【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第456話 予想外の美少女はカテゴライズに困る

 トウラクという一人の剣士の登場は、明らかに想定外であり、この戦いの行く末を変化させた。

 複数の銘を扱うという圧倒的なアドバンテージを持っていたとしても、ルシエラは目の前の青年を決して侮る事はない。

 その目が、かつての自分達とよく似ているのだから。

 

「私に勝てると思っているのかな?」

「当然」

 

 トウラクはゆっくりと、抜刀居合の体勢に移行する。

 その目には、かつてルシエラを前にした時のような動揺は見られない。

 それどころか、期待があった。

 ルシエラという強者との戦いに臨むその昂ぶりが、両の眼から確かに感じ取れる。

 

「ここからは剣と共に語るとするよ、ルシエラ」

「いいよ、どこからでも来ると――ッ!?」

 

 様子見の為に、ルシエラは敢えて先手を譲ろうと考えた。

 しかし、彼が動き出そうとしたその瞬間に、身体が勝手に動き出しトウラクが動き出す前に蒼銀の剣を振るったのである。

 

 それは智慧の銘により最適化された行動。

 つまり、彼に先手を打たせてはならないと、銘が告げていたのだ。

 

「ルトラ、一振り」

 

 蒼銀の剣が、必ず当たるという規則の元に振るわれる。

 狙うは首。遊びや慈悲はなく、一撃で殺す為の剣であった。

 

 が、それはトウラクによって当然の様に切り払われる。

 火花が舞い、蒼銀の剣がまるで紙きれのように軽々と弾かれ宙を舞った。

 

(銘由来の攻撃が弾かれた? ルトラの権能は切断のみ。彼は何を切ったのだ……?)

 

 弾かれ仰け反る中、ルシエラは思考を欠かさない。

 ラッカは自身の銘を分割し、共鳴することでルシエラに匹敵する力を手に入れた。

 ならば彼はどうなのだろうか。

 ルシエラの眼には、ただのデモンズギアとその使い手にしか見えない。

 

「ルトラ、二振り」

「君の攻撃は私には届かないと信じているよ」

 

 一手、距離の切断。

 トウラクの姿が消え、次の瞬間にはルシエラの目の前に現れる。

 そして二手。

 それは愚直にもルシエラに真正面から振るわれた。

 

「舐められたものだね」

 

 ルシエラは何もしない。

 何故ならば、この攻撃は自分に当たる事はないのだから。

 

 ぴたりと剣先が停止し、トウラクの勢いが消える。

 

「君は動けないと信じているよ」

 

 その言葉を機に、トウラクはその呼吸までをも当然の様に止められた。

 ルシエラはその横を悠然と歩き、振り向きざまに一閃を放つ。

 

「この一撃で勝負は決まると信じているよ」

 

 信奉の銘を存分に込めた一撃。

 しかしそれは、あっけなく空を切った。

 

「……は?」

「――確かに、この瞬間に決まったようだ」

 

 背後から声が聞こえる。

 同時に感じる殺気に、ルシエラは調和の銘により無理矢理に自身とトウラクの位置を再配置した。

 

 世界が僅かに書き換わり、ルシエラはトウラクと距離を置いて相対するように位置が決定づけられる。

 その時彼女が見た物は、既に刀を振りぬいた後のトウラク。

 そして、自身の視界の端に、数本の切断された髪の毛が舞った。

 

「――ッ!?」

「まだ髪の毛数本程度だけれど、確かに届いたね。ルシエラ、やはり僕の勝利はこの瞬間に確定したよ。僕の剣は君を殺せる」

「……根拠のないはったりではないようだ。それにしても不思議だね。どうして、ただのデモンズギア使いが私と戦えているのか――」

「っ!?」

 

 次の瞬間、ルシエラはトウラクの目の前にいた。

 距離を無理矢理再配置して肉薄した彼女は、ただ愚直に一閃を放つ。

 それは先ほどのトウラクの攻撃を完全に模倣した一撃だった。

 

「解せないな」

「ルトラ、一振り」

 

 攻撃が弾かれる。

 やはり、銘による攻撃が当然の様に弾かれる。

 それを見てルシエラは更に攻撃を加速する。

 

 彼女の口元にはいつの間にか笑みが浮かんでいた。

 

「君のそれはなんだい? 何を力に代えている? 私の銘に匹敵するそれは一体なんだ?」

「知りたければ勝てばいい」

「随分と強情な子だね。別に勝利をする必要なんてないさ。戦いの中で君を分析すれば良いのだから」

 

 ルシエラはそう言って笑う。

 何故、ルシエラが銀の黄昏という組織に選ばれたのか。

 その答えの一つこそ、他者への観察眼にあった。

 

 世界の理や事象に対してであれば、博士や学者に一歩劣るだろう。

 しかし、人を見る事にかけては彼女の右に出る者はいない。

 

「銘は確かに発動している。そして君もそれを認識している。けれど一々対応しないのは……成程」

 

 故に、トウラクが仕掛けたこの攻防の絡繰りは、本気になったルシエラにより僅か数度の斬り合いで看破された。

 

「君は、自分という存在を世界から切り離しているのか」

「……ああ、正解だ」

 

 トウラクは、顔色一つ変えずにそう返し、ルシエラの攻撃をはじき返す。

 その感触にルシエラは自身の答えが間違っていなかったという確信と共に頷く。

 

「私の銘は全て、この世界に作用している。故に理論上はこの世界の外の人間には作用しない。六波羅執行官やトリムのようなアプローチと言う訳か」

「説明をするのが好きなのかな? そんな暇はないと思うけれど」

「昔の癖だよ。どうか茶化さないでくれ、年甲斐もなく恥ずかしくなってしまう」

 

 斬り合い、火花を散らす世界の中で二人は言葉を交わす。

 しかしその一撃一撃が、僅かにトウラクを押し始めていた。

 

「君が世界から自分を切り離したのは理解した。だったら、後はその変数を自分の銘に組み込めばいいだけだよ」

 

 一見して攻略不可能な能力を使う者を、ルシエラは沢山見てきた。

 そしてその全てを彼女は完全に葬り続けてきたのだ。

 

 銀の黄昏最強の戦士たちとの戦いですら、彼女にとっては理解と応用によって乗り越えられる壁でしかない。

 今回もそうするだけだ。

 

 現に、今まさに振るわれた一撃は、薄皮とは言えトウラクを切り裂いたのだから。

 

「……流石。一筋縄ではいかないね」

「髪を切られたお返しだよ」

 

 トウラクの頬から一筋の血が流れる。

 ルシエラはそれを見て、いつものように自身の勝利を確信した。

 

 やる事はいつもと変わらない。

 自身を殺す為に用意された最強の論理の穴を突くだけだ。

 

「ラッカと二人で来るべきだったね」

「そんな必要はないよ。言っただろ、僕の勝利は確定したって」

「……随分と自信家なようだ」

 

 ルシエラは笑顔を保ちつつ毒を吐く。

 自身を世界から切断するという方法は確かに有効だが、それは種が割れるまでの話だ。

 一度、その仕組みを理解してしまえばトウラクを巻き込んだ形で銘を発動してしまえば良いだけである。

 故に、ルシエラは今勝利を確信し、安全にかつ確実にトウラクの首を落とせばいいだけなのだ。

 

 だというのに。

 

「そろそろウォーミングアップは終了だよ、ルトラ」

『待ちくたびれた』

 

 言い表せぬこの不安はなんだろうか。

 

「っ、君は私によって殺されると――」

「『うるさい』」

 

 言葉と共に響き渡ったのは、世界が割れる音だった。

 この世界の仕組みを根底から覆す様に、トウラクの背後に罅が走る。

 大きく翼を広げるように広がる罅を背にしながら、トウラクは鞘を地面へと突き立てた。

 そして。

 

「星斬り・神羅(しんら)――抜刀用意」

『抜刀シーケンス。鏡界と同調開始。鏡界回路――接続。銘の観測――完了』

 

 何かの工程が、次々とクリアされていく。

 止めなくてはならないとわかってるにも関わらず、ルシエラはその場から動けずにいた。

 

 恐怖、混乱、否――感嘆である。

 

「……これは、なんだ? 私の知っているデモンズギアか?」

 

 何かが形を成そうとしている。

 羽化とでも言うべきだろうか。

 

 地面に突き立てられた白亜の鞘は拡張し分割され、六つの鞘に分かれる。

 自由な軌跡を描き空を旋回したそれらはやがて、トウラクの背後へと固定され、まるで三対の翼のように変化した。

 

 世界に走る罅はより大きくなり、理が崩壊していく。

 その中心には、一人の青年と一機のデモンズギア。

 

 やがて、彼らは謳うようにこう告げた。

 

「『神羅抜刀』」

 

 瞬間、世界の罅がまるで腕の様な形を成し、トウラクを包み込んだ。

 割れた鏡の前に立ったかのようにトウラクの姿が歪に世界に映し出される。

 彼はその中で笑みを浮かべ、次の瞬間に割れた。

 

「『――ここからが僕達の本当の戦いだ』」

 

 世界が砕け、破片が舞う中、一人の剣士が新たに姿を現す。

 それは、先ほどまでのトウラクの姿とはどこか違っていた。

 

 より細身で、より洗練された、人型の完成形とでも言うべき黄金比の肉体。

 ルトラのような白い髪が揺れ、まるで少女の様にも青年のようにも見えた。

 

「……人間、いやデモンズギアか?」

「『両方だよ、ルシエラ』」

 

 声が重なり、そう答えた。

 

 それは一人の人に非ず。

 それは一機のデモンズギアに非ず。

 男でも女でも、生き物でも機械でもない。

 

 新たに生まれた第三の概念とも言うべき、完成体。

 ソルシエラと六波羅に続く、デモンズギア使いの答えの一つであった。

 

 名を、星斬り・神羅。

 人間とデモンズギアの完全な融合完成形態である。

 

「『覚悟はいいか?』」

 

 風に揺れる白い髪の向こうで、赤い目がルシエラを捉える。

 

「『今の僕達は星すら切り伏せられる』」

 

 長く険しい研鑽の果て、ここに真打は成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『 無 性 ト ウ ラ ク !?』

『(泡を吹いて倒れる星詠みの杖)』

『おぉ……アレは幼き命ではないな。あそこまで至ったのなら普通は幼き命になるだろうに』

『もう、やっぱりと言う他ないのじゃ。あんなにフラグを建てるから……』

『(泡を吹いて倒れるテム子)』

 

 

 

 

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