【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第458話 美少女ならどんなルールもぶっ壊せる

 星斬り・神羅。

 それは敗戦の過去から送られた最強にして最後の理想。

 多くの骸と犠牲、そしてほんの少しのヒラメキにより形作られた、対終末用完成形態であった。

 

 その真価をルシエラは知らない。

 しかし、彼女は一見してその危険度を十分に理解していた。

 

「……この威圧感。天上の意思に勝るとも劣らないか」

 

 かつて自分が相対した中で最も強かった存在を脳裏に思い浮かべるほどに、今のトウラクは恐ろしい。

 ルシエラの思考が、それを攻略するように自然と動き始めていたのもまた、当然の事だった。

 

(背後に生まれた罅は間違いなく鏡界の物。まさか、無理やり鏡界と接続したのかな。そこからエネルギーを常時供給し続けている? 彼の背後にある六つの鞘も気になる。取り敢えず、様子見と行こうかな)

 

 彼女は今までの考え方を捨てた。

 圧倒的なアドバンテージを持つ絶対的な強者ではなく、挑戦者として。

 彼女は星斬り・神羅に挑むことに決めた。

 

 と言っても、その実力はやはり世界の理を軽々と凌駕するものなのだが。

 

「君は動けないと信じているよ」

 

 声に世界が反応し、トウラクをその場に縛り付ける。

 彼は涼しい顔でルシエラの事を見ているだけであった。

 

(余裕そうだね。それなら)

 

 ルシエラは追撃の手を緩めない。

 蒼銀の剣が、静かに構えられる。

 その瞬間、確かに刃が音を立てた。

 

「この一撃は天上の意思すら殺せると信じているよ」

 

 それは刃鳴りではない。

 空間が、彼女の次の行動を予測し身構えた音だった。

 世界に予め法則を仕込むという、神の御業に等しいその技は彼女が決まって相手を必ず殺す時に使用するものである。

 

「……終わりにしようか」

 

 慈悲も油断もない。

 ルシエラの声音から、もはや揺らぎは消えている。

 狂楽の笑みも、余裕の嘲りもなく、そこにあるのは勝つためだけに研ぎ澄まされた意志だけであった。

 

 対してトウラクは動かない。

 まるでルシエラを試しているかのように、彼は静かに目の前の光景を見つめていた。

 

「――ッ!」

 

 蒼銀の剣が一度、低く振り下ろされる。

 だが、それは攻撃ではなかった。

 四つの銘により拡張され加速した思考が、まるで世界が停止したかのように見せる。

 

 智慧。

 ルシエラの視界には、無数の未来が並び立っている。

 トウラクが踏み込む未来、退く未来、倒れる未来。

 そのすべてを否定し、唯一殺せる一手だけが選別される。

 

 調和。

 戦場の座標が、完璧に整列する。

 瓦礫は邪魔にならず、風は攻撃を妨げず、トウラクの足元には、逃げ場になり得る誤差が存在しない。

 

 狂楽。

 胸の内側で、痛みが歓喜に変わる。

 身体が軋み、視界が赤く染まるほどにルシエラは確信する。

 

(この一撃は、奴に届く)

 

 やがて、理により概念へと昇華した勝利が世界の裏側から現れた。

 

 距離が消え、時間が折れる。

 ルシエラが勝利したという事実だけが、先に確定した。

 

 彼女は蒼銀の剣の先端をトウラクへと向けて、狙いを定める。

 その先端には魔法陣が広がり、高速で回転を始めていた。

 

「魔力による収束砲撃は、あくまで応用にすぎない。概念を束ね、理を巻き込むことこそが、収束砲撃の真価だ」

 

 収束砲撃の第一人者たる彼女の言葉には、確信と重みがあった。

 そして彼女は躊躇なく、己の必殺を放つ。

 

「――私は勝利を信じている」

 

 その一言が、引き金だった。

 

 剣先より鋭く眩い銀の光は放たれる。

 星を焼き切るが如き煌めきは、何ものにも防がれることなく真っ直ぐにトウラクへと向かって行き、直撃と共に激しい爆発を巻き起こした。

 

 辺りの空気が大きく波打ち、地面が激しく揺れる。

 自分の頬へと叩きつけられた熱波を感じながら、ルシエラは、目を細めた。

 

「……爆発?」

 

 あり得ない。

 ルシエラはそう断定した。

 魔力由来の収束砲撃とは違い、彼女の収束砲撃は概念の可視化に等しい。

 故に正しくは銀の光がトウラクを貫き、刃の様に穿ち殺すはずなのである。

 そうである筈なのに爆発が巻き起こったという事が何を意味するか。

 

(私の収束が甘かったか、あるいは――同等の力により無理矢理概念を捻じ曲げられた結果か)

 

 同等の理により世界の方が耐えきれなくなり爆発を起こす現象を彼女はよく知っていた。

 目の前の爆発はそれと酷似している。

 故にルシエラは、警戒してもう一閃放とうと剣を構え――黒煙が切り払われた。

 

 トウラクは明らかに何かを振るった姿勢ではあるがその手の中には何も握られていない。

 しかしルシエラは彼から確かにそれの存在を感じ取っていた。

 

「……銘」

「『その通りだ。と言っても、お前の銘とは少しだけ違うけど』」

 

 トウラクはそう告げて、ルシエラを見つめる。

 まるで、今度は自分の番だとでも言うかのように。

 

「『次はゆっくりと見せてあげよう。僕達が何をしたのか』」

 

 そう告げて、トウラクはゆっくりと手を伸ばした。

 すると、背後にあった一本の鞘が彼の手の中に収まる。

 

「『A-132より銘【苛烈】の鋳造を開始――鋳造、刻印、完了』」

 

 彼らしからぬ淡々とした無感情な言葉の後、その鞘の中に一本の剣が生み出された。

 

「『神羅・一振り』」

 

 剣が抜かれ、刃が世界を映す。

 その中にルシエラは確かに銘の輝きを見た。

 

「銘を武器に宿した……!?」

「『正確には鏡界越しに位相世界を観測し、別世界の銘を模倣したんだ』」

 

 刀を構え、トウラクはゆっくりと腰を低くする。

 そして次の瞬間、弾かれたように飛び出した。

 

「『まずは一刀、受けてみればいい』」

「っ、その攻撃は私には当たらないと信じて――」

 

 言葉は最後まで続かなかった。

 彼女の腕は宙を舞い、この戦いが始まって初めてルシエラはその顔を歪める。

 

「な、なんだその銘は……!?」

 

 それは、ルシエラでは知りえない苛烈という銘が持つ特性である。

 智慧が先を読みとるのならば、苛烈は既に選び終えている。

 選択肢を自ら消し、一つの道へと全ての因果を収束させる事こそが、苛烈の銘の真価であった。

 

「『まだ驚くのは早い』」

 

 その手の中には既に、苛烈の銘が刻まれた刀はなかった。

 代わりに彼の両脇に二つの鞘が浮遊しており、手を伸ばした瞬間に刀が生まれる。

 

「『R-1892及びT-9928より銘【羨望】【渇望】の鋳造を開始――鋳造、刻印、完了』」

 

 刀を抜き、二刀を構えてトウラクは再びルシエラへと向けて駆け出す。

 

「『神羅・二振り』」

 

 今度は言葉を発する間もなかった。

 

 本来は交わる事のない二つの銘が相互作用を開始し、より強力な共鳴現象を引き起こす。

 信奉や智慧では攻撃を避けられる訳もなく、調和で再配置が出来るわけもない。

 

 彼女は血を吹き出し、その場に膝から崩れ落ちた。

 

「っ、なんだこの力は。でたらめだ……!」

「『ああ、そうだ。でたらめでなければならない。僕達はそうでもしないと強くなれないから』」

 

 トウラクの手の中には既に二刀の得物はなかった。

 粒子となったそれらは、彼の背後に生まれた罅の中に吸い込まれるように消えて行く。

 ルシエラは突き刺すような痛みに顔を歪めながらゆっくりと立ち上がった。

 

「くっ、まるで博愛のような無茶苦茶っぷりだね。私も死ぬ覚悟で挑まないとかな」

 

 戦う意思に応えるように、彼女の中で狂楽の銘が活性化し、傷口がふさがっていく。

 傷つけば傷つくほど、窮地に陥れば陥る程、その銘はより輝きを増すのだ。

 

「……これ程に絶望的な戦いは久しぶりだね。存外心が躍って来たよ」

 

 銘の放つ熱に浮かされながら、ルシエラは笑みを浮かべた。

 切り落とされた筈の腕は既に再生を終えており、蒼銀の剣も握られている。

 

 対してトウラクは、自身の目の前に三つの鞘を並べた。

 

「『S-8465、D-9299、Y-3179より銘【果敢】【幽玄】【楚々】の鋳造を開始――鋳造、刻印、完了』」

 

 新たにこの世界に三つの銘の写しが生み出される。

 

「『神羅・三振り』」

 

 彼はそのうちの一本を抜き、ルシエラへと構えた。

 

「『これがお前の決戦だ。燃え尽きるまで存分に戦うと良い』」

「……言ってくれるね」

 

 今この場にいる者全てが、トウラクの勝利を確信している。

 そしてそれはもはや、ルシエラすらも例外ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『流石トウラク君だ! がんばえー! ……いやこれどうすんだよ。原作飛び越えてなんかすごい事になっちゃったよ……星天形態が作中最強だった筈だろ』

『データに無さすぎて一周回って冷静になって来たねぇ』

『おぉ……これは流石にルール違反過ぎて天上の意思が粛清に来そうな……』

『(泡を吹いて倒れるテム子)』

『テム子ー! しっかりするのじゃぁ!』

 

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