【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第488話 噓つき蛙は気づかない

 リンカという新たな協力者を得たクラムは、その足で件の廃ビルへと赴いた。

 天上決戦の汚染区域であり、一般生徒は入れないのだがそれもリンカがいれば問題が無い。

 

「こういう時こそ、生徒会長とトウラクの名前を使わなきゃねー。リュウコがまだ理事長だったら、顔パスも出来たんだろうけど」

「三日天下だったな、アレ」

 

 学園都市全体へと理事長宣言をした三日後、青い顔で全ての権利を返還すると告げたリュウコの全体放送をクラムは覚えている。

 さらに、その表情が気に入られ切り抜かれて早速素材としてSNSに蔓延っていることも、配信者として確認済みだ。

 

「ま、あのまま学園都市が全部クローマになったら、大変だからね。さっさと返すに限るよ。私だって同じことをする」

 

 リンカから見れば、あの人選は完璧だった。

 あの場で最も混乱を抑え、かつ探索者達に安堵を与える人物として渡雷リュウコは最適だったと言えるだろう。

 尤も、そんな事を口にすればリュウコのファンという烙印を押されるので絶対に口にはしないが。

 

「ふーん。私だったらそのまま理事長の椅子にしがみつくかなぁ。楽そうだし」

「本当に言ってんのかよ。フェクトムの生徒会ですらまともに仕事してないのに?」

「私は書記の仕事をこなしてるよ。マーちゃんズがきっちり帳簿もつけてる」

「もうそれマーちゃんズが書記でお前はオマケだろ」

「は? これでも頑張ったマーちゃんズにはよしよししてあげる大仕事があるんだが?」

 

 その時の事を再現するように、クラムは手の中でマーちゃんズを撫でる。

 自律兵装故にその体表は特殊な金属でできている筈なのだが、妙にもっちりしていた。

 

「よーしよしよし、エース。いつもありがとうねー」

「エース?」

「そう。ちっちゃなケイに可愛がられたマーちゃんズ一番の功績を持つ個体だよ。この子だけは爆破させずにいるんだぁ」

「あぁ……あの時のかぁ」

 

 それは今となっては随分と昔の事のように感じる思い出だった。

 風邪を引いたケイを幼女化して看病するという字面にすれば意味不明なその出来事はリンカにとっても良い記憶である。

 特にケイの火照った顔と少しばかり汗の伝う鎖骨のラインを彼女は自身の諜報員としての記憶力を総動員して高解像度で脳内保存をしていた。

 

「……またケイとイチャイチャしたいな」

「マジそれな。次はロリケイにマーちゃんズの芸をお披露目したいなぁ。エース、その時はお願いね」

「ウス」

「え!? 喋った!?」

 

 確かに甲高い電子音声で簡潔に返事をしたエースを見て、リンカは思わず立ち止まる。

 

「もー、別に普通の事でしょ」

 

 呆れて振り返ったクラムの腕の中でモチモチと撫でられていたエースはもう一度頬を膨らませて鳴く。

 

「ソッスネ」

「意思疎通が出来てる……!?」

「それは前から出来てるよ。ほら、飼い主の言葉を真似するペットとかいるじゃん」

「インコと同一視してる? でもまあ、そっか……私が敏感過ぎるだけかな?」

「そうそう」

 

 そんな訳が無いと知りながらも、リンカは一度納得した様子を見せる。

 これ以上は不毛な会話かつこの事件には特に関わりが無い事だろう。

 

(異能が進化しかけてるのかな……)

 

 リンカは決して強い探索者ではない。

 交渉ごとにおいては必ず勝つ自負があるが、彼女に異能がある訳ではない。

 ほんの少し一般人よりも身体能力が高いだけだ。

 

 故に、荒事になった際に戦力となるのはクラムのみ。

 

(というか喋る蛙爆破させてんのやばぁ)

 

 ドン引きしながらも、彼女はクラムのメンタルをケアしながらこの任務にあたる必要があった。

 

「エース、クラムをお願いね」

 

 リンカはそう言って、エースの頭を撫でる。

 その触り心地は蛙というよりは、餅に近かった。

 

「アザッス」

 

 撫でられたエースから礼が聞こえた気がしたが、リンカは聞かなかった事にして廃ビルへと足を運ぶ。

 目的の場所はすぐそこだ。

 

「……それにしても、何もない所だね」

 

 近づいていけばいくほど、その場所にソルシエラがいるわけがないという確信が強まる。

 辺り一帯には、同様に廃ビルが建ち並び、目ぼしいものは何もない。

 

(登らずともわかるな。ここから辺りを見たところで何も見つからない。あのソルシエラは、ビルの上で何をしていたんだ?)

 

 リンカは思考しながら空を見上げる。

 両手を上げて思い切り背伸びをしたくなる程に気持ちの良い青空がめいっぱいに広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 息を殺して無機質な廊下を駆ける。

 不安そうに服の裾をぎゅっと掴み、周囲に誰もいない事を確認してその少女はひたすらにとある施設内を移動していた。

 

「……っ、0号がいてくれれば」

 

 届かぬ願いを口にしてしまえば、より一層みじめになって泣きそうになってしまう。

 頼れる先輩や同級生の顔が思い浮かぶが、その誰もが今すぐに助けに来るはずがないとわかっていた。

 

 その頭脳は、オリジナルと遜色ない程に聡明に作られており、どれだけ感情が乱れていようとも冷静に最適解を導き出し続けている。

 それが彼女が無手であるにも関わらず、今だに捕まっていない理由だった。

 

(警報はもう止まってる。……私の目覚めに反応したわけじゃないのかな。だとすれば何が起きたんだろう。まさか……もうアレが来たの?)

 

 インストールされた知識の中に存在する、外より来る侵略者。

 その知識は、過去の彼女の記憶と照らし合わせるとあまりにも荒唐無稽かつ馬鹿馬鹿しい妄想だ。

 事細かく刻み込まれた知識は、少女を生み出した者の恐怖をそのまま表したかのようである。

 

(とにかく知らせないと。ミズヒ先輩達に……何より、私自身に!)

 

 それの存在が事実であるにせよ妄想であるにせよ、今起きている凄惨な事件だけは止めなければならない。

 少女は固い決意のままに身をかがめて駆ける。

 

 と、その時廊下の曲がり角から誰かの足音が聞こえてきた。

 

「っ、ま、まずい」

 

 少女は辺りを見渡す。

 無機質で白い廊下には、隠れられる部屋に繋がるような扉はどこにもない。

 

「どうしよう!」

 

 あわや鉢合わせになるその時だった。

 不意に風が上より吹き付ける。

 

「?」

 

 見上げれば、そこには換気口があった。

 少女一人なら簡単に通り抜けられるであろう換気口は、どういう訳か蓋が外れているようである。

 

「よ、ようし……!」

 

 少女は意を決すると、換気口へとめがけてジャンプし一気にしがみついた。

 ずば抜けた身体能力に慣れきっていない彼女はパタパタと足をばたつかせながらなんとか換気口の中へと入っていく。

 

 それから数秒して少女がいた場所を誰かが通り過ぎて行ったが、特に異変に気が付くことはなかったようだ。

 

「…………ふう」

 

 少女は安堵の息を吐いて、そのまま匍匐前進でダクト内を進む。

 埃に体を汚そうとも、構う様子はなく必死に少しずつ前へと進んでいった。

 

「私だって、ソルシエラなんだ……!」

 

 それだけが彼女を支える唯一の理由である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて少女が通り抜けて暫く後、換気口にはひとりでに蓋がされた。

 まるで少女を守る様に虚空から蓋が突然現れたにも関わらず、最初からそうであったかのようだ。

 その縁を這うようにして、一匹のムカデもまた換気口内へと入り込んでいく。

 

『器用ですね先輩』

『位相世界に蓋だけ移動するなんて朝飯前じゃ』

 

 向かう先は当然、少女と同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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