【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第511話 完成された銘 1‐7

 鏡界へと続く道が開けたとき目の前にあったのは、彼女達の想像していた学園ではなかった。

 

「……ここは」

 

 星木の学園をミロク達は知らない。

 しかしそれでも目の前のそれらが学園でないことはすぐに分かった。

 煉瓦で組まれた家に、細部まで彫られた花と星の噴水。

 そして街を行きかうソルシエラとうり二つの顔。

 見る者が見れば天国、あるいは眩暈で倒れそうなその光景を前に一同は固まった。

 

「ようこそ、ソルシエランドへ!」

 

 最初に動いたのはやはりと言うべきかソルシエラだった。

 

「帰るわ」

「へへ、もう道は閉じちまったよ。求道者は相変わらず詰めが甘いね」

「……そう、私を相手に喧嘩がしたいようね、先生」

 

 ケイは笑顔のまま大鎌を召喚する。

 対するラッカも言い訳をすれば良い物を、笑顔で返しその手に不可視の槍を握った。

 

「よっし、やろう!」

「やるな。求道者、馬鹿に付き合わなくて構わないよ。どうか落ち着いて」

「教授は私の立場じゃないからそんな事が言えるのでしょう? こんな……こんな……!」

 

 ケイにしては珍しく顔はほんのりと朱に染まり、大鎌を握る手には必要以上に力が入っている。

 小刻みにプルプルと震える彼女を見て、トアが何とかしようとするが掛けて良い言葉が見つからず、隣であわあわとするしかない。

 いつもなら、ネームレスやミロクがそれとなくフォローをするだろう。

 しかし、今日は違った。

 

「ソルシエラがいっぱいだぁ……!」

「こ、ここはいったい何ですか……!」

「ミロク、目が血走ってます故。落ち着いて欲しいです故」

 

 常日頃からケイの事を想っている二人にとってこれは桃源郷に近い。

 仮にクラムがこの場にいれば、すぐに何かをしでかして人吞み蛙達に運ばれていただろう。

 偶然にもこの二人はその光景を前にしてすぐに動き出すタイプではなかった。

 

「ミロクちゃんは、この場所をどう思う?」

「人類最後の楽園ですね。……見てください、ちっちゃなソルシエラが屋台でクレープを買っています! ああっ、あんなに美味しそうに食べて……良かったですね、ケイ君!」

「私じゃないですよ、ミロク先輩。お願いですから正気に戻ってください。……そうだ、ミズヒ先輩は――」

 

 肝心の幼馴染はまるで微動だにしていない。

 それを見たケイはホッとした様子で、ミズヒの傍に駆け寄った。

 

「ミズヒ先輩、ミロク先輩とネームレスをどうにかしてください」

「ああ、わかった」

 

 ミズヒは指を鳴らす。

 瞬間、ミロクとネームレスの目に焔がアイマスクのように巻き付いた。

 

「うわっ、なにこれ熱……くはないけど、なにこれ!」

「なる程、視覚を一時的に焼却されましたか。ナナちゃん、視覚の補助を」

「嫌です故」

 

 冷静に次の手を選んだミロクだったが、あっけなく相棒に裏切られていた。

 ここで課金を餌にしないのが生徒会長としてのなけなしの矜持である。

 

「二人共落ち着いて、その……ここは別になんでもないの」

「なんでもないわけないでしょう。ソルシエランドがなんでもなく生まれますか? だってソルシエランドですよ? 絶対に意味あるでしょうソルシエランド」

「そうだよ! 私は変態配信者と違って別にペロペロしたりしないから、ちょっと見るだけだからいいじゃん! 誰もお持ち帰りを検討していないって!」

「先生、どうしてここに連れてきたのかしら!?」

「お前の余裕そうな表情を剥いでやりたかったから」

「これが英雄の姿なの……!?」

 

 ラッカは真顔で答える。

 その言葉に嘘偽りはないようだ。

 その方が問題なのだが、兎も角彼女は嘘をついていない。

 

 ケイはラッカを見て肩を震わせながら、しかし笑っていた。

 

「ふふ……貴女……絶対に後でお仕置きしてあげるから……」

「やーん、こわーい(ヘラヘラ)」

「くっ、貴女いい加減に――」

 

 突然のソルシエランドにその場の殆どの感情は乱高下を繰り返していた。

 姦しい程に騒いでいる一行へと、自然にソルシエランド住人たちの視線が集まっていくのだがルシエラとトア以外は気が付く様子もない。

 

「はぁ、いらないサプライズで余計な事を。……君達は心穏やかになる事を信じているよ」

 

 ルシエラは全員へと呆れた声でそう告げた。

 瞬間、全員が落ち着きを取り戻し声も穏やかになっていく。

 ケイは未だに恥ずかしそうだが、少なくともここで戦争を始めるようなことはないだろう。

 

「求道者、事が済んだらあとで講師も交えて彼女を説教しておく。それで我慢してくれないだろうか。君も知っての通り、先生は良心が欠如している」

「お前自分のしたこと忘れたのかよ」

「……ふん、そこまで言うなら後は頼むわ。まったく、こんな場所に私を連れてくるなんて」

 

 ケイはそう言ってミロクとネームレスの注意を引こうと手を握る。

 ラッカよりもこの二人の方が心配だった。

 

「ミロク先輩、ネームレス。落ち着いたかしら」

「……ええ、すみません取り乱しました」

「ごめんねケイ。目の前に彼方まで続くご馳走が見えちゃったから」

「私を食べようとしてる……? まあ、今はいいわ。落ち着いたのならもう目隠しも外して……いや、ごめんなさいやっぱりまだ付けていて」

「ええ、なんでぇ!」

「ケイちゃん……」

 

 二人は悲しそうな顔をする。

 が、外すわけにはいかなかった。

 何故なら、この騒ぎで多くのモブシエラが集まってしまったからである。

 

「あ、ラッカだ! こんにちは!」

「オリジナルもいる。久しぶりだねー」

「知らない人もいるよ。すっごく綺麗な人達」

「あ、私はこの人は知ってるかも。うっすら覚えてるー!」

「私はこっちー」

 

 わらわらと集まって来たモブシエラに一同(ケイを除く)は思わずほっこり。

 緩んだ笑みで、ラッカはモブシエラを撫でつつ周囲を見渡した。

 

「うーん、ここで待ち合わせだったんだけど……あ、いた。こっちこっち!」

 

 ラッカは大きく手を振り、その少女を呼ぶ。

 見た目こそ他のソルシエラ同様、そっくりだが彼女はスーツに目隠し、そして落ち着いた佇まいと他モブシエラとは違う雰囲気を纏っていた。

 

「……ほう、僅かに求道者の気配を感じるが……より強力な個体という事かな?」

「あれは盲信のソルシエラね。ソルシエラバト……まあ、他の個体より力があるのはそうよ」

(今ソルシエラバトルって言った?)

(今ソルシエラバトルって言いませんでした?)

 

 目隠しされたことにより強化された二人の聴覚は確かにその名称を聞き逃さなかった。

 ケイは誤魔化せたと思ったようで、特に何かを訂正する様子は見せない。

 ルシエラはそれを見て色々と察していたが面倒だったので、口を閉ざした。

 銀の黄昏時代からこういう時は余計なことは言わない方が良い。

 

「皆様、無事に到着されたようで安心しました」

 

 盲信のソルシエラはラッカを見つけると早足で近づく。

 そしてモブシエラをかき分け、中心へと入って来た。

 

「ではここからは私、盲信のソルシエラが案内させていただきます。……モブシエラの皆様、これは見世物ではありませんよ! 散ってください!」

「お祭りじゃないんだー」

「なーんだ」

「またソルシエラバトルが始まるのかと思ったよ」

「あっちでアイス食べよー」

 

 口々にそう言い合いながらモブシエラ達はすぐにその場から立ち去る。

 盲信のソルシエラは周囲を見渡すと頷いた。

 

「よし、ではさっさとゲートをくぐってしまいましょう。またあのような人だかりができると面倒なので」

 

 盲信のソルシエラは背筋を伸ばして手を叩く。

 すると背後に両開きの古びた扉が現れた。

 

「どうぞ」

「それは構わないけれど、先に行き先を教えて頂戴」

「勿論。これから私達は別位相世界へと向かうその穴へと向かいます。たまたま近くにソルシエラ水族館があったので、そこを一時的な拠点としているのです。既にトウラク様、博士様がお待ちですよ」

(ソルシエラ水族館って言った?)

(ソルシエラ水族館って言いませんでした?)

「トウラク……! そう、彼も来るのね」

 

 トウラクの名を聞いてケイは目を見開く。

 その口元には僅かに笑みが浮かんでいた。

 

「では案内しますので、ついてきてください」

 

 扉が開かれ、それぞれがその中へと入っていく。

 その表情は明らかに楽しそうだ。

 

「水族館か……楽しみだな、トア」

「うんっ! ちっちゃいときに先生が連れていってくれた以来だね!」

「そっちじゃないだろ。どう考えてもそっちじゃないだろ」

「ソルシエラ水族館……ナナちゃん、そのデータはありますか?」

「あるわけないです故」

 

 わいわいと騒ぎながら少女達は次々と扉の中に消えて行く。

 やがてルシエラとラッカとケイがその場に残された。

 

「……私は先に行くよ、先生」

「うん」

 

 ルシエラも扉の向こうへと姿を消す。

 残されたケイも扉をくぐろうとしたその時だった。

 

「ねえ」

 

 背後からラッカが名前を呼ぶ。

 その声はいつも通りで、振り返ってみれば笑顔も変わらない。

 しかし。

 

「求道者に戻れるって言ったら、貴女はアトラスティアに帰りたい?」

 

 その問いだけは違った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ここでその二択だと!? くっ……今、俺のフィールドには天上君とテム子、そして手札にはたまたまプライベート用に用意していたデータロイドボディしかない。ここから俺に出来る事は……!』

『それもうやる事半ば決めてるだろ』

『嫌な予感がするんですけど……!』

『余は全くわからん。が、あの盲信のソルシエラのようなぴっちりとしたパンツスーツスタイルも良いという事だけはわかる』

 

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