【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
ソルシエラが最期の力を振り絞り作り上げた障壁は、干渉の力と大量の魔力により構成されている。
本来であれば中で朽ち果てるしか結末が存在しない程に強固なその壁を前に、天上の意思は戸惑う事はなかった。
「まさか、イレギュラーが修正の必要もなく自害するとは。あの程度の爆発で余が死ぬわけないだろうに」
強力な魔力爆発は間違いなく行われた。
しかしそれだけだった。
天上の意思からすればそれは、生ぬるい風が吹いた程度に過ぎない。
そして、この障壁も同様だった。
「全ての魔力は余を源流とする。吸収できるのが道理だというのに、あのイレギュラーは随分と頭が悪いようだ」
少女が命を賭けた最後のあがきをあざ笑う。
その光景を彼女を知る者が見れば、激昂していただろう。
だからと言って、感情一つで神の座から降ろせるほどに天上の意思は甘くはない。
「始めるか」
下手に破るのではなく、吸収を選択する。
ソルシエラの魔力を吸収することで、天上の意思はより強力な存在に至ろうとしていた。
「……流石に吸収を想定して干渉により妨害をするか。強力な干渉の力だが、むしろ余にして欲しくない事が露呈してしまったな」
魔力の吸収を邪魔するように干渉の力が天上の意思に襲い掛かる。
しかし天上の意思はそれを物ともせず、ソルシエラの魔力を吸収していた。
まるで既に死んでしまった彼女に見せつけるように、余すことなく天上の意思は魔力を吸収していく。
それから数時間、やがて天上の意思は全ての魔力を吸収し終えた。
疑似太陽系をいくつも凝縮した魔力を、天上の意思は干渉の妨害がありながらも全て自らの体に取り込んでしまったのである。
それがどれほどに恐ろしい事であるか、見る者が見ればその時点で敗北を確信してしまうだろう。
「では、修正の続きといこう。その後は……あの剣士に新しい銘を見繕ってやらねばなるまい。あの生き様だと、喪失の銘辺りが相応しいか」
純然たる善意で、まるで子を導くように残酷な贈り物の選定をしながら天上の意思は自身を覆う半球状のそれに向けて横なぎに手を振るった。
すると今まで天上の意思を拘束していた障壁はまるで風に溶けるように消え失せ、視界には見覚えのある更地が広がった。
そしてその中心、天上の意思を見据えるように立つ三人の戦士。
現人類の代表ともいえる彼らは、天上の意思が姿を現した瞬間に各々の力を解放した。
「私達に敗北はあり得ないと信じているよ」
「『S-17521【博愛】の鋳造を開始。鋳造、刻印――完了。神羅、一振り』」
「月詠みはここに覚醒する」
それは、過去、現在、未来の英雄であった。
世界を救い、あるいは救う為に力を集結させた文字通りの最強。
一つ生み出すだけでも幾星霜も時間をかけ、人の意思を積み重ねる必要がある奇跡の代行者は今ここに三人揃っている。
決戦において、これほどに上等な始まりはないだろう。
「お前達三人が、余に抗う者か」
天上の意思は、それぞれを改めて見つめる。
その目には敵意はなく、まるで子供の成長を見るかのようにどこか優しさすら内包していた。
かの者にとってこれは戦いではない。
あくまで修正に過ぎないのだ。
「良い目をしている。数多の困難を乗り越え、離別や喪失を受け入れそれでもなお生きるために戦う。こんな修正の場でなかったら、もっとふさわしい肉体で同等の戦いを繰り広げたというのに、惜しいな。イレギュラー共」
心から落胆した様子で天上の意思はそう答える。
そして、夢幻の杖が持っていた極彩色の大鎌を拾い上げ、三人へと向けた。
「少なくとも、S-17521の戦士と逆行者は選定対象だ。慈悲を以って、天上の意思として葬る事にしよう」
「やれるもんならやってみろよ、バーカ!」
中指を突き立てるネームレスに並び立ち、ルシエラもまた挑発するような笑みを浮かべる。
「いつまで上に立つ者を気取っているつもりだい? お前を殺す算段など既についているというのに」
「天上の意思そのものを殺すなど不可能だ。余の造物に出来る事ではない」
「『なら、試してみるか』」
白亜の太刀を構え、トウラクは深く腰を下ろす。
刹那、閃光が世界そのものへと走った。
「……ほう」
感嘆の声が無意識の内に上がる。
天上の意思の頬に、確かに傷が生み出されていた。
トウラクはその場から動いていない。
それどころか、常人の目には抜刀の瞬間すらも見当たらなかった。
「少し、生物としての格を上げたか。剣士」
「『そうだな、少しだけ。それだけで十分だろう。お前を斬るには』」
「その意気や良し。では、始めるとしようか。これは、余による修正の儀である!」
「『いいや、人類の未来を賭けた決戦だ』」
それぞれの思惑と願いを胸に戦いは始まる。
その盛大な幕開けは、黄金の光と共にもたらされた。
「第一術式から第百術式までを強制連結。発射シーケンスへ移行――星に祈りを」
未来における収束砲撃の完成形態、アルテミス・ノヴァ。
轟音と共に迫る小型の太陽の様に眩いそれを前に、天上の意思は吸収しようと手を伸ばす。
しかし、次の瞬間には何かに気が付いたように大鎌で攻撃そのものを霧散させた。
「……博愛の銘を混ぜたか」
「当たり。駄目だよ、時間をミユメちゃんに与えちゃ。もうエクスギアもトリムもバージョン2なんだから。博愛の銘との共鳴なんて出来ちゃうに決まってんじゃん」
辺りに散る黄金の粒子が、世界をより絢爛に煌かせる。
威勢の良い第一射に続いたのは、ルシエラであった。
「もう少し、近づいてくれよ」
瞬間、天上の意思の立ち位置が変化する。
調和の銘により、彼女はトウラクの目の前に移動をしていた。
否、最初からその場に立っていたことになったのだ。
「っ」
「『片腕だけじゃ不足だろう』」
トウラクは既に刀を解き放っている。
その刀身には、天上の意思の残された腕が宙を舞う姿が映し出されていた。
「速いな。が、この身を傷つけるという事がどういうことかわからぬ愚か者でもあるまいに」
切り落とされた傷口から、高次元のエネルギー体が流れ落ちるように生える。
それは人間の視覚で無理やり可視化した、天上の意思の腕であった。
「触れただけで死ぬぞ」
手はルシエラへと伸ばされる。
本来であれば、武器越しでも触れてしまえばエネルギーを流し込まれる必殺。
しかしルシエラはそれを蒼銀の剣で弾き返した。
「……また小細工か」
「二つの人類の集大成だ。例え傲慢な上位存在でも退屈させないと誓おう」
「余を相手に本当にそれで十分だと――」
言い終わる前にその体は横からの蹴りにより宙を浮き、そして一閃により後方へと斬り飛ばされた。
「その上から目線、マジでむかつくから蹴っちゃった。あはは、ざまあないね!」
ガラスを纏った足を見せながら、ネームレスは笑う。
対して、トウラクは剣の手ごたえから悟った。
「『浅いな。傷にすらなっていないか』」
「多大な魔力により障壁を作る。あのイレギュラーが死に際にやって見せた事の猿真似だが……あいつよりも余の方が巧いな」
砂煙の中から、涼しい顔で天上の意思は現れる。
先ほどの攻撃は、傷一つつけることは叶わなかったようだ。
「っ、てめえ……!」
「安い挑発だ。ネームレス、君が冷静に立ち回れると信じているよ」
「……わかってる」
銘により精神を安定させてネームレスは黄金の大鎌を構え直す。
「良い足掻きだ」
どれだけ人類が敵意を見せ策を講じたとしても、天上の意思は変わらない。
「もっと見せるがいい、人類」
修正するために、いつも通りに動くのみだ。
『あっ、魔力吸収しちゃった。私、あれトラウマなんですよ……!』
『なんて恐ろしい事をするのじゃ……!(二回目)』
『よし、これでいつでもアレに接続できるねぇ^^』
『おぉ、後は接続後に負けないように力で上回れば良いな。マイロードよ、いっぱい食べて大きくなるのだぞ……!』
『天上の意思のエネルギー……美味しい……じゅる……じゅるる』
『これが本当に世界を救う者の姿ですか!?』