【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第499話 噓つき蛙は裏切らない

 脈打つ鎧を纏うその姿は、間違いなく新たな星の輝きである。

 目にする者を魅了し、あるいは狂わせる無垢にして鮮烈な輝きだ。

 特に、松場博士にとってそれは多くの意味を持つ。

 

「あ、あり得ない……。奴と……赫夜牟と融合したのか? あれは能力の再現を限定的に行っただけの代物。それにお前もソルシエラではない。干渉の力を持つだけの出来損ないの筈だ」

「――確かに、私はソルシエラじゃないのかもしれません。ケイでもないし、フェクトム総合学園の一員でもないのかもしれません」

 

 大鎌から無数の触手が生え、鋭利な刃を先端に生成する。

 それらは独自の意志を持つようにゆらゆらと揺らめき、セラノエルを品定めしているかのようだった。

 

「でも、ここから何者かになることは出来ると思うんです。2001号じゃない、ケイでもソルシエラでもない。新しい星詠みで、新しい私。これは、その第一歩なんです」

「……生まれ変わったつもりか? ふざけるなよ、作り物風情が!」

 

 松場博士は無垢シエラを指さし叫ぶ。

 

「セラノエル! 奴の四肢を分断し、脳を取り出し、自分がどれだけ矮小な存在かを教えてやれ!」

 

 雄叫びと共にセラノエルが駆け出す。

 その口からは既に光が溢れ出し、今まさに放たれた。

 

「っ――」

「ははっ、直撃だ馬鹿が! ソルシエラを再現した神の器に、紛い物が勝てると思ってるのか!」

 

 無垢シエラへと直撃し、激しい爆発が起きる。

 松場博士はその光景を見て、まるでショーでも見ているかのように笑いながら手を叩いた。

 しかしそれは、空気を裂く鋭い音と共に途切れる事になる。

 

「…………あ?」

 

 頬が唐突に熱くなり、何かが垂れているのに気が付いた。

 そっと指先で拭ってやると、そこにはべったりと自分の血が付着している。

 

「っ、な、なんだ!?」

「ごめんなさい、相棒が張り切っちゃったみたいで」

 

 空を裂く音が更に増す。

 そして間もなく、黒煙は払いのけられそこには変わらぬ姿で無垢シエラが立っていた。

 いや、よく見れば鎧やスカートの隙間から細い触手が伸び、彼女を守る様に半径二メートル程を蠢いている。

 そのうちの指先から伸びた一本の触手には血が付着しており、松場博士に何をしたのかを理解させるには十分だった。

 

「っ、なんておぞましい姿だ。神の御前にそのような姿を晒させるわけにはいかない! セラノエル、本気で潰せ。脳さえあればあとは俺がなんとかする!」

 

 再びセラノエルが動き出す。

 その足元に魔法陣が浮かび、巨体が姿を消した。

 同時に無垢シエラの周囲には銀の鎖が浮かび上がり、彼女を拘束せんと射出される。

 頭上では転移を終えたセラノエルがその尾を振り下ろしていた。

 

 転移と拘束魔法を同時に使用した完璧な攻撃が、無垢シエラへと迫る。

 しかしそれでも無垢シエラは微笑んで、大鎌を見つめる。

 

「お願いできるかな」

 

 答えるように全てが脈打つ。

 刹那、放たれた銀の鎖が触手によって撃ち落され、セラノエルの動きが突然に緩慢になった。

 

「成程。それがあなたに出来る事なんだ」

「なっ……セラノエルが……!?」

 

 まるでスローモーションのように変化した尾を、悠々と徒歩で回避した無垢シエラは振り返る。

 そして、大鎌の刃をセラノエルへと向けた。

 

「じゃあ、行くよ相棒」

 

 まるで風船のようにゆっくりと落下を続けるセラノエルへと、無垢シエラは一歩踏み出す。

 瞬間に彼女は最高速度へと達していた。

 いや、その更に上。彼女は常に自身の最高速度を更新し続ける勢いでセラノエルへと迫る。

 

「速いっ!? セラノエル、早く体勢を――」

 

 言い終わる前にその巨体は壁へと叩きつけられていた。

 それだけでは終わらない。

 壁にめりこんだセラノエルが触手により引き剥がされ、もう一度宙に放り投げられる。

 そして再びその動きが停止した。

 

「まだ終わりません!」

 

 赤い閃光が幾重にもセラノエルへと重なっていく。

 縦横無尽に研究室内を動き回る無垢シエラの動きを松場博士はもはや目で追う事など出来ていなかった。

 

「なんだこの速度は。こんなの俺のデータにはない……」

 

 それは無垢シエラだからこそ辿り着いた加速の力。

 膨大な魔力と卓越した知力により盤上を支配するソルシエラとは違う。

 持てる全てを使って勝利へと突き進む彼女だからこそ得た力だった。

 

「流石にセラノエルの回復能力は凄い。これだけ攻撃しても傷が残らないなんて」

 

 速度という圧倒的なアドバンテージを得た彼女は、その思考に考察の余裕を生み始めていた。

 現状維持でもがむしゃらな勝利でもなく、冷静に相手を分析し、着実に彼女は勝利をくみ上げていく。

 

(停滞で遅らせているのにそれでも触手の攻撃じゃ間に合わない……。もっと大きな攻撃が必要なんだ。収束斬撃……いや、必要なのは収束砲撃だね。斬るだけじゃ再生の余地を残しちゃう。圧倒的な火力で消し飛ばすしかない)

 

 自身は加速し、セラノエルは停滞させ一方的に攻撃を続けている。

 しかしそれでも殺しきるには至っていなかった。

 その理由は至って単純、ソルシエラの持つ魔法があまりにも強力すぎた為である。

 

 世間一般に知られているソルシエラの魔法とは別に、彼女が多用していたとある魔法。それは、常軌を逸した再生魔法である。

 彼女はそれを自身の寿命を無理矢理伸ばし、命を限界まで消費することに使用していた。

 本来は彼女以外は知ることがない魔法だが、松場博士は偶然にもソルシエラの再現の過程でその一端を得ていた。

 例え一端と言えども、かつてはソルシエラを生き長らえさせた魔法。その効果は実証済みである。

 

「っ、セラノエル! 何をしているんだ! この程度で手玉に取られるなんざ器として恥さらしだろう!」

 

 松場博士はそう叫ぶと、仮想ウィンドウを展開し何か操作を始める。

 間もなく研究室の扉が開き、大量のソルシロイドが入ってきた。

 

「さっさと数で押し潰すぞ。行け、ソルシロイド!」

 

 ソルシロイド達は頷き、従順に命令通りに得物を構える。

 そして各々の魔法を放ち始めた。

 

「ショット」

「っ!」

 

 放たれた砲撃をひらりと躱し、無垢シエラはソルシロイド達を視界にとらえる。

 瞬間、彼女達の動きが停止した。

 

「よし、これで――くっ!?」

 

 視界の端から何やら飛来し、無垢シエラへと迫る。

 それはセラノエルの尾であった。

 

(そっか! っ、まだ停滞の対象は限定的なんだ!)

 

 衝撃を覚悟した無垢シエラだったが、彼女を守る様に漂う触手が一斉に尾へと向かい、それを細かく切断する。

 同時に背中から一本大きな触手が生えると、研究室の端にあった柱に巻き付き一気に無垢シエラを引き寄せ移動した。

 

「ありがとう、助かった」

 

 背中から伸びた触手は答えるようにゆらゆらと揺れる。

 距離を取った彼女は改めてソルシロイドとセラノエルと相対することとなった。

 

(一体一体なら敵じゃない。けど、流石に数が多いね。この中でセラノエルだけを狙って攻撃するなんて至難の業だ。それに私じゃ殺しきるだけの収束砲撃を準備するのは時間がかかる)

 

 手にした武器が星詠みの杖ではない唯一の弊害は、高度な演算能力による魔法の肩代わりが出来ないことだ。

 これにより彼女は今、赫夜牟の持つ停滞と加速、そして触手のみでの戦闘を余儀なくされている。

 とは言っても確実にセラノエルとの実力差を縮め同等以上に至ったのだから一人の働きとしては十分だろう。

 

 故に、ここからは最後の一押しが必要だった。

 

(数と破壊力を同時にクリアできる魔法や異能……)

 

 一つだけ、彼女は思い当たる節がある。

 一人だけ、この状況を一変させることが可能な存在を知っている。

 

「きっと、来てくれるよね……」

 

 まるで星に祈る様に、彼女は天井を見上げ呟く。

 

 それに応える事が出来るからこそ、彼女もまたフェクトム総合学園の一員なのだろう。

 

「――マーちゃんズ」

 

 遥か頭上で数度響いた爆破の音。

 際限なく続く闇のようであった高い天井が破壊され、落ちてくる瓦礫と共に薄暗かった部屋に光が満ちる。

 星のように優しく輝く蛙達のその中心に少女が――クラムがいた。

 

 今や精鋭の証となった白い制服に、夜明けの空の様な美しい紫色の髪が揺れている。

 間もなくクラムは、小さな爆破を足元に広げふわりと地面に降り立った。

 

 その場にいる全員が、乱入者である彼女にくぎ付けになり動きを止める。

 

「……来てくれたんだね」

 

 気が付けば、無垢シエラは笑みを浮かべていた。

 その声にクラムはゆっくりと振り返り、渾身のドヤ顔と共にピースサインを浮かべる。

 

「お待たせ。さあ、派手にやろうぜ」

 

 無垢シエラにとっての星は、爆破とドヤ顔を引っ提げてやってきたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『のじゃ、これでもう少し本気を出しても良いな! まあクラムはそこまで強く無いじゃろうし、加減は必要じゃろうけどな! わはは!』

『確かに、現状のデータによれば人吞み蛙の爆破のみですね。しかし何でしょうかこの違和感は……やはり私の仮説が正しいとするならきっと……』

『テム子は本当にもったいぶるのが好きじゃのぉ』

 

 

 

 

 

 

 

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