【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
赤い閃光と神話の焔が支配する戦場で博士は唐突に足を止めた。
何かを悟った様に空を見上げ、その攻撃全てを一身に受ける。
間もなく彼の体は跡形もなく消え去り、新たに91体目の博士が生成された。
が、今度の彼は死角を突くでも有利な立ち位置に生成されるわけでもなく、リュウコと六波羅の目につく位置に現れる。
そして、両手を上げて力なく笑った。
「……降参だ」
告げた彼の眼前まで迫っていたガラスの足がぴたりと停止する。
スカートを風に揺らしながら、六波羅は彼をじっと見つめた。
「どォした? 殺されるのが怖くなったか?」
「別に死程度はなれている。ただ、君達と戦う意味がなくなった。それだけだ」
博士はそう言ってある方向を見やる。
ルシエラとトウラクが戦っていた筈の場所からは、なんの音も聞こえてこない。
六波羅は全てを悟った様子で大きく息を吐くと、足を降ろし赤い光に包まれた。
少女だった彼の体は大柄な男へと変わり、隣にはエイナが現れる。
「わっ、リーダー! なんで戻っちゃったんですかぁ! 早くラブラブしゅきしゅきモードになりましょうよぉ!」
「勝手に変な名前つけるな」
「……随分と奇特な名前だな」
「真に受けるな」
元の姿に戻った六波羅を前にしても博士は攻撃をしなかった。
それを見て確信した六波羅は空を旋回する巨大な鳥に向けて声を張り上げる。
「リュウコォ! 終わったから降りてこォい!」
「本当ー!? よかったぁ……!」
巨大な鳥が地面に降り立ち、リュウコはその上で泣きそうな顔で笑顔を作る。
安堵したのか彼女はその体をバルティウスにだらしなく預けていた。
「めっちゃ疲れた……。今回こそは死ぬかと思った」
「情けない奴だなぁ! リーダーを見習えリュウコぉ!」
「くっ、ムカつくぅ~!」
戦いの緊張から解放された二人を放って、六波羅は博士へと語りかける。
「良いのか?」
「何がだ」
「てめェにも信念があるんだろ。こっちも毛頭負ける気はねェが、決着をつけるまで戦ってやっても良いんだぜ?」
「……いいや、辞めておくよ」
博士は笑って首を横に振る。
「僕は全てを彼女に捧げることに決めているんだ。彼女が立ち止まったなら、僕も止まらないと」
「……難儀な性格してんだな、お前」
博士は答えなかった。
遥か昔から今日に至るまで彼が胸に抱くのは、罪悪感や名前を付けることのなかった感情。
それらが真に報われることがないと悟りながらも、彼は変わらずルシエラの為だけに存在していた。
「行こう、執行官。今の教授がどんな顔をしているのか俄然、見たくなった」
彼はそう言って返事も待たずにルシエラ達のいる方へと歩き出す。
その後を六波羅は何も言わず追従した。
「あっ、待ってくださいリーダー!」
「待ってよ一人にしないでよぉ!」
騒がしい二人も後から付いてくる。
その平和ボケした声達が、一つの戦いが終わったのだと実感させた。
■
ルシエラ……! いや、ルシエラちゃん……!
まさか、博愛のソルシエラ×ルシエラだったとは。
『アイツ私と口調被ってて困るねえ。夢幻の杖といい、賢く落ち着いた大人の女性枠は私一人で充分なのだが……』
???
『?』
『自認が凄いのじゃ』
『おうどういう意味か、説明して欲しいねぇ^^』
『大人の女性とは思えない威圧なのじゃぁ……』
星詠みの杖君、赫夜牟君を虐めないであげて。
それよりも今は、目の前のコンテンツを味わうべきだよ。
流石は原作ボス、なんて恐ろしいんだ。
どれだけのコンテンツをその身に内包しているのだろう。
この戦い始まって一番の驚きかもしれない。
『驚くポイントが違うのじゃ。もっと色々あったはずなのじゃ』
それにトウラク君とルシエラの協力ルートなんて、俺のデータには無いぞ?
『……貴女っていつもそうですよね。データがあった事があるんですか?』
『あっ、テム子! 起きたのじゃな! 良かった良かった!』
『すみません、赫夜牟先輩。突然、博愛の銘の気配を感じて思わず驚きと混乱で思考プログラムが停止してしまいました』
『エッチだったよ^^』
『ひぇ』
テム子をあまり変な目で見ちゃ駄目だよ星詠みの杖君。
というか、戦い終わっちゃったけど、俺は結局あんまり活躍できなかったな……。
『ネームレスの方がサポートでMVPだねぇ。君はここで夢幻の杖と遊んでいただけだ』
くそっ、隙を突いて三対一で絆美少女アタックを仕掛けてルシエラを倒す予定だったのに。
BIG LOVEな輝きが降臨して全部を持っていかれた……!
認めよう、博愛のソルシエラ。
あの時、コンテンツとしては貴女の方が強かった……!
「どうやら、決着がついたようだねえ」
「ええ、そのようね。別に私はまだ貴女と戦っても良いのだけれど?」
俺は笑って大鎌を構える。
しかし夢幻の杖は優しい笑みでそれを否定した。
「いいや、それは愛ではない。私は一刻も早くルシエラの元に向かわないと。君も、仲間が心配じゃないのかな」
「私が心配する必要がないくらいには強い子達よ」
「はは、愛しているんだね君も」
「やめてよ、貴女みたいにそうやってなんでも愛って片付けないで」
『でも貴女何でもかんでもコンテンツって言ってますよね?』
何も聞かなかったことにして、俺は転移魔法陣を起動する。
そして、かっこよく黒い羽根を散らしながらトウラク君達の元へと向かった。
「無事、終わったようね」
その場にクールに姿を現して俺は微笑む。
ここでポイントなのは、いつものミステリアスさに加えてほんの僅かに安堵の意思も込める事だ。
ソルシエラはもう孤高ではないと随所に伝えていこうねえ。
「ソルシエラぁ!」
真っ先にネームレスが俺に抱き着いてきた。
俺はそれを受け止めて、頭を優しく撫でて再び笑ってやる。
ほら、ご覧よトウラク君!
かつて君が救おうとしていた薄幸ミステリアス美少女は、こうやって仲間に抱きしめられて笑えるようになったんだ!
『それがマッチポンプでなければ満点でしたね』
『君、さっきからうるさいねえ。今日の夜、部屋でおみみスペシャルの刑だ』
『っ、星詠みの杖先生。それは流石に非道なのじゃ! テム子には我からもきつく言い聞かせて置く! じゃから、何卒ご慈悲を……!』
『えっ、そんなやばいんですかそれ』
『^^』
『なんで何も答えないんですかぁ!』
そんな技あるんだ……。
俺知らなかったよ。
『そりゃあ、君はその時は寝ているからねえ』
ん?
『ん?』
『カメ先生、助けてなのじゃー!』
『あっこいつ保護者呼びやがった!』
しかし、カメ君の声はすぐには帰ってこなかった。
あれ、カメ君どうしたの?
『そう言えばずっと静かだったねえ。私が赫夜牟たちを毒牙にかけようとするといつも邪魔するというのに』
『自分で毒牙の自覚あるのやばいのじゃ』
『^^』
『カメ先生、助けてなのじゃー!』
『おぉ……』
あ、今度は出てきた。
……ん? カメ君、どうしたんだその弱弱しい気配は!
ちょっと待っているんだ!
カメさん、だいじょうぶ?
なでなでしてあげるね!
『お ぉ!』
『え、なんですかこれは(ドン引き)』
『これで回復するのきっしょ^^』
『カメ先生、どうしたのじゃ? 急に気配がなくなって、戻ってきたらこんなにボロボロになって……』
すぐに回復したが、カメ君の気配はまるで子亀のように弱弱しかった。
先ほどまでは普通だったというのに、一体何があったのだろうか。
どこかでロリに嫌いとでも言われたのだろうか。
『マイロードよ、すまない』
何故あやまるんだカメ君!
『つい先ほど、鏡界でカメさんエマージェンシートルネードを発動した』
『勝手に何やってんだお前』
『それで、かの存在を足止めできないかと考えたのだ。そうすれば多少は準備をする時間が稼げると思ったのだが……駄目だった。遠隔での操作だったというのに、危うく私も巻き込まれ殺されるところだったのだ』
カメ君は悔しそうな声でそう告げた。
そんな、カメ君ほどの存在が負けるなんて……!
勝手にカメさんエマージェンシーを発動したり、こういう時の行動は敗北フラグでしかないだろとか色々と言いたい事は山ほどあるが、まず聞きたい事は一つだ。
かの存在って……何?
『天上の意思が、間もなく降臨するぞ』
はわわ……!
『上等だねぇ^^』
『(再び気絶するテム子)』
『テム子ー! しっかりするのじゃー!』