【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
現地は観客たちの激しい熱気と興奮の渦に包まれております!
その時をまだかまだかと待ち望むサポーターの皆様の姿が見えますでしょうか!
ここは鏡界の端っこのどこか、今まさに天上の意思のエネルギージュルジュルがキックオフされようとしています!
「めっちゃ天使来てます! これ私が倒すんですか!?」
「ふふっ、そんなに恐れる事かしら。有象無象がどれだけ集まっても星に届くことはない。そうでしょう?」
「ああっ、こっちのモードだとまともに会話が出来ない!」
『何も真正面からぶつかり合わなくても良くないですか!?』
しかしそうは言ってもねぇ、ソルシエラが敵前逃亡はねぇ……。
これでも実は誉れ高い那滝家の出身だし。
『何が誉れ高いですか! 散々記憶をいじった癖に!』
脳内でキャンキャンと喚きながらも、テム子は信愛のソルシエラとして花束を杖の様に構えて空を睨んだ。
ちっちゃいのに頑張ってて、えらい。
『テム子、これはエネルギーをジュルジュルする耐久戦だ。疲れたら迷わず赫夜牟と入れ替わると良い。相棒の中は美少女エネルギーで満たされているから、すぐに魔力も回復できるだろう』
『どういう原理なんですかそれ』
『おぉ、無茶だけはするなよ幼き命達よ。エネルギージュルジュルは確かに果たすべき義務だが、それで犠牲になるのだけは許されないぞ』
『エネルギージュルジュルって言い方やめてください!』
まあまあ、そんなこと言わずにジュルってこうぜ。
そして疲れたら俺の中にお入り^^
『今、えっちなお誘いした?^^』
してないよ。
『流石は天上の意思のエネルギーだねぇ。こちらも、干渉を始めた瞬間に姿を現し始めたよ』
『おぉ、私の所もだ……といっても、格下の天使だが』
二人の言葉を裏付けるように、視界には白い津波のようなものが見える。
それはまさに俺達を打倒せんとする天使の群れであった。
その中には鹿やサソリなど見覚えのある姿もある。熾天使級もいるのかぁ。
テム子と赫夜牟君で行けるかなぁ。
『えっ、今更不安なんですか!? ちょっと、勘弁してくださいよ! だったら私、ガーデナーも引っ張ってきてましたって!』
それは駄目だよ。
俺の姿を今観測されるわけにはいかない。
フェクトムでの会話を聞いただろう?
俺は、銘の修復システムを臨機応変に使用して精神のみで鏡界を漂っているんだ。
それなのにここでソルシエラがしっかり受肉していたら矛盾だろう?
俺は皆の活躍であっちで復活するの!
そして美少女の未来に向かって羽ばたくんだよ!
『くっ……何を言っても意味の分からない論破をされる……!』
『それは論破とは呼ばないのじゃ』
さて、という訳でエネルギージュルジュルをした結果生み出されるアレも用意しないとねぇ。
『……あれだね^^』
『おぉ』
『我は出しすぎじゃと思うぞ。何度も出してしまっては有難みが薄れる』
『赫夜牟先輩、どうしてすんなり会議に参加できているんですか? そしてなんの会議をしているんですか?』
テム子はまだわからないのかい?
天上の意思との最終決戦、奇跡と軌跡により蘇るソルシエラ、そうくれば必要だろうが……! 最強を超えた最終形態が……!
『うわぁ(ドン引き)』
安心すると良いよテム子、デザインはもう決まっている。
いや、もう既にあると言った方が良いだろうね。
『ドン引いているだけです』
『それも生意気だねぇ』
ではコンテンツ衣装の老舗に発注だ!
コンセプトは原点回帰。今回ばかりは派手な変化はいらないよ。
細かな変化でアピールして欲しい!
『見た目は任せたまえ。それよりも時間がかかりそうなのは、天上の意思のエネルギーを全て効率よく使う魔法式の生成だねぇ。カメ、これはお前も得意分野だろう。分担で行くぞ』
『おぉ、任せるのだ星詠みの杖よ。愛娘の晴れ舞台。決して恥をかかせるわけにはいかないからな』
『流石は先生たちなのじゃ……!』
『何を聞かされているんですか?』
テム子、感じるかい?
種族を越え、思想を越え、今美少女コンテンツの為に皆が一つになろうとしている。
俺はこれを愛と呼びたいんだよ。
『……おぉ、ちなみに幼き命化の魔法式に8割のエネルギーを割いて良いか?』
『良いわけねえだろぶっ潰すぞてめえ^^』
『思想バチバチじゃないですか』
迫る天使の軍勢を前に俺は大鎌を構える。
「……皆」
『実体がない設定なら、ここでの演技は無駄なのでは?』
『ああ、これは俺の自給自足のコンテンツ賄いみたいなもんだから気にしないで』
『えぇ……』
『呆けるでないテム子! 油断は大敵じゃぞ!』
『……注意されるのすっごい不服なんですが!』
くっ、俺じゃあ鏡界からは抜け出せそうにない!
頼んだぞ皆……!
■
妙な静けさは滅びを前に世界が息をひそめているかのようだった。
御景学園の屋上から見下ろす一帯には既に生徒の姿は無く、広い校舎はがらんとして随分と寂しいものである。
「ケイ君、僕は……」
フェンス越しに見た景色に、トウラクは息を吐く。
託された守るべき世界は十分に脳裏に焼き付けた。
そして、守るべき人も。
「トウラク」
一人と一機だった屋上に新たに何者かが足を踏み入れる。
声を聞いたトウラクはここで初めて表情を崩した。
この状況で彼を安心させることが出来るものなどそうはいない。
いや、一人しかいない。
「ミハヤ、まだ残っていたんだね」
「明星計画の為に四大校のダンジョン空間を全て融合させる――だったかしら。まったく、大胆でふざけた計画よね」
「そうだね。でも全てが終われば元に戻せるとも言っていたし大丈夫だよ」
「……」
ミハヤは何も答えない。
勝気な返事が来ると思っていたトウラクはその事に困惑してミハヤの表情を窺いながらその名を呼ぼうとした。
「ミハ――」
パン、と乾いた音が響く。
次の瞬間にトウラクは白い刀を振りぬき、その傍には二つに割れた弾丸が転がっていた。
「うん、身体の方は大丈夫ね。これで直撃するようだったら私が代わりに出て行くところだったわ」
「……ミハヤ」
水色のツインテールを揺らして駆けだしたミハヤを見て、トウラクは腕を広げる。
そして、今や小さくなったような気がする自身の婚約者を抱きしめた。
「こういう場所でハグするの、ミハヤは恥ずかしがると思ってたんだけどな」
「誰も見ていないんだから、いいでしょ」
『私は見てる』
「あんたは良いわよ別に」
ミハヤはそう言ってトウラクの首に手を回す。
そして彼の瞳を見つめた。
不安を押し殺し、いつものように勝気で強い意志が宿っている。トウラクの好きな瞳だ。
「私は話を聞いただけだから、実際に天上の意思がどれだけ恐ろしいかも、ケイを失った時の感情もわからない。……でもね、これだけはわかってるつもりよ」
不意に、温かく柔らかい感触がトウラクの唇を覆った。
彼は目を閉じ、それを受け入れるようにミハヤを抱きしめ返す。
それからどれだけそうしていただろうか。
一瞬だったようにも、たっぷりと時間を使ったようにも感じる。
らしくない行動をしたと思ったのか、ミハヤは顔を朱に染めながら目を潤ませていた。
が、伝えるべきことがあるとトウラクを見つめることは止めない。
「トウラク、あんたが一番強くて最高の剣士だって! それだけは、わかってるから!」
「……ああ」
「教授にも勝ったし、今までだって勝ってきた! 今じゃ御景学園であんたに勝てる人はいない! とっても強い無敵の剣士!」
心の奥に生まれてしまったその感情を押しつぶすように、ミハヤは言葉を並べる。
常に前を向く彼女は決して弱音を口にしない。
だからこそ、この言葉こそが唯一にして精一杯の弱音だった。
「だから……だから、絶対に生きて帰ってきてね。お願いだから……」
「当然だよ、ミハヤ」
トウラクはそれを迷う事なく受け入れる。
そして肺いっぱいに空気を詰め込んで叫んだ。
「牙塔家現当主! 牙塔トウラクがここに約束する! 僕は必ず愛する者の元に生きて帰ってくるだろう!」
学校中に響き渡る程の声でトウラクははっきりと宣言した。
そのらしくない行動に目を丸くしたミハヤは、思わず吹き出す。
「……ふふっ、その肩書を恥ずかしがっていたのはあんた自身じゃない」
「ミハヤだって恥ずかしくても僕の事を元気づけようとしてくれたんでしょ? だから、これが僕の返事だよ」
そう言ってトウラクはミハヤと再び唇を重ねる。
今度は一瞬だった。
「なっ……!?」
「じゃ、行こうかルトラ」
『見せつけられる私の身にもなって欲しい』
「ははは、後で食べ放題に連れて行ってあげるよ」
『もっと見せつけて良い。私は寛大』
軽口を言い合うトウラクの横顔にはもう悩みはなかった。
残された者として彼は自身が果たすべき事柄しかもう見ていない。
「まっ、待ちなさいよ!」
「それは難しいな。これ以上、あそこで待たせるわけにはいかないからね」
「え?」
トウラクの指さす方向、屋上の扉の前では仏頂面のリンカが棒立ちしていた。
それは今来たようには見えない。
つまりそれは――。
「……なっ、ななな」
「リンカ、ごめん。待たせたね」
「マッテナイデスヨ」
淡々と告げるリンカに駆け寄ったミハヤは、色々と弁明しようとしたがすぐに気が付いた。
「あれ……あんた、大丈夫なの?」
ソルシエラの死は、既に伝えられている。
聞いた途端にその場に崩れ落ちた彼女の姿を、ミハヤはこの目で見たのだ。
しかし今は違和感がある程にいつも通りである。
「ああ、その事なら私の懇意にしているドスケ――じゃなくて、天才メカニックから情報を提供されてね」
リンカは屋上の扉に体を預けて空を仰いだ。
「ソルシエラが生きている可能性が高いらしいんだ」
「っ!? それは本当!?」
「どうやってあの状況から――」
「まあまあご両人、落ち着いて。かく言う私も感情のブレを防ぐために、今自分に蓋をしている所なんだ。マジでちょっとでも油断したら情緒がやばい」
平然と、そして涼しい顔でリンカはこう言葉を続けた。
「という訳で世界とソルシエラを救おう。そのためにもう始めるらしいよ――明星計画」
「っ……ああ、わかってる」
「そう。なら行って来いよ、トウラク。Sランクとデモンズギア使いは全員招集だってさ」
トウラクの後ろに回り込んだリンカは彼の背中を叩く。
そして彼を押し出して、ニッと笑った。
「無力な私の代わりに頼んだ!」
「……ああ! 行ってくるよ。ルトラ」
『わかった』
次の瞬間、彼の姿は切断音と共に消えていた。
残された者達は、顔を見合わせそれから互いを安心させるようにいつも通りの笑みを浮かべる。
それから、空を見上げた。
暗雲と共に、夜が訪れようとしている。