【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第484話 共に世界を駆け抜けた全ての美少女に愛を込めて

 交錯する刃が火花を散らし、辺りに甲高い音を響かせる。

 聞こえるのは二人分の足音と息遣いだけであった。

 

「『っ!』」

 

 トウラクは三本の鞘に銘を刻み、四方向から同時にソルシエラへと剣撃を放つ。

 鎖の間を縫うように進んだ太刀は一斉にソルシエラの胴を切り裂いた、かに思われたが次の瞬間に彼女は黒い羽根となり辺りに散った。

 

「『そこか』」

 

 振り返りざまにトウラクは剣を振りぬく。

 再び火花が散り、その向こうには楽し気に笑う少女の顔があった。

 

「ふふっ、いいわね。強くなった」

「『君に追いつこうと必死だったからね』」

 

 噛み締めるように力強く鋭い一閃を次々と放ち、トウラクはソルシエラを追い詰めていく。

 ソルシエラはそれをひらりと躱し、大鎌で逸らし、そして時には鎖を放って攻撃を回避し続けた。

 

 まるで、トウラクが刀を振るう様をもっと近くで見たいとでも言いたげに、ソルシエラは微笑みながらギリギリで攻撃を躱し続けていく。

 

「『もっと君から向かってきても良いんだけれどね』」

「あら、貴方を信頼してエスコートを任せているのよ?」

「『……なら、期待に応えないとなっ!』」

 

 トウラクは刀を鞘に納める。

 そして背後に浮かぶ鞘へと再び銘を刻んだ。

 

【銘、刻印。5振り】

 

 五つの銘が力を与え、その一刀に輝きを宿す。

 トウラクが再び刀を抜いたその瞬間には、彼はソルシエラの背後にいた。

 否、それだけではない。

 彼が自ら振るった斬撃が、残像と共に全方位からソルシエラへと迫っている。

 

 音と光を置き去りにしたそれは、魔法でも再現が難しい程に卓越した抜刀術。

 一度の抜刀で全ての角度から相手を切り裂くトウラクの必殺技だった。

 

 ソルシエラはそれを目にして――。

 

【止まりなさい】

 

 全ての太刀筋に合わせるように宇宙をかき混ぜたような渦が出来上がる。

 エネルギーそのものの奔流であるそれは、概念すら切り刻む太刀を受け止めた。

 

「『結構、自信あったんだけど』」

「そうね。私以外なら勝てるんじゃないかしら。六波羅とか、それをしてあげたら喜ぶわよ?」

「『ははは、実は後で模擬戦の約束が入っていたりして』」

「ふふっ、確かに神羅を彼が見たらそうするでしょうね。精々楽しみなさい」

 

 会話をしながらも、二人は激しい戦いを繰り広げていた。

 いや、彼らにとっては戯れなのだろうか。

 星を誕生させる程のエネルギーと星を破壊する程のエネルギー同士がぶつかり合い、辺りに鮮やかな極彩色の魔力と火花が舞う。

 

「『その試合自体は楽しみなんだけどなぁ……うーん』」 

「なによ、まだ苦手なのかしら? 彼、あれで結構面倒見がいいのよ?」

「『まあそれは訓練後のマッサージとか、専用の食事メニューとか考えてくれた辺りで、実感しているし苦手意識はないよ』」

「そこまで面倒見が良いとは思わなかったわ」

 

 踊るようなステップでソルシエラは後方に下がり、大鎌で地面を小突く。

 するとトウラクの足元に魔法陣が生まれ、地面から天へと銀の光が柱の様に立ち昇った。

 トウラクはそれを難なく回避し、既にソルシエラへと駆けだしている。

 

「『僕が危惧しているのはその……あの二人のイチャイチャにミハヤが感化されないかって事なんだよね』」

 

 ソルシエラの周りの時間を停止させながらトウラクは刺突を放った。

 しかしそれは突然生まれた時空の裂け目に吸い込まれる。

 それどころか、時間が停止している筈のソルシエラは平然と答えた。

 

「いいじゃない、イチャイチャしたら。散々傷ついて心配かけたのだから、それくらいはしてあげなさいな」

「『その台詞、君には言う権利ないよね?』」

「……?」

「『ああっ、これは先が思いやられるな』」

 

 元諜報員の友人を思い浮かべながらトウラクは苦笑いをして、顔を横に傾ける。

 それからすぐ、大鎌の刃が彼の髪を数本切り裂き通り抜けた。

 

「『君って、人たらしの癖に自覚ないよね?』」

「そうかしら……? 考えた事もなかったわ。後で、リュウコで試してみましょうか」

「『前から思っていたけれど、Sランクにとってリュウコさんってなんなのかな』」

「とっても信頼できる玩具よ」

 

 常時魔力収束状態の大鎌がトウラクへと何度も振るわれる。

 華奢な体で大鎌の重心を利用し自在に振り回す姿は、まるでポールダンスでも踊っているかのように艶やかで可憐だ。

 

「『そうか。リュウコさんってそうなんだ……はあ、仲良くできるかなぁ』」

「あら、もう浮気?」

「『違うよ! 僕もこの後にSランクに認定されることになっているんだ。だから、今後は同僚になるんだよね。あ、そうそうSランクの先輩として色々と聞いておきたいんだ』」

「私に聞いても無駄よ? だって、私は一度も理事会に顔を見せていないし、依頼を受けた事もないのだから」

「『……そう言えば、そうだった』」

「ユキヒラか六波羅でも頼りなさい。私が知る限り、一番まともな二人よ」

「『そうするかぁ。あ、じゃあさ新しいダイブギアの事なんだけど――』」

 

 彼らは言葉と刃を交わしていく。

 まるで昼休みに一つのテーブルを挟んで他愛もない会話をしているように。

 あるいは放課後あてもなく、帰路から少し外れた道を歩きながら雑談に花を咲かせるように。

 

 それは今まで二人の間に無かった何かを取り戻すかのように、彼らの心を満たしていった。

 会話の内容は一つとして大して重要ではない。

 いつでも話せるし、そもそも話さなくたって良い。

 

 でもだからこそ彼らはこの時この場所を選んだ。

 掛け値なしに素晴らしい瞬間があったのだと自分自身に刻むために。

 

「そう言えば、ミロク先輩が貴方の事を言っていたわね――」

 

 少女は笑って大鎌を振るい。

 

「『前から気になっていたんだけれど、そのカッコいい衣装って――』」

 

 青年は太刀でそれを受け止める。

 

 次はその逆、あるいは同時に。

 そうして鮮やかに色づいていく世界の中で、二人は永遠とも思えるだけの時間を過ごしていく。

 唐突に終わりを迎えるその時まで。

 

「そろそろ時間かしら」

「『ああ、どうやらそのようだ。世界の再構築が完了し君とは少しの間お別れになる』」

「……あら」

 

 ソルシエラはトウラクを見て、足を止める。

 それから口元を押さえ、小さく笑った。

 

「泣いているの?」

「『……ああ、そうだよ。世界を救えた達成感とか、君との少しばかりの別れとか――でも何よりも』」

 

 トウラクは刀を鞘に納め、腰だめに構える。

 

「『君とこうして沢山話を出来たことが嬉しいんだ。ソルシエラ……いや、ケイ! 僕達も頑張るから、君も頑張ってくれ!』」

「っ……はぁ、とことんヒーローね。貴方は」

 

 最後にソルシエラへと贈られたのは、別れを惜しむような言葉ではなく、背中を押す様な力強い応援だった。

 それが何よりも彼女の胸に温かい熱を宿す。

 

「言われなくても、頑張るわよ。言っていて恥ずかしくないのかしら」

 

 ソルシエラも応えるように大鎌を構えた。

 

 互いに理解していた。

 これまでの全ての戦いは、この一瞬で全てが終わり、決着がつくだろうと。

 

「――ッ!」

 

 初めに動いたのはソルシエラだった。

 剣術としては素人でも、ソルシエラが大鎌を振るえばそれは最適解となる。

 

【切り裂きなさい】

 

 世界への絶対の理と共に一瞬で距離がなくなり、振り下ろした先にはトウラクがいた。

 対するトウラクはまだ動かない。

 それどころか、より深く息を吐き目を瞑った。

 

 そして。

 

【銘、刻印。収束。一振り】

 

 最速にして最強の一撃が世界に解き放たれる。

 それはあっという間に大鎌の刃を捉えると、そのまま夜明けの空に向けて弾いてしまった。

 甲高い音と共にソルシエラの手から大鎌が無くなる。

 

 しかしソルシエラは笑っていた。

 

「これを忘れていないでしょうね?」

 

 既に彼女は次の手に移っている。

 その手の中に在るのは、彼女が最初に手にした短刀であった。

 超越命令により距離を詰めた今、十分に短刀の間合いだ。

 彼女はそのまま勝利を確信し短刀をトウラクの脇腹めがけて放つ。

 

 刀を振り上げた姿勢のトウラクは未だに対応が出来ていない。

 が、短刀は突如として彼女の前に現れた刀によって弾かれた。

 武装がソルシエラの攻撃する場所に狙って召喚されたのである。

 

「っ!?」

「『君も忘れたとは言わせないよ? ルトラはデモンズギア。だから僕の最初の武装はまだこの戦いでは使っていない!』」

 

 火花が散り、短刀と刀がそれぞれ弾かれる。

 ソルシエラはすぐさま態勢を整え二手目を、トウラクはルトラから初期の武装である刀へと空中で握り替えカウンターを放った。

 

 ソルシエラの放った一撃が届くよりもほんの僅かに早く、トウラクのカウンターが彼女へと迫り――。

 

「またいつか」

 

 言葉と共に空を切る感覚だけがトウラクの手の中に残った。

 

 先ほどまで目の前で揺れていた蒼銀の髪も、主に追従して舞うようにひらめいていた黒と金の衣装もそこにはない。

 既にソルシエラという少女は世界から消え、最後にトウラクの目の前に舞い降りてきた一枚の黒い羽根だけが彼女の残した証だった。

 彼はそれを優しく受け止める。

 

「……はぁ、もう少しだったなぁ」

 

 清々しい顔で夜明けの空を見上げる彼の髪は黒に戻り、その隣にはルトラの姿があった。

 彼女はトウラクを見て、眉間に皺を寄せている。

 

「アレは私達の勝ち。絶対、勝ち」

「それ、本人が聞いたら否定しそうだけどね」

 

 ルトラの頭を撫でながら、トウラクは振り返る。

 そこには、彼の信号を確認して駆けつけた仲間の姿があった。

 

「……ケイ」

 

 手の中に収まった黒い羽根を優しく包み込むように握りながら、彼は仲間達へと歩き出す。

 

「また会おう」

 

 陽が昇り目覚めていく学園都市を見守る様に、その星は最後まで小さく眩く彼らを照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回 エピローグ『かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めなかった』

 

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