【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
彼らの関係を一言で表すことは出来ないだろう。
偽りに満ちた最悪な出会いから始まり、世界の最果てで静かに行われた別れまで。
その全てが積み重なって今の二人を形成している。
生涯の好敵手か、あるいは別の道を行く理解者か。
それをかけがえのない友人であると答える時もあれば、どうしようもない程に勝利したいと答える時もある。
だからこそ二人の再会は壮大ではなく、静かに行われることとなった。
全てを噛み締める時間が、二人には必要だったのだ。
「……ん」
何もいない水槽が、紫と白のライトに照らされている。
これから何かが投入される予定なのだろう。
海藻が揺らめき岩が積み重なったその住処は変化を拒み時が止まったかのようであった。
トウラクが座っていたのは、そんな水槽の前のベンチだ。
「久しぶりね、トウラク」
「ああ、久しぶりだね。ケイ」
後姿を見つけたケイは僅かに口元に笑みを作っただけで、特段急ぐわけでもなくゆったりとした足取りで向かいながら声を掛けた。
彼はケイの到着がわかっていたのか、落ち着いた返事をする。
その態度が意外だったのか、ケイは「へえ」と呟いて隣にそっと腰を下ろした。
ラッカはそれを少し離れた場所で眺める事に決めたようである。
「もう少し、驚いてくれると思ったのだけれど」
「事前に聞かされていたから」
「そう。私との再会に感動して大泣きしてしまったらどうしようなんて考えてしまったわ」
「その方がお望みだって言うなら、今から努力するけど」
「いらないわよ、貴方の涙なんて」
実に数ヶ月ぶりの他愛もないやり取りだ。
しかしもう一生無い可能性すらあったその言葉の応酬には、言葉以上の意味が含まれている。
二人はこのやり取りで互いが擦り切れてしまっていない事を確認し、ようやく次の話題に移る。
様子見をしながら牽制をする二人の会話は、互いの知り合いが見れば臆病だと笑うだろうか。
「……思ったよりも早く帰る事が出来たんだね。僕はお爺ちゃんになって出迎える覚悟もしたのに」
「根源は意外と単純かつ退屈だったのよ。だから不本意ながらやるべき事に集中できたの。あーあ、せっかく皺だらけになった貴方を見て笑おうと思ったのに」
「その時は僕の孫が君の退屈を紛らわせてくれるかもしれないね。流石にお爺ちゃんになった時は君に勝てそうにないからなぁ」
穏やかな声色で告げられた言葉。
しかしそれは戯れとしての挑発でもあった。
当然、ケイはそれを聞き逃さない。
「あら、まるで今なら勝てるとでも言いたげね」
「別にそんなつもりはなかったんだけど、事実ではあるね。最後の戦いで勝ったのは僕だったし」
「…………ふふっ、貴方は私がいない間に随分と面白い冗談を覚えたのね。剣じゃなくて漫談の修行でもしていたの?」
「本気なんだけどなぁ。じゃあ……次の戦領祭で決着をつけようか」
水槽に浮かぶ泡を眺めながらトウラクはそう言った。
「随分と悠長ね。まだ数ヶ月あるじゃない。それに前の戦領祭の優勝はフェクトムでしょう? また負けるだけじゃないのかしら」
「今回は君がいる。なら勝てるよ」
例え敵であったとしても、いや敵となるからこそ彼の剣はどこまでも高みを目指すことが出来る。
「約束だ。次はあの場所で戦おう」
だからもういなくなるな、と彼は言わなかった。
これは他愛もない雑談の中で生まれたただの口約束であり、破ったところで罰がある訳ではない。
言うなれば、明日に遊ぶ約束を子供同士がするようなものだ。
しかしそれはケイに対して明確な答えを示すことになる。
「……そう、貴方はどこまでも自分らしさを貫くのね」
「それが良い所だとミハヤは良く褒めてくれるよ」
「惚気ないで頂戴。……まったく、自分の悩みがくだらなくなってきたわ」
ケイが最初に立ち上がる。
そしてその時初めてトウラクの顔へと視線をやった。
出会った時より、別れた時よりもずっと多くの事を経験してきたのだろう。
幼さは消え、その顔は一人前の剣士になっている。
なら、自分はどうであろうか。
ふとそう考え、ケイは水槽のガラスに反射する自分を見つめた。
相変わらずの見慣れた顔。
しかしその顔は自分自身に何かを期待しているようにも見える。
「本当、貴方にもう一度会えてよかったわ。おかげで私の道を決める事が出来たもの」
「何かの助けになれたならよかった」
「……ずっと貴方には助けられてばかりよ」
聞こえないように小さく呟いたケイは、そのままラッカの元へと向かって行く。
そしてトウラクのように真っ直ぐに彼女を見つめてこう告げた。
「私はここに残るわ」
「……そっか」
「でも、求道者はアトラスティアに戻る」
「そっか……ん? え?」
「聞こえなかったかしら?」
ケイはいつもの様に余裕そうな笑みを浮かべる。
全ては自分の思うがままで、困難も壁も存在しない。
それが彼女の望む
だからこそ彼女の答えは――。
「どちらも選ぶ。私はそう決めたわ。どちらか一つだけを選ぶだなんて、そんなの我慢できるわけないでしょう? 星の輝く場所は自らが決めるの。私が二つの世界で輝くと決めたなら、世界はそうあるべきよ」
「な、ななな……求道者が悩みすぎて壊れた!?」
「馬鹿にしないで、貴女じゃないんだから。さて、そのためにもお人好しな剣士さんに少し手伝って貰おうかしら」
待っていましたと言わんばかりに彼はベンチから立ち上がり、ケイの元へと向かう。
「僕なんかが力になれるのなら、喜んで」
「貴方だからよ。正確には貴方とルトラの力だけれどね」
言葉の矛盾に頭がパンクし狼狽しているラッカを前に、ケイとトウラクは笑っていた。
今の二人ならなんでも出来ると確信しているからだ。
■
工場長! 先方が早く求道者分裂機を納品しろって急かしてます!
このままじゃこの下町コンテンツ工場もお終いですよぉ!
『先方って貴女の事じゃないですか! っていうか、千年分のインストールがそんな一瞬で終わるわけないでしょう!? 無茶言わないでください! そんなに言うなら、あそこのコンテンツ生産者にも働くように注意したらどうですか!』
『これでトウソルが無いは無理があるだろ……。公式が勝手に言っているだけだし、需要も確認済み。間違いなく、作れば在庫は捌ける。もうこっちで勝手にやってしまうか……?』
テム子、すまない。
俺はこっちのコンテンツ生産者を止めなければいけないから無理だ。
……おい星詠みの杖君ッ! コンテンツはすぐにカプを作って濡れ場を用意すれば良い訳じゃねえェッ!
俺とこのメテオソルシエラグーンが君にコンテンツの楽しさをもう一度思い出させてやるッ!
俺とコンテンツバトルだッ!
『ほう、受けて立とうじゃないか。私のストームソルシライガーでお相手しよう。負けたら君をクラムとミロクの前にどスケベ状態で放り投げてやる^^』
いいぜ、俺が負ける事なんて絶対に無いからな!
俺とメテオソルシエラグーンならどんなコンテンツにだって勝てる。
行くぞ!
フリーエントリー、ノーオプションバトル!
『どうして現場の私だけが苦労してっ……! ああもうっ、この記憶もなんですか!? 誰が『ティーポットからお茶を飲んで舌を火傷する教授に地元の軟膏を渡す求道者』の記憶なんて今更必要なんですか! 絶対にいらないでしょう! こんなでも構築しないと求道者にならないなんて……もう……!』
『システム先輩システム先輩』
『なんですか……貴女までフトモモワイバーンとか言い始めるんじゃないでしょうね……』
『余はそんなおかしなことは考えないぞ。そうではなく、何もない状態で生み出し、徐々に記憶を注ぐのは駄目か?』
『っ!? ……そ、それなら確かにこちらの作業も十分に余裕が出来る上で、コンテンツになります……!』
『ああ、そうだ。求道者が記憶と太ももを取り戻すというコンテンツになる』
『太ももをいれませんでした?』
『気のせいだシステム先輩』
『そうですか。……というか、それならいけるかもしれません。認証を一つずつクリアしていく過程で記憶を徐々に取り戻す求道者……うん、これなら仕様書の変更も簡単です! でも』
『でも……?』
『悔しいですよぉ! 私、このメンバーの中で一番の頭脳派だったのに!』
『え?』
『ん?』
『けれど、システム先輩の役に立てて余は嬉しい』
『太ももが絡まなければ性格が良いのも評価ポイントで……むむ、認めましょう。貴女は歓迎するべき仲間です……!』
いっけえええええ!
メテオソルシエラグーン!
『迎え討て、ストームソルシライガー!』
うおおおおおおおお!
『少なくとも、あそこの二人よりはよっぽどまともそうですしね』
『太も……システム先輩、わかってくれて余は嬉しい』
『太もも先輩って呼ぼうとしました? 姿を見てもないのに勝手に太もも属性を付与しようとしました?』
『気のせいだシステム先輩。それよりも記憶空っぽ求道者の構築を進めよう。余も手伝う』
『ありがとうございます』