【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第463話 一方その頃こちらの美少女は

  アトラスティアでは雨が降り続いていた。

 長く激しい争いが続き、都市全体がまるで床に伏した老人の様に静かである。

 天使の軍勢は終わりが見えず、疲弊した戦士の中には雨に打たれるのも構わずに項垂れ壁に身を預けている者もあった。

 

 最近ではよく目にする光景である。

 が、今日は都市をより悲痛な空気が支配していた。

 

 この世界にとって太陽よりも大切であり、愛の証明でもあった英雄がその生涯に幕を閉じたのである。

 博愛のソルシエラの死は、アトラスティアを瞬く間に駆け巡った。

 その詳細は全てが伏せられ、人々に与えられたのは博愛のソルシエラの死は献身的であったという事実だけ。

 

 防衛軍より与えられたこの知らせに、ある者は今までの彼女の活躍に感謝と黙祷を、ある者は最大戦力の喪失に絶望を、そしてある者は。

 

「――嘘だ」

 

 その知らせを聞いて否定をし続けていた。

 

(噓だ噓だ噓だ!)

 

 降りしきる雨粒とごった返す民衆の間をすり抜け、彼女は黒い風の様に駆け抜ける。

 黒い髪が風に揺れ、突風が巻き起こり子供は思わず尻もちをつく。

 普段なら足を止め、謝罪をして新しい服を買い与える彼女だったが今は違った。

 

(あの人が死ぬわけがない。だってあの人は――)

 

 門を飛び越え、壁を上り、衛兵に気が付かれることなく最短で目的地へと向かう。

 やがて彼女は――ルシエラは基地の中心部へとたどり着いていた。

  

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

 目の前にあるのは特殊な魔導合金で作られた黒く冷たい扉であった。

 このアトラスティアの中でも選ばれた者しか開けることを許されていないその扉の向こうには、軍上層部の会議室や天使の研究施設など、人類の為の最重要施設がこれでもかと詰め込まれている。

 当然、銀の黄昏の基地もだ。

 

「っ!」

 

 息も絶え絶えになっていることに気が付かず、ルシエラは扉に手を伸ばす。

 が、扉はひとりでに開いた。

 

 ゆっくりと開けられた扉の向こうには、いつもの笑みを消したラッカが立っている。

 

「……やあ、あいにくの天気だね」

「っ、ラッカ! あの人がっ……博愛のソルシエラが死んだと聞きました。都市はそんなふざけた噂が流布されていて……嘘ですよね? ね!?」

「まあ、来なよ」

「ラッカ、答えてください!」

「いいから来いって言ってるだろ!」

 

 そう言うと、ラッカはルシエラの手を掴む。

 そして強引に扉の向こうへと引き摺り込んだ。

 制止を求めるルシエラの声を無視してラッカは、歩いていく。

 その間にルシエラはまるで子供の様にいくつも質問を投げかけたが、返ってきたのは一度だけ。

 それも、望んだ答えではなかった。

 

「皆が待ってる」

 

 その言葉を最後にラッカは押し黙る。

 腕を掴まれてしまっては、ルシエラはラッカに勝つ事は出来ない。

 故にルシエラはその胸に大きな不安を抱えながらもやがては諦めついていく事を決めた。

 

(今までだって、死を偽装した事はあった。今回もきっと天使を欺くため……)

 

 そう自分に言い聞かせるも、胸を包む不安や悲壮感はどんどんと膨らんでいく。

 彼女の眼が、無意識の内に都市の至る所から異変を拾い集め一つの答えを導き出していたのだ。

 

(大丈夫……大丈夫……)

 

 ルシエラは心で呟きながら、必死に理性を保とうとする。

 そうして、やがて彼女が導かれたのはラボの一つであった。

 主に博士や学者が武装の研究のために使っている場所であり、ルシエラも数度しか足を運んだことはない。

 

 そんな場所に、銀の黄昏の全員が勢揃いしていたのだ。

 

「連れてきたよ」

 

 ラッカはそう言って、ルシエラの背中を押す。

 それから逃がさないとでも言いたげにわざとらしく音を立てて扉を閉めた。

 

「……皆さん、どうしてここに集まっているのですか」

「決まっている。弔うためだよ、博愛のソルシエラを」

「ッ、博士! 自分が何を言っているのかわかっているのですか!?」

「ああ、わかってるさ。というより、僕しかわかっていない。ここにいる他の奴らは全員、お前と同じく今この事実を知ったんだ」

 

 博士は胸ぐらを掴まれているにも関わらず、平然と告げる。

 それから、とある方向を指さした。

 

「見ると良い、偉大な英雄の置き土産を」

 

 ルシエラは恐る恐る、指をさされた方向を見る。

 そこに在ったのは、黒く鈍い光沢を放つ巨大な棺であった。

 

 

 

 

 

 

 それは、死により与えられた僅かな思考の空白が生み出した過去の残響であった。

 意識が現実へと引き戻され、博士は再び戦場と向き合う。

 

「……っ、嫌な事を思い出してしまった」

 

 痛みと共に自分が解ける感覚。

 周囲に散乱していた天使と自身の肉体が砕け、たくさんの等分された死へと変化していき空へと舞う。

 

「これで僕も26人目か」

 

 その蝶を尻目に博士は虚空より現れた。

 データの体である彼は、そもそも銘など無くとも不死身に近い。 

 

 そこに解析と再現の力が加われば、本来であれば負けるわけがなかった。

 そう、本来であれば。

 

「コード03:再現――バン」

 

 博士の後方に、神話に語られる怪物が現れる。

 それはこの戦闘においてリュウコを解析して生み出されたものであった。

 

 が、それは生み出された次の瞬間に赤い矢により射抜かれ破壊される。

 

「ンなでけェ的用意して何をしようとしたんだァ!」

『へっへーん! いい加減に諦めてくださいぃ!』

 

 矢と共に閃光が駆け抜ける。

 博士はその声に対して回避も防御もとらなかった。

 博士は、無駄な行動にリソースを割くような人間ではない。

 

「やれやれ」

 

 次の瞬間、博士は蹴り抜かれ体を蝶に変化させていた。

 再び博士が死を迎え、次の瞬間には少し離れた場所から博士が姿を現す。

 

「やあ27人目の僕だ」

「それ気持ち悪いからやめてよ!」

 

 リュウコの言葉と共に空から大鷲が強襲する。

 しかし、それは突如として現れた大蛇により阻まれた。

 

「コード03:再現――バン」

「またパクったぁ!」

「君にはこれで十分だろう。問題は――」

 

 博士は六波羅へと視線を向ける。

 その眉間には無意識の内に皺が寄っていた。

 好奇心よりも面倒さが勝り始めていることに彼は気が付いていない。

 

「出力が向上し続けている執行官の方だ。お前のその馬鹿みたいな形態の機能か? 僕が殺される間隔が短くなっていく」

「ははっ、お前は感じねェのか? この馬鹿みてェなプレッシャーを」

 

 六波羅は首を鳴らしながら、笑顔を浮かべる。

 彼は獰猛な歓喜を隠そうともせずに空を仰いだ。

 

「この気配、トウラクと――ソルシエラだ。あァ、いいなァ……やっぱアイツらはよォ……」

『ちょ、私を見てください私を!』

「てめェを一番見ているから安心しろ」

『リーダー♥』

 

 求愛するようにチカチカ点滅する双剣を放って、六波羅は博士へと再び視線を戻した。

 

「一応、言っておくぞ。もうお前達に勝ち目はねェ」

「何を言い出すかと思えば……くだらないな」

「そうかァ? 絶好調なあいつらなんざ、天上の意思でも相手に出来ねェだろ。相手に出来るとすればよォ……」

 

 その瞬間、27人目の博士は死んだ。

 矢が頭部を正確に貫いたのである。

 

「俺達くらいなモンだよなァ! そうだろエイナァ!」

『はいぃ! 私達のLOVEがあれば誰にも負けません!』

 

 昂ぶり笑う六波羅を見て、博士は理解した。

 

「そうか、あの二人が君の感情をより昂らせているのか。だから、転化したエネルギーがより強く――」

「うるせェ」

 

 28人目の博士は理解と共に死を迎えた。

 しかし、その情報は多重提唱空間に与えられ多くの博士により解析される。

 その死は消して無駄ではない。

 無駄にしてはいけないのだ。

 

(教授を……ルシエラを一人にする訳にはいかない)

 

 死の度、データが再構築される度、彼は僅かな夢を見る。

 

 過去、ルシエラという少女が教授になり果てるまでの旅路を。

 あの鉄の棺を前に彼女が慟哭してから、ずっと隣で見てきたのだ。

 

(銀の黄昏は……決して滅んだりしない)

 

 敗北を示す演算結果を無視して、博士は何度も多重提唱空間に勝利の方程式を投げかける。

 どれだけ多くの博士にその解を否定されようとも、何度も何度も。

 

「――っ、29人目だ」

 

 肉体が再構築され、再び博士は現世に舞い戻る。

 何度殺されようとも、彼は蘇るだろう。

 銀の黄昏の名を背負う限り、彼には戦う義務があるのだから。

 

「僕には、彼女を勝利に導く義務がある。お前ら程度に負けるわけにはいかないな」

「義務で戦ってるつまんねェ奴に負けるかよ」

 

 口ではそう吐き捨てながらも、六波羅の眼には博士への敬意がかすかに見て取れた。

 しかしそんな事は態度に出さず、六波羅は徹底して全力で博士を殺し続ける。

 

 それが彼なりの誠意でもあった。

 

「諦めて泣いて許しを請うまで殺してやるよォ!」

「……お前には許しを請う必要はないな」

 

 両者は何度も激突を繰り返す。

 トウラク達の争いと同等以上の規模のそれは、しかし確かに決着へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

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