【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第479話 美少女が羽化する時、それは世界の誕生と同義

 天上の意思に感情は存在しない。

 世界の全てを監視、管理する者にとってそれはあまりにも不要なものであるからだ。

 故に天上の意思は遥か昔、この星が生まれるよりも前に感情を消し去っていた。

 

 だからこそその動きが感情に左右されることはなく、淡々と己の役割を果たすべく力を行使する。

 システムとしての最適解。

 けれど、それは今まさに感情により覆されようとしていた。

 

「マーちゃんズ!」

「その愛は届くと信じているよ」

 

 戦いとはその場で自身に出来ることを上手く選択し続けた者が勝利する。

 その点、ネームレスとルシエラは天才に近かった。

 

 過程は違えど、人を知り、人に合わせることを得意とする後方支援型。

 過剰な力ゆえに勘違いをされることが多い二人だが、本来の役割は矢面に立つことではない。

 

 では、誰が先陣を切るのか。

 そんな事は問うまでもないだろう。

 

「『一振り』」

 

 爆風により天上の意思の視界がふさがれる。

 魔力を風のように操り、即座に黒煙を晴らすもその時点でもうトウラクは目の前にいた。

 その切っ先は、信奉により必中を付与されており軌跡はまるで線をなぞるように天上の意思へと届く。

 

「余を相手にするに相応しい太刀筋だ」

 

 称賛は、敵ではなく自身の造物故の事だった。

 新たに胸に大きく斬撃が刻まれる。

 その中でも天上の意思の目は常にトウラクではなくその後ろの二人へと向けられている。

 

 トウラクは試練を与えるに相応しい人間。

 自分が本当に裁くべきは、あのイレギュラー達だ。

 

「まずはその銘の出来損ないを回収しよう。元は博愛か? 余の与えた銘をこのように歪に歪めるとは」

「悪いけど、この力は託されたものなんだ。そう簡単に奪われる訳にはいかないな。特に、お前にはね。不愉快だ、少し離れると良い」

 

 調和の銘が、天上の意思の立ち位置を変える。

 一歩踏み出したはずの天上の意思は、遥か後方まで下がっていた。

 

 そして読んでいたかのように、空からは黄金の光、地上からは首を狙った斬撃が飛ぶ。

 

「アルテミス・ノヴァ!」

「『その首、落としてやる』」

「その意気や良し。だが、まだ首をくれてやるわけにはいかない」

 

 天上の意思は不定形の腕を持ち上げ、握りつぶすような動作と共に世界に告げた。

 

【止まれ】

 

 ネームレスの放った砲撃が停止する。

 対してトウラクは一瞬、超越命令により行動を遮られたものの再び動き出し、一刀を放った。

 

【落とせ】

 

 次いで刻まれた世界への命令が、トウラクの手を緩め、その中から刀を落とす。

 地上につく前に拾い上げるも、先ほど放たれた一撃の勢いは既に失われていた。

 

「余を博愛で切る。世界を幾重にも包み込み隔離する。良い工夫だ。だが、余そのものを相手にするにはスケールが少し小さいな」

 

 停止したままのネームレスを指さし、天上の意思は視線を向けることなく世界へと命じる。

 

【燃えろ】

 

 命令は法則となり即座にネームレスの全身へと極彩色の焔を生み出す。

 それはまるで四肢を飲み込むように焔を広げていったが、少ししたところで突如虚空より影が飛来し焔を喰らいはじめ、残り火は凍結していった。

 ネームレスはその時初めて動けるようになり、一気に息を吐き出す。

 

「っはぁ! 死ぬかと思った! この中じゃなかったら即お陀仏じゃん」

「……そうか、この世界の中では超越命令はいくつかの規則と相殺し合い格が落ちるようだな」

 

 驚きもせず、天上の意思は解析した情報を告げる。

 

「どう? お前の命令なんてもう効かないよ」

「ネームレス、あんまり煽るものじゃないよ。話すだけ無駄なのだから、さっさと殺してしまおう」

「それもそっか」

 

 世界を包み込む凍結と影、そしてそれを補強する力はまさにこの時の為に存在していた。

 これにより現状、天上の意思が持つ手札は封じたと言っても良いだろう。

 そう、たった一つを除いて。

 

「これ以上の戯れは危険であると判断した」

 

 万が一があるならば、僅かな可能性でも天上の意思は決して見逃さない。

 機械的であるゆえに慢心せず、恐怖や焦燥感に駆られ、超越命令を繰り返すこともしない。

 

 出し惜しみではなく、順当に。

 天上の意思はシステムとして、正しく最後の切り札を切った。

 

「この世界の即時修正は不可能である。故にこの世界を0からやり直すことに余が決めた」

「……来たね」

「『ここまでしてようやくか』」

 

 人類の可能性を余すところなく使い、ようやく天上の意思に危機感を抱かせるに至る。

 それは位相世界規模で見れば偉業ではあるが、トウラク達の世界を救うには足りなかった。

 

「剣士よ、ここまでだ。一度世界の胎へと還り、再誕の時を待つが良い」

 

 敬意を表するような言葉と共に天上の意思は、自身に出来る最大級の権能を用いた。

 

【閉じよ】

 

 それは世界に対する命令の中でも最上位に位置する、世界の終わりである。

 まるでパソコンの電源を落としてしまうような、描いていた絵を気に入らないからと画用紙ごと破り捨ててしまうような根本的な超越命令であった。

 

 いかなる氷も影も規則もその前には意味をなさない。

 世界は一度、生まれる前の状態へと戻る事になるのだから。

 

 世界は崩落を始め、空の向こう側には何も存在しないただの白だけがあった。

 

「……トウラク、私達はここまでだね。これ以上は流石に私とネームレスの存在が持たない」

 

 空の向こうを見ながら、ルシエラはそう告げる。

 そして、蒼銀の剣を杖の様にトウラクへと向けた。

 

「君が世界を救うと信じているよ」

 

 次の瞬間、彼女の姿はどこかへ消えた。

 しかしトウラクの体を包む妙な温かさが、彼女に託されたものがあると証明している。

 

 続くように、ネームレスもまた何かをトウラクへと放り投げた。

 

「これよろしく! 本当に後は頼んだからね! 全部任せるんだからね!」

 

 トウラクの手の中に収まったのは、一つのダイブギアであった。

 深紅のそれは、少女の腕に合うように細く調節されている。

 彼はそれを見て目を細めると、拡張領域へと大切そうにしまい込んだ。

 

「『ここからだな』」

 

 白亜の剣を額に当て、祈る様に目を瞑りながらトウラクは息を吐く。

 そして、ただ一人残された者として天上の意思を見据える。

 

 相対する天上の意思は、彼の姿を見てこの戦いで初めて眉を顰めた。

 

「……何故、消えない?」

「『世界がここに在るからだ』」

 

 トウラクは自身の胸を叩く。

 

「『ある人が、自分の中に世界を内包する技術を教えてくれた。それの応用だ』」

 

 ルシエラが世界に向けて行った最後の魔法。

 それは今、時空を超え一人の剣士へと継承された。

 

 今、文字通り彼は世界と一つになっている。

 

「『どうしても、必要だったんだ』」

 

 世界が崩れ行き、白と原初の光で満ちていく。

 眩くも暗い、世界創世の根源の底こそが、今のトウラクには相応しいだろう。

 

「『あれだけの事をすれば、お前は迷わず世界をリセットする。それこそが、今の明星計画の最後の鍵だ』」

 

 本来であれば降臨する筈の裁定者を殺す為の一人の天使と一つの世界。

 しかし、天上の意思そのものが相手であればまだ足りない。

 

 ならば、一体どうするべきか。

 その答えは至って単純。

 その計画を踏み台に、更にその先を目指せば良いのだ。

 

「『今の僕が本当の力を解放すれば、世界は持たない。だから世界なんてない空間が欲しかった』」

 

 トウラクは白亜の太刀を振るう。

 瞬間、背後の空間が割れた。

 空間の向こうには、螺旋状に重なり合った鞘が無限に続いている。

 

 彼はいつものように鞘に剣をおさめ、天上の意思へ向けて居合の体勢を取り告げる。

 

「『()()()()()()()。鋳造を開始』」

 

 その言葉はもはや、超越命令に等しい。

 

「『鋳造、刻印――完了』」

 

 一刀に全てを刻み、トウラクは今その剣を抜き放つ。

 

「『神羅、一振り』」

 

 全てを束ねし一の剣。

 それは全ての奇跡と必然の先で形となった。

 

「……そうか」

 

 ゾーン0と銘打たれたその空間の本当の意味を、天上の意思はその光景を見て初めて理解する。

 

「あれは、いわば蛹だったか」

「『どう表現するかなんてどうでもいい』」

 

 銘同士がトウラクの中で共鳴し合い、爆発的なエネルギーとなり彼の背から翼のように噴き出す。

 

「『最後の戦いを始めよう』」

 

 人類史上初の天使は、今ここに顕現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『見えなくなったんだけど?』

『電波が悪いねぇ。もう少ししたら、天上の意思カメラに切り替えようねぇ』

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