【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第493話 人吞み蛙は離れない

 ビルの中を少女達は進む。

 本来であれば真暗で一歩も進めないような暗所でも、明かりがあった。

 そう、人吞み蛙である。

 

「……あれ光るんだ」

「ねー」

「いや、お前はせめて説明する側でいろよ。なんで共感してんだよ」

「だって私もよく仕組みを知らないし。ちょっと前からマーちゃんズがめっちゃ器用になったんだよね」

「器用で済むか、あれ……」

 

 一匹の蛙がぴょんぴょんと跳ねて先陣を切る。

 その動きに迷いはなく、周囲の安全確認まで済ませていた。

 

「凄い……流石はクラムちゃんの蛙さん達だね!」

「へへっ、だろ? これ全部私の愉快な仲間ね。まあ、中々やんちゃで困ってるけど。私じゃなかったら制御できないだろうって思うわ(笑)」

「お前さっきこっち側だっただろ」

「流石クラムちゃん」

「無垢シエラちゃんは無垢シエラちゃんで現実見ようねー。あれ、メンヘラクソニートだから」

「は? 配信で投げ銭貰ってるからニートじゃないし。そもそも学生だし」

 

 主の主張を補強するようにいつの間にか現れた人吞み蛙達が足元でペンライトを振る。

 その光景こそ可愛らしいが、中心にいる主が俗物過ぎた。

 

「クラムちゃん、配信しているんだ」

「そう。フェクトムの広報も兼ねてね」

「その……リンカさんは配信仲間?」

「うっ」

 

 まず一つ、敬語かつ距離があった事。

 そしてクラムの同類扱いされたこと。

 この二つが決定的にリンカの心をえぐる。

 それを見てクスクス笑っている自称理解者が何よりも憎らしい。

 

「おい何笑ってんだ」

「べっつに。ケイ、リンカは呼び捨てでいいよ。そして配信仲間ではない。うーん、強いて言うなら……舎弟?」

「おう喧嘩か」

「掛かってこいよ無能力者ちゃんよぉ。こっちはいくらでも爆発でき――むぐっ」

 

 顔に次々に人吞み蛙達が張り付き主を止める。

 そして一匹が丁寧にリンカへと礼をした。

 まるで保護者のようなその行動にリンカは思わず軽い会釈で返す。

 

「あ、どうも。行こうか、無垢シエラちゃん」

「あ、うん」

「もごっ、もごご……」

 

 完全に人吞み蛙達により埋もれたクラムは、塊となって二人の後を追従する。

 その間も彼女に発言権はなかった。

 

「無垢シエラちゃん、そう言えばソルシロイド以外に警戒するべきものってある? ヤバそうな兵器とかあるなら先に聞いておきたいな」

「兵器……」

 

 無垢シエラは自分の脳内を探すように唸り、そして何かを思い出したように間もなく顔を上げた。

 

「そう言えば――」

「ショット」

 

 ビルの外、遥か遠くの屋上で閃光が煌めく。

 瞬間銀光が三人へと迫るが、我先にと飛び出して行った人吞み蛙達が爆発を引き起こし爆風による強固な盾を作り上げた。

 

「チッ、バレたか。走るよ無垢シエラ。クラムも遊んでないでさっさとして」

「わかってるよ。マーちゃんズ、頼んだよ!」

 

 数十匹の人吞み蛙達が跳ねて返事をすると窓の外へと飛び降りていく。

 そして十秒後、ビルの屋上で激しい爆発が起きた。

 

「撃ってきたって事はあいつだけじゃないな。リンカ、どうする!」

「どうするもこうするもあるか! さっさと叩きのめして、研究所の入り口まで走るんだよ!」

「わかりやすくて助かるなぁ!」

 

 気が付けば、ビルの外や背後、別のフロアなどで次々と爆発が起こっていた。

 辺りを警戒していた人吞み蛙達が戦いを始めたのだろう。

 

(今回派遣されたのがクラムでよかったな。こういう時は特に頼りになる)

 

 一人で数千を超える軍と同価値であると言っても過言ではないその異能は、この状況で十二分にその真価を発揮していた。

 魔力がある限りは無尽蔵かつ、変幻自在の爆発は決してビルを破壊しない。

 的確に、主に仇成す者だけを消し炭へと変えていく。

 

「スラッシュ」

「っ、目の前!」

 

 爆発を潜り抜けて目の前に現れたソルシロイドの大鎌を無垢シエラの持つ真紅の大鎌の柄が触手のように伸び受け止める。

 不意を突かれた一撃が止められ、ソルシロイドは次の瞬間に人吞み蛙に張り付かれて爆破した。

 

「あっぶねー! その鎌便利だね!」

「よ、良かった。ありがとう……えっと、名前はなんなんだろうこの子」

「そういうのは後から考えよう。ほら、行くよ!」

 

 三人はビルの奥へと駆ける。

 その間も戦いの音はより一層激しさを増し続けていた。

 異常だと感じるほどに。

 

(無理だとわかりきっての狙撃に、自分たちの存在を知らせるようなマーちゃんズとの戦い。明らかに何かを隠そうとしてやがる。これは……)

「こっちです。ここの先に――」

 

 一歩、無垢シエラが足を踏み出したその瞬間。

 地面が淡い光を放ち、一つの魔法陣を形成した。

 と同時に声がどこからともなく響いてくる。

 

「テレポート」

「え」

 

 次の瞬間には無垢シエラの姿はどこにもなかった。

 同時に明かりが消え、辺りが一瞬静寂に包まれる。

 

「無垢シエラ!?」

「ケイ!」

 

 次の人吞み蛙が光った時には、既にそこには誰もいなかった。

 それどころか、今まで聞こえていた戦闘の音も消えている。

 まるで目的は果たしたとでも言うかのように、辺りには静寂だけが残されていた。

 

 

 

 

 

 眩い閃光に視界が眩む。

 次に目を開けたときに無垢シエラの前に広がっていたのは無機質な白い壁が覆う研究所だった。

 

「っ!?」

『おっと、動くな』

 

 声がどこからとなく聞こえ、同時に複数のソルシロイドが現れる。 

 彼女達は無垢シエラを囲むように大鎌を向けていた。

 

「その声……松場博士ですね」

『そうだ。ふむ、記憶のインストールも無事為されているようだね』

 

 どうやら部屋の四隅に設置されたスピーカーから声が響いているらしい。

 無垢シエラの記憶の中に、この部屋の情報はなかったがそれが戦闘にも耐えうる強固な檻であることは理解できた。

 

「私達が貴方を止めます」

『止める? 我らが神に逆らうのは大罪だぞ。まずは思考の洗浄からだな。君は妙に自我が強すぎる。少々従順になって貰おう』

「何を――」

 

 無垢シエラの体に幾重にも鎖が巻き付けられる。

 赤い大鎌も最初は触手を伸ばし抵抗していたが、ソルシロイドの放った砲撃が直撃し地面を転がった。

 

「やめてっ! その子は私を助けようとしてくれただけなんです!」

『流石は古き時代の反逆者を模った兵器だ。それもまた、じっくりと解析しよう』

 

 カタカタと震えた大鎌は、やがて光の粒子となり無垢シエラの腕に黒いダイブギアとして装着される。

 どうやら戦えるだけの力は残っていないらしい。

 

『少しの間準備をする必要がある。そこで大人しく縛られておいてくれ』

「準備……?」

『君一人に全ての時間を割くことはできない。俺は早く神の器を完成させないといけないんだ』

「……まさかアレを本当に起動させるんですか!?」

『その知識も無事にインストールされているみたいだね。そうだよ、君達ソルシロイドの王であり、外より来る神の器。かの王の降臨は近い』

「やめてください! そんな事をすれば――」

『道具と問答をする気はない。少し黙ってろ』

 

 それを最後の言葉としてスピーカーからは何も聞こえなくなった。

 暫くの間無垢シエラは呼びかけ続けたが、応答はない。

 間もなく、ソルシロイド達も無垢シエラを残して部屋を後にした。

 ここで無垢シエラを監視し続けるだけの余裕はないのだろう。

 幾重にも縛られた彼女にはもう何も出来ないと判断したようだった。

 

「……っ、クラムちゃんごめんなさい」

 

 床にへたり込み、無垢シエラは自責の念からそう呟く。

 と、その時頭に重みを感じた。

 

「え?」

 

 それは頭から無垢シエラの目の前まで跳躍し、存在感を見せつけるように動く。

 淡い光を放つ機械仕掛けの蛙だ。

 

「マーちゃんズ! 私についてきていたの!?」

 

 人吞み蛙は誇らしげに跳び続ける。

 それはこの状況が決して絶望ではない事を意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マーちゃんズが優秀すぎるので少しばかり手を加えて転移させたのですが……ついてくるんですね』

『見間違いでなければ、さっきまで透明だったのじゃあの蛙』

『ステルス機能も!? どうしてこんなに多彩に……まさか』

『何かわかったのじゃ?』

『いえ、まだ推測の域を出ません。先輩を混乱させたくないのでやめておきましょう』

『それやめろって主殿達にも言われておったじゃろて』

『それよりも先輩こっちも少しだけ体を動かしますよ。松場博士の用意した器にその神とやらと先輩、どっちが入るかの決戦です。準備は良いですか?』

『我は臓物が啜れればそれでよい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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