【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第513話 完成された銘 1‐9

 あくせくと働くモブシエラ達の脇を、ラッカとケイはゆっくりとした歩調で通り過ぎる。

 開館前でぼんやりとした青い光のみが薄暗く廊下を照らし、彼女達の道を示していた。

 

「――つまりはまあ、私達はあの世界に帰れるって事なんだよ」

 

 それは会話の終わりではなく、始まりとして告げられた言葉だった。

 詳しい説明や自身の心情は、この言葉で事足りる。

 ラッカはそう考えて、隣を歩く少女へ向けてそう言ったのだ。

 

「そう」

 

 対するケイの反応は簡素で、分厚いガラスの向こうに見えるクラゲに時折足を止めていた。

 ラッカはその度に静かに傍で彼女が歩き出すのを待つ。

 長らく共にいたのだからわかる。

 そっけないのではなく、彼女なりに大切に考えて答えを出そうとしているのだ。

 

「貴女は帰りたいのかしら」

 

 ケイがラッカへと問いかける。

 見上げる彼女の青い目は、相変わらず星のように澄んでいた。

 だからラッカも茶化さずに答える。

 

「勿論」

「ミロク先輩達はどうするの? あの人たちは貴女の影を追って生きてきた。貴女が居たから、あの人たちは……」

「わかってる。だから帰れないんだよ私は」

 

 言葉は悲観的だが、その顔には笑顔が浮かんでいた。

 弾むような声色が嘘ではないと示している。

 

「この世界には愛したものが多すぎる。……ミロク、ミズヒ、トア、そしてガーデナー」

 

 名を呼ぶたびに、心がこの世界に根付いていくのを感じる。

 ラッカは既に彷徨う旅人ではなくなっていたのだ。

 

「銀の黄昏での私は戦いが全てだった。そうじゃないと生きていけないから。……でも、この世界は違った。なんてことのない名前の読み間違い一つで笑える余裕がある世界だったんだ」

 

 ケイの傍に立ち、同様に水槽を眺める。

 巨大な水槽の中では色とりどりの魚の群れが石のアーチを潜り抜けたところであった。

 

「私には銀の黄昏の人間としてアトラスティアを愛す義務があった。でも全てが終わった後は私自身の意志で決めたいんだ。……何を愛すのかをね」

「それがこの世界だった、と」

「うん」

 

 首肯を合図にラッカはいつもの軽薄な笑みへと戻った。

 彼女はケイの意思など関係なく無理矢理肩を抱き寄せる。

 

「だってさ、皆可愛いし! 特にミロクとか、うんと綺麗になったね。求道者もそう思うでしょ? あの子綺麗だよねー」

「……まあ、そうね」

「何を恥ずかしがってんだよー」

「別に。というかくっつかないで頂戴」

「相変わらず、ドライだねー」

 

 ラッカはそう言って一人歩き始めた。

 

「次は求道者の考えを聞く番だよ。滅茶苦茶に死線を潜り抜けた戦友なんだから、隠し事は無しだぜー?」

「今更隠し事なんてするつもりはないわよ」

 

 ケイはラッカの後を追う。

 その歩みはラッカに追いつこうという意思はなく、ゆったりとしたものだった。

 

「正直、まだ悩んでいるわ」

「だろうね。求道者も皆の事が好きになっちゃったんでしょ?」

「そうやってなんでも直接口に出せる貴女が時折羨ましく思うわ」

「私の美徳だね」

「あら、講師と教授は悪い癖だと言ってよく叱っていたじゃない」

「へへへっ、それを言われちゃ……って」

 

 ラッカは驚いて振り返る。

 

「……昔の事、殆ど覚えていないんじゃないの?」

 

 それは銀の黄昏の日常の貴重な思い出だ。

 同時に求道者の中から失われた物でもある。

 

 彼女の中に残っているのは銀の黄昏という存在についての概要と自身の使命のみだった筈だ。

 しかし、ケイの意地悪な笑みがその前提を覆していた。

 

「天上決戦で理想の銘の力を解放しきった後、少しずつだけど思い出せるようになったのよ。根源にいる間は退屈だったから、記憶のサルベージを続けていたわ」

「うぅ~! なんか滅茶苦茶嬉しいよぉ!」

「抱き着かないで」

「そんなこと言って、本当は嬉しい癖に!」

 

 駆け寄って来たラッカを見事な柔術で投げ飛ばしたケイはさっさと歩き出す。

 地面にビタンと受け身もせずに着地したラッカは顔が真っ赤なまま、ケイの後を追った。

 

「まだ全部思い出したわけじゃないんだよね?」

「ええそうね。でも時間が経てばきっと思い出す。……だから、不安なのよ」

 

 意外な言葉にラッカは思わずケイを凝視する。

 薄暗い中でそう言葉を吐き出した彼女の横顔は普段よりずっと幼く見えた。

 

「どちらを選んでもきっと後悔をしてしまう。そんな気がしてならないの」

「……求道者」

「今の私は那滝ケイ。だけど、一年後には求道者に戻っているかもしれない。そうなった時、今と同じように皆の事を愛せるかしら。逆もまた然り。アトラスティアに戻って、那滝ケイの記憶が残ったままで私は心の底から喜べるのかしら」

 

 今のケイの状態は非常に特殊であった。

 ラッカやルシエラとは違い、システムにより疑似的な転生を成功させた彼女は二つの人生を同時に歩んでいるに等しい。

 那滝ケイと求道者、その使命が奇跡的に重なっていたが故に今まで彼女はどんな困難も涼しい顔を作り乗り越え続けることが出来た。迷う事だってなかった。

 しかし、彼女の中で二つの道が分かたれる瞬間が来た今、どうすることが最も自身を納得させられるだろうか。

 

「求道者……」

「ふふ、なんてね」

 

 ケイはラッカへと視線を向けて口元に笑みを作る。

 相変わらずの余裕を表す静かな微笑だ。

 

 例え胸の奥底に不安を隠していたとしても、今の彼女に恐れはない。

 何故ならば――。

 

「その答えを得る為にも、アイツに会うのよ」

 

 彼に再会すれば答えが見つかるとわかっていたからだ。

 

 

 

 

 

 

『えっ、求道者だけを分離できるシステムの構築を一時間で!?』

 

 頼んだぞテム子。

 星詠みの杖君は今ソルケットに向けた新作の執筆で忙しいし、天上君はまだ見習いなので君しかいないんだ!

 基盤さえできれば、後は俺がBIG LOVEで何とかする!

 

『仕様外のもので解決する事前提のシステムを組ませないでください! 記憶のサルベージ作業ですら難しいんですけど! 銀の黄昏しょうもなエピソードを復元するだけでもどれだけ労力が必要だと思ってるんですか!? そもそも一度死んだ時点で記憶なんてほとんど残っていませんよ! それを復元だなんて……』

『? 別に銘から情報を読み取れば良いだけだろう。余に貸してみろ、システム先輩』

『いやいや銘に記憶を保存する領域なんて大して無いですって。背徳のソルシエラ程度が限界で『ざっと千年分か。ほれ、復活させたぞ』……えっ』

 

 天上君……なんて優秀なんだ……!

 凄いな君、もしかして天才だったりする?

 

『天才というか、天そのものだったな』

 

 かっこいいよぉ><

 

『むっ……私だってできますけどね! その記憶、私が最適化しますよ!』

『流石システム先輩だな。では余は再びちいちゃい太もも観察へと戻ろう。青い果実もまた瑞々しく良いものだ……! 健康的であればあるほどに眩い……!』

『こんな変態に負けるわけにはいかない……!』

 

 チーム内で競争心が生まれることで、より高水準のコンテンツが生まれるという事だね。

 さて、後はトウラク君に出会ってそれっぽいいい感じの会話をすれば良いな。

 ここからは俺の出番という訳だ。

 

『トウ×ソル本はありますか?』

 

 描いた奴全員出禁にしたので無いです。

 トウラク君はミハヤちゃんと幸せになっているので、俺とは一切のフラグは立ちません。

 そこだけは間違わないように。

 

『コンテンツの制限を許すな! これは明らかな権利への侵害だ!』

 

 黙れ。天地がひっくり返ろうともトウ×ソルは許さん。

 安易な恋愛関係はコンテンツを腐らせる毒だ。

 

『くっ、ならTSダンジョンで美少女になったトウラクと六波羅とたまたまその場に居合わせたソルシエラの三人がふにゃふにゃにされるコンテンツは……!? 二人で掛けるのではなく、三人がそれぞれのパートナーに掛けられるのであれば……!?』

『今、一人巻き込まれた奴いませんでした?』

 

 許可しよう。

 我々組織も全面的に支援させていただく。

 

『よーし、張り切ってTSダンジョンを改造しちゃうぞぉ! ^^』

『先導者よ、六波羅とは誰だ』

 

 スカートで足技繰り出す人だよ。

 ガラスの靴を履いているね。

 

『★★★★☆:未プレイだが、運営からの予告時点で期待が高まっているので、星四つだ』

『もうやだこの後輩』

 

 ソルブレインストーミングは終わったな!

 おかげで非常に価値のある会議が出来た。

 

『会議……? 無茶ぶりとカプ論争と太ももレビューが会議……?』

 

 これで俺達はより絆をでっけえものにできただろう。

 行くぞ、皆。

 トウラク君との数か月ぶりの再会コンテンツの始まりだ!

 

 

 

 

 

 

 

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