった。

 その叡智は自分の人生に新しい刺激をもたらしてくれただろうから。

 

 もっとミズヒに教えてもらいたかった。

 強くたくましい彼女の生きざまを知れば自分も強くなれただろうから。

 

 もっとミロクに頭を撫でて欲しかった。

 そうすれば自分もきっと沢山の人に優しさを分け与えることが出来たから。

 

 もっとトアと色々な所に行きたかった。

 あの子と一緒にいれば、自分は色々な景色を見られただろうから。

 

 もっともっと、皆と一緒にいたかった。

 そうすればきっと幸せだっただろうから。

 

 それでも、彼女の答えは変わらない。

 何よりも強く、少女の救いを願ってケイは告げる。

 

「私は消えてもいい。だから、絶対にトアちゃんを救って」

 

 それがケイのやるべき事であり、やりたい事なのだ。

 ソルシエラとケイは暫し見つめ合う。

 

 その時間は星の瞬きの様に一瞬にも星が生まれ消えるほどの長い時のようにも思えた。

 やがてソルシエラは、ふっとほほ笑む。

 少しだけ意地悪な笑顔で、ケイの頭を撫でながら言った。

 

「冗談よ。貴女は消えないわ」

「……え?」

「少しだけ、貴女の事が知りたかったのよ。使命や悲劇を知らない私がどう生きるのか知りたくて、意地悪しちゃったわ。気に障ったらごめんなさい」

「え、え?」

「でもそうね……これで一つはっきりしたわ」

 

 ソルシエラはケイをまっすぐに見つめ返してこう言った。

 

「貴女は私じゃないわね。どんな生き方をしても、そんな真っ直ぐで素敵なお馬鹿さんにはなれないでしょうから」

「なっ……」

「でも、願いは託されたわ」

 

 ソルシエラはそう言うと、ケイの傍を横切る。

 途端に、ケイの瞼は重くなり始めた。

 微睡むように視界と思考がぼやけていく。

 

 そんな中、声だけが聞こえていた。

 

「少しの間、眠っていなさい。……いつになるかわからないけれど、必ずもう一度目覚めさせてあげるから」

「……あり、が、と」

「ふふ、いいのよ。それじゃ、少しの間だけれどさようなら――私によく似た誰かさん」

 

 糸が切れたように、ケイはその場に崩れ落ちる。

 星が支配する世界で、彼女は眠りに落ちるように小さく丸まって瞳を閉じた。

 

 しかし、その顔は安らかであり、まるで心地の良い夢を見ているかのようだった。

 

 

 

 

 

『よっしゃ! 肉体を取り戻したぞ! 後は魂を持ってくるだけだ!』

『よく似たも何もほぼ別人じゃないですか!』

『やっと悪シエラ討伐周回から解放されるのじゃああああ!』

『鏡界から魂を輸送しようねぇ』

『おぉ……天使である私に任せるがいい……』

 

 

 

 

 

 

 唐突な別れはガーデナーにとっては慣れた物であった。

 大樹の前でしばらく横になっていたソルシエラが起き上がった時、自分へと向けられていた目を見てガーデナーは悟る。

 

「……行くの?」

「あら、察しが良いのね」

 

 ソルシエラは少し驚いたように立ち上がる。

 その顔色は随分と良くなったように見えた。

 

「本当なら、私も最後まで付き合いたいのだけれど」

「待っている人がいるんだね」

 

 ソルシエラは頷く。

 余計な語らいは必要ない。

 

 ガーデナーとソルシエラは短くも長いこの旅を経て、確かに絆を育んだのだから。

 

「赫夜牟、行きましょう」

「なんじゃ、もうここでの祭りはしまいか? つまらぬのぉ」

 

 つまらなそうにそう答える赫夜牟の袖から伸び出た触手は丁度、悪シエラを一体貫いたところだった。

 触手を引き抜き、先端にべったりとついた魔力を舐めとりながら、赫夜牟はソルシエラの元へと向かう。

 

「ソルソル」

 

 ガーデナーはソルシエラへと声を掛ける。

 そして、とびっきりの笑顔とサムズアップを送った。

 

「こっちは任せて! また会おう!」

「……ええ、いつかきっと」

「え、いどうするのですか? じゃあ、わたしも」

「貴女はここにいないとソルシエランドは管理できないでしょう? 最後まで役割を全うしなさい」

「わかりました(絶望)」

 

 信愛のソルシエラは素直にうなずいた。

 そしてガーデナーの傍に立ち深々と礼をする。

 

「それじゃ。また会いましょう」

 

 大鎌を生み出し、ソルシエラは笑う。

 その笑みは相変わらず不敵で妖しい。

 

 やがてその足元に魔法陣が生み出され――。

 

 

 

 

『魂回収! これで全てのコンボパーツが揃ったぜ!』

『自分をパーツ扱い……。というか、私はまだこっちで働くんですか!?』

『それに関しては自業自得じゃろ』

『君にはガチャボックス開封で永遠にタップされる仕事があるから』

『よーし、ここからだねぇ!』

『おぉ、行くぞ!』

 

 

 

 

 

 

 爆発は、世界の色を一瞬で奪い去った。

 黄金の閃光が全員の視界を満たし、轟音が大地の奥まで震わせ舞い上がる熱風が砂塵と破片を天へと押し上げる。

 

「ケイちゃん!」

 

 ミロクはその光景を見て、叫ぶ。

 最悪の結末を予想したのは、その砲撃を放ったネームレス本人もであった。

 

「……ぁ、い、いや、違う……私は、そっそんなつもりじゃ……い、ぁ」

 

 涙と共に何かが零れ落ちていく。

 そして遂にその心が砕け散ろうとしたその瞬間だった。

 

「――星詠みはここに救済する」

 

 爆発の中から声が聞こえる。

 今までとは違う、自信が裏付けされた余裕の声だ。

 

『っ、この反応は……! おい、構えろ馬鹿! ボク程ではないが、マズイぞ!』

『……ミロク、その涙は今は不要です。目覚めました故』

 

 デモンズギア二機が最初にそれの再誕を悟り、それぞれのマスターへと伝えた。

 その言葉に全員が視線を向ける。

 

 爆発の中心――崩壊と光が渦を巻く空間のただ中に、ひとつの影がゆっくりと姿を現した。

 

 揺らめく爆炎を足元の魔法陣で吸収し続け、背後で白い布がひらりと花弁のように舞い上がる。

 爆発の残光が淡く照らすのは純白のドレスを身に纏った少女だった。

 

 そのドレスは炎に染まることなく透明感を持ち、裾は焦げ跡ひとつない。

 風が吹くたび、薄布が広がり、まるで光から編まれた衣を揺らしているかのようだった。

 

「感動して泣くのはまだ早いわよ。だって、フィナーレはまだでしょう?」

 

 そして、その手に握られていたのは――()の大鎌。

 

 刃は星光を固めたように冷たく、柄には淡い光紋が脈打っている。

 全体を機械的なパーツで覆った大鎌は、先ほどまで彼女が握っていたものよりも大きい。

 少女が一歩前へ進むと、大鎌の刃が余波を裂き爆炎の残滓を吸い込むようにして静寂を作った。

 

 爆発の中心から生まれ落ちるように現れたその姿は、破滅を割って咲いた一輪の白い花にも、または終焉を告げる蒼銀の死神のようにも見えた。

 

 ――名を星天形態。

 デモンズギア、天使、人間の全てが融合した理論の外に在る極致。

 一人の少女の心を救う為、その星は最後の輝きへと至ったのである。

 

「……そ、ソルシエラ」

「ええ、当然でしょう」

 

 ネームレスの言葉にソルシエラは頷き視線を向ける。

 蒼銀の髪が風に揺れ、銀の鎌が白い光を返す。

 彼女はゆっくりと顔を上げ、崩壊の余音が消えゆく世界の中で静かに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この体……実に良く馴染むぞ……!』

『馴染むも何も主殿の体じゃ』

『やったろうねぇ!』

『おぉ、カメさんビットはいつでも準備出来ているぞ!』

『デモンズギアと天使と人間の完全な融合……あ、あり得ない……』

 

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