【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
戦場に星が瞬き、宇宙が展開される。
ソルシエラの足元に広がる無限の銀河は、一つ一つが実在する星となんら変わりはない。
超常を越え、神の領域へと至ったと言っても過言ではないだろう。
対して、夢幻の杖もまたその領域へと踏み入った者だった。
「面白いね――こうかな?」
その瞬間、夢幻の杖の足元に同様に宇宙が広がる。
極彩色で染められたサイケデリックな宇宙は、まるで子供が乱雑に色を塗ったかのようだ。
「品が無いわね。静寂こそが星空の美しさだというのに」
「こんな宇宙があっても良いだろう? いろんな星があった方が愛せる」
二人は足元から魔力を吸いあげると同時に大鎌の柄を相手へと向けた。
「偽りの輝きなんて打ち消してあげる」
「愛に偽りも何もないさ」
同時にトリガーが引かれ銀と極彩色の輝きが放たれた。
が、それだけでは終わらない。
「どうか最後まで私の相手をして頂戴?」
「希望に応えられるように努力しよう」
瞬間、二人の間に流れる時間が急激に加速する。
雨の一粒さえ自由に堕ちることは許されない、ほとんど停止した時間の中で彼女達は砲撃よりも速く踏み込んでいた。
「「――ッ!」」
大鎌の刃がぶつかり合い、激しい火花と衝撃波を放つ。
砂が巻き上げられ瓦礫が舞うが、彼女達から少し離れると時間の理に絡めとられるようにぴたりと動きを止めた。
「ふふっ、良いわね。もっと激しい曲でも良さそうじゃない」
「そうだねぇ、私個人としてはタンゴが好みなのだが」
自身の身長の倍はあろうかという大鎌を器用に振り回し、夢幻の杖はソルシエラと互角に打ち合う。
どちらも口には薄く笑みが浮かんでおり、まるで楽しんでいるようにも見えた。
「もっと君の事が知りたくなったよ。良ければ教えてくれ」
「なら私に勝つ事ね。私より弱い奴に興味はないの」
数度夢幻の杖へと大鎌を振るったソルシエラは流れるように指を天へとかざす。
まるで指揮者の様に指先を振ったその時、夢幻の杖の足元に突然水面が広がり一気に引きずり込まれた。
「っ?」
口元から漏れる気泡に、そこが水中であると察した彼女は状況を把握しようと周囲を見渡す。
そこには、自由にその場所を泳ぎ回る機械仕掛けのウミガメが存在していた。
「ほう、天使か。それも随分と高位だ」
冷静に正体を突き止めた夢幻の杖は、更に理解したように目を見開き嬉しそうな声を上げた。
「そうか、君がソルシエラの中にいる一人か! よしよし、では愛してあげるとしよう! 天使も人も分け隔てなく愛するよ」
「そんなに愛するなんてほざいて……貴女にとってその言葉は随分と軽々しく使って良い物なのね」
背後に感じた殺気に夢幻の杖は驚くことなく大鎌を背中に回す。
確かに防いだ感覚と共に夢幻の杖は僅かに弾き飛ばされた。
「おっと」
体勢を立て直そうとした夢幻の杖だったが、突如として歪な水流が生まれ体の自由を失う。
それと同時にソルシエラは大鎌から4つのパーツを分離させると夢幻の杖を指さした。
「行きなさい」
言葉に従った銀の破片が四つ夢幻の杖へと飛来する。
それらは先端を輝かせるとその小さなボディからは考えられない程に強力で強大な収束砲撃をそれぞれが放った。
「器用な真似をするねぇ」
夢幻の杖は未だに体勢が不安定な中大鎌を構え、バトンの様にクルクルと回す。
そして辺りに魔力の壁を作り出す。
放たれた収束砲撃はそれぞれが壁に阻まれ、それどころか夢幻の杖の力として吸収されていった。
「これも私にとっては心を満たす愛だ」
「ならこれも受け取ってくれるかしら」
見れば、ソルシエラは大鎌ではなくその手に美しい流線型のヴァイオリンを持っていた。
「久方ぶりだから、抑えきれずうっかり殺してしまったら許して頂戴」
「ああ、受け取ると――ッ!?」
その瞬間、夢幻の杖は確かに一度死んだ。
博愛の銘が蘇らせはしたが、障壁や頑強な肉体を無視して直接死が与えられたのである。
「これは……天使の権能か!」
夢幻の杖の周囲を絶え間なく旋回する四つの銀の破片は今はソルシエラの響かせる音色を増幅させていた。
それは全て指向性を持って夢幻の杖のみに絶え間なく与えられている。
「吸収した魔力に共鳴して内部から死を引き起こす……中々に愛し甲斐がありそうだ……!」
夢幻の杖は響き渡る死の音に体を晒し続け、意識を明滅させながらも両腕を広げる。
そして、そっと受け入れた。
「死は最期に与えられる抱擁……即ち愛だ。愛であるならば、私が受け入れられない訳がないな」
言葉はすぐさま現象として証明される。
体を蝕んでいた音は次第にその効果を失っていき、苦痛に震えていた体はいつの間にか落ち着き始めていた。
「良い音色だ」
「そう、ならこれはサービスよ」
ソルシエラはヴァイオリンをボウガンに変化させると、夢幻の杖の下に潜り込んで数発の矢を放った。
夢幻の杖は難なくそれを防ぐが、放たれた矢は消えることなく勢いは衰えず真っ直ぐに夢幻の杖を水上へと押し出していく。
そして間もなく、夢幻の杖は天使の支配していた領域から強制的に押し出され地上へと戻された。
二つの砲撃がぶつかろうとしているその丁度真ん中へと。
「……おや、これも彼女の計算通りか」
動こうと意思をもったその時には既に彼女の体は銀の鎖により縛り上げられていた。
それは先ほどの様に解けることはなく、その四肢を拘束している。
「愛とやらに潰されなさい」
声が聞こえ顔を上げれば、黒い羽根を辺りに散らしながらソルシエラがいた。
彼女は笑みを浮かべ指を鳴らす。
軽快で乾いた音と共に夢幻の杖の時間の流れが強制的に世界と同期される。
それはつまり、止まっていた収束砲撃が動き出したということだ。
「ッ!?」
自身とソルシエラの二つの砲撃に挟まれ、障壁を展開する間もなく夢幻の杖は光に飲まれる。
そしてまるで星が誕生するかのような眩く大きな爆発を引き起こした。
「ふふっ」
ソルシエラはふわりとその場に舞い降りると、足元に広がる宇宙を大鎌の刃で掬い駆け出す。
刃に吸収された宇宙は一つの銀河を作り出せるほどのエネルギーを収束し、必殺の収束斬撃と化した。
「まだ終わりじゃないでしょう?」
「ああ、当然だとも」
爆発の中へ向けて振るわれた刃は正確無比に夢幻の杖を切り裂かんとする。
しかし、展開された障壁によりそれは僅かに押し込む程度で受け止められてしまった。
間もなく爆発の中からボロボロの夢幻の杖が姿を現す。
しかしその目には敗北への恐怖は存在していなかった。
「良い愛だね。私でも受け止めきれない程だよ」
「同類だと思われたら嫌だから、その言い方は止して頂戴」
大鎌が何度も振るわれ、夢幻の杖は防戦一方である。
一撃一撃が重く彼女を後退させていくが、それも夢幻の杖にしてみれば愛を受け止めているだけに過ぎない。
ならばこれは攻撃ではなかった。
「うんうん、それもまた愛だ」
夢幻の杖は突然防御をやめた。
その瞬間に好機と言わんばかりに収束斬撃が迫る。
しかしそれを夢幻の杖は肩で素直に受け止めた。
「……無茶苦茶ね」
「愛とはそういうものだ」
星を束ねた収束斬撃は本来、防げるものですらない。
それを夢幻の杖は愛であるという定義の元にその華奢な肩で受け止めたのである。
僅かに血が流れているが、特段痛みを覚えている様子はない。
それどころか、先ほどの収束砲撃で受けたダメージは衣装ごと修復されているようだった。
「なんでも愛って言えば納得できるとでも思っているのかしら……!」
ソルシエラは夢幻の杖を蹴り上げ、地面に収束砲撃陣を展開しすぐさま放つ。
天に上る銀の柱が夢幻の杖を包み込むと同時にソルシエラはその場から距離を取った。
それからすぐに収束砲撃が切り裂かれ、中から夢幻の杖が姿を現す。
その姿は既に傷一つないものだった。
「素晴らしい力だ。相当な愛を感じるよ」
称賛と共に夢幻の杖は惜しみない拍手を送る。
対してソルシエラも驚いた様子はなく涼しい顔で彼女を見つめていた。
「別に愛ってわけじゃないわ」
「ほう、ならばなぜこれ程までに戦えている」
その問いに、ソルシエラは一瞬視線を移動させた。
そこでは、トウラクとネームレスがルシエラ相手に激しい戦闘を繰り広げている。
「ただ……そうね、期待をしているだけよ。あの子達ならルシエラに勝利してくれるとね」
「そうか、奇遇だねえ。私も信じているんだ。ルシエラの勝利を」
二人は再び大鎌を構える。
両者ともに既に理解していた。
自分達の戦いは未来永劫決着がつくものではないだろう。
この戦いが終わる時それは――3人の戦いに決着がついた時である。
『夢幻の杖ちゃんが普通に強くてびっくり。でもうっかり本気を出すと壊しちゃいそうだから、優しくね!』
『おぉ、流石マイロード。久しぶりの演奏も良かったぞ!』
『ヴァイオリンかっこよかったのじゃ! 後で演奏会して欲しいのじゃ!』
『アイツ私の口調パクっているから気に入らないねぇ^^』
『いや貴女も元をたどれば『あ?^^』……ナンデモナイデス』
※近況報告に発表があるので見てください!!!!!見て!!!!