【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第471話 美少女は自爆しても美しい

 頂上決戦においてルールも道理も存在しない。

 あるのは強大な力と力のぶつかり合いであり、力のない人々は嵐のように過ぎ去るのを待つしかなかった。

 あるいは、自分だけは裁かれぬようにと浅ましく祈るぐらいだろうか。

 

 しかし少女は自身が星であると謳うが故に、決して祈ることはなかった。

 星とは祈りを捧げられる者。であるならば星である自分自身が祈りを捧げるなどあってはならない。

 故にソルシエラは、天上の意思との徹底抗戦を選んだ。

 

「思えば、天を堕とした事はなかったわね。ふふ、貴女はどんな声で鳴いてくれるのかしら」

「余を前に随分と余裕なのだな」

 

 天上の意思が一歩踏み出す。

 それだけでまるで収束砲撃を放ったかのような圧が放たれた。

 

「『ルシエラ、合わせろ』」

「ああ。天上の意思はトウラクの攻撃で両断されると信じているよ」

 

 彼女の言葉が刃に乗り、神へと届く一撃へと昇華される。

 完全にソルシエラへと意識を向けている天上の意思に向けてトウラクはその刃を突き放った。

 

【止まれ】

 

 世界に命じられ、トウラクの動きが停止する。

 今までの異能や銘とは訳が違う。

 根本からトウラクという存在の行動を停止させるその超越命令は、まるで静止画のように彼を停止させた。

 

「良い抗いだ。修正の後には、お前に銘をくれてやるぞ剣士よ」

 

 トウラクを目にすることなく天上の意思はソルシエラへと近づいていく。

 と、その時彼女の前に一匹の蛙が躍り出た。

 

「マーちゃんズ」

 

 蛙が途端に破裂し、爆風で視界が奪われる。

 その爆発自体は天上の意思を傷つけることはないが、夢幻の杖の体に入っている以上五感に一部感覚機能を依存している彼女は、それだけでソルシエラの姿を見失った。

 

 と、その背後に蝶が舞う。

 

「コード999:崩壊――バン」

 

 対天上の意思用に天才たちが組み上げた崩壊術式が再び放たれる。

 博愛の銘を付与された攻撃は今度こそ停止することなく、天上の意思へと直撃した。

 

「……小癪な攻撃をする」

 

 呟く彼女の言葉からはノイズが溢れ、動きが次第にぎこちなくなっていく。

 その隙を他の者が見逃すわけがなかった。

 

「月詠みはここに覚醒する!」

『限定解放10秒だ。きっちり守れよ』

 

 黄金のドレスを纏ってネームレスが黒煙の中へと飛び込み、天上の意思の前に躍り出る。

 それを見て、天上の意思は静かに世界へと命じた。

 

【潰れよ】

 

 しかしネームレスは動きを止めることなく、その黄金の一閃で夢幻の杖の片腕を切り落とす。

 博愛による傷は消えることはない。

 夢幻の杖の自動修復機能はおろか、傷つくこと自体が矛盾である天上の意思の体に大きな傷が刻まれる。

 神に等しい存在の腕が、確かに一つ落ちたのだ。

 

「っしゃあ!」

 

 ネームレスは更にもう一閃を加えようと振り返る。

 しかし、その眼前には既に見たこともない魔法陣が展開されていた。

 

「やばっ」

『無敵と障壁を準備しろのろま!』

 

 トリムの声にハッとしたネームレスはありったけの障壁を展開しながら無敵を自身に付与する。

 それから1秒後、彼女の体を凄まじい衝撃と轟音が襲った。

 

「ッ!」

『こいつ、鏡界のエネルギーそのものをぶつけてきたぞ! ボクでも出来ないのに!』

「くっ、解説どーも」

 

 ネームレスはボロボロだが、瓦礫の中から立ち上がる。

 無敵とはいえ、攻撃を全て体に受け止めたのだ。無理もない。

 天上の意思の攻撃はその衝撃だけでも十分すぎるほどの威力を有していた。

 

 大鎌を支えに立ち上がったネームレスの姿は次第に元に戻っていく。

 

「それにしてもアイツ、魔法なんて今まで使ってなかっただろ……!」

 

 砂煙の中佇む天上の意思は、興味深そうに自身の切り取られた腕を見下ろしていた。

 

「余の命令が無視されたというよりは、位相を変えて逃れたか」

「おい、もう種割れたぞ」

『不干渉は天上の意思へのアプローチの一つ。奴が理解できるのも織り込み済みだ。と言っても、もう月詠形態は暫く出せないがな! 根性で乗り切れ』

「ああもうやってやるよ! 実際、腕は片方落としたんだし! 大金星だろこれ!」

 

 天上の意思の腕を切り落としたという事実は、見る者に希望を与えた。

 それぞれが勝機を見出し、更に可能性を導き出そうと動き出す。

 

 その時だった。

 

「――片腕なら顕現してもこの世界の強度的には問題はない、か」 

 

 それは天上の意思の言葉だった。

 何かを気に掛けるように思考した後、彼女の肩から半透明の何かが飛び出してくる。

 

 腕があった場所を揺蕩うように蠢くそれは、腕というよりはそれ自体が意思を持った生き物のようだ。

 まるで蛇のようなその半透明の腕は、今まさに動き出していたラッカへと向けられる。

 ラッカは自身が標的になったのを見て、本能的に攻撃を中止し即座に防御と回避の準備を始めた。

 

「曰く、桜庭ラッカに攻撃は通用しない。曰く、桜庭ラッカに攻撃は当たらない! 曰く、桜庭ラッカは――」

 

 迫る半透明から逃げるようにラッカは駆け出す。

 銀の黄昏の戦士の疾走は放たれた矢よりもずっと速い筈である。

 しかし、その半透明の腕はまるで障害など何もなかったかのようにラッカに直撃した。

 途端に彼女を襲うのは凄まじい衝撃と、魔力に変換される前の純然たるエネルギーの塊だった。

 

「――ぁがっ!?」

 

 鏡界に存在する全てを構成するエネルギーがただ一人の少女の体内へと向けられる。

 それは小さな風船に海を丸ごと詰め込むような荒唐無稽かつ無茶な行動に等しい。

 

「っ、マズイ。コード999:崩壊――バン」

 

 博士は指先の照準をラッカへと向け、魔法式を発動する。

 鏡界のエネルギーを分解し霧散させる機能により、ラッカの中を無理矢理満たそうとしているエネルギーは途端に霧散した。

 

「っ、はぁっはぁっ。サンキュー博士」

「構わない。僕の役割はこういう時のサポートだからな」

「……にしてもマズイな。博愛で傷を固定できるのは良いけれどさ」

 

 ラッカはよろよろと立ち上がり、天上の意思の左肩の先から飛び出しているそれを睨みつける。

 

「あいつの本体がこの世界に直接顕現する理由になっちゃうんじゃない?」

「普通に攻撃すればなかったことにされ、博愛ならば奴本体が世界に現れるきっかけになる。素晴らしい程に隙が無いな。これを攻略する方法を導き出せるとなると、興奮してきたよ……!」

「調子がよさそうで何よりだ。けど、マズいだろそれ。せっかく攻撃が通るのに、下手に倒せないじゃん」

「せめてもう少し考える時間が欲しいな。おい、教授とそこで固まってる奴」

 

 コードを放ちトウラクを解放してから、博士は顎で天上の意思を指し示す。

 

「あいつを足止めして時間を稼げ。多重提唱空間で何とか打開案を見つける」

「『わかった』」

「わかったよ博士」

 

 ルシエラとトウラクは再び天上の意思へと挑みかかっていくが、やはりまともな戦いにすらならなかった。

 殺そうと傷を付ければ、それ自体がこの世界に終焉を導くきっかけになりかねない。

 かといって手加減など出来る相手でもなかった。

 

「もう抵抗は終わりか、イレギュラー達」

 

 天上の意思は再び歩みを進める。

 一歩、また一歩とソルシエラへと近づいていく様はまるで彼女の罪を一つずつつまびらかにしていくような厳かな雰囲気があった。

 

「最も歪で異常なイレギュラーから消去するとしよう」

「来なさい、エスコートしてあげる」

 

 ソルシエラは敢えて、天上の意思へと向かって行った。

 大鎌の切っ先が地面をなぞった瞬間、天上の意思の足元に波紋が広がり、その体が位相の海へと堕とされる。

 

「……」

 

 驚くことはなく、少しばかり眉を動かしただけの天上の意思は何もしなかった。

 

「まさか貴女に聞かせることになるとは思わなかったわね」

 

 頭上から声が聞こえる。

 見ればそこには、ヴァイオリンを構えたソルシエラがいた。

 天上の意思の周りをビットが囲み、弦を一つ弾く度にその音に乗せた死が増幅されていく。

 

「傷つけなくとも殺す方法なんていくらでもあるもの」

 

 そう言ってソルシエラは静かに演奏を始めた。

 死を付与する第二の天使の力が、今主へと牙を剥く。

 不可視かつ全方位から襲い掛かる死の攻撃。

 だがそれも天上の意思からすれば、無視しても構わない程度の代物だった。

 

「それは貴様の手には余る物だろう」

 

 天上の意思はそう言ってヴァイオリンへと視線を向ける。

 

【砕けよ】

 

 その瞬間ソルシエラの手の中にあったヴァイオリンは原型すらわからない程に粉々になって位相の海へと溶けて消えた。

 

「っ……マナーのなっていない客ね」

「天使の力をそのように扱う貴様こそ、マナーがなっていないのではないか」

 

【閉じよ】

 

 位相の海へと超越命令が下される。

 抵抗する事など出来る筈もない。

 

 位相の海は途端に閉じ、ソルシエラと天上の意思は地上へと強制的にはじき出された。

 

「次はどう出る、イレギュラー」

「せめて名前を憶えて欲しいのだけれど」

 

 ソルシエラはそう言って大鎌を天上の意思へと向けた。

 彼女の足元には銀河系がいくつも存在しており、全てが共鳴現象により魔力を増幅させる。

 

 それを見た天上の意思は、興味深そうに目を細めた。

 

「実際に星を作り出している……成程、裁定も無しに余と同じ存在になろうとしているという事か。素晴らしいが、やはり貴様は危険だ」

「お褒めに預かり光栄ね」

 

 足元から無数の管が伸び、大鎌へと連結されていく。

 彼女がくるりと大鎌を回し柄を天上の意思へと向けると同時に、辺りに大量の砲撃陣が生み出された。

 

「傷をつけるのが駄目なら、全てを消し飛ばしてしまえば良いのでしょう?」

「貴様に出来るとでも?」

「当然でしょ」

 

 ソルシエラが不敵に笑い、引き金へと指を掛けたその時だった。

 

「もういい。貴様の消去は決まっている」

「――ぁ」

 

 常に警戒をし続けていた。

 瞬きすらしなかった。

 干渉の力により常に障壁を展開していた。

 ソルシエラは用意周到に万が一を取り除き万全を期していたのだ。

 

 だというのに、気が付けばその腹部へと半透明の何かが突き刺さっていた。

 

「っ」

「余が攻撃に転じればこの程度だ。収束や共鳴は弱き者が抗う為の理論に過ぎない」

 

 手を伸ばし、相手を貫く。

 その工程に果たして工夫は必要だろうか。

 

 理屈や努力などいらない。

 ただ手を伸ばせば事が済む。

 故に、それは天上の意思と呼ばれているのだから。

 

「混ざり物が多いな。……本当になんだ貴様は。もっと近くで見せてみろ」

「ぁがっ」

 

 腹部を貫いた半透明のそれが形を変え、内部で返しを作り無理矢理ソルシエラを引き寄せる。

 抵抗など出来るわけもなく、ソルシエラはそのまま天上の意思の目の前まで引きずられた。

 

「ソルシエラッ!?」

「『一振り!』」

「求道者! この――」

 

 全員がソルシエラを助け出そうと動き出す。

 しかし、そんな彼女達の手へと銀の鎖が巻き付いた。

 誰がやったかなど考える必要もないだろう。

 

「ソルシエラ、どうして!」

「……人類には時間が、必要よ」

 

 強気に笑みを作る口元からは血が一つ線を引くように垂れている。

 内臓は既にめちゃくちゃになり鏡界のエネルギーを流し続けられているというのに、ソルシエラは変わらずソルシエラのままであった。

 

「トウラク、ネームレス」

 

 ソルシエラは最も信頼できる二人の名前を呼んだ。

 

「私が戻るまで、この世界を頼んだわ」

「っ、待ってソルシエラ!」

「『ルシエラ、合わせてくれ! ……ルシエラ!』」

 

 その場でソルシエラを助け出そうとしたのはトウラクとネームレスだけであった。

 銀の黄昏の戦士たちは、誰一人としてソルシエラを助けようとはしない。

 それが彼女の尊厳を踏みにじる行為だと知っていたからだった。

 

「いい子ね、皆」

 

 ソルシエラは笑うと、手を伸ばし自ら天上の意思の頬へと触れる。

 そしてわざとらしく輪郭をなぞり、たっぷりの余裕を込めた笑顔を向けた。

 

「まだ私から目を逸らしちゃ駄目よ」

「……何をしようとして」

 

 言葉の途中で天上の意思は悟る。

 ソルシエラの体がひび割れ始め、その中から眩い銀光があふれ始めていた。

 

「まさか貴様――」

「もう遅いわよ、お馬鹿さん」

 

 瞬間、辺りが眩い閃光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『綺麗にぱーんて弾けるよ! いくぞぉ! ソルシエラダイナマイトォ! 説明しよう! ソルシエラの心臓、通称ソルソルハートは美少女粒子により動く特殊な器官である! これにより、身体を失ったとしても――』

『お腹を貫かれたソルシエラがエッチすぎるねぇ!』

『おぉ、完全に欺いて見せたぞ……』

『……内臓、美味しそうじゃぁ』

『な、なにが始まるんですかこれ?』 

 

 

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