【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第48話 初心と機転

 

 帰還して三日。

 

 フェクトム総合学園は実に平和なものだった。

 借金の額が突然減った事で、普通の学園として運営出来る可能性が高い。

 おかげで、ミズヒ先輩もトアちゃんも嬉しそうだ。

 

 ミロク先輩すげえな。

 騎双学園相手にマジでなにやったんだよ。

 

 俺みたいなフェクトムビショウジョモドキでは想像できない方法をとったのだろう。

 流石天然の美少女。格が違うぜ。

 

 であるならば、俺もまた努力をしなければならない。

 三人に任せっきりではいけないのだ。

 美少女への憧れなら負ける気はしねえぞ!

 

 と、言う訳で。

 

「女装をします」

 

『え? 文脈繋がってた? なんで女装?』

 

 星詠みの杖君は相変わらず察しが悪いポンコツギアのようだ。

 

 フェクトム総合学園が普通の学園に成るという事は即ち、生徒が入ってくる可能性が上がるという事だ。

 ダンジョンのコアを返済ではなく自治区の拡張に使うことができるようになるし、校舎の修理に費用を回すことだってできる。

 

今年の戦領祭は、俺が色々と知っててアドバンテージもあるし高順位はほぼ確定。

来年は新入生も入ってくることだろう。

 

となれば、俺はミステリアス美少女先輩という事になる。

 

『なるかい?』

 

 なるんだよ。

 俺は、空き教室の窓辺に椅子を置いて、よくわかんねえ文学書を読むんだ!

 春のそよ風が開けられた窓から入り込んで、長い髪を片手で押さえたりするんだよ!

 そしてそんな俺を見ていた後輩を「君」呼びしたり、性癖を破壊したりするクールな先輩としてやっていく。

 

 これが俺の来年の姿だ。

 

『理解も演算もしたくないねぇ』

 

 演算するまでもないだろ!

 

 ミロク先輩はしっかりもののお姉さん。

 ミズヒ先輩は頼りになる姉御。

 トアちゃんは多方面を勘違いさせる優しい先輩。

 

 ほら、クール枠が余ってる。

 そこ、俺が入りまーす!

 俺俺! 俺が立候補しまーす!

 

『何かの間違いでクール枠が転入して欲しい。相棒に任せてはいけない気がする』

 

 は?

 俺は新入生の男子生徒の性癖を破壊するだけだが?

 その後に、全員を美少女にする。

 

 それで共学なのに一年後には絶対に女子校になる独特の校風を作り上げる。

 

『やってることがダンジョンと変わらないねぇ。相棒を倒したらコア出たりしない?』

 

 出ないよ。

 

 ああ勿論、星詠みの杖君にも美少女枠を用意してあげるからね♥

 来年までに君も実体を持てるように頑張ろうね♥

 

『断固拒否する』

 

 やっぱりまだミステリアス美少女の相棒としての自覚が足りないみたいだ。

 やはり、ここは女装で星詠みの杖君にも初心を思い出してもらおう。

 

『初心とかないよ』

 

 最近、可変的なTSが可能になったせいで、俺は美少女に成れる事に対する感謝が薄れていたんだ。

 だから、今一度原点に戻って女装をする。

 

 いいかい、星詠みの杖君。

 今回、君の魔法は使わない。

 

 なぜなら人は誰しも心に美少女化願望という名の魔法を持っているからね。

 

『なんだこいつ』

 

 俺は自室で祈り、感謝を捧げてゴスロリ衣装へと着替える。

 薄汚れた鏡には見慣れた美少女の姿が映っていた。

 

 感慨深い。

 思えば遠くまで来たものだ。

 

 俺は美少女へと着実に近づいている。

 

「さてこの衣装で……書類整理でもするか」

 

『あ、外に出る訳じゃないんだね』

 

 まあ、整理しなきゃいけない書類が残っているからね。

 ミズヒ先輩に救援依頼は任せて、俺とトアちゃんで手分けして書類の片付けに追われる毎日だ。

 

 借金が減って、色々と予算案が組めるようになったのも理由の一つだろう。

 三人で必要な物や施設の案を出し合って、正式な申請書として纏めるのだ。

 

 例えば、これ。

 

【フェクトム総合学園のシャワールームを温水が出るようにしてほしい】とか。

 

 俺は別に冷水で構わないが、三人の美少女には健やかに育って欲しい。

 なんなら俺が温泉掘ろうか?

 

『君なら本当にやりかねないねぇ』

「……ソルシエラの収束砲撃って、地面どれだけ貫通出来る?」

『存外本気で驚いているよ。絶対にそんな事に使わせないからね? 星詠みの自覚を持ってね?』

 

 うるせー!

 とにかく、俺は美少女に幸せになって欲しいの!

 そして俺も美少女になってその幸せに混ざりたいの!

 

「はい! 今日の分の書類は終わり!」

 

 部屋まで持ち帰った分は、華麗に終わらせた。

 美少女は、書類整理も美しくこなすものだ。

 

 というわけで、書類をダイブギアの拡張領域に詰め込んで生徒会室に行こうと思います。

『仕事は真面目にしている分、咎められないんだよなぁ』

 

「さて……行こうかしら」

 

『え、その恰好で!?』

 

 当たり前だろ。

 初心に帰ってフェクトム総合学園で女装するんだよ。

 

 大丈夫大丈夫。

 トアちゃんは寮に戻ってるし、ミズヒ先輩はまた救援依頼受けに出ていったから。

 

 本校舎は今は、無人です!

 なので、本校舎で来年のミステリアス美少女ムーブの予習も兼ねて女装をしようと思います。

 

 だから、武器は無しで行くわよー。

 はい、星詠みの杖君は今日は見学しててね。

 

 後で今日の女装について観察したレポートを提出してもらうから。

 

『嫌に決まってるだろ』

 

 素直じゃないなぁ。

 

 さて、俺は気を取り直して廊下に出る。

 ミステリアス美少女として、一挙手一投足に気を使い嫋やかに髪を揺らして歩く。

 そして時折、足を止めて物憂げに窓の外を見たりする。

 

「今日は、星がよく見えるのね」

 

『ちんたらしてないで早く生徒会室に行って欲しいねぇ!?』

 

 んだよ、うるっせーな。

 はいはい、行きますよ。

 

 目的は生徒会室だしね。

 

 

 

 生徒会室はやはり無人だ。

 月明かりだけが差し込んだ部屋は、昼間とは印象ががらりと変わる。

 

 妙に寒々しい部屋の中は、いつもよりも広く感じた。

 

 俺は書類をダイブギアから、1セットずつ出して机の上に並べていく。

 

 ふう。

 後はこれを提出しておしまいだ。

 

 俺は椅子に腰を降ろして、脚を組む。

 そして、窓の外を眺めながら物憂げにため息をついた。

 

『いや、最後のやつ出してくれよ。なに浸ってるんだよ』

 

「貴方は、この世界を愛しているかしら。……この欺瞞に満ちた世界を」

 

『おいおい何か始まったぞ……!?』

 

 来年に向けて練習しとかなきゃね。

 それっぽい事を言って、後輩君達を右往左往させないと。

 

『何が目的なんだいそれは。……いや、やっぱり言わなくていい』

 

 そうか。言わずとも理解できるか。

 流石は俺の相棒だ。

 

『……そうだね』

 

 俺は髪を耳にかける動作と共に扉に向けて妖艶な笑みを浮かべる。

 丁度開いている扉の位置に後輩君がいる想定だ。

 

 来年は、これをやるためだけの空き教室を貰いたいね。

 

「私は……そうね。少なくとも、君と一緒にいる間はこの世界に退屈はしなくて済みそう」

 

 こう言って、本をぱたんと閉じたいわよ。

 難しい文庫本を閉じるわよ!

 中身はラノベに差し替えたやつわよ!

 

『……あ、待ちたまえ! 誰か来たぞ! 今すぐに隠れるかこの場から脱出するんだ!』

 

 今度は嘘かね。

 君ね、相棒に嘘ついたら駄目だよ。

 いくら俺のミステリアス美少女具合に嫉妬したからってそれは駄目さ。

 

 という訳で、ミステリアス美少女続行でーす。

 

「自己紹介……はもう必要ないわね」

 

 俺は謳うようにそう言って、天井を仰ぎ見る。

 

「私達は一度既に出会っているのだから」

 

 本当は出会っていなくてもこれを言う事で、相手に特大のボーイミーツガールの予感をびんびんにさせる。

 そうして顔をぐいっと近付けてやればそれだけで性癖はぐちゃぐちゃ。

 

 最後には、好きが溢れまくって俺みたいになりたいという願望に転じた美少女候補生で溢れかえるって寸法よ。

 

「――そうでしょう?」

 

 そう言って最後には本来は絶対に必要ない振り向き方をする。

 こう、首をグイって大げさに曲げて、只者じゃない感じを出すやつ!

 

 これで扉の前の後輩君が俺の怖ろしくもどこか惹かれるミステリアスな魅力に堕ちるって寸法よ。

 

 さあ、首をぐいってして振り返ろう!

 

「ああ、そうだな。私たちは一度会っている」

「……??????」

 

 あ、あれぇ?

 

 俺の想定では後輩君がいる筈なのに、どうしてミズヒ先輩がいるんだ?

 脳みそが勝手に美少女を投影しちゃった?

 

『……本物です』

 

 え。

 

『私、来るって言ったのに……』

 

 マジ?

 リアルミズヒ先輩?

 

「ソルシエラ、お前が何故ここにいる」

 

 俺も同じこと言いたいんだけど。

 なんでミズヒ先輩がいるの?

 

 救援依頼は?

 一度、休憩しに戻ってきた感じ?

 

 ……マズいねぇ!?

 

 俺は、背中に汗をダラッダラかきながら口元を隠して微笑む。

 

「その必要があったから。それだけよ」

「……また、デモンズギアに関係することか」

「ふふ、さて。どうでしょう」

 

 どうしよう。

 星詠みの杖君はどう思う?

 

『ざまあないねぇ』

 

 貴様ァ!

 

「まさか、まだこの学園に何かあるのか?」

 

 それは俺も聞きたいレベル。

 なんか、この学園ヤバくない?

 

 星詠みの杖とか、デモンズギアとか眠ってるし、騎双学園に借金あるし、桜庭ラッカちゃんと関りあるっぽいし。

 

 君たち、本当にモブなの?

 

「どう答えれば、貴女は満足するのかしら」

「お前の知っていることを全て教えろ」

 

 そう言って、ミズヒ先輩は俺を強く見据えた。

 逃げられねえ……。

 

『あ、二秒の隙があれば転移できるから。どうにか隙を作ってくれ』

 

 マジ?

 流石相棒、頼りになるぜ!

 

『君の手のひら忙しそうだね』

 

 相棒と心が一つになったところで、俺は冷静に状況を把握する。

 

 これは、ミステリアス美少女にとっては素晴らしいシチュエーションだ。

 自分たちの学園に突然現れたミステリアス美少女。

 

 月明かりが差し込む教室で一人物憂げな視線を向ける彼女は果たして……!

 

 というわけでこれよりミステリアス美少女プランBを実行する。

 

『プランB?』

 

 ああそうだ。

 

 プランB。

 それは、とにかくそれっぽい事を言って誤魔化す、だ!

 

『ああ、いつものね』

 いくぞォ!

 

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