【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
「……まさか、こんな形で戻るとは思わなかったなー」
桜庭ラッカは、複雑な感情を胸に呟く。
次に自分がその門をくぐる時、それは全てが終わった後あるいは死の間際に見る幻の中だと思っていた。
フェクトム総合学園。
かつてラッカが星詠みの杖を隠していた秘密の学園にして、大切な教え子たちの学び舎だ。
「うーん、どんな顔をして入れば良い物か……」
うんうん唸りながら校門の前をウロウロしていると、ふと誰かの視線を感じた。
「ん?」
見れば、そこには真っ赤な髪の少女が立ち尽くしている。
どれだけ背が伸びようともその顔を忘れるわけがない。
ラッカは笑顔で手を上げる。
どんな再会であろうとも最初は笑顔だと決めていたからだ。
「やっほ、ミズヒ」
「???????」
ラッカを見て呆然としたような彼女は、今自分が見ているものが現実か確かめるように、たった今自身の頬を殴ったところだった。
「えっ、ちょっと何してんの!? 」
「っ、いたい」
ミズヒは頬を押さえながらその痛みを感慨深そうに味わう。
そして、ラッカへと駆けだした。
「先生っ!」
「わっ……っと、ははっ、背が大きくなっても甘えん坊さんな所は変わらないね」
勢いのままにミズヒは思い切りラッカを抱きしめる。
身長は既にミズヒの方が高いが、それでも胸に顔をうずめて頭を撫でられている姿は小さな子供のようだった。
「生きていたんだ……! やっぱり、先生が死ぬはずない……!」
「あー、ごめんね。私の行動はあまり知られたくなかったからさ、理事長に嘘ついてもらってたんだ」
「……皆、心配したんだぞ」
「うん」
「トアなんて、三日も食事をしなかったんだ。ミロクも笑わなくなった」
「……うん、ごめんね」
「でも、私はずっと戦ったんだ。絶対に戻ってきてくれると思ったから」
その姿を普段のミズヒを知る者が見れば驚いただろう。
震える声で言葉を紡ぎながら、二度と失わないようにと強く抱きしめる。
それでも彼女はすぐに顔を上げ、ラッカの目を見つめた。
目は潤んで充血しているが、決して涙を流すことはない。
それはミズヒの矜持であり、自身の成長をラッカに示す行為でもあった。
「先生、これだけ頑張ったのだから私が最初に言ってもばちは当たらないだろう」
心が折れそうなとき、現実を直視しそうになったときにいつも見ていた、都合の良いもしもの未来はここに実現したのだ。
そんな万感の想いと共に、ミズヒはこう告げる。
「おかえり、先生!」
「……うん、ただいま」
フェクトム総合学園元生徒会長兼校長代理兼特別講師兼番外Sランク桜庭ラッカ。
彼女は今ここに、長く複雑な旅を経て帰ってきた。
だが、それはハッピーエンドの末の結末ではない。
世界の命運をかけた戦いは、ここから始まるのだ。
「さて、ミズヒ。皆を集めて」
「ああ、わかった。だが、何を」
「決まってるでしょ」
ラッカはニッと笑って答える。
「世界を救うんだよ。準備は出来てるだろ」
頭をわしゃわしゃと撫でて、ラッカは学園の中へと足を進める。
その背中を見て、ミズヒは得意げに声を掛けた。
「先生、歩く必要はない。皆は生徒会室に集まっているから、すぐに移動しよう」
ぱちんと指が鳴らされ、ミズヒとラッカは焔の中に消える。
そして次の瞬間には彼女達は生徒会室の中にいた。
「到着だ」
「便利だねそれ」
瞬間移動を体験してラッカは満足そうだ。
普段であればその場に現れた二人にすぐに視線が向くところなのだが、全員の視線は別の場所に向いているようだった。
「うぅっ、そる、そるしえらぁ! わだじが、よわいがらぁ!」
「よしよし……大丈夫、大丈夫ですから」
黒い外套を涙と鼻水でぐしゃぐしゃに濡らし、情けなくミロクに泣きつく少女。
「あ、トア……じゃなかった、ネームレスも帰ってきてたんだ」
転移を使い、ネームレスは直接の帰還を果たしていた。
こうしてフェクトム総合学園のメンバーは一人を除いて勢揃いしたわけである。
■
すすり泣くネームレスを中心に、フェクトム総合学園では緊急会議が開かれていた。
その議題は当然、天上の意思に対抗する方法そして――。
「ケイちゃんをどうやって救うか、ですね」
「……ごめんね、ミロク。私がもっと強かったらよかったんだけどさ」
「先生は凄く頑張ってくれました。これ以上を望むのは間違いですよ。ここからは、皆で頑張らないと」
ミロクの言葉に目を丸くしたラッカは、彼女の元まで向かうと頭を無造作に撫でる。
皆に見られていることに少し恥ずかしそうにしながらもミロクはそれを受け入れた。
「成長したなぁ。私、感慨深いよ!」
「これでも現生徒会長ですから」
「おぉ……」
ラッカはパチパチと拍手をする。
が、次の瞬間には真面目で鋭い目つきになりこう告げた。
「でもソルシエラは諦めな。あれはもう無理だ」
それはラッカなりの優しさであった。
必要以上に希望を持つ事は自殺行為に等しい。
だからこそ、最年長者として彼女は現実を突きつける。
しかし、そんなものは今のフェクトムからしてみればなんてことの無い壁だった。
「嫌です。必ず助けますよ」
ミロクがはっきりとそう告げる。
それに同調するように手を上げたのは、ミユメであった。
「はい! じゃあ私からいいっすか?」
「おや、新入生?」
「私は空無ミユメっす!」
「空無……ああ、博士のとこの妹さんか」
「もしかしてお姉ちゃんを知っているっすか? ……って、今はそうじゃないっすね! ラッカさん、貴女はソルシエラを助けることはできないと言っていたっすけど、私は違うと思うっす」
「へぇ」
ラッカは期待するような笑みを浮かべ、言葉の続きを促す。
「まずは、トリムちゃんが保存していた映像を見て欲しいっす」
そう言ってミユメはプロジェクターにある映像を流す。
それはソルシエラが天上の意思と共に銀の光に包まれる瞬間だった。
「ここ」
映像を停止して、ミユメはソルシエラがいる箇所を指さす。
「ここで僅かっすが、エネルギーが不自然に分散しているっす」
ミユメははっきりとそう宣言する。
その目は、青く淡い光を放っていた。
「天上の意思を拘束するバリアを作る為じゃないの?」
「それにしては無駄が多いっすよ。あのソルシエラがここまで杜撰な魔力操作をするはずがない。それに、ソルシエラ自身も戻る手立てがあるかのような言葉……私にはどうにもそれが疑問だったっす」
ソルシエラは聡明な少女である。
まるで未来を見通しているかのように行動をするときがある彼女の言動は、一つ一つが考察に値する。
そして今、その行動の意味を拾い上げることが出来る天才がここにいた。
「この分散したエネルギーは、私の眼なら数値化出来るっす。そして、この時の辺りの魔力を数値で表したものがこちらっす」
瞬間、彼女の手の中に小さめのボードが生成されそこには見やすく数値がまとめられていた。
「こっちが天上の意思を抑え込むために使用した魔力で、こっちがその時同時にバリアを形成するために使用した魔力の総量で――」
淡々と説明を続けるミユメを信じられないものでも見るかのように眺めながら、隣にいたミロクに向けてラッカは問いかける。
「どこでこんな有望すぎる人材を?」
「ダンジョンで拾いました」
「嘘つくなって。銀の黄昏時代なら即スカウトからの銘刻印レベルだよこれ」
ラッカからしてもミユメという奇跡の集大成は異常値であった。
そんな彼女だからこそ、一つの正解にたどり着いたのだろう。
「――つまり、これらの数値から推測できる通り、ソルシエラの魔力は位相世界……まあつまりは鏡界に行った可能性が高いっす」
「全然わからなかったぞ」
「私もわかりませんでした! クラムはどうですか?」
「見るな見るな、わかる訳ないでしょ」
説明を聞いていた全員が首を傾げる。
それを見て、ミユメは表情一つ変えずに再び口を開いた。
「こっちが天上の意思を抑え込むために使用した魔力で、こっちがその時同時にバリアを形成するために使用した魔力の総量で――」
「ごめんミユメストップストップ」
まったく同じ説明を始めようとした彼女をクラムが制止する。
そして、真剣な顔で言った。
「ミズヒでもわかるように簡潔に」
「ん? なんで私なんだ?」
「あー……はい!」
頭の中で言葉を分解し、より分かりやすく再構築したミユメはカッと目を見開く。
「ソルシエラは肉体を捨て、魂を魔力で保護し鏡界に避難。そして私達が気が付いてくれることに賭けている可能性が高いっす!」
「……え、じゃ、じゃあソルシエラって生きてるの?」
ネームレスが顔を上げて恐る恐る問いかける。
本来は断言するべきではないのだろうが、ミユメはサムズアップと共に頷いた。
「はいっす! といっても、おそらく彼女からアクションを起こすことはこれ以上は無理だと思うっすけどね!」
「……! そうか、銘の修復システムを応用したのか!」
ラッカは納得して一人頷く。
「銘を修復する機能が存在していると聞いたことがあるよ。鏡界で起動して位相世界を漂流するシステムだって……!」
「であれば、それを使った可能性が高いっすね。恐らくソルシエラの意識は銘に格納される形で鏡界を漂流しているものだと思われるっす」
「! 今すぐ鏡界に行ってくるよ!」
「ネームレス、止まるっすよ。鏡界は広いなんて言葉が通用しない程に無限に広がっているっす。やみくもに探しても意味はないっす」
「で、でもどうするの!?」
ミユメは自信満々の笑みと共に胸を張った。
その姿を知るフェクトムの面々は、不思議と安堵し同時に自身の思考から悲観を排除する。
そして覚悟を決めて言葉を待った。
「効率的なやり方があるっす。ソルシエラを助けるついでに世界も救うっすよ」
天才にとって、世界など友を救うついでで良かった。
そしてそんな光景を生徒会室にいつの間にか置かれていたカメのぬいぐるみが見つめていた。
『あれぇ!? 全然、曇ってないじゃん!? おかしいなぁ……もっと臓腑とかぶちまけた方が良かったかなぁ』
『君、フェクトムを曇らせ過ぎたんだよ。たぶん、目の前で首を切り落とすぐらいしないともう動じないぞ彼女達。見なよあの目、大事な人が爆発した後に出来る目じゃないだろう。どう見ても、今から囚われの姫を救う者達の眼だ』
『おぉ……トリムは幼き命なのにきちんと映像を保存していて偉いな……! 後でカメさんシールをプレゼントしよう……!』
『私のシステム使ったことになっているの不服なんですけど。この人、そういうの無しで気合とその場のノリで行ったんですけど!』
『手柄として素直に受け入れた方が気が楽じゃぞ。……我、こういう時話題に上がらないからちょっと羨ましいのじゃ……』
『赫夜牟君……! 未来で、いっぱいソウゴ君達とコンテンツを作ろうね……!』
『わかったのじゃ……!』
『それでいいんですか貴女は』