【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第491話 裏方ムカデは隠せない

 その襲撃があらかじめ予定されたものだとソルシエラはすぐに理解した。

 

「……外に出るまで泳がされていたんだ」

 

 武器を手に入れたソルシエラは、誰にも見つからずに施設を抜け出した。

 そこに広がる漆黒の空は、しかし彼女に解放感を与えたのである。

 が、それもつかの間だった。

 

 自身を狙って放たれた砲撃に気がつけたのは奇跡に近いだろう。

 たまたま吹いた風の方を向けば、そこには砲撃を放つ自分と同じ顔の存在がいたのだ。

 

「っ、しつこい!」

 

 そこからが命を賭けた本当の逃走劇の始まりだった。

 白衣の自分とは違い、ゴシック調の服をベルトで縛り上げた特殊な衣装のソルシエラが五人、追い続けている。

 

「ショット」

「きゃっ!?」

 

 逃げ道を塞ぐように目の前に砲撃が落ちる。

 ソルシエラが見上げると、頭上に既に迫っていた。

 

「どうして私を捕まえようとするの!? 貴女達だって私と同じでしょ! この計画は絶対に間違っているよ!」

「ショット」

「わっ……もう! ちょっとだけ痛くするからね!」

 

 ソルシエラは赤い大鎌を構える。

 すると、ソルシエラ達はその大鎌を見て一度動きを止めた。

 

 が、すぐに再び攻撃を再開する。

 

「「ショット」」

 

 放たれる砲撃は二つ。

 空中より放たれた砲撃が左右同時にソルシエラへと迫る。

 

「お願い、力を貸して」

 

 赤い大鎌が脈動し、辺りに魔力を含んだ風を巻き起こす。

 それは彼女の周囲に竜巻を起こすと、魔力砲から身を守った。

 反撃はそれだけにとどまらない。

 

「えいっ!」

 

 大鎌が乱雑に振るわれる。

 すると、風が刃となり空中にいる二人のソルシエラを撃ち落した。

 

「次っ」

「スラッシュ」

 

 竜巻が裂かれ、中に別のソルシエラが飛び込んでくる。

 彼女がそれを寸前で受け止めると、大鎌の柄が自動で伸び、まるで触手のように動きソルシエラの足を縛り上げ、遠くに放り投げた。

 

「えっ、そんな機能あるの!? ありがとう!」

 

 大鎌を撫でて、ソルシエラは再び向き直る。

 荒れた道路の真ん中にソルシエラが立っていた。

 その無機質な目で彼女を見つめながら、大鎌の柄に取り付けられた巨大な砲身を向ける。

 

「チャージ」

 

 収束砲撃が放たれる。

 それを直感したソルシエラはすぐに動き出そうとする。

 が、身体は自由に動かなかった。

 

「チェイン」

 

 背後から別のソルシエラの声が聞こえ、魔法陣から現れた鎖がソルシエラを縛り上げる。

 

「っ!?」

 

 縛り上げられたソルシエラは振りほどこうと藻掻くが、それでも強固な鎖は決して解けない。

 

「ど、どうしよう」

 

 大鎌は手から零れ落ち、目の前に転がっている。

 ソルシエラはそれを取ろうと必死に手を伸ばすが、鎖がそれを許さない。

 鎖がより縛り上げ、彼女を宙へと吊るしていく。

 目の前では既に収束砲撃の準備が終えられていた。

 ソルシエラであるならば、この後どうなるかなど考えずともわかる。

 

「……皆、ごめんなさい」

 

 自分だけが気が付いた世界の危機を知らせること。

 それが彼女の果たすべき使命だった。

 しかしそれは、生まれたばかりの彼女には荷が重すぎたようだ。

 

 鈍い銀の光は全てを否定するように輝きを増し、やがて引き金が引かれた。

 

「ブラスト」

 

 強力な一撃が放たれ、辺りを眩く包む。

 廃ビルをいくつも余波だけでなぎ倒し迫る光を前に思わずソルシエラは目を閉じ――。

 

「マーちゃんズ」

 

 砲撃の音すらかき消す轟音が、全てを吹き飛ばした。

 熱波と衝撃が収束砲撃を完璧に飲み込み、あまつさえ押し返していく。

 

「……え?」

 

 恐る恐る目を開けると、そこには自分を守る様に立つ二人の少女がいた。

 一人は見覚えがある。

 紫色の髪に、どこか気だるげな眼。

 頭の上に乗せた蛙は、彼女のトレードマークだった。

 

「クラム……!?」

「お、私の事を知ってるし会話もできる。やっぱり、この子は他と違ったか」

 

 クラムがソルシエラへと振り返ると同時に、更に激しい爆発が巻き起こった。

 それは辺りにいた他のソルシエラを全て焼き尽くし、灰すら残らない程に吹き飛ばす。

 

「んーと、取り敢えず……」

 

 鎖が小さな爆発により破壊され、ソルシエラは落下する。

 それを受け止めて、クラムは笑った。

 

「おかえりで合ってる?」

「あ、えっと……」

 

 その一言で、ソルシエラは察する。

 おそらく彼女が求めていたのは自分ではなく、本当のソルシエラなのだと。

 

「わ、私は」

「……あー、ちょっと違うっぽいな」

「え、マジ?」

 

 クラムはソルシエラを抱きかかえたまま、リンカと話している。

 誤解をされる前に、言わなければならないとソルシエラは意を決して告げた。

 

「あの! クラムちゃん……私は、その、ソルシエラだけど……記憶が無くて……その……」

 

 その言葉でクラムは色々と理解した様子で、複雑そうな顔をした。

 がその顔をソルシエラに見られる前に、人吞み蛙がぺたりと顔面に張り付く。

 

「…………嘘でしょ? じゃ、じゃああの時の」

「……うん」

 

 少しの沈黙が流れる。

 が、クラムは少し考えてからゆっくりと空を見上げて告げた。

 

「どうなってんだこれ……」

 

 彼女の視界には蛙の腹しか映っていない。

 

 

 

 

『我の武器、もう少し強くても良いな……。なあなあテム子、衣装とか作って欲しいのじゃ。我、そういうのわからんからお願いしたいのじゃ』

『えぇ……無垢シエラに新衣装をあげるんですか?』

『お願いじゃ。我だけ赫牙形態お披露目できなかったんじゃぞ? 先生たちもテム子も持ってるのに……我だけ無しは悲しいのじゃ』

『もう、仕方ないですね……』

『テム子ー!』

『準備してあげますから、それよりもこっちで黒幕の思考誘導をしますよ。定期的に続けないと、()()()()()されるんですから』

『そうじゃったな! それじゃあ行くのじゃ!』

 

 

 

 

 

 

 廃都市の遥か地下。

 ダンジョン空間であるが故に、主は自由にそこに基地を創り出すことが出来ていた。

 警報や監視網も当然、己の意志のまま。

 故に、一人のソルシエラが脱走を図ろうとした事に彼は気が付いていた。

 

「……素晴らしい」

 

 モニターには砂嵐だけが映されている。

 古びて傷ついたメガネのレンズが砂嵐を反射して妖しく輝いていた。

 

 年齢は30半ばだろうか。

 所々に白髪が混じっており、顔の片側は大きく焼けただれているが、それでも若さの欠片が彼にはあった。

 

「他の個体とは違い、自分で技を行使し戦えていた」

 

 先ほどまではソルシエラ達の戦いをリアルタイムで映していた監視用のステルスドローンは、爆発に巻き込まれて破壊された。

 

 が、そんな事は些細な事だ。

 今の彼には、希望が目の前に在るのだから。

 

「ようやくだ! ようやく俺の研究が実った。こいつらのような出来損ないじゃない! 意思を持った人間としてのソルシエラの完成だ!」

 

 モニターの明かりだけが照らす部屋の中には、彼の指示を待つ無数のソルシエラがいる。

 

「おい、ソルシロイド共、アレは絶対に捕まえろ。殺しはするな。それと……あの探索者達もだ。アレは本物をおびき寄せる餌にもなる」

 

 男は興奮のままに立ち上がる。

 が、ふと気が付いたように呟いた。

 

「あんな大鎌、作ったか……?」

 

 彼女が握っていたのは、赤い大鎌だった。

 男はずっと彼女の事を監視していたから、それが大鎌の生成室で入手したものだとわかっている。

 しかし、あんな特徴的な物を作った覚えはない。

 

「どういう事だ……あんなものを俺は――っ」

 

 と、その時脳裏に声が響く。

 

『のじゃ……のじゃ……(威光)』

『先輩、のじゃはいらないです(小声)』

『アッ……聞こえるか、我が眷属』

 

 それは、ここ数か月の間彼の脳内に響くようになった声だった。

 最近になって様子がおかしい時があるが、それでも男は恐ろしさの前にひれ伏し何も気が付かない。

 

「っ、聞こえております。我らが神よ」

『そのまま研究に励むのじゃ……あ、のだ。わかったな』

「はい! この松場、必ずや貴方様の顕現を実現させます。その際には、俺の命だけは助けていただきたく……!」

『当然だ。約束は違えぬ。故に、貴様も忘れるな』

「は、はい!」

 

 虚空に向けて松場は頭を下げる。

 それ以降、声は聞こえなかった。

 

「最近、よりはっきりと言葉が聞き取れるようになったな。これもあの方の顕現が近いという事だろうか」

 

 今まで聞こえていた声は、言語という規則性を越えた先で情報だけを流し込む形で強制的にコミュニケーションを行っていた。

 が、最近は言葉を使うようになっている。恐らく、この世界の言語を習得したのだろう。

 

「早くしなければ。……ああ、そうだった。あの武器も俺が作ったんだ」

 

 唐突に、まるで差し込まれたように記憶が蘇る。

 赤い大鎌は、彼がとあるダンジョン主の力を模倣して作り上げたものだった。

 

「天上の意思に一匹で反乱を起こしたという太古の怪物の力……あの個体はそれすらも扱えていた。今まで誰も使えなかったというのに」

 

 模倣こそ成功はしたが、強力すぎる故今までは封印されていたのだ。

 しかし、それを扱えるという事はそれだけの実力を持ったソルシロイドであるという何よりの証左である。

 

「必ず、あの個体を育て完成させ、増産しなければ。そうして俺だけでも生き残って……!」

 

 松場は暗がりで笑う。

 その首元に小さなムカデがいる事に、彼は全く気が付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我、たぶんのじゃロリ以外は向いてないのじゃ。もう癖でのじゃロリになっちゃうのじゃ』

『かといって、外から接続していたアレみたいに脳内に直接情報を流してはいずれ死んでしまいますよ。次もお願いしますね』

『のじゃ(了承)』

 

 

 

 

 

 

 

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