【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第469話 美少女は時に乗り越えるべき壁となる

 勝利の余韻に浸れる時間は決して長くはなかった。

 勝利を祝い互いを労う為に合流したトウラク達だったが、この場においても彼らは気を抜くことは一切ない。

 

「相変わらずお人よしなのね、トウラク」

「ははは、そう言う君だって――っ!?」

 

 故に、それの顕現をいち早く察知できた。

 

 強大な力がこの世界を無理矢理こじ開け現れようとしている。

 肌を刺し押しつぶすような威圧感と戦う前から死を予感させる程に圧倒的かつ膨大な魔力。

 

 それはソルシエラやルシエラと比較しても決して引けを取らないどころか大きく上回っていた。

 

「ネームレス、トウラク。構えなさい」

「ああ、わかってる」

「勿論!」

 

 三人はその気配を察知してすぐに得物を構え周囲を警戒する。

 しかし、その膨大な魔力故に彼女達は気が付かなかった。

 

 顕現するのは、彼女達のすぐ近くだという事に。

 

「――ァが」

 

 ノイズ混じの潰れた声が夢幻の杖から吐き出される。

 傍にいたルシエラはその光景を見て、一瞬眉を顰めたがすぐに何かを理解したように夢幻の杖へと蒼銀の剣を向けた。

 

「君は破壊されると信じて――」

 

 瞬間、音が消えた。

 この世界には不要であるとでも告げたかのように、世界そのものが息をひそめかの者の降臨を待つ。

 

「――傾聴せよ」

 

 間もなく、それは現れた。

 夢幻の杖を塗りつぶす様に、それを器として絶対者が降臨する。

 

「これは管理者である余の言葉である」

 

 声色こそ変わらないが、それは既に夢幻の杖ではなかった。

 世界を見通し全てを突き刺すような視線が辺りを一瞥する。

 それだけでトウラクの額からは汗が吹き出し、身体がこわばった。

 他の者も同様だ。

 

 その場から動かなかったのではない。

 動けなかったのだ。

 

「これより世界の修正を開始する。イレギュラーは抹消しなければならない」

 

 誰もその姿も声も聞いたことはない。

 伝承にも存在せず、神話に一つとして語られない。

 しかしそれは間違いなくこの世界を統べる者である。

 それは生きとし生ける者の脳裏に、こう刻み込まれていた。

 

 ――天上の意思、と。

 

 形を持たない不定形の絶対的な意思。

 それが今、機械仕掛けの体を奪い降臨したのだ。

 

「この世界の裁定は、失敗に終わった。故に、零からやり直すとしよう」

 

 今までの慈愛に満ちた笑顔から一転、世界を見下すような冷たい視線で彼女はそう告げる。

 そしてゆっくりと腕を持ち上げたその時だった。

 

「コード666:反逆――バン」

 

 音のない世界に、声が一つ介入する。

 声が聞こえると同時に、瞬く間に夢幻の杖の腕が破裂した。

 機械ゆえに血は噴き出さないが、その回路や線がむき出しになり、まるで筋肉繊維のようにだらんと垂れ下がる。

 

「……敗者か」

 

 その力を見て、天上の意思は興味なさげにそう呟く。

 次の瞬間にはその腕は修復されていた。

 否、最初から攻撃などされていなかったのかもしれない。

 

 しかし天上の意思が意識を向けたその刹那が、彼女達にとっては千載一遇のチャンスであったことは確かだった。

 

「――私達、銀の黄昏は天上の意思に勝利できると信じているよ」

 

 トウラクやネームレス達よりも速く動き出せた者達がいた。

 それは天上の意思の存在を理解し、恐ろしさを実感し、そして敗北を味わった者達である。

 

 一手早く、一歩でも早く。

 その意思が、言葉を介さずとも一つとなり連携を組み上げていたのだ。

 

「……ほう」

 

 天上の意思が理解したその時には、既に四人が彼女を囲んでいた。

 調和による再配置が終わると同時に完了する、最強の一撃を放つプロセス。

 それはまるで、これから自分の体が移動するとわかっていたかのようだった。

 

「曰く、桜庭ラッカは国を一槍で滅ぼした事がある」

「星に押しつぶされなさい」

「コード999:崩壊――バン」

「この一撃で死に至ると全ての民が信じているよ」

 

 教授を筆頭としてこの戦場に立っている銀の黄昏の戦士4人は、一斉に天上の意思へと攻撃を放つ。

 

 それはかつて実際に起きた伝説を再現する技だった。

 それは一つの銀河系を凝縮し砲撃として放つ隠し玉の一つであった。

 それは六体の天使から解析した天上の意思の崩壊プログラムであった。

 それは戦い敗れ去った世界の意思を束ね「それでも」と組み上げた至上の一撃だった。

 

 そのどれもが、天上の意思を殺せると期待してしまう程に強力であり、希望そのものである。

 しかしそれは結局、人間という小さな生命体の生み出した希望でしかなかった。

 

「他愛もないな」

 

 天上の意思はゆっくりとその場で体を回転し、攻撃をただ見やる。

 その背後に乗せられた概念も、積層する思いも全てを見通し、そして静かに瞳を閉じた。

 

 天上の意思は何もしない。

 全ての攻撃は彼女の前でぴたりと停止し、不規則な形をとる色とりどりのオブジェと化した。

 

「天を相手取るという行為自体が矛盾であると理解しろ。貴様らは所詮はただの管理される種族に過ぎない。本来は認識すら許されず、反応の意思すら持つことは許されないのだ」

 

 特殊な能力が存在しているわけではない。

 ただそこに在るという事実。

 それだけが天上の意思に宿る唯一にして絶対の理だった。

 

 対するルシエラ達は、まるで天上の意思を飾り立てるような舞台装置に成り下がってしまった己の最強の一撃を目にしながらも諦めない。

 

 ここで諦めてしまうようなら、彼女達はずっと昔に世界と共に滅んでいただろう。

 

「本当に何でもありだなこいつは……!」

「博士、今度こそ確実に仕留めよう。先生と求道者も一時共闘という事で一つどうかな」

「はははっ、じゃあ今度こそぶっ殺そうかぁ!」

「別に私は一人でも構わないのだけれど」

 

 旧友として会話をしながらも彼女達は次の一手に向けて準備を始めている。

 そして、この時になってようやくトウラク達も動き出した。

 

「『まだ博愛が残っている内に決着を付けよう』」

 

 銘の使い方は何よりも博愛のソルシエラ本人により体に刻み込まれている。

 トウラクは腰だめに刀を構え、そして一気に抜き放った。

 

「一手」

 

 愛を以って一撃が放たれる。

 それは天上の意思の前で四人の攻撃と同様に停止したが、トウラクは既に駆け出していた。

 

「二手」

 

 斬撃が天上の意思の前で停止する。

 しかし刀は止まらない

 

「三手、四手」

 

 やがてそれは天上の意思を守護する防壁へと食い込み始め――。

 

「ここか。五手」

 

 五振り、渾身の愛を込めて彼は放つ。

 愛は何物にも遮られない。

 ならばこの攻撃はどんな相手にも届くのが道理であった。

 

「ほう、余に届くか。良いな、貴様は」

 

 停止していた斬撃のみが一気に動き出し、一斉に天上の意思を切り裂く。

 敵意を一切排除した愛故の攻撃は、天上の意思へと捧げる祈りに等しい。

 であるならば、人の子の祈りを天上の意思が妨げるわけがなかった。

 

「真に正しき選定があれば、貴様が乗り越えるやもしれぬな」

 

 その身を切り裂かれながら、天上の意思は笑う。

 切り裂かれた筈の体は修復の過程すら必要とせずに元に戻った。

 

 だが、攻撃が届いたという事実がこの場の全員を奮起させる。

 

 「まずはイレギュラーを見定めるとしよう。精々、余にすぐに殺されないように気を付ける事だ」

 

 機械仕掛けの人形に宿った神は、かくして人類へと修正を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『眩しッ! マズイぞこれ! インフレについていけないソル~!』

『まだ余裕そうだねぇ』

『おぉ、しかしこのままだと負けてしまうぞ』

『テム子、起きるのじゃー!』

『うーん……(気絶継続)』

 

 

 

 

 

 

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