【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第460話 コンテンツと言えども美少女が死ぬのは流石にコンプライアンス違反

 蒼銀の剣を支えに立ち上がったルシエラの呼吸は荒く、それでもその瞳だけは、まだ曇っていなかった。

 だからこそ、トウラクは次の鞘へと手を伸ばした。

 

 背後の罅が、わずかに軋む。

 この世界に存在しない筈の新たな銘の圧が、戦場に満ちていく。

 

「……その力、まさか無制限に使えるわけじゃあないよね」

 

 ルシエラが呟くより早く、トウラクの手が一本の鞘を掴んだ。

 

 それは、これまでの静謐さとは異なり、鈍く重い気配を帯びている。

 

「『A-132【苛烈】の鋳造を開始――鋳造、刻印、完了』」

 

 淡々とした声。

 だが、その言葉が放たれた瞬間、世界の余白が焼き払われた。

 

 空気が、鋭くなり、世界が一振りの刃に平伏する。

 今までの静けさから一転した轟々と鳴り響く嵐のような銘は、次第にその刃に魔力の渦を生み出し始めていた。

 

「……っ、またその銘か。相性が悪くて嫌いなんだけれどね」

 

 ルシエラのこれからの未来において逃げる、避ける、防ぐ――そうした可能性が、最初から存在しなかったかのように消える。

 

 苛烈。

 

 迷いを焼き、退路を否定し、斬るという選択だけを残す銘。

 世界に先んじて仕掛けを施すルシエラの銘にとってはあまりにも相性が悪いものであった。

 

「『神羅・一振り』」

 

 抜かれた刃は、驚くほど地味だった。

 光らず、鳴らず、威圧もしない。

 

 だが、それが逆に異常だった。

 

「来るか……!」

 

 ルシエラが剣を構えるが、その構えに至るまでの一瞬で、苛烈が彼女の中の回避を選ぶ未来を切り伏せる。

 

 故に一手遅れた。

 

 次の瞬間には、トウラクはすでに踏み込んでいた。

 

 それは技巧でも、読み合いでもない。

 ここで斬るという結論だけが、そのまま現実になった一撃である。

 

「――ッ!!」

 

 蒼銀の剣はやはり間に合わない。

 

 衝撃が、胸を打つ。

 否、打ったというよりも、そこに斬撃が成立していたと言った方が正しいだろうか。

 

 ルシエラの身体が大きく後退し、背中から瓦礫に叩きつけられる。

 

「がぁ……っ……!」

 

 狂楽が反応し、傷を癒やし、痛みを歓喜へと変換する。

 防御を捨て再起へとリソースを割いてルシエラはすぐさま復活を果たす。

 だが今回は想像していた追撃はなかった。

 

 蒼銀の剣を構えて素早く体勢を整えたルシエラの前方にはやはりトウラクの姿がある。

 しかし、不思議と彼は棒立ちをしていた。

 

 ルシエラはそれを何かの予備動作だとして警戒する。

 その時、トウラクは困惑した様子で眉を顰めながらこう言った。

 

「貴様は我の守るべき民か……?」

 

 それは今までとは違いトウラク一人から発せられた言葉だった。

 

「……何を言っているんだ君は」

 

 意味の分からない言葉にルシエラは警戒を解かない。

 対してトウラクは自身の手を見つめ、無防備のまま一歩踏み出そうとして――。

 

「『っ!?』」

 

 ハッとしたように剣を構え直す。

 再び、世界に重圧が満ち、苛烈による支配がはじまった。

 

 

 

 

 

 

(危なかった……()()()()()()()ところだった)

 

 剣を振るいながら、トウラクは先ほどの自分の状況を思い出して内心で冷や汗を垂らす。

 

『トウラク、大丈夫?』

『大丈夫だよ。もう銘の侵食は抑え込んだから』

 

 一心同体となった相棒と脳内で会話を続けながら、トウラクはルシエラを一方的に切り伏せていく。

 幾星霜も戦い続けてきた英雄に対して示す圧倒的な実力差。

 しかしそれは当然、代償を払ったものであった。

 

『トウラク、次の銘交換までは2分待って。無茶をすると自我がより強く書き換えられる』

『ははは、さっきの僕はまるで自分が王様だと信じていたよ。なんの疑いもなくね』

 

 銘の観測と鋳造。

 それには唯一の欠点が存在した。

 

『銘の観測は、持ち主の記憶ごと剣に刻み込む。説明は受けていたけれど、いざその時になると中々に堪えるな』

 

 苛烈。

 それは六天使と厄災に抗った三つの王国の記憶であった。

 

 争いを続けていた三つの国が世界の破滅を前に纏まり、抗い、そして敗北するまでの英雄譚。

 それは力と共にトウラクの中に流れ込み、自我を書き換え体を奪おうとする。

 まるで、まだ果たすべき使命があるのだとでも言わんばかりに。

 

 胸が張り裂けそうな無力感と悲壮感は果たして本当に自分の物だっただろうか。

 

「『迷うな』」

 

 低い声でトウラクは呟く。

 

 その一言は、自身と世界へ向けられた命令だった。

 

 苛烈がトウラクの思考に火を点け加速する。

 この戦いにおいて、考えるという行為は、致命的に遅い。

 

 斬撃。

 斬撃。

 斬撃。

 

 三度の斬り込みが、間断なく続く。

 対してルシエラは調和で再配置を試みるが、苛烈が再配置する理由を焼き払う。

 智慧は未来を探ろうとするが、苛烈が選択肢そのものを消していく。

 

 圧倒的な力を持つ苛烈の銘。

 故にこそ、その持ち主が最期には敗北したという事実がより一層にこの一振りを重くする。

 

「……っ、く……!」

 

 蒼銀の剣が、防御に回る。

 だが、防いだはずの衝撃は遅れて身体を裂く。

 

 同時に衝撃がトウラクの体に走り、自身の骨が僅かに砕けた。

 

(問題ない)

 

 苛烈は、相打ちを恐れない。

 自分が傷つく可能性を、必要経費として処理している。

 

 鬼気迫るその表情を前に、ルシエラは何かを理解したように目を見開いた。

 

「……どうやら、君のその力にも限界があるようだね」

 

 その全容までは掴めずとも、ルシエラは確かにトウラクの力の絡繰りに一歩近づいた。

 これこそが彼女の恐ろしさであり、今この瞬間まで生き残ることが出来た理由である。

 どれだけの劣勢であろうとも、彼女は諦めず勝機を探る。

 

(この状況でも勝ちに来ているのか。……流石は銀の黄昏と言わざるを得ないな)

 

 トウラクは、攻め続ける。

 立ち止まらない。

 確認しない。

 躊躇しない。

 

 それが致命的な隙になってしまう事をよく理解しているからだった。

 

「『これ以上、お前に考える時間は与えない』」

 

 苛烈の銘が、ルシエラの世界から猶予を消し去る。

 

 蒼銀の剣を振るう腕が、わずかに遅れた。

 その一瞬をトウラクは、決して逃さない。

 

 刃が、再び閃く。

 

 ルシエラは歯を噛みしめ、それでも剣を手放さなかった。

 

「私は負けないと信じている……!」

 

 自身へと銘の効果を適用し、彼女は一瞬の勝機を目指して立ち上がり続ける。

 両者、共に世界を背負うものであるが故に、この戦いはそう簡単には終わりそうにない。

 

 倒れかけながらも、なお前を向くその姿を見てトウラクは一歩、踏み込む。

 優勢は、完全に彼の側にあった。

 

 だが、それでもなお、彼女が折れていないことを彼は誰よりも正確に理解していた。

 だからこそ次の一手はさらに苛烈になる。

 

『二分たった。次の銘を観測できる』

『僕は何振りいける?』

『4』

『なるほど。それじゃあ決めに行こうか……!』

 

 トウラクの手の中から苛烈の銘が消失する。

 同時に彼の中にあった妙な物悲しさや後悔といったものも消え去った。

 

「『行くぞルシエラ……!』」

 

 トウラクの前に四つの鞘が飛来し、銘が刻まれようとしたその時である。

 

「――ああ、ここにいたんだねぇルシエラ」

 

 歌うような軽やかな声と世界が割れる音は混じる。

 そして次の瞬間に、トウラクの視界を何かが横切った。

 

「……っ!?」

 

 彼の卓越した動体視力が、その横切ったものの正体をすぐに理解する。

 血まみれでボロボロになったそれは、間違いなく。

 

「『り、理事長……!?』」

 

 彼女は地面を乱雑に転がり、何も言わずに倒れ伏している。

 その手には影の杖が握られているが、その輪郭もわずかにぶれ始めていた。

 

「変容の銘は、私の相手にはなり得なかったねぇ」

 

 声に弾かれるようにトウラクが視線を向ける先には、強引に割られた世界の向こうから歩いてくる少女の姿があった。

 極彩色の髪と大鎌を引き摺り進んでくる彼女は、一歩また一歩と近づいてくるたびにその威圧感を増す。

 

「君は……!?」

「夢幻の杖。だったかな、ルシエラ」

「……あぁ、そうだよ」

 

 その姿を見て、声を聞いて、ルシエラは一瞬幼い顔つきに戻った様だったが、すぐにいつもの様に落ち着いた表情に戻る。

 やがて夢幻の杖はルシエラの隣に並び立つと、その大鎌を緩慢とした動作で掲げた。

 

「君が次の救済対象か。では、愛を与えるとしよう」

「『……っ!』」

 

 トウラクは四つの鞘の内、一つだけを使用することに決め構える。

 

『手の内が知れない。ルトラ、まずは様子見だね』

『五手で見極める。そして斬り殺す』 

 

 トウラクに相対するは、ルシエラと夢幻の杖。

 戦場は混沌を極め、激化する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『り、理事長がー!? 総員準備! これより、ミステリアス美少女コンテンツ的緊急介入を開始する!』

『星天形態お洋服ヨシ! 無限の美少女エネルギーヨシ!』

『幼き命の波動確認ヨシ!』

『えっ……あっ、体調ヨシなのじゃ!』

『いや、私はやりませんよ?』

 

 

 

 その頭上に、星がまさに輝こうとしていることに気が付く者は、まだ誰もいなかった。

 

 

 

 

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