【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第489話 噓つき蛙は侮らない

 ビルの屋上から見下ろす景色は、大した感動を与えなかった。

 見上げた時に想像した景色とさほど変わらずに、殺風景だったからである。

 

「風強いな……崩れそうで怖いし」

「いざとなったらマーちゃんズでどうにでもなるよ。でも……確かにちょっと暴れたら壊れそうだなぁ」

 

 ひどくボロボロになったビルの上で、クラムとリンカは辺りを見渡す。

 周囲は似たようなビルで囲われており、ビルの隙間からかろうじて荒野が見られる程度だった。

 

「ん、向こうがトウラクと天上の意思が戦った場所か」

「ほとんど見えないな」

 

 背伸びをしたり体を傾けたりして向こう側を見ようとしているクラムとは裏腹にリンカは既に自分の仕事を始めていた。

 

(ソルシエラ同好会の線は完全に消えたな。ここはあまりにも甲斐が無い。撮影だったとしても、シチュエーションが悪いし、ここに入れる許可が下りるとは思えない)

 

 ソルシエラ同好会、正確にはソルシエラに扮する個人の可能性が消えたと言って良いだろう。

 

(ソルシエラに似た存在……類似の案件としてはクローマか)

 

 かつてヒノツチ文化大祭で発生したソルシエラの偽者による事件は記憶に新しい。

 事件は本物と生徒会長により解決したが、果たしてその全てが本当に丸く収まったと言えるだろうか。

 

「……ん? どうしたのマーちゃんズ。あ、砂で遊んだらばっちいよ! 捨てなさい!」

「うるさいなクラム。そんなんだから浄化ちゃん奇声集とか作られるんだよ」

「うっうるさい。だってマーちゃんズが……」

 

 指をさす方向では、ビルの屋上に積まれた砂の中で転がるようにパタパタとしている人吞み蛙の姿が見える。

 まるで砂浴びをしているように激しく暴れた結果、砂が激しく舞いクラムの視界を覆った。

 

「うわっ、目がっ!?」

「はははっ、転ばないように気を付けてね。……って、んん?」

 

 リンカは砂の山へと近づいていく。

 すると人吞み蛙は満足したようにすんなりとその場を退き、クラムの顔に掛かった砂を払いに向かった。

 残されたリンカは砂の山を前に腰を下ろす。

 そして、ゆっくりと手を伸ばした。

 

「……軽いな。砂というよりはもはや灰に近い」

 

 指先に残る粒子の細かな砂は、風が吹けばあっという間に飛ばされてしまう。

 一日もすればすぐに砂は風に乗り完全にこの場から消え去るだろう。

 

 過去、リンカはこの砂を目にしたことがある。

 まさにクローマでの事件の後、証拠の一つとして確保されたものに限りなく近い。

 

「これは……本当に過去の事件が関わっているかもしれないね」

「リンカ、思わせぶりな発言は死亡フラグだよ」

 

 ハンカチと目薬を持った人吞み蛙達に適切な処置を受けながら、クラムは腕を組んでいる。

 その滑稽な姿を尻目に、砂を少しだけハンカチに包み込んだリンカは拡張領域へと収納した。

 

「顔に蛙を沢山張り付けて言わないでよ、情けないなぁ」

「うるさい。マーちゃんズだからいいんだよ! リンカもどう? ひんやりじめっとしてて気持ちいいよぉ?」

「なんだこいつ……」

 

 人吞み蛙を一匹掴み、差し出す顔面蛙張り付き女にやや引き気味のリンカだったが、そのつぶらな瞳が気になったのかゆっくりと手を伸ばす。

 その時だった。

 

「――ショット」

 

 空から聞こえた声が、辺りを閃光に染める。

 クラムが動き出したのはそれとほぼ同時だった。

 

「マーちゃんズ」

 

 自分達に魔力砲が放たれたのだとリンカが理解した時には既に、大量の人吞み蛙達により巻き起こされた爆風が防御を完了していた。

 頭の上に人吞み蛙を乗せたままではあるが、クラムは戦闘態勢に移行し空を見上げる。

 

「おいおい、挨拶も無しかよ。リンカ、怪我はない? あっても我慢してもらうけど」

「……大丈夫。それより今は、あれの相手だ」

 

 見上げた先で黒煙が晴れる。

 輝く太陽と青空の下、蒼銀の髪が揺れていた。

 衣装こそ普段とは違うがクラム達が見間違える筈もない。

 

「なっ……ソルシエラ!?」

「顔は同じだね。けど、あの子はあんな服を着ないでしょ」

 

 それは、服というよりは拘束具に近い。

 漆黒のドレスの上から大量のベルトが太ももや胴、腕に巻き付き、一見して恐ろしいものが封じられているかのような印象を受ける。

 更に、彼女が手にしている大鎌もいつもの生物的な脈動はなく、簡素な黒鉄の大鎌に代わっていた。

 

「違うね、アイツ」

「ああ、自称理解者さんもそう思う? そうだね、アレはソルシエラじゃない。出来の悪い偽物だ」

 

 リンカは一瞬にして偽物であると見抜く。

 あまりにも整いすぎている呼吸、僅かにも変わらない表情、何よりも知り合いに向けるにはその目は無機質過ぎた。

 

 少女はゆっくりと大鎌を構える。

 そして、砲撃陣を三つ展開した。

 

「ショット」

「力任せか! おいクラム頼んだ!」

「任せろ非戦闘員!」

 

 クラムが指を鳴らすと彼女の背後から大量の人吞み蛙が現れる。

 それはあっという間にソルシエラまでの橋を作り、後続の人吞み蛙達を届けた。

 

 砲撃と爆発が再び空中で激しくぶつかり合う。

 その勢いで人吞み蛙達は屋上へと飛ばされて戻ってきたが、再び橋を作り上げ挑んでいった。

 対するソルシエラも変わらず砲撃を放つ。

 

「ショット」

 

 何度も空中で激しい爆発が巻き起こり、ビル自体がぐらぐらと揺れ出した。

 

「くっそ、あいつずっと遠くからチマチマと……!」

「クラムやばいって。ビルがこのままだと壊れるよ!」

「わかってるよ」

「なら早くやっつけてよー! ……もしかして、打つ手がない?」

「舐めんな」

 

 口では威勢が良いものの、クラムは砲撃を相殺するように爆破を繰り返すのみである。

 まるで決着をつけることを望んでいないようであった。

 

「おい、何してんだよ! ビルが崩れるって!」

「いざって時は爆風クッションでもマーちゃんズクッションでも何でもあるよ!」

「落ちたときの対処法を聞いているわけじゃないんですけど!」

「もう、うるさいなぁ。人心掌握は得意でも、戦闘はまだまだ圧倒的に私の方が上だね」

 

 クラムは決して焦ることなく、爆発の向こうを見る。

 多くの戦場を駆け抜けたクラムにとって、この程度はもはや障害ですらなかった。

 

「こちとらSランクだの天才だのに囲まれて特訓してんだ。この程度、訳ないっての」

  

 屋上の縁に足を掛けたクラムはそのまま空中へと足を踏み出した。

 

「マーちゃんズ!」

 

 瞬間彼女の靴裏に一匹の蛙が生成され、瞬時に爆発を起こす。

 彼女を高く跳躍させる為だけに生まれた爆風は一瞬にしてクラムの体を押し上げた。

 

「砲撃ばっかり使ってるけどさぁ、ソルシエラならもっと色々仕掛けてこいよ三流!」

 

 黒煙を突き破り中からクラムは姿を現す。

 それを予想していたようにソルシエラは大鎌の柄を向けていたが、引き金が引かれることはなかった。

 

「残念、そいつは撃ち止めだ」

 

 銃口には既に蛙が押し込められており、対処する間もなく爆発を引き起こす。

 それもクラムを避けてソルシエラだけを焼き尽くす爆発は、更に連鎖するように巻き起こった。

 

「本当にあの子なら、こんな無様な負け方はしねえよ! 鎖で私を縛って爆風を魔力に代えて、一方的に消し飛ばす! いいや、もしかしたらもっと圧倒的かつ華麗に私を倒すかもしれない」

 

 背後、頭上、側面、至る所から爆発が巻き起こり、ソルシエラはもはや防御をする事すら叶わずに衝撃と熱を体に受け続けていた。

 

「ソルシエラの真似をするならもっと仕上げてこいよ! お前みたいに半端なのが一番むかつくんだよぉ! マーちゃんズ!」

 

 天へと主の号令が響く。

 すると、ソルシエラを囲むように人吞み蛙達が大量に現れ、手足を繋ぎ合わせて巨大な球体となった。

 その中で未だに爆発に襲われ続けているソルシエラを見ながら、クラムは指を鳴らす。

 

「爆ぜろよ偽物」

 

 千を超える人吞み蛙が一斉に爆発する。

 その爆風は指向性を付与され、全てがソルシエラただ一人に収束する。

 

 熱波と衝撃が圧縮されより激しい攻撃となり、そのまま一方的にソルシエラを焼き尽くした。

 

「ざまあねえな」

 

 爆風の一部を利用してクラムは屋上へと降り立つ。

 そして、とどめと言わんばかりに空中で起きた巨大な火柱を背にリンカを見た。

 

「どうよ、結構やるもんでしょ」

「……まだBだっけ」

「いいや。もう申請も終わってAランクだよ。これでも調子が良い時はミユメやミズヒと相打ち出来るんだから」

「そっかぁ……ちなみにやりすぎな。話を聞けなくなったらどうすんの」

「あっ」

 

 ハッとしてクラムは慌てて振り返る。

 そこには、灰のような何かが風に乗って消えかけている所であった。

 

「やばい、いつも相手にしている奴らのタフさに合わせたから消し炭にしちゃった……!? ど、どうしようリンカ。私、人殺しだよぉ!」

「頼もしいけど情けない奴だな。大丈夫。アレは人じゃない」

「え?」

「恐らくは文化大祭の時に現れた偽物と同種だろう。あの時は天使由来だったけど、今度は何が絡んでいるのか」

 

 そうしてリンカが考え込もうとしたその時である。

 青空が端から飲み込まれるようにゆっくりと漆黒に変わっていく。

 数秒も経てば、世界は夜に包まれていた。

 

「考えるまでもなく、どうやらあちらさんから招待を受けたようだ」

「招待……?」

「うん」

 

 リンカは暗闇に支配された廃ビル群を見下ろして告げる。

 

「どうやら、これは私たちをおびき寄せる罠だったみたいだね」

 

 

 

 

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