【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第466話 美少女の偽物でも愛があるなら役割は果たしている

『通常運用は1分が限界。この銘は強力すぎる』

 

 トウラクの脳内でルトラが告げた。

 

 星斬り・神羅は銘を自在に模倣し再現できる。

 しかしその負担までも均一に出来るわけではなかった。

 

 銘には重さが存在する。

 それは、銘があった世界の規模やそれを扱っていた者に由来する相応の負担でもあった。

 本来は世界に一つしか存在しない銘を自在に扱う代償としては当然ともいえる。

 

 が、それを加味しても博愛の銘というものはトウラクの体を凄まじい速度で蝕んでいった。

 

『苛烈や無双の比じゃないな……! 気を抜けば体が持っていかれそうだ』

『……トウラク、本当にやるの?』

 

 一体化しているルトラは、トウラクが今からやろうとしている無茶を理解していた。

 それが最悪の結末をもたらすかもしれないと演算結果が出ているのである。

 しかし、当の本人は随分と前に覚悟を決めていたようだ。

 

『うん、やるよ。ルトラを信じているから。だから、その時が来たらお願い』

『わかった。貴方がそれを望むなら私は従うよ』

『ありがとう。それじゃあ――』

 

 白亜の太刀を構え、トウラクは深呼吸をする。

 

「『勝ちに行こうか』」

 

 

 

■

 

 

 

 その行為はルシエラにとっては挑発以外の何物でもなかった。

 信奉の銘に有効だからでも、強力な銘だからでもない。

 多く存在した博愛のソルシエラに憧れる者の一人として彼女はその感情を掻き立てられていた。

 

「君だけは絶対に殺してあげるとしようか!」

「『それは無理だ。お前じゃ勝てない』」

 

 ルシエラは剣の先端で地面を掻く。

 するとそれは枝分かれし、地を這う収束砲撃となってトウラクへと迫っていった。

 同時に行使されるのは調和の銘と、智慧の銘。

 

 地を這う収束砲撃が理論的に再配置される。

 絶対に当たるように仕組まれた攻撃はトウラクの意識の空白をついてその距離を詰める。

 

「博愛の銘は強力だが、使いこなせるものはいない……! 苛烈でなければ調和や智慧を止めることもできないだろう」

 

 今のトウラクは可能性の焼却という強力な手札を失っていた。

 故に彼は自前の感覚で切り抜けようとする。

 が、彼が意識を向けるタイミングや方向すらも智慧の思い通りであった。

 

「『ッ!』」

 

 トウラクへと近づいた収束砲撃は地面から起き上がりまるで槍の様に放たれる。

 その数は一つや二つではない。まるで針の筵のように迫りくる収束砲撃を、彼は一つ一つ切り落としていく。

 

「マーちゃんズ」

 

 意識外から突き出された収束砲撃がトウラクに当たるその瞬間、蛙が飛び出し代わりに串刺しにされる。

 同時に収束砲撃に向けてのみ激しい爆発を引き起こし、地面ごと収束砲撃を破壊した。

 

「ちょっとちょっと、銘をコロコロ変えるのは良いけど弱体化は止めてよね」

「『ごめん。この銘が随分とじゃじゃ馬で。馴染むにはもう少し必要かな』」

「はぁ、それに付き合わされる私の身にもなってよね!」

 

 わざとらしいため息と共にネームレスはルシエラへと駆けていく。

 しかしその顔には、似つかわしくないあまりにも獰猛な笑みが浮かんでいた。

 大鎌を構えた彼女はルシエラが自身を意識した瞬間に外套を翻し、焔に包まれる。

 

「act1」

 

 つい先ほどまで真正面にいたネームレスは次の瞬間にはルシエラの背後にいた。

 が、彼女の姿は再び消える。

 

「act4」

 

 切断音と共にネームレスの姿が再び消えた。

 振り向きざまに放たれた剣撃は空を切り、次の瞬間には頭上から黒い6つの翼がルシエラの四肢を切り裂く。

 

「勝算があるんでしょ? この不死身女を殺す手が。だったらお膳立てしてやるからさっさと決めろよ英雄」

「『ありがとう』」

 

 トウラクは太刀を構えて走り出した。

 その動きに銘の力は一切存在せず、純然たる彼の身体能力のみでルシエラへと距離を詰める。

 

「お前に使いこなせるわけがないだろう!」

 

 トウラクを睨みつけたルシエラは収束砲撃を放とうとする。

 しかしその為に構えた剣先が大鎌により弾かれた。

 

「っ、ネームレス。鬱陶しい奴だな君は……!」

「その顔良いね、もっと見せてよ」

 

 茶化す様に笑ったネームレスはわざとらしく外套を翻す。

 次の瞬間、そこに彼女の姿は無く、剣を振り被った状態のトウラクがいた。

 

「『博愛の銘の一撃を受けてみると良い』」

「貴様ッ……!」

 

 振り下ろされた一撃をルシエラは身をのけぞらせながらも弾き返す。

 そして次ぐ二手目、三手目とルシエラは不格好ながらも攻撃を受け流していった。

 

「『っ』」

「どうした、太刀筋が随分とお粗末だが。だから言ったというのに! 博愛の銘はあの人以外には誰も扱えない! 貴様も、私でさえ!」

 

 トウラクはいつものように剣を振るうが、その度に刃は彼の想像以上の速度と威力で放たれた。

 

「『くっ、エネルギーが桁違いだ』」

 

 一撃一撃は確かに鋭い。

 しかし、振り切ってから再度攻撃を放つまでの間にその威力を殺しきれない。

 言葉を選ばずに言うならば、トウラクは博愛の銘を扱いきれずにいた。

 

「無様だね、牙塔トウラク」

 

 攻撃を受け流され体勢を崩した彼へと蒼銀の剣が刺突の様に放たれる。

 しかしそれは割って現れた黒い硝子の足により防がれた。

 

「お前もな!」

「っ、本当に邪魔者だな君は!」

 

 ネームレスがトウラクへの致命傷を防ぎ、再び攻撃するまでの時間を稼ぐ。

 もしも危ない瞬間があれば、その時もっとも速く確実な方法で介入。

 

 明確にやり取りがあったわけではないが、ネームレスは今の自身に求められる役割を理解し的確にこなしていた。

 

「ほらほら、博愛にかまけて私の事を疎かにしてんぞ!」

 

 絶え間なく多種多様な攻撃を仕掛け、ネームレスはルシエラを翻弄していく。

 その合間を縫って、トウラクは博愛の銘の出力を調整するように一太刀一太刀を丁寧に重ねていった。

 

「無駄だ。博愛の銘はあの人以外には使いこなせない!」

 

 攻撃をはじき返しながらルシエラは何度も強く否定する。

 その言葉はまるで自分自身にも言い聞かせているように、震えと共に語気が強くなってく。

 

「あーはいはい。わかったわかった。何かに執着する女ってのは面倒だねー」

 

 ネームレスはそう言ってルシエラの手にあった蒼銀の剣を蹴り上げた。

 激しく回転しながら剣が空を舞い、ルシエラの手には何も握られていない状態になる。

 防御の手段を一つ失った彼女を見て笑ったネームレスの姿が焔と共に消え、次の瞬間にはトウラクがその場で腰だめに太刀を構えていた。

 

「ほら、斬りなよ」

「『ああ』」

「っ、君の攻撃は私には当たらないと――」

 

 銘が発動するよりも速く太刀は抜かれた。

 トウラクが最も得意とする居合抜刀術。

 

 神業と称される域まで到達したその剣はまっすぐにルシエラの喉元へと迫り――。

 

「『っ』」

 

 突如、がくんと太刀筋が落ち首元で停止した。

 

「ちょ、おいどうした!?」

「『……っ!』」

「はははは、当然だ。博愛の銘の名は貴様には重すぎるだろうさ」

 

 太刀を向けた姿勢のままその場に片膝をつくトウラクを見てルシエラは笑う。

 その手には蒼銀の剣が舞い戻っており、彼女は切っ先に砲撃陣を展開した。

 

「ああ、もうっ!」

 

 ネームレスがトウラクを助けるために動き出そうとする。

 が、彼女の姿はその場から消えることは無く、目の前では依然としてトウラクがルシエラに殺されようとしていた。

 

「は? act1! act4! act6! ……おい、なんで起動しないんだよ!」

 

 今まで平然と行ってきた距離を無視する行動の一切が起動しない。

 ネームレスは舌打ちをすると、一気に駆け出した。

 

「トリム、エクスギアが壊れたから直して!」

『ボクはカスタマーサポートではない。それにエクスギアは壊れていないぞ』

「じゃあなんで!」

『起動した端から強力な何かに上書きされている。力の発信源は……あの剣士だ』

「はぁ!? じゃああいつ自身のせいで助けに行けないって事!? 助けに来てほしくないのかよあの馬鹿!」

 

 トウラクから溢れ出る力がエクスギアの力を阻害している。

 まるで、助けなど不要だとでも言っているかのような状況にネームレスは眉を顰めながらも、大鎌の柄を向けた。

 

「間に合わない! トリム、ルシエラの頭だけぶっ飛ばす!」

『照準は任せろ』

 

 走っていては間に合わないと理解したネームレスは砂煙を巻き上げながら停止すると勢いのままに収束砲撃を放った。

 黄金の光がルシエラへと向かう。

 

 それは今まさにトウラクを殺そうとしている彼女の頭部へと――。

 

「あぁ、少し待ってくれ」

 

 何よりも異常だったのは、トウラクは悠然と立ち上がった事だった。

 先ほどまでの苦悶の表情など感じさせない涼しげな顔で立ち上がった彼は、まるで棒切れでも振る様に雑に太刀を一度縦に振り下ろす。

 

 それはルシエラを殺すはずだった黄金の収束砲撃を一瞬にして霧散して見せた。

 ルトラの切断の権能ではない。

 初めから無かったように、黄金の魔力が一瞬にしてなくなったのである。

 

「トウラク、何してんの!?」

 

 混乱と怒りが混じった彼女の言葉に、トウラクは自分の体を撫で優しい笑みを浮かべる。

 

「……ああそうか。トウラクというのか、彼は」

 

 その光景を、ルシエラはまるで子供の様に狼狽しながら見つめることしか出来ていなかった。

 まるで夜明けの空のように優しく穏やかな声と、見ているだけで時間を忘れさせる美しい所作。

 

 それはルシエラの網膜に焼き付けられ、忘れられるわけがない。

 例え、その肉体が変わっていたとしても。

 

 それは遥か昔別の世界にて、人類の守護者であった偉大な戦士。

 未来永劫語り継がれる神話に等しい英雄譚の主役。

 銀の黄昏の創始者にして博愛の銘の正当な使い手、その名を。

 

「……博愛のソルシエラ」

「久しぶりだね、ルシエラ。いや、教授と呼んであげるべきかな」

 

 この戦いにおいて、絶対ともいえる切り札はここに降臨した。

 

「さて」

 

 博愛のソルシエラは空を仰ぐ。

 そして風に目を細め、心地よさそうに息を吐いた。

 

「……成程、先生に博士もいるね。それと……求道者?」

「っ、やめろ牙塔トウラク! お前はどれだけあの人を愚弄すれば気が済むんだ!」

「相変わらず、自分の信じた答えを疑わないんだねぇ、君は。けれど、いつも言っているようにもう少し柔軟に生きたまえよ」

 

 そう言って博愛のソルシエラはルシエラへとゆっくり太刀を構える。

 彼女は生前に太刀を使った事など無い。

 しかし、愛がそれを可能にさせた。

 

「では、戦おうか」

「っ、ふざけるなぁ!」

 

 半狂乱になって剣を振るう姿は、もはや戦士ではなかった。

 まるで子供のようにルシエラは剣を振るい続ける。

 今までは死に際まで存在していた優雅さをかなぐり捨てて、彼女は目の前にある現実を否定するように何度も剣を打ち付けた。

 

「……酷い攻撃だ」

 

 博愛のソルシエラはそれを一度も避けなかった。

 真正面から何度も太刀で受け止め火花を散らす。

 

 彼女は一度もルシエラへと攻撃を仕掛けず、向かってくる攻撃に対してだけ太刀を向けた。

 

「本当に酷い。心を刺すような辛く重い痛みが剣に宿っているのを感じるよ。……教授、君は責任感が強い子だったからね」

「うぅ、ああああぁぁぁぁぁ!」

 

 剣が振るわれ、火花を散らす。

 しかし博愛のソルシエラはその場から一歩も動いていなかった。

 

 直立不動のまま、彼女はルシエラの攻撃を完全に無効化していく。

 博愛のソルシエラはその目に愛と憐れみを浮かべながら、静かに口を開いた。

 

「辛かっただろう」

「やめろ!」

「苦しかっただろう」

「やめろと言っているのが聞こえないのか牙塔トウラク!」

「私の名を背負わされたか? 期待という名の暴力に打ちのめされたのか?」

「信じないぞ私は! お前はあの人ではない! あの人は……あの人はもう死んだとっ、私は信じている……!」

 

 目の前の現実を受け止める為だけにルシエラは自身の願いに背いて銘の力を行使する。

 しかしそれは、初めからなかったように無効化された。

 

「すまない、教授。君には特に辛い思いをさせてしまったねぇ」

「黙れ、偽者だろう貴様は!」

「そうだとも。私は銘に刻まれた記憶であり、残響だ。今はこの体を侵食する形で存在している。けれどね、トウラクという青年は愛を以って私に時間を作ってくれた。君を救う時間を」

「なんだそれは! 今更私がこんなものに屈するとでも思ったのか!?」

「教授、もう良いんだ」

「っ、良い訳がないだろ!」

 

 泣き声のような叫びと共にルシエラは調和により自身を再配置した。

 博愛のソルシエラから距離を取った彼女は、頭を振り余計な事を考えないように無理やり思考を整える。

 

「まだあの世界は私の銘の中にある。全てが滅びの直前で停止した状態で、助かるその時を待っているんだ! 貴女だって、絶対に生き返らせる……!」

「……君は相変わらず良い子だねぇ」

 

 博愛のソルシエラは、その時初めて太刀を自ら構えた。

 切っ先から殺意が迸り、辺りを彼女の放つ威圧感が上書きする。

 しかしその全てに愛があった。

 

「来ると良いルシエラ。何度でも君を愛してあげよう」

「黙れぇッ!」

 

 慟哭が響き渡り、最後の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえなんかすっごい眩しいの現れたんだけど!? なにあれ直視できねえよぉ!?』

『馬鹿なぁ、我々の輝きを凌駕するというのか……!』

『おぉ、あり得ない。私達を超える人間が現れるとは!』

『主殿達は時折、自ら悪役の側に立つが何故じゃ?』

『『『楽しいから』』』

『そ、そうか……。テム子、ここは真似しなくて良いぞ。……テム子?』

『(完全に失神したテム子)』

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