【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
それはクローマ音楽院史に残る事態であった。
「っす……えっと……」
現生徒会長であるリュウコは、自身がこの地の長であることを示すが如き豪華絢爛な椅子に腰かけている。
が、その顔には水をぶちまけられたかのような汗が流れ続けていた。
それもその筈。
今、このクローマの会議室には学園都市の最強が集結しているのだから。
ソルシエラを除くすべてのSランクとデモンズギア使い。
その気になれば世界を思うがままに手中に収められる探索者の頂点たちが、一堂に会しているのである。
長い大理石のテーブルを挟み、彼らが揃う姿は壮観という他なかった。
リュウコはそれの長であること示すように一人だけ上座に腰を下ろしている。
今、自分の足が震えているのが恐怖なのかストレスからの貧乏揺すりなのかは定かではない。
「あの、理事長……ここは私じゃなくて理事長が座った方が……」
「その席はこの学園の長である君にこそふさわしいよ」
「本心だとしても建前だとしてもすっごく嫌です!」
リュウコは思わず声を荒げる。
すると、それまで好き勝手に話をしていた全員の視線が一気にリュウコに向かった。
「あ、あぅ」
リュウコはにへらと情けない笑みを浮かべることしか出来なかった。
「はいはい質問でーす! リュウコ、どうして私たちを呼んだの?」
「いや、私が呼んだわけじゃないからね」
キリカの質問をリュウコはきっぱり否定する。
が、それは彼女達を黙らせることはできなかったようで、むしろリュウコへと質問するきっかけを与えてしまった。
「おい、なんでもいいからさっさと始めろ。ワタシ様を呼んでおいていつまで勿体ぶる気だ?」
机に脚を乗せて不遜な態度で腕を組んでいるレイは、退屈であるという意思を隠そうとはしなかった。
むしろそれを周囲に知らせるように見せつけている。
「え、だからそれは私じゃ……」
「違うのか? じゃあ集まらなくても良いのか? なら、天上の意思はワタシ様が倒して見せよう! 今すぐ乗り込むぞ!」
「はしゃぐな馬鹿がァ……騎双学園の質の低さが露呈するだろォ」
「リーダーの言う通りですぅ!」
「なんだと貴様ら! よしいいだろう。ここはワタシ様が上だという事をわからせてやる!」
椅子から立ち上がり今まさに氷を放とうとしたその時、その腕に突如として草木が巻き付き、掌に生み出された氷が焔に燃やされる。
そしてトドメと言わんばかりにその額に光の矢が刺さった。
「なんだか……ワタシ様のテンションが下がって来たぞ……」
その瞬間、先ほどまであった勢いがレイの中から消え失せ、椅子に崩れ落ちる。
矢の飛んできた隣の席には先ほどまでは六波羅がいた筈なのだが、似た髪色の華奢な少女が座っていた。
彼女は弓を傍らに立てかけながら、頬杖をついて周囲を睨みつける。
「今の俺に質問した奴は殺す」
事情を知らない数人はその姿を見て目を丸くして、六波羅から感じる威圧と懇願に何かを察して質問をやめた。
そして質問をやめたとなれば当然、その視線は皆リュウコへと向く。
「あっ、また私だ……」
「ははは、君は皆に愛されているねリュウコ君」
「何を笑ってんだ」
リュウコに睨まれた理事長は肩をすくめる。
そして手を一度鳴らした。
「じゃあ、説明を始めようか。明星計画について」
その言葉で全員の気が引き締まる。
真面目な視線に満足そうに頷いた理事長は、テーブルの上を指さした。
「そこに映っているのは天上の意思とそれを覆う障壁だ。辺りの地形も完全に再現してある。ジルニアス学術院の計算によると、あと1時間ほどであの障壁は破られるだろう。しかし」
ホログラム上で、地形が変化する。
天上の意思とその障壁の周囲の世界が、更に球体により覆われた。
「それだけあれば十分すぎる。私達がやるべきことは大きく分けて二つ。一つは、この世界から隔離した戦える場所を作り出す事。そしてもう一つは、我々の手で最強の天使を作り出す事」
「……天使」
それは誰の言葉だっただろうか。
予想外の答えに誰もが疑問を浮かべているようだ。
「この世界で初めて生まれる第一の天使。神に抗うその名は、やはり明けの明星が相応しいだろう。そしてその天使こそ、天上の意思との直接戦闘を想定されたデモンズギアであるルトラ君とその使い手であるトウラク君だ」
「……っ!?」
「天使になるなんて初めて」
「想定外の強化をされているがむしろ好都合だ。ああ、無理なら先に言ってくれ。サブプランとして教授を天使にするから」
「……いえ、僕がやります」
「だろうね、良い返事だ」
わかり切っていた答えに理事長は頷く。
「人類全員で戦場に立ち戦う事は出来ない。しかし、それは彼を一人で戦わせることと同義ではない。全員の力で、彼を天上の意思と同じ格まで押し上げるんだ」
「んな事、可能なのかァ? あれだけの化け物みてえな力をよォ」
「勿論。そのためにはまず……」
理事長はリュウコの肩に手を置く。
そして、穏やかな笑顔で告げた。
「彼女に学園都市の新たな理事長兼、全学園の生徒会長になって貰おう」
「……ワァ」
渡雷リュウコ17歳。
この日、彼女は学園都市ヒノツチの最高統括者になった。
■
アリアンロッド周辺は、人でごった返していた。
四大校から避難をしてきた生徒たちは、それぞれが待機場所を求めて移動中である。
そんな彼女達の頭上、今まで避難勧告をしていた街頭モニターが突然ノイズと共に切り替わった。
そこにいたのは、青い顔で笑っているリュウコの姿。
「え、生徒会長?」
「あ、リュウコだ」
「回線間違えてないかあいつ」
その姿を見てもただのミスだと思った生徒達はすぐに動き出そうとする。
が、彼らの足は再び止まる事となった。
『えー、全学園の皆さんにお知らせがあります』
カメラの向こうに在るであろう何かをチラチラと見ながら、リュウコはゆっくりとわかりやすくこう言った。
『い、今から学園都市は全てがクローマ音楽院になります。よって、全ての学園の生徒会長は私です……ああっ、言っちゃった……』
両手で顔を覆った彼女は、すぐに俯く。
が、仕事を果たすために彼女は震える声でこういった。
『聖域解放』
瞬間、学園都市全土に特殊な魔法陣が展開され一斉に輝き始める。
それは土地だけにとどまらない。
その上にいる全ての生徒達が輝きを放ち始め、妙な全能感をその身に宿し始めていた。
「な、なんだこれ!?」
「あいつ気でも狂ったのか!」
「でもなんだか心地いいかも」
反応はそれぞれだが、殆どパニックであることに間違いはない。
故に誰もがリュウコの次の言葉を待つ。
彼女は少しの間、躊躇っていたが顔を上げ学園都市全土へ向けてこう言った。
『一度でいいから、力を借してください! というか、事後承諾でごめんだけどもう借りるから!』
疑問は赤い魔法陣と共に吹きとばされた。
地面に広がるそれを生徒達で知らない者はいない。
Sランク執行官にしてデモンズギア使いである六波羅が、エイナにより感情の吸収を始める合図だった。
それを目にした生徒達は逃げようとするがもう遅い。
魔法陣の効果範囲に入った瞬間、彼らはそれぞれが少しずつパニックの元になる感情を吸収されていた。
『魔力は暫く貰うけど、感情吸うやつは10分くらいで終わるから! 後で学園も返すから! ほんっとうにごめんなさい!』
学園都市を実質支配したとは思えない程に情けなく両手を合わせ頭を下げるリュウコの映像を最後に街頭モニターは先ほどまでの映像に戻った。
「な、なんだったんだ……」
まるで夢のように脈絡が無くあっという間の出来事に、生徒たちは夢なのではないかと考える。
が、足元で光り輝く黄金の魔法陣と赤黒い魔法陣が現実であると示していた。
こうして、明星計画は始まりを迎えたのである。
『ん? 美少女の輝きが並列接続された?』
『何を意味わからない事を言ってるんですか! あーもう、敵が多い!』
『のじゃ! 殺し放題じゃぁ!』