【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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番外 噓つき蛙は祈らない
第485話 嘘つき蛙は進めない


 厄災を越えた先にある天上の意思による裁定。

 今や天上決戦として探索者達の間では有名な戦いから、既に二か月が経とうとしていた。

 

 御景学園の牙塔トウラクを筆頭に精鋭たちにより天上の意思は討たれ、人類は自由と進化の権利を勝ち取ったのである。

 が、その裏でまことしやかに囁かれている噂があった。

 

 曰く、その戦いにはソルシエラが大きく関わっていたらしい。

 最終決戦で天上の意思と相対したのはトウラクだけではない。

 

 そんな噂が流行る程度には、学園都市には平穏が戻りつつあるのは事実だ。

 新たな希望を胸に探索者達は前へと進む。

 天上の意思に勝利したとしてもダンジョンがなくなるわけではない。

 

 現に、あの決戦に引き寄せられるようにダンジョンは例年の倍以上出現しており、ダンジョン頻出期と呼ばれるほどになっていた。

 故に探索者達は牙塔トウラク達英雄に応えようと、勇んでダンジョンに潜るのだ。

 

 が、この少女は違った。

 

「マーちゃんズ、お菓子とって……」

 

 既に太陽は昇っている時間帯だが、自前の遮光性抜群のカーテンは閉め切られ、パソコンのぼんやりとした不健康な明かりだけが部屋を僅かに照らしている。

 カップ麵の容器の間を飛び越えた人吞み蛙は主の為に食べかけの袋菓子を持ち上げると、可愛らしく飛び跳ねて手元へと運んだ。

 

「ありがとう。ふぁ……今日も何もなかったな」

 

 お菓子をつまみながらPCを眺めつつ、クラムは一人呟く。

 時計は昼の12時を指している。そろそろ彼女のねむる時間だ。

 

「夜警の役割のおかげで昼間にニートできるってのは最高だね。実際夜もマーちゃんズがやってるから私は何もしてないし」

 

 綺羅螺クラム、職業――警備員。

 フェクトムに授業という概念が無い事を良い事に、クラムは完全にダメ人間と化していた。

 

「あー、急にケイが帰ってこないかなぁ」

 

 その理由はただ一つ、ソルシエラがまだ帰還していないことにある。

 決戦での出来事をトウラクから説明をされたクラムは、理解こそしたが納得は出来ていなかった。

 

「辛くないかな……泣いてないかな……」

 

 何度彼女を見送っただろう。

 何もできずに守りたい人の背中に隠れる事ばかりで、いつの間にかそれが当たり前になっていた。

 

「私が最強だったら、変わってたのかな」

 

 そんな事ばかり考えているからだろうか。

 最近はよく都合の良い夢を見るようになった。

 Sランクのように強くなった自分がかっこよくソルシエラを助け、誰も傷つかない。

 そんな荒唐無稽な夢に浸ることが多くなった。そしてその数だけ自分の無力感に打ちひしがれる回数も増えた。

 

「皆は強いな……もう立ち直って。はは、私だけダメダメだ」

 

 ソルシエラの事を聞かされた初日こそミロクやトアは落ち込んでいたが、今となってはフェクトム再建のために東奔西走している。

 彼女達は口を揃えて「ケイちゃんは必ず帰ってくる」と言うものだから、クラムも笑顔を取り繕って同調するしかなかった。

 

 無力感に打ちひしがれ、ありもしない都合の良い未来を夢想する。

 そんな時間をフェクトムの皆が用意してくれている事実を理解しているが故に、なおの事感情の行き場がなかった。

 

 ケイの思いに応えるならばこんな形でくよくよしている場合ではない。

 今すぐにでもミロク達を手伝うべきだ。

 

 頭ではそうわかっていても、クラムは動くことが出来なかった。

 何故ならば、彼女は自他共に認める――。

 

「よう、クソ雑魚メンタル」

「あ、執行猶予ニート」

「うるせえよ」

 

 黒焔が隣で一瞬燃え盛り、次の瞬間には隣にネームレスが立っていた。

 その格好は真っ黒のスウェットであり、胸元にはでかでかと「星」とプリントされている。

 フェクトムが誇るニート二号だ。

 

 と言っても彼女の場合は理事会による認可が出るまでフェクトムの外に出ることを禁じられているだけであり、仕事はこなしているのだが。

 

「おい、コントローラーどこ」

「あー、その辺」

「その辺って……ヒカリがいない三日でこの荒れ様かよ。マーちゃんズ、勝手に片付けていいよ。こいつ掃除とかしないし」

 

 ネームレスにそう言われて人吞み蛙達は飛び跳ねて了承すると、せっせとゴミを片付け始めた。

 やがて空になったカップ麵容器の下から出てきたコントローラーを手に取り、ネームレスはベッドの上に腰を下ろす。

 クラムはそれをわかっていたかのように、ゲームを二人対戦用に変える。

 

「ねえ」

「何?」

「お前、また配信始めただろ。浄化ちゃん名義で」

「……知ってんのかよ」

「知ってるし、メン限も入ってる」

「は?」

 

 思わずコントローラーを落としそうになったクラムを見て、ネームレスは悪そうな笑みを浮かべていた。

 

「リア友の配信を見るのは気持ち良いネムねぇ……」

「何だよその気持ち悪い語尾」

「あれ、気に入らなかった? 私も配信上でのお前みたいにキャラ付けしようと思ったんだけど。お前も敬語でお目目キラッキラにしてるじゃん」

「お前マジでやめろ。知人に配信の感想言われるのが一番クるんだよ……!」

「だから感想言ってんじゃん」

 

 感情を乱されたクラムとは裏腹に冷静にコントローラーを操作するネームレスの圧勝であった。

 ゲーム画面では、ネームレスを祝うWINの文字が華々しく表示されている。

 

「ちっ」

「やーいクソ雑魚」

「あー、はいはい。雑魚ですよ」

 

 投げやりにそう言って椅子に体を預けたクラムの前に何かが差し出される。

 それはつい先日にネームレスがミロクに買って貰ったスマホであった。

 

「なんだよ」

「これ、見てみ」

 

 スマホの画面には、夜のビル群が映っていた。

 街並みから推測するにアリアンロッド周辺だろう。

 復興のために多くの重機が導入された周辺地区は、他と比べるまでもなくごちゃついていた。

 

「これがどうかしたの」

「もう、鈍いなぁ。ここの端」

 

 そう言ってネームレスはビル群の一部をズームする。

 まだ戦いの跡が残る廃ビルの屋上。

 その上に、蒼銀の髪の少女が映っていた。

 画像は荒く、その他には黒い服を着ている事くらいしかわからない。

 

 正体を推理するまでもないだろう。

 クラムはハッとして、飛び上がりながらネームレスからスマホを奪い取りよりその写真を凝視した。

 

「ケイ……!?」

「やっぱりクラムもそう思うよねぇ。私も同じ感想だった」

「こ、これっていつ?」

「昨日だよ。ネットサーフィンしてたら見つかった。ソルシエラ同好会ってとこがアップしてたの」

「なんだそのヤバそうな同好会」

 

 どの口が言っていると言いかけてぐっとこらえたネームレスは、クラムからスマホを奪い取る。

 そして、勝手にお菓子を貪りながら言った。

 

「真実かどうかはわからない。けど、その場所に行ってみる価値はあると思う。もしも本物なら、すぐにここに戻ってこないのも怪しい。また勝手に人助けをしているのかもしれないし」

「アンタは……そっか、行きたくても行けないのか」

「そ」

 

 ネームレスは苦い顔で頷く。

 

「だから私の次の次の次くらいにはケイと仲が良かったお前に提案しているわけ。マーちゃんズなら人探しも得意そうだし」

「は? 私が一番仲いいんだが?」

「(舐め腐った笑み)」

「なんだてめえおい」

 

 掴みかかろうとしたその瞬間、ネームレスは焔と共に姿を消した。

 部屋の中にネームレスの声だけが響く。

 

『あとでこの画像の座標を送るよ。それと――ヒカリ達が帰って来たよ』

「えっ」

 

 サッと顔が青ざめたクラムは扉に顔を向ける。

 そして人吞み蛙達に掃除を急ぐように告げようとしたその瞬間に扉が派手な音を立てながら開いた。

 

「クラム! トアちゃんから聞きましたよ! 引きこもって三日だそうで――なんですかこの堕落っぷりはぁ!!!!」

「アッ」

「クーラームー!」

 

 背中からニョキニョキと光翼が生えてくる幼馴染を見ながら、クラムは人吞み蛙に泣きつく。

 こうしてクラムの一日は騒がしく幕を開けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※本日より三日に一回、21時更新となります。許してください。
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