【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第497話 無垢なる星は逃げ出さない

 光る蛙は何度もぴょんと飛び跳ね、無垢シエラを元気づけようとしているようだった。

 最初は捕まった事に落ち込んでいた無垢シエラだったが、その可愛らしい姿に気が付けば緊張や焦りはどこかへ消えている。

 

「ありがとう、マーちゃんズ。……あれ、この場合はマーちゃん?」

「マーチャンズ デイイッス」

「しゃ、喋れたんだ」

「オハナシ! オハナシ!」

 

 子供のような甲高い声でそう告げながら、人吞み蛙は無垢シエラの手首へと近づく。

 そして、何度もその赤い腕輪を叩いた。

 

「この腕輪が気になるの?」

 

 成り行きで手に入れた武装だったが、それは彼女の想像以上に活躍してくれた。

 触手を伸ばした攻撃は自律武装に近しいものがある。

 だからだろうか。

 人吞み蛙はそれを興味深そうに小さな手で何度もペシペシと叩いていた。

 

「キアイ!キアイ!」

 

 まるで腕輪に喝を入れるように何度もそう叫ぶ人吞み蛙。

 するとそれに反応するように腕輪が何度か点滅し、深紅の大鎌へと変化をした。

 

「わあっ! また私と一緒に戦ってくれるの?」

 

 大鎌は答えない。

 しかし腕にまるで握手のように巻き付いた柄の触手が答えなのだろう。

 今までの様な派手な動きは出来ないだろうが、武器としての役割は十分に果たせそうである。

 

「よし、じゃあ脱出しよう。行こう、マーちゃんズ」

「ウス」

 

 肩にぴょんと飛び乗り人吞み蛙は扉を手で示す。

 すると間もなく、扉が勢いよく開かれた。

 

「流石に監視しているよね。うん……やろう」

 

 部屋の中に入ってくるソルシロイド達は既に大鎌を構えて戦闘態勢だ。

 かく言う無垢シエラもまた、既に戦う準備を終えていた。

 

「お願いっ!」

 

 大鎌の柄から伸びた触手がソルシロイドへと向かって行く。

 室内において大鎌そのものはあまり意味をなさない。

 重要なのは、魔法など小回りの利く武器や手段であった。

 その点、無垢シエラの持つ大鎌は例外的に室内でも扱うことが出来る武装である。

 

「ショット」

「チェイン」

 

 触手を無垢シエラが放つと同時に、砲撃と銀の鎖を行使しようとソルシロイド達も動く。

 が、突如として無垢シエラの肩から一匹の蛙が飛び出してきた。

 

「ヒカルヨ」

 

 言葉に反応して無垢シエラは目を瞑る。

 反応が遅れたソルシロイド達は、人吞み蛙により放たれる部屋を満たさんばかりの眩い光の餌食となった。

 

「っ」

「視界に異常を検知――」

 

 閃光弾のような役割を果たした人吞み蛙は再び無垢シエラの肩に乗る。

 そして誇らしげに一度跳ねた。

 

「ありがとうマーちゃんズ」

「ウス」

 

 目を抑えるソルシロイド達を触手が次々と叩きつけ、意識を奪っていく。

 即席だがコンビネーションは完璧の様だ。

 

「よし。このまま行こう」

 

 一人と二機はそのまま部屋を脱出した。

 部屋を出てすぐ、廊下にけたたましいサイレンの音が響き渡る。

 

「っ、今回は間違いなく私達が逃げ出したからだよね」

 

 廊下の奥からいくつも足音が聞こえてくる。

 戦闘は避けられないだろう。

 隠れられそうな場所も見当たらない。

 

「っ、私だってフェクトムの一員なんだ……!」

 

 無垢シエラは大鎌を握り直し廊下を睨む。

 間もなく現れたソルシロイド達もまた無垢シエラの位置を把握していたようで、今度は目くらましの猶予もなく攻撃が放たれた。

 

「ショット」

「っ!?」

 

 廊下の曲がり角から飛び出してきてすぐに一体のソルシロイドが砲撃を放つ。

 狭い廊下で放たれる回避不能の砲撃。

 対して無垢シエラが取った行動はいたってシンプルである。

 

「鎌さん、お願い!」

 

 魔力を刃に込め、彼女は前へと駆けだしていた。

 収束斬撃と呼ぶには程遠いが、大鎌は主の願いに応えるように淡い真紅の光を刃に宿しその砲撃を両断する。

 

「このまま行こう! マーちゃんズ!」

 

 砲撃を裂いて進んだ先で再び人吞み蛙が光り輝き視界を奪う。

 一秒でも隙が生まれれば、ソルシエラを模して造られた体は決してそれを見逃さない。

 

「皆、ごめんなさい!」

 

 機械と等しい彼女達へと謝罪を口にしながら、無垢シエラは次々とソルシロイド達をなぎ倒していく。

 二機の力を借りながら、無垢シエラは着実に前へと進んでいた。

 

(こんな時、0号がいれば――)

 

 そんな事を考えて、無垢シエラは即座に思考を振り払う。

 

(私はただのクローンなんだ。ソルシエラのようにはなれない。自分に出来ることをしないと)

 

 ソルシエラではないが、今彼女はソルシエラと同等の活躍を世界に望まれていた。

 暗躍する組織を壊滅させ、野望を防ぐ。

 孤独という訳ではないが、それでも生まれたばかりの彼女に背負わせるにはあまりにもそれは荷が重い。

 それでも彼女が走るのは自分の存在価値を証明するためである。

 

(クラムちゃん達の役に立たないと……!)

 

 何者でもないが故に、今の彼女は無意識の内に何者かになろうと必死だった。

 小さな英雄願望とでも言うべきだろうか。

 世界を救う事で彼女は自分の胸にぽっかりと空いている穴を埋めようとしていたのである。

 尤も、それを察しているのはリンカただ一人だったが。

 

「また出た……!」

 

 湧き上がる様に姿を現すソルシロイドを無垢シエラは打倒していく。

 その動きは次第に洗練され、かつての戦いの時に得た感覚を取り戻し始めていた。

 

『――そのまま前に進んで。恐れに体を支配されては駄目』

 

 かつての星の声が、今も無垢シエラの体に宿っている。

 

「もっと前へ!」

 

 一歩進むたびに、身体は想像の通りに動いた。

 砲撃を回避し、斬撃を触手で受け止め、転移を防ぐために人吞み蛙を輝かせる。

 

 全てがこれまでの経験と理屈により構成された無駄のない戦い方。

 それが洗練されればされるほど、無垢シエラは同時に実感する。

 

(私じゃ……ソルシエラには……!)

 

 想像通りに動く体は、理想にはほど遠い。

 彼女が理想とするソルシエラは、そもそもこんな所でソルシロイド達を一体一体相手にしない。

 鼻歌交じりに全てを蹂躙してしまうだろう。

 今の無垢シエラのように、相手の挙動を一々注視したりはしない。

 

(っ、それでもこの事件を解決できれば、私は認めて貰えるかもしれないから……!)

 

 自分をケイと呼ぶあの紫髪の少女。

 記憶の無い自分に寄り添ってくれた彼女にこそ、無垢シエラは自分という存在を認めて貰いたかった。

 ソルシエラではなく、ただ一人の少女として。

 

「マーちゃんズ、信号ってクラムちゃんに発信できる?」

 

 人吞み蛙は一度軽く肩の上で跳ねると、何度か点滅を繰り返す。

 おそらくは信号を送っているのだろう。

 

「ありがとう。……じゃあ、このまま松場博士の所に行こう。時間がない」

 

 松場博士の野望を止める為、そして自分の存在証明のために。

 彼女は最適ではなく最短を選んだ。

 本来であればクラム達と合流してから向かうべきであるこの事件の終着点。

 そこへ彼女は乗り込むことを決心していた。

 

「道は頭の中にダウンロードされてる。このまま私達がクラムちゃん達の道しるべになるんだ」

 

 進むたびに数を増やすソルシロイドを乗り越え、無垢シエラは最奥へと急ぐ。

 そうして彼女が最後に辿りついたのは、一際大きな部屋であった。

 

 いや、もはや部屋と呼ぶには広すぎる。

 ダンジョン空間であることを利用して無理やり押し広げられたそこは、天井は見えず薄暗い闇が広がっている。

 部屋の中央に向けて大量のチューブが伸び、淡い光と規則的な電子音の中に それは鎮座していた。

 

「……これは」

 

 二十メートルはあろうかという体躯を支える強靭な二本足に、機械部品により蛇腹で再現された尾。

 上あごこそ大きく鋭利な牙が生えそろっているが、下はまるで欠けたように何もない。

 再現途中の肉食恐竜のようなフォルムのそれは、しかし今現在ですら大きな存在感を放っていた。

 

 これこそ、ソルシロイド達が忠誠を誓う王、彼方より来る新たな支配者の器。

 その名を。

 

「――セラノエル。どうだ、美しいだろう」

「……松場博士」

 

 セラノエルと呼ばれたその兵器の背後から、白衣の男が現れる。

 その目は大きく見開かれ、瞬きを一切しない。

 僅かに焦点が合っておらず、口元には冷静な声とは裏腹に笑みが浮かび上がっていた。

 

「ようこそ、歓迎しよう。ソルシロイド第2001号。君にはセラノエルを見る権利がある」

 

 誘い込まれたと悟った無垢シエラが振り返った時には扉は固く閉ざされていた。

 逃げ道はもう存在しない。

 

「……貴方を止めます」

 

 その宣言の声が小さく震えていることに、彼女は気が付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まだ器に入っちゃ駄目なのじゃ?』

『いいですけど、先っちょだけですよ』

『わかったのじゃ!』

『ああっ、そんなに勢いよく入らないでください! もうっ、ただでさえ粗末な器なんですから、もっと丁寧に扱わないと』

 

 

 

 

 

 

 

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