【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
六波羅にとって、その場は今すぐに帰りたい最悪の場所だった。
(しけた顔の女と、騎双学園のクズ筆頭のプロフェッサー……どっちも見てるだけでイラつくなァ)
事前に多額の金を受け取っていなければ帰っていると、六波羅は内心で舌打ちをする。
六波羅にとっては、ストレスのたまる場所でしかない。
「ああ、そう言えば言っていた通り、騎双学園の制服は持ってきたかね」
「……エイナ、リュックを貸せ」
「あ、はい」
六波羅はエイナの背負っていたリュックを掴むと、ベッドの上に放り投げた。
「テメエで確認しろ、プロフェッサー」
「はあ、相変わらず嫌われているようだ。私も、世界を救う英雄の一人だというのに」
プロフェッサーは首を無造作に掻きながら、リュックの中を漁る。
そして、一着の制服を引きずり出した。
黒を基調とした、騎双学園の一般的な女子制服である。
「サイズは君が以前に申告した通りに作らせた。一応は、騎双学園に転入という事になるからね。体裁は大事だ」
「……そうですね」
制服を見て、ミロクはかろうじてそう返事をする。
何かを耐えるようにベッドのシーツを掴む手から、六波羅は視線を逸らした。
(相変わらず狂ってやがる。俺が知っているだけでも十八人。いや、これで十九人か)
プロフェッサーが定期的に生徒を騎双学園に集めているのは知っていた。
六波羅自身、それに何度か付き添ったこともある。
(Sランクのこの俺をただの使いで動かすなんざ……本当だったら殺してるんだがなァ)
それでも動いているのは、いかんせん彼女の金払いが良いからだった。
騎双学園にいる以上、ある程度の悲劇は割り切るように六波羅は意識している。
ミロクもまた、そんな割り切るべき少女でしかない。
「それにしても、フェクトム総合学園の生徒を使えるなんて初めての事だからね。実は存外張り切っている。シエルは元々君たちの学区内に存在していたデモンズギアだ。適合する可能性も充分にある」
ひび割れた手をすり合わせながら、プロフェッサーはミロクの顔を舐めまわすように見つめる。
「ま、私の見立てじゃ無理だろうがね。失敗したら、新しい入れ物にするから安心してくれ。いい加減、これも限界でね」
そう言ってプロフェッサーは自分自身を指さした。
六波羅は、その姿を見てふと思い出す。
今のプロフェッサーの姿が、かつて騎双学園を自警していた善良な女子生徒のものであった事を。
あの時はもっと眩い金色の髪だったのだが、今はもうくすんで見る影もなかった。
「これは元々イレギュラーで手に入ったものだからね。劣化も早い。いやはや、素材が上等でないとどうも馴染まない」
「……っ」
ミロクの顔がさっと青くなる。
それでも何も言い返さないのは、自分を対価に何を得られるのかを知っているからだろうか。
「これで、まだフェクトム総合学園への支援は継続されるんですよね」
「勿論。私は約束を違えない。元より、私の行きつく果ては世界の救済だ。その道すがら、君たちの学園を救っても何もおかしくはあるまい」
目の前にある筈の犠牲を考慮せず、プロフェッサーはそう答える。
「むしろ、今まで騎双学園に圧力を掛けられ続けてよく持った方だ。前任の生徒会長の事は非常に惜しいが、君も中々に原石だよ。私は評価した人間には必ず相応の報酬を与える」
「……そうですか」
ミロクは、息を吐きだすように返事をする。
何もかもが、苛立たしかった。
(勿体ねェ女だ)
六波羅は内心でミロクをそう評価した。
彼女がどれだけ強いのかは分からない。
しかし六波羅は、ミロクの保有する魔力量の異常性に気が付いていた。
(馬鹿見てェな魔力量。そんだけ見れば、あの悪食くらいには届くか?)
脳裏に自分と同じSランクの少女、タタリが思い浮かぶ。
何でも食らうことができるという能力により、後天的に魔力量を増やせる
目の前の少女の魔力量はそれに十分に届きうるものだった。
唯一の欠点は、その魔力の使い道が存在していないことだろうか。
(あの齢まで能力に目覚めなければ、もう目覚める事はねェだろうな。身体強化も並みの出来だ。魔力を溜め込めるだけ溜め込んで、放出する穴がねェんじゃ、結局は宝の持ち腐れだな)
故に、六波羅にとって彼女は惜しい止まりだった。
そうしてミロクを見ていると六波羅の袖が不意に引かれた。
「あ?」
見れば、エイナが不服そうな顔で袖を引いている。
人に反逆してはならないという前提が組み込まれている彼女にとって、プロフェッサーとミロクのやりとりをただ見ているのは限界だったのだろう。
六波羅は、エイナの頭を無遠慮に撫でる。
それから、わざとらしく声を上げた。
「……あー、プロフェッサー。そろそろ学園に戻る時間だろ。こっちも理事会から別件で呼び出されてるからよォ、帰るならさっさと行こうぜ」
「それは失礼した。有能な人材を無駄に消費してはいけない。では、蒼星ミロクまた私のラボで会おう」
そう言うと、プロフェッサーは立ち上がる。
ミロクは、僅かに会釈をしただけでそれ以上何かを言うことは無かった。
(相変わらず、こいつの仕事は最悪の気分になっちまうなァ)
プロフェッサーは会話にこれ以上の興味を持たないようで、病室を後にする。
彼女が病室を出たのを確認して、六波羅は最後にミロクに何かを言いかけて止めた。
代わりに、病室を出てすぐエイナの頭をもう一度撫でてやる。
「リーダー?」
不思議そうに見上げるエイナを見て、六波羅は獰猛な笑みを浮かべた。
(俺があの女を助けても意味がねェんだ。そういう役割りは俺じゃねェ)
「エイナ、気張れよ。こっからが面白ェんだ。あのミロクって奴を取り戻す為にアイツは必ず来るぞ」
「アイツ?」
「那滝ケイだ」
彼と対峙した六波羅だからこそわかる。
彼のフェクトム総合学園に対する執念の凄まじさは、言葉で言い表せるものではない。
「本気のアイツとやっと戦える。……心が躍ってしょうがねェよ」
全てにおいて未知数。
ただ一つ分かっているのは、彼が六波羅の攻撃を容易く回避しうるという事だけ。
そしてそれは、六波羅にとっては最高の事実であった。
「
「え、あ、はい!」
何かわからずにエイナは返事をする。
六波羅の眼には、既にミロクもプロフェッサーも映っていない。
あるのは、那滝ケイとの戦いのみ。
例え、自身の勝利によって悲劇が訪れるとしても。
(来いよ、ヒーロー)
六波羅は自分の心に従うだけだ。