【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
廃ビルの一室で、クラムとソルシエラは向かい合っていた。
拡張領域から取り出した座布団を敷いて、二人は背筋を伸ばしてお互いを見ている。
「あ、あの……じゃあ改めて……久しぶりだね、ケイ」
「あ、うん……その……」
「「……」」
改まって向き合ってしまうと、どうにも気恥ずかしさから言葉が詰まってしまう。
と言っても、話したい事が山のようにあるのはソルシエラだけなのだが。
(まさかこんな事になるなんてなー)
リンカは少し離れたところで二人を観察していた。
(話には聞いていた記憶喪失状態のケイ。それが何故ここにいる? いや違うな……どうやってこれ程の物を再現した?)
偽物である。
それをリンカは即座に看破していた。
何よりも彼女をソルシエラたらしめる大鎌が無い。
0号が不在であることが何よりも彼女がソルシエラ本人ではない証拠だった。
(こういう時0号は必ず出張ってくる。本物だったら、どれだけ問題がシンプルだったことか)
大量に現れたソルシエラの偽物と記憶喪失状態のソルシエラ。
より状況は複雑になっている。
「元気だった? ミロク先輩やトアちゃんは……あ、そうだ」
ソルシエラは思い出したように、自分の最後の記憶をたどりこう問いかけた。
「ネームレスは救えたの?」
「……うん」
「そっか、よかった。……本当に良かった」
消える間際、それだけが彼女の最後の心残りだった。
自分では届かないとわかったからこそ、彼女は星に願いを託した。
けれど、それは心残りがなくなったわけではない。
ただ一人、孤独に生きるネームレスをソルシエラは最後まで気に掛けていたのだ。
「貴女はどこまで覚えているの?」
「……ネームレスを皆で助ける所まで。でも、私じゃ届かないから本当の私にお願いしたんだ」
「本当の私?」
「クラムちゃんが知る那滝ケイだよ。強くて頼りになる方」
それをソルシエラは自嘲や謙遜ではなく事実として語っていた。
「あの私ならきっと救ってくれると思っていたけど……良かった。救えたんだ」
「ケイ……」
ソルシエラの一挙手一投足に感情が振り回されているクラムにため息をつき、冷静なブレイン担当は手を上げた。
「あのー、そろそろ本題に入って良いかなぁ」
「あっ、ごめんね……えっと貴女は」
「…………吾切リンカ。前はソルシエラの恋人でしたー」
「えぇっ!?」
「てめえ嘘つくなぁ! 恋人は私だろうが!」
「えぇっ!?」
「あんたも嘘ついてんじゃないよ、ったく。で、その記憶喪失のピュアピュアな無垢シエラちゃんはどうしてまたこの世に生まれたかわかる?」
「無垢シエラ……?」
「おいケイの事は花のように扱えよ!」
「こいつキモいな」
クラムでは話にならないと理解したリンカは、話の主導権を握る事に決めた。
怒ったクラムが掴みかかろうとしているが、手足に人吞み蛙達がしがみつき何とか抑えている。
「元々ここに移動したのは情報を整理するためだっつの。無垢シエラちゃんは他のソルシエラと戦っていたけど、どうして?」
「あれはソルシロイドって言うんだ。松場博士が作った兵隊だよ」
「松場博士? ……クラム」
「知らん」
蛙の山から顔だけ出して、クラムは否定する。
「私を含め、ソルシロイドは皆とある天使の権能の残骸から作られたんだ。第五の天使の持つ対象を模倣する権能で」
「……やっぱり文化大祭の時のあれか。で、目的は」
その問いかけに、無垢シエラは少しだけ間を置いて刻み込むようにこう言った。
「とある神の降臨を手助けする事と、他の神々の力の簒奪」
「神……?」
「うん。この辺はインストールされた知識だけだから詳しくは知らない。けど、この世界の外にいる神々は降臨の機会を窺っているらしい。松場博士は、そのうちの一柱に魅入られたんだ」
「……つまり、その胡散臭い話の為にソルシエラとして生まれたの?」
「そうなるね」
リンカとクラムは視線を交錯させる。
二人の答えは決まっていた。
「松場ぶっ殺す」
「賛成。爆破するしかねえ」
「二人共、松場博士を止めるために手を貸してくれるの?」
「当たり前だろ、ケイ。美しい世界を守る事でネットの一部界隈じゃあ有名なこの私に任せな! 最近、めっちゃ特訓(強制)したから中々に強いよ!」
「無垢シエラちゃんに会えて少し舞い上がっているみたいだけど、やる気はあるから許してやって」
「ふふっ、うん。クラムちゃんは頼りになるって知っているから」
「……お、おう」
「へっへーん! 聞いたか? 私は頼りになるんだよ!」
蛙の山ごともぞもぞと動いてリンカの隣に来たクラムは自慢げに笑う。
無垢シエラはその光景を見てニコニコと笑っていた。
(なんか、私が知ってるケイよりもピュアでやりづらいな……。まるで小細工を弄する私が悪い人みたいだ……)
知人の姿を騙りクラムを懐柔、油断させる。
リンカはその可能性を最後まで危惧していた。
が、こうして話してみれば、それがどれだけ荒唐無稽な話であったかが分かる。
目の前の少女はあまりにも純粋だった。
「じゃあ、早く行こう。松場博士が神様を呼び出す前に!」
「うん、わかったよ。そのクソ野郎の所まで案内して」
無垢シエラに連れられて、クラム達は移動を開始した
他のソルシロイドを警戒して進むため、歩みは遅いが仕方が無い事だろう。
「その神様って、どんな奴かわかる? 天使に近いとか、あるいは……天上の意思の同種だとか」
無垢シエラは申し訳なさそうに首を横に振った。
「あんなの何体もいてたまるかよ」
「……ずっと疑問だったんだよね。六つの厄災と選定。銀の黄昏は、あの地獄を天上の意思が人類を見定める傲慢なテストだと言っていた。何故、その必要があったんだろう」
それは全ての厄災の根本の話。
何故、天上の意思はそうする必要があったのか。
「滅ぼすのが目的ではなく、限られたリソースを管理しつつ人類を育て上げることが目的だったとしたら――選定を終えた私達は何と相対するんだろう」
「……それが今回の神様だと?」
「可能性はある。だから降臨する前に止めないとね」
三人は暗闇の中を進む。
その後ろを這いまわる小さなムカデには誰も気が付かなかった。
『蛙が多くて隠れるのが大変じゃ……』
『先輩はうっかりが多いですからね、私がしっかりしないと』
『流石テム子は頼りになるのじゃぁ』
『! そうでしょうそうでしょう! ふふん!』