【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第477話 美少女とは大規模作戦の別称なので使用には注意が必要

 世界を救う為の準備は滞りなく進んでいた。

 それもその筈。

 この世界において唯一の障害と言うべき銀の黄昏が味方に付いたのだから。

 今や、敵は天上の意思ただ一人である。

 

「いやぁ、悪いね博士。手伝って貰って」

 

 クローマ音楽院の会議室には大量の機材が持ち込まれ、テーブルの上には所狭しとモニターが並んでいた。

 手持ち無沙汰にそのモニターを眺める理事長とは真逆に、博士はせわしなく仮想コンソールを操作し続けている。

 いや、正確には博士達だろうか。

 

「02から33まで、近くにいる博士は総動員した。これだけサポートしてやるんだから、明星計画はきちんと成功させるんだぞ。教授の顔に泥を塗ったら許さないからな」

「当然だとも」

 

 理事長はインカムに指先を添え、僅かな緊張感を孕んだ声色で問いかける。

 

「……という訳で、そろそろ皆は準備が出来ただろうか。リュウコ君と六波羅君の方で、既にエネルギーの確保ルートは生成してある。問題が無ければ、さっさと始めて世界を救ってしまおう」

『A班、いつでもいけるぜェ』

『B班も問題ない』

『C班、お腹空いてきましたー。それ以外は問題ないですー』

 

 六波羅、ミズヒ、タタリがそれぞれ返事をする。

 そして最後、理事長は念を押すように彼の名を呼ぶ。

 

「トウラク君」

『……いけます』

「うん、そうか。では――」

 

 理事長は博士に目くばせをして頷いた。

 

「明星計画を始めようか。皆、無理はしないようにね」

「世界を救うのに随分と甘い事だ」

 

 理事長の言葉を鼻で笑いながら博士は仮想コンソールを操作し、最後に全てのプログラムを起動させる。

 その瞬間、クローマ音楽院の窓の外の景色が変化を始めた。

 まるで水面に油を垂らしたように、世界が歪み始める。

 

「学園コアの融合初期段階。ゾーン0を覆う障壁への変化を開始。こっちも障壁を張って観測を続けるぞ」

「そこまでやって貰って悪いね」

「お前達側の人類が扱う技術が信用できないだけだ」

 

 クローマ音楽院の本校舎のみが大量の蝶に包まれ、世界の融合から弾かれる。

 これにより理事長たちは変わらず観測が可能な訳だが、それはこの計画には含まれていない副産物である。

 

 計画の本当の始まりは、地を裂くように駆け一点へと収束する赤と黄金のエネルギーにあった。

 

 アリアンロッドや他学園にまで伸びた聖域がもたらしたのは、渡雷リュウコというSランクの中でもイレギュラーに属する伝承使いとの同調。

 それは疑似的な共鳴現象を引き起こし、新星爆発すらも凌駕する膨大な魔力を生み出していた。

 同時に強化された生徒達から抽出された感情のエネルギーもまた、それに比肩するものである。

 

 それらは全て、捨てられた区画にある半壊したビルの屋上に集っていった。

 

『うおおおお! リーダー! これはいけますよぉ! 今なら私達でも天上の意思を倒せるんじゃないですかぁ!?』

「はしゃぐな馬鹿」

 

 少女態となった六波羅は、足元から流れ込んでくるエネルギーをその体にため込みながら、その時を静かに待つ。

 彼女の隣には、そばの瓦礫に体を預けたユキヒラの姿があった。

 

「無敵なら体の事を気にせず際限なくエネルギーを貯められる、か。いいな、僕もデモンズギア使いになろうかな」

「はっ、てめえみてえな偏屈糸目を好きになるデモンズギアがいればいいなァ?」

「おや、これでも僕は意外にモテるんだよ? まあ、君には敵わないけどね、執行官様。去年のバレンタインはそれはそれは凄かったようで」

「……チッ」

『リーダー! 今度は私にチョコをくださぃ! リーダーは女の子なんだから私にあげるべきですぅ!』

「てめえは食いてえだけだろ馬鹿。……ったく。おいキリカ、そっちはどうだァ」

 

 数メートル離れた場所で同じように黄金の魔力を吸収しながら、キリカは六波羅にピースサインを作った。

 

「いい感じ! それにしても、魔力で満たされる感覚なんて初めてだよ。私って、特異体質? ってやつだって聞いたのに」

「学園都市の全生徒で共鳴現象引き起こした魔力でようやく満たされる時点で化け物だよ」

「は? 今、姉さんの事を化け物呼ばわりして「褒め言葉だァ……」なら良いです」

 

 化け物という言葉に反応したサヤカが六波羅をキッと睨む。

 が、化け物と言われたキリカ本人は嬉しそうに大剣を担ぎ直していた。

 

「よーし、化け物らしく頑張っちゃうぞ! サヤカ、座標は任せるよ」

「はい、姉さん」

「姉妹仲が良くて羨ましいなァ。こっちもしっかりサポート頼むぜ?」

「当然。Sランクの名に恥じないようにするさ」

 

 笑みを浮かべながら答えるユキヒラの姿は余裕そうに見える。

 が、最高効率で魔力と感情エネルギーの吸収が行われているのは、彼がその異能で常に最優の未来を選択し続けているからに他ならない。

 

「エネルギーは本来は波のように荒いものだ。けれど、僕の前では都合よく凪ぐんだよ」

 

 彼の言葉を証明するように、唐突に風が止んだ。

 

「準備を」

 

 ユキヒラは短くそう告げる。

 瞬間、二人はそれぞれ得物を構えた。

 

「エイナ、これが終わったらハネムーンと洒落込もうぜェ」

『!?!?!?!? よっしゃああああああ!』

 

 駄目押しとばかりにエネルギーを増幅させ、六波羅は赤い弓を構える。

 足元のガラスは膨大なエネルギーにより赤熱しており、辺りの空気は熱で歪み始めていた。

 

「サヤカ、ハネムーンって何?」

「楽しい旅行です。姉さんが望むなら行きましょうか?」

「うん、じゃあ皆も誘おう!」

「……そうですね」

「よーし、頑張るぞー!」

 

 キリカは大剣の切っ先を前方へと向ける。

 瞬間、その刀身が割れて中から巨大な砲が姿を現した。

 いたるところから蒸気が噴き出し、砲身下部のパーツが魔力の吸収と共に回転を始める。

 

「姉さん、三度、上に修正。右に4度」

「はいはーい」

 

 細かく座標を合わせたキリカとは違い、ユキヒラの方は単純な指示だった。

 

「こっちで未来を選ぶから、方向は大体合っていれば良いよ」

「そォか、わかりやすくて助かる」

『えへへ……リーダーと初夜……えへへ』

「そこまでやるとは言ってねえぞ馬鹿。気張れ」

 

 赤い光が収束を始め、六波羅は矢をつがえるような動作と共に弦を引き絞る。

 

 それから数秒後、彼らの視線の向こう。

 青空に突然亀裂が入り、歪んだ空間が生み出された。

 

「今」

 

 ユキヒラがそう告げると同時に、二人は最大出力の一撃を放つ。

 その威力たるや、後方のビルを数個消し炭に、なおも余りある威力が風圧で辺りのアスファルトをめくりあげるほどだ。

 

 赤と黄金の光の洪水と表現するべきそれは、神々しいというには暴力的な輝きを放って歪みへとまっすぐに寸分の狂いすらなく突き進む。

 そして歪みの中へと全てが飲み込まれるように消えて行った。

 

「からっぽー」

「こっちは撃ち込んだ。後は頼んだぜ」

『はーい♥』

 

 聞こえてきた声に、六波羅の手の中で赤い弓が震えた。

 

 

 

 

 

 

 四つのコアの融合により生み出された障壁が、ゾーン0と銘打たれた決戦の場を包み込み始めている。

 

 天上の意思が閉じ込められた銀の障壁を前に、トウラクは精神を統一するように目を閉じていた。

 彼は既に星斬り神羅へと変化しており、ただ目を瞑って立ち尽くしているというのに威圧感が肌を突き刺すようである。

 

 しかし、この場にいる彼女達はそんな威圧感を物ともしない強者達であった。

 

「そろそろこちらも始めようか」

 

 ミズヒはそう呟き、銃弾を空へと放つ。

 瞬間、辺りに激しい雨が降り始めた。

 異能の反転による魔力の精密な操作が、水という結果で現れたのである。

 

 数秒降り注いだ雨は、しかしやがてぴたりと停止し、その場に大量の雨粒が浮かぶ幻想的な光景が展開される。

 そんな雨粒の歪んだ世界の向こう側で、確かに閃光が迸った。

 

『あ、エネルギーが来ましたね♥』

 

 歪んだ空の向こうから現れた赤と黄金の光を見て、シヤクは杖へと変化する。

 アイはそれを手に、自身の役割を果たすためにトウラクの背後に立った。

 

「……私の妹を救ってくれると聞きました」

 

 トウラクは答えない。

 彼は静かに言葉に耳を傾けていた。

 

「どうか、お願いします。あの子の最後はもっと幸福であるべきですから」

 

 トウラクはすぐには答えず、鞘へと触れる。

 そして光が彼を飲み込もうとしたその瞬間、彼は確かに頷いた。

 

「任せてください。僕のかけがえのない友人なんです」

「ええ、任せましたとも!」

『では生命増強を開始しますね♥ ルトラ、少しだけくすぐったいですけど我慢ですよ? ♥』

『余裕』

 

 瞬間、二つの膨大なエネルギーが彼へと一手に注ぎ込まれる。

 

「『ッ!』」

 

 一人と一機で受け止めるにはあまりにも膨大な二つのエネルギー、

 しかしそれは全て一人の少女により緻密に操作され、トウラクの体へと余すところなく完璧に溶け込み始めていた。

 

「無理に抑え込もうとするな。水の様に流転させ、常に魔力を体内で回し続けるんだ」

「『ッ』」

 

 トウラクの肩に触れ、ミズヒは彼の魔力制御を最大限サポートする。

 同時に彼の足元には根が巻き付き、生命力が尽きないように随時回復と蘇生を行っていた。

 

「お前はソルシエラが見込んだ男だ。だったらこの程度は造作もないだろう」

「『……ッ当然!』」

  

 エネルギーの奔流は、やがて彼一人へと全て飲み込まれ――。

 

 

 

 

 

 

 ゾーン0の外側、その障壁を前に最後の仕上げを行おうとしている者たちがいた。

 タタリ、レイ、ミロクとシエルの三人と一機である。

 

「エネルギーが全て入ったので、それじゃあ始めまーす。あ、ミズヒちゃんが転移できる穴だけは最後まで残しておいてくださいねー」

 

「これで問題ない! やはりワタシ様一人で十分だったな!」

「では、最初は私ですねー」

 

 高笑いを無視して、タタリは地面に触れる。

 その瞬間、巨大な影が広がり空に生まれた歪みへと蛇のように伸びていった。

 日輪すらも飲み込んでしまう影は、歪みの一端へと向けて口を開くと、次の瞬間にはその概念ごと丸呑みにした。

 

 大口を開けて世界全てを飲み込む必要はない。

 その概念に触れてしまえば、それだけで食事の条件は済むのだ。

 

 故に、この瞬間より学園都市からゾーン0は完全に消失した。

 今その場所は彼女の胃袋、あるいはその足元に伸びる影の中にある。

 

「では、影の世界にご案内しますー」

 

 とぷんと、三人は影の中に沈んでいく。

 沈んだ先にあったのは色を失ったモノクロの世界だった。

 現実世界を元に作られた無人の世界の空には、今しがた彼女が飲み込んだ世界が球状に浮かんでいた。

 学園都市を覆える程に巨大な球体を前に、タタリは飴玉を舐めながら告げる。

 

「レイちゃん、お願いしますー」 

「誰に物を言っている? 要するに、最強の氷で全てを覆ってしまえば良いのだろう!? あーはっはっはっはっは!」

 

 レイは高笑いをしながら障壁そのものの表面を凍結の異能により固定していく。

 勢いよく伸びた氷の侵食はゾーン0を覆うように半球状に氷が広がり、あっという間に全てを凍結して見せた。

 

「余裕だな。ワタシ様だけで十分だっただろう!」

「じゃ、最後はミロクちゃんですねー」

「無視? いや、ワタシ様に恐れをなしたか! あーはっはっは!」

 

 笑うレイを無視して、タタリはミロクに頷く。

 

「ナナちゃん」

『はい、ミロク――星蝕み、形態移行完了です故』

 

 世界を覆う強固な障壁の最後の鍵。

 デモンズギア成功体第二号の力が今、解放された。

 

 世界へと放つ銃弾は、一発で良い。

 ミロクはゆっくりと銃を持ち上げ、巨大なそれに向けて狙いを定めた。

 同時に、世界に向けて絶対の規則が付与される。

 

『前提規則』

「蒼星ミロクの許可なくこの世界を出ることは出来ない」

 

 四つの高ランクコアへのデモンズギアによる規則付けは、完全な法則として作用する。

 故に、ここに世界は完成した。

 

「……ふぅ」

『お疲れ様ですミロク。後は座して待つのみです故』

「なんだ、もう終わりか? つまらんな!」

「はいはい、あっちに戻りますよー」

 

 影の主であるタタリにより、二人は影の世界を後にする。

 残されたその世界を、ミロクは最後の瞬間まで見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おぉ、戦場に設置したカメさんミニミニカメラはばっちりだマイロード』

『世界そのものを隔離したのか。考えたねぇ^^』

『よし、これで登場タイミングを計れるね。楽しみだなぁ。主人公様の戦いも見れるし、ここって特等席?』

『こんなに血生臭い特等席がありますか!?』

『最高じゃぁ……我、今、最高に生きておるぞ……!』

『戻ってきてください先輩! 貴女がそうなったら私一人で頭がおかしくなりそうです!』

 

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