【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第501話 噓つき蛙は祈らない

 蛙の合唱が青空の元に響き渡る。

 それは次第に数を増していき、やがて松場博士を取り囲むまでに至った。

 

「っ、なんなんだこれは。ただの自律兵装じゃないのか……!? ソルシロイド達との戦いではこんな能力は見せていなかったはずだ!」

「誰が全部見せるんだよ馬鹿。仮にも御景学園の奴が傍にいたんだぞ。しかも無駄に賢い奴」

 

 彼女にとって松場博士は既に敵ではないのだろう。

 彼女はあくまで気だるげに、まるでゴミ掃除でもするかのようにゆっくりと歩き出した。

 

「マーちゃんズ、行こうか。ここからは出し惜しみ無しだ」

「ハンゴロシ!」

「わかってるよ。完全に殺しはしない。ただ、最後には知り合いのこわーい執行官に引き渡すだけだ」

「くっ、そんな事させるかぁ!」

 

 松場博士はすかさず不可視の刃を放つ。

 高速で振るわれた触手による予備動作無しの即死攻撃だ。

 それは数体のマーちゃんズを切り裂き爆発を巻き起こすと、クラムへと到達する前に消失した。

 

「どんな盾も斬れる斬撃を飛ばすだったっけ? その割には私には届かないんだなぁ。爆風でかき消せるとか、根性無しかよ」

「っ」

 

 切り裂かれた人吞み蛙が光の粒子となりクラムの中へと消えて行く。

 そして間もなく、彼女のフードの中から斬られた数と同じだけの人吞み蛙が飛び出してきた。

 

(魔力により自律兵装を修復したのか……!? 確かに設計図さえあれば魔力を元に作り直せるのが自律兵装の強みだ。それを自爆特攻させるのも理解はできる)

 

 松場博士は狂気に落ちてもなお、思考を止めない人間であった。

 彼の研究に捧げた半生が、目の前の存在の異常を次々と浮き彫りにしていく。

 

(魔力による生成上限はないのか? これだけの数を生み出しているなら必ず上限がある筈だ。それに、爆発とは違う現象もあった)

 

 それはSランクのような目に見えて明らかな異常ではない。

 小さくそして無数に広がる違和感として松場博士を飲み込もうとしている。

 

(データが必要だ。それから対策を立てねば)

 

 かつての松場博士であればこの時点で降伏していただろう。

 しかし今の彼にはいくつかの切り札があった。

 それは異次元の神の力、そしてセラノエルを吸収した事により会得したソルシエラの力である。

 

「舐めるなよ下等生物……!」

「掛かってこいよオッサン」

 

 クラムはその場から動かない。

 対する松場博士は即座に転移魔法を使用し、遥か上空へと移動した。

 

「収束砲撃は使えずとも、ソルシエラの砲撃であれば――」

 

 空を埋め尽くすほどの大量の砲撃陣はソルシエラの使用するそれと同一。

 更に今の彼は神の力を得た事で根本的な魔力量の問題も解決していた。

 

「消し炭にしてやる!」

 

 一斉に銀の光が放たれる。

 都市全体を包み込む程の眩い光を前に、クラムは目を細めた。

 そして次に彼女がしたことは逃げ出すことなく、自身とエースにサングラスを付けただけ。

 それだけだった。

 

「眩し……」

「ハデッスネ」

 

 迫る銀光に対処するのはクラムではない。

 その手足となる人吞み蛙達である。

 

「マーちゃんズ」

 

 人吞み蛙達は次々に銀光に飛び込んでいくと、己の体を派手に膨らませ一気に爆発する。

 指向性を持った爆発はまるで砲撃のように飛び出すと次々と銀光とぶつかり合い相殺をしていった。

 

「ぬるいなぁ」

 

 呆れ果てた声だった。

 

「ソルシエラと同じ砲撃なんだろ? なあ、お前それでこのザマかよ」

「っ、黙れ!」

 

 再び松場博士は姿を消す。

 そしてクラムの背後へと移動をすると、その強靭な爪を振り下ろした。

 しかし彼の手に伝わってきたのは、身体の奥までしびれるような感覚であった。

 まるで固い物を殴ったような手ごたえの無い感覚が、痛みとしびれとなり伝わってきたのである。

 

「なっ、壁!?」

 

 その正体は彼女を守る様に唐突に現れた金属の壁であった。

 鈍色に輝くそれには蛙の模様があしらえてある。

 

「何が起きて――」

「もう一発!」

「ぶぁ!?」

 

 壁の裏から出てきたクラムが躊躇なく松場博士を殴り飛ばす。

 回転して殴り飛ばされる松場博士に周囲の人吞み蛙達から歓声が上がった。

 

「ソルシエラってさ、Sランクな訳。その力を使ってんだろぉ? だったらもっと私を追い詰めてみろよ? なあ、ソルシエラの力を使うってんだからその覚悟はあるんだろ? おい!」

 

 クラムは倒れる松場博士へと近づく。

 その顔には呆れの他に怒りも浮かんでいるようであった。

 

「正直、あの写真を見たときは興奮したんだ。やっと会えるって。それなのにてめえはよぉ……くだらねえおつむで考えたしょうもねえ計画にソルシエラを使いやがって……!」

「お、お前には関係ないだろ! 神の声が聞こえる俺こそが――」

「私がッ! ソルシエラの理解者だッ!」

「……は?」

「お前にも本当は聞かせてやりたいくらいだよ。あの子と私の壮大な愛と覚悟の物語をさ。でもお前はその前にまずぶん殴らないと」

 

 クラムの言葉は怒りを吐き出すように止まらない。

 

「なあ、Sランクの力は……あの子の力ってのはそんなもんじゃないんだよ。もっと気張れよクソ下等生物」

「貴様ァッ!」

「威勢だけは一丁前だな」

 

 松場博士は弾かれるように立ち上がると、辺りに砲撃陣と銀の鎖を生み出す。

 そして自身の触手を伸ばすと、クラムへと向けて一斉に放った。

 

「この力がSランク? 馬鹿にするな! 俺はその先に行く! いずれはSランク共も倒し、そして世界を支配するんだ!」

「確かにこれはSランクではないなぁ」

 

 クラムは静かにフードをかぶる。

 ただ髪が汚れるのを防ぐためだった。

 そう、彼女が気にすることはそれだけで良い。

 

「マーちゃんズ」

 

 瞬間、ありとあらゆる現象がその場に現れる。

 ある砲撃は凍り付き、ある砲撃は雷撃に相殺され、銀の鎖は粘液に溶かされ、斬撃は暴風により弾き飛ばされる。

 他にも、光が、重力が、草木が、炎が、ありとあらゆる現象がクラムを中心として巻き起こっていた。

 まるで世界が産み落とされる前、混沌した世界の始まりのように全ての現象が混ざり合い同時に存在している。

 

「はぇ……な、なんだ、それは」

 

 立ち尽くす他なかった。

 松場博士にはそれが本来あり得ない事だと理解が出来た。

 出来てしまったが故に、もう何もできなかったのだ。

 

「Sランクって反則でさ、これだけやっても勝てないんだ。アイツら神話だとか無敵だとが完食だとかそもそも未来を選んで爆破させないだとか全部燃やすだとか概念を斬るだとかするんだわ。わかる? 私、これだけやってもまだSランクに認定されないんだよ?」

 

 Sランクに至る条件は二つ。

 それは如何なる学園であろうとも単騎での制圧が可能な事。

 そしてもう一つは、概念への干渉能力である。

 

「どうやら自律兵装に魂を付与するのは干渉とはみなされないらしい。まあ、実際ミズヒ以外には一度も勝てなかったから正しいけどさ。だから、お前もソルシエラの力を使えるなら私に勝てなきゃ」

 

 嘲り笑いながら、クラムは足を鳴らす。

 その瞬間に蛙が一匹弾けた。

 付与された魂が解放され、その中に内包された異能が世界へと顕現する。

 今回それは、松場博士を押しつぶす程の重力として現れた。

 

「がぁっ!?」

「ざまあねえな、偽者以下のクソ野郎」

 

 神の器となった肉体が押しつぶされ軋みを上げるほどの重力に、松場博士は驚愕する。

 

(この重力……あ、あり得ない……! 俺を押しつぶすレベルなんて、余程の高ランクでなければ……! 推定B相当。しかしそんな事が本当に可能なのか!? 高ランクの異能があの自律兵装一機に入るのか……!?)

 

 疑問と違和感は尽きない。

 しかし彼はもはや研究者ではなかった。

 

「まだまだ味わえよ、フルコースだぞ?」

 

 たった一人、星の理解者を怒らせた彼はただこの異能の嵐を受け続けるしかないのである。

 

「ウェルダン」

 

 人吞み蛙が弾ける。

 瞬間、松場博士の体は激しく音を立てて燃えた。

 

「ぐぁっ!? 熱い熱い熱い――」

「熱いってさ」

「カチコチ」

 

 人吞み蛙が弾ける。

 氷が足から昇っていき、炎ごと松場博士を包み込んでしまった。

 当然今の彼には逃げ出すことは愚か、魔法も神の力を行使することもできない。

 

「おいおいどうしたまだ終わりじゃねえぞ」

 

 悠然と向かって行ったクラムは松場博士へと人吞み蛙を一匹掴んて放り投げる。

 それは氷にぺたりとくっついた瞬間にはじけ飛んだ。

 

「ビリビリ」

 

 紫電が松場博士を包み込み、全身へと苦痛を広げていく。

 それをクラムはただ冷え切った目で見つめていた。

 

「お前みたいな奴もあの子はまとめて守ったんだよ。わかるか? ああ、わかんねえからこんな馬鹿な事したのか」

「……ぁ、た、たすけ」

「殺しはしねえって」

 

 クラムは松場博士を蹴り飛ばす。

 そして右手で銃の形を作り、照準を合わせるように松場博士へと向けた。

 手の上には一匹の人吞み蛙が乗って喉を膨らませている。

 

「マーちゃんズの異能、信じられないくらい強いでしょ? 本当はそれぞれEランク程度なんだよ。でも、私なら一人で出来ちゃうんだよねぇ――共鳴現象が」

 

 同調するように人吞み蛙達が鳴いた。

 まるで勝利を確信し祝うように、自分達の存在を刻みつけるように。

 

「共鳴現象の凄さは傍で見てきたつもり。だからこうしてすぐにできた。異能の威力を上げることも、魔力の量を増やすことも今の私なら可能なんだ」

 

 それは、一人で軍隊を生成可能であるという事に等しい。

 Sランクには届かずとも万能。

 最強と常人の境目に彼女はいるという事である。

 

「だから私はもう守られるだけじゃない。あの子に救いを求める事なんてしない。私が守り、救って、導く」

 

 人吞み蛙とクラムの中で幾重にも共鳴現象が重なり、より強大になっていく。

 それは全て、クラムの右手の上にいる人吞み蛙へと集約されていった。

 

「祈るんじゃなく、祈られるくらいに強くなったんだ」

 

 紫色の魔力が辺りを満たし、青空をも塗りつぶしていく。 

 

「さて、問題です。万を越えるマーちゃんズとの共鳴現象により、この個体のビームの異能はどれだけ格上げされたでしょうか」

「ま、まっ――」

 

 懇願の声に耳を傾ける筈もなく。

 次の瞬間に蛙は弾けた。

 内側より解放されるのは、魔力をビームとして放つ異能。

 砲撃の様な魔法式由来ではない異能による力技であるからこそ、本人の素養に大きく左右される。

 

 そしてそれは今、数多の同志と主の共鳴現象を経て――星の輝きへと至った。

 

「死に晒せェ!」

「コロスノハ」

「マズイッス」

 

 轟音と共に辺りを紫色の光が飲み込んでいく。

 それはかつて彼女が目にした収束砲撃の輝きとなんら遜色はない。

 残されたものは半分以上が消し飛ばされた都市と、あちこちから立ち上る黒煙。

 そして黒焦げになり、僅かに生きている松場博士だけだった。

 

「――はぁ」

 

 クラムはそれを一瞥してフードを取る。

 気だるげな表情のまま、彼女は空を見上げて人吞み蛙達に向けて呟いた。

 

「この後の方が、めっちゃ緊張するな……」

「キアイ!」

 

 少なくともこの戦いはクラムにとっては前座でしかなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やはりそうでしたか! 自律兵装に自我を付与し、異能を与える。爆発ではなく別の結果として自身の力を出力しているのでしょう。それにしても数を生かしての共鳴現象とは……そこも私の予想通りでしたか!』

『テム子は色々知ってて偉いのぉ』

『えへへ……』

 

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