【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第503話 噓つき蛙は情けない

 事件は終わりを迎え、やがて少女達は帰路につく。

 クラムとステラはフェクトム総合学園へと一足先に帰ることが出来たのだが、それは空気を読んだリンカが事後処理を自ら買って出たからである。

 十数体の人吞み蛙も残って手伝っているのでさほど時間がかかる事もないだろう。

 

 戦いの中心にいたクラムを労うというよりは、ステラに最大限気を使っての判断の様だった。

 勿論それはクラムも知っている。

 だからこそ、配信で培った流麗なトークスキルでステラの事を楽しませるはずだったのだが――。

 

「そろそろ学園に着くね」

「あ、そ、そうだね、ふ、ふひっ」

 

 気持ち悪い笑みが夕日に照らされ陰影をより色濃くクラムの顔に落とし込む。

 顔立ちは良い方だが、今の彼女はどこに出しても恥ずかしくないキモオタ配信者と化していた。

ソルシエラが見れば、あまりのみっともなさにため息でもついていたであろう。

 

「ヘタレ」

「ナニヤッテンダ」

「ナニガシタインダヨ」

 

 このように人吞み蛙達からも非難轟々である。

 つい一時間前まで松場博士を相手に圧倒的な戦いを仕掛けていた戦士とは思えないみっともなさだ。

 たいして暑くもないのに額には汗があり、ステラを安心させようと何度も握ろうと差し出した手もまたびっしょりだ。 

 なお、本人は差し出したつもりになっているが僅かに動いただけでありステラは全くその事に気が付いていない。

 

「ねえ、ミロク先輩達、受け入れてくれるかな……」

「当たり前じゃん! それはそれは可愛がられると思うよ。皆、ステラをステラとして愛してくれるに決まってる!」

「そっか……クラムちゃんに言われるとなんだか本当にそうなりそう」

「なりそう、じゃなくてなるんだよ……アッ」

 

 不意に手を握られ、クラムは情けない声を上げる。

 今まであった半歩分の距離を詰めるように、ステラはクラムの横にぴったりと並び手を自ら握ってきた。

 

「……少しだけ、怖いんだ。だから手を握っていてくれない?」

「も、もももももちろんっ! この天才配信者クラムちゃんにお任せだよ! マジで全然ウェルカムだ!」

「キョドウフシン」

「ナサケナイ」

「マーちゃんズうるさいっ!」

 

 クラムの肩や頭に乗ってぴょんぴょんと跳ねて好き勝手に主をけなす言葉を可愛らしく吐き出し続ける人吞み蛙。

 その姿を見るステラの目は、どこか羨ましそうだった。

 

「……ねえ、クラムちゃん。マーちゃんズを抱っこしてみていいかな」

「へっ? 勿論いいけど……」

 

 クラムはフードの中にいたエースをむんずと掴みステラへと差し出す。

 雑な扱いにエースはやや不服そうに頬を膨らませながら「チッス」と鳴いた。

 

「じゃ、じゃあ触るね……」

「どうぞ。あ、優しくね? 一応、爆弾だから」

「うん……わぁ、もちもちしてる……!」

 

 片腕にエースを抱いたステラの顔は一気に緊張から安堵と歓喜へと変わる。

 思わず綻んだ頬を見ていると、クラムや他の人吞み蛙達までなんだか誇らしくなってきた。

 

「かわいい……! なんだか、懐かしい気もするし、落ち着くなぁ」

「アザッス」

 

 エースのお腹に顔をうずめてステラは何度か頬ずりをする。

 その光景をクラムと他の人吞み蛙達は羨ましそうな目で見つめていた。

 

「ありがとう、おかげで勇気が出たよ。これで皆にきちんと挨拶が出来る」

「本当? なら良かった」

 

 気が付けばフェクトムのゲートはすぐ目の前にあった。

 二人は顔を見合わせ、互いの存在を示し確かめるように強く手を握る。

 そして人吞み蛙達と共にゲートをくぐった。

 

 

 

 

 

 

 ネームレスは軟禁ニートである。

 ソルシエラ達と共に世界を救ってはいるのだが、それはそれとして彼女は御三家の秘宝である地絃天星埜御霊を盗んで使役したり、銀の黄昏に所属していた過去があったりとあまりにもその立場が難しい物だった。

 今、理事長を筆頭としてネームレスが自由に学園都市を歩けるように尽力しているのだが、その日は来そうにない。少なくとも年内は無理であろうとのことだった。

 

「あー、クローマのゴルゴタシリーズ食いてぇ……」

「そ、そんなこと言ってないでお掃除頑張るよ!」

「お前も腹鳴ってんぞ」

「こ、これは武者震いみたいなものだよぉ!」

「腹から震えんのかよこいつ」

 

 黒いスウェットに箒と塵取りを持ったネームレスとトアは今、掃除をしている最中であった。

 長らく物置として使っていた寮を年内に全て使えるようにするのが二人の仕事である。

 

「これ全部埋まるのかね、本当に。来年、生徒来るの?」

「一応、ミズヒちゃんのファンクラブで入学希望の子が数百人いるね」

「もしかしてSランクのネームバリューって凄い……? いっつもミズヒちゃん見てるから気が付かなかったけど、実はとんでもないんじゃ……」

「それにここから戦領祭もあるから、そこで更に宣伝できればもっとたくさん来てくれるよ! 御三家とか、もっと来てくれないかなぁ」

「那滝家だけじゃ不満か? 欲しがりめ」

「でもでも、有名な学園だと御三家が揃うって言うし。いつかはここもそうなると良いなって」

「……まあ、それはそうだね」

 

 二人が片付けているこの寮も、かつては生徒達で賑わっていたのだろう。

 今となっては掠れた落書きと埃だけがこの場所に置き去りにされたように残っている。

 だからこそ、ここが本当にまた生徒達で埋まるというのであれば、それは何よりも嬉しい事だった。

 

「ねえ、私。このゴミを燃やしてー」

「あー、はいはいact1。あ、こっちのタンス持っていって」

「うんわかった」

 

 適材適所、元が同じ人間であるからか二人はスムーズに掃除を続けていた。

 意外にも二人はテキパキと動き続け、見る見るうちに寮を綺麗にしていく。

 

 掃除の途中にふとネームレスが顔を上げた。

 

「ねーこれ終わったら飯食おうよ。冷凍のラーメンが届いたから」

「えぇっ!? それってあの騎双濃厚背油無双!? 注文出来たの!? あれって今は六波羅さんとコラボしてるから普通に食べたい人が注文出来ないって聞いたよ? 実際私もそうだったし」

「へっへっへ……エイナにお願いしたんだ。代わりに私が偶然撮っていたTS六波羅さんの画像を差し出した。これが等価交換……錬金術だよ」

「凄い……! じゃあ私はお手製チャーシューと煮卵持っていくね!」

「あと、マイ炊飯器な。一つじゃ足りないし」

「勿論っ!」

 

 口調や仕草に若干の違いがあるものの、二人はやはり同じ少女であった。

 ご褒美のラーメンを目標に、二人は動きを加速させていく。

 と、その時彼女達の前に機械仕掛けの蛙が飛び出してきた。

 

「あ、マーちゃんズ」

「スカーフが巻かれてないって事は、見回りの個体じゃないな。……クラムが帰って来たのか?」

「ウッス」

「どこかにお出かけしてたの?」

「……まあ、ちょっとね」

 

 ソルシエラの写真の事は公にするべきではないだろう。

 ましてや、彼女の事を大切に思っている幼馴染達に変に期待させるわけにはいかない。

 

「どうだった」

「カイケツ!」

 

 誇らしげに腕を組んで跳ねる人吞み蛙を見て、ネームレスは内心でホッと胸を撫でおろす。

 

(とりあえず、あいつがみっともなく負ける事はなかったか。良かった良かった)

 

 時折、クラムが自分やミズヒ、ミユメと言った異常値の特訓に無理矢理付き合わされていると知っている。

 だからこそ負ける事はそうそうないと知っているが、如何せん情けない時のクラムはとことん情けない。

 だからこそ、一抹の不安があったのだ。

 

「……よし、ちょっと迎えに行ってくるわ」

「えっ、なんで?」

「なんでも」

「……お菓子を買ってきて貰った?」

「違うよ」

「私も行く!」

「違うって言ってんだろ食いしん坊! じゃあな! act1」

 

 ネームレスの姿が焔に巻かれて消える。

 その場に落ちた箒をキャッチしたトアは、壁に立てかけるとそのまま廊下を駆けだす。

 

「ま、待ってよぉ!」

 

 もう一人の自分が待つ人間でないことは良く知っていた。

 

 

 

 

 

 

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