【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第515話 完成された銘 1‐11

「結論から言うと、私は今から分裂するわ」

 

 VIPルームに戻って来たケイの第一声にその場にいた誰もが驚愕した。

 無理もない。

 トウラクを連れて帰って来たと思ったら、狂気的な発言をしたのだから。

 

 どういう事か、とルシエラがラッカに視線を送るが、彼女は説明を放棄したようで視線を逸らすだけだった。

 

「……も、もしかして今までのソルシエラによく似た子たちも、そうやって分裂した結果なの?」

「違うわよ、ネームレス」

 

 取り敢えず、期待に満ちたその問いをきっちりと否定して彼女は部屋の中心に立つ。

 それから、ミロク達へ視線を向けた。

 

「アトラスティアを救ったあと、私の前には二つの道がある。那滝ケイとして生きる道と、求道者として生きる道よ」

 

 彼女の言葉に別れの気配を察したネームレスが抱き着こうとするが、ミロクがその手を握って止める。

 ケイの言葉はまだ終わってないからだ。

 

「私は元々、銀の黄昏の人間なのだから求道者としてアトラスティアに残るのが当然。けど……フェクトムだって私の居場所よ。だから私は、求道者としての自分と那滝ケイとしての自分を分けることにしたわ。これなら、どちらにも存在することが出来る。そうでしょう?」

「そうなのか……?」

「わかんない……」

 

 得意げな笑みを浮かべたケイだったが、ミズヒとトアにはいまいち伝わらなかったようだ。

 対して博士は「ほう」と興味が湧いた様子で声を上げる。

 

「確かにシステムにより転生を行った君の体は特殊だ。僕の多重提唱空間に近いだろう。意識の分割も理論上は不可能じゃない。だが、傲慢な答えだな、求道者」

「ふふ、でも私はそうするって決めたのよ。という訳で、早速お願いしたいのだけれど、良いかしら」

 

 ケイは振り返り、トウラクを見る。

 彼はその手に既に白亜の太刀を握っていた。

 

『私、まだ食堂のメニューを制覇していないんだけど。トウラク、これ終わったらまた食堂に行って良い?』

「流石に食べすぎだよ。ミハヤに怒られちゃう」

 

 緊張感の無い会話をしながら、彼は太刀を腰だめに構える。

 そして世界に刻むように告げた。

 

「神羅抜刀」

 

 静かに世界が書き換わる。

 全てがその一刀に従う事を当然として、命令を待つ様に息をひそめた。

 トウラクの髪は白く染まり、その容姿も性別を逸脱したものへと昇華される。

 星斬り・神羅はここに友の願いを叶えんと顕現したのだ。

 

「何度見ても凄い圧ね。私も頼るばかりじゃいられないから――」

 

 ケイはその手に大鎌を生み出し、いつものゴシック調のドレスを身に纏う。

 そして自身の足元に大きな魔法陣を展開した。

 魂への干渉と肉体の構築を行うための即席の魔法式である。

 

「私達は何か手伝う事はあるかい?」

「無いわ。しいて言うなら、生まれてくる求道者のサポートをお願い。初めは記憶が無い状態で構築するから」

「生まれて……という事は、ケイはママになったの……?」

「それとネームレスを黙らせて」

「ネームレスは一分黙ると信じているよ」

「――――」

 

 ネームレスの発声器官が一時的にその機能を失ったのを確認し、ケイは改めてトウラクを見る。

 そして両腕を軽く広げ、その身を曝け出した。

 

「さ、お願いね」

「『痛みはない。すぐに終わる事を約束するよ』」

 

 トウラクは刀へと手を掛け、鋭い眼光で狙いを定める。

 斬るのは実体のない魂と記憶の境目。

 神の御業に等しい概念の切り分けをトウラクは成功の確信と共に行おうとしていた。

 

 今まさに前例のない試みが行われようとしている事実に、誰もが口を閉ざし事の成り行きを見守る。

 そして、それを困惑しながら見つめていた悲哀のソルシエラの「ここでやるんですか……?」の問いを合図に行われた。

 

「『一振り』」

「――っ」

 

 意外にも辺りに響いたのは斬れる音ではなく、何かが噛みあうようなカチリという音だ。

 それからすぐにケイの足元の魔法陣が輝き出し、すぐ隣にもう一人の人間を形作り始める。

 淡い光の粒子が次々と集まっていき作られるのは、ソルシエラよりも少しばかり小さい背丈の少女だ。

 

「データロイドか。考えたな求道者」

 

 博士は感心したように呟く。

 バイザーを外し、今まさに形成されている人間を観察しながら彼は立ち上がり近づく。

 どうやら好奇心が刺激されたのだろう。

 

「こんな使い方は想定していない。上手く機能するのか見物させて貰おう」

「構わないわ。私とトウラクが協力したのだから、失敗なんてするはずないでしょう」

「『おぉ、なんだか感動する台詞だな。ちょっと照れくさい』」

「……今のは聞かなかった事にして頂戴。少し、私もこの場の空気に飲まれているみたい」

 

 恥ずかしそうに咳払いをしたケイは隣の少女を見る。

 それは既に普通の人間と変わらないまでに完成していた。

 肩に届かない程度に短く切り揃えられた青空のような髪に、幼さの残る顔立ちと控えめな唇、そして華奢ながらも鍛えられていることがわかる体。

 特に、ショートパンツからのぞくしなやかな脚は、彼女が多くの戦場を渡り歩いてきたことを証明していた。

 

「懐かし……」

 

 白いコートにショートパンツ、腰には砲撃用の二本の杖。

 その姿こそ、ラッカ達銀の黄昏が良く知る求道者のものだった。

 

「さあ、目覚めるわよ彼女が」

 

 ケイは求道者の額へと手を当てる。

 柔らかな光とともに魔法陣が展開され、求道者として必要な最後の処置を施した。

 間もなく、彼女の瞼がゆっくりと開く。

 

「……ん」

「おはよう、求道者(わたし)。気分はどうかしら」

「……誰ですか? 求道者って……私?」

 

 求道者は自分を指さし、首を傾げる。

 辺りをキョロキョロと見渡しながら、求道者は不思議そうに何度も自分の頬をつねっていた。

 

「私って……私って……ん?」

「貴女は求道者。これからゆっくりと記憶を取り戻していくのよ。わかったかしら」

「そうなのですか。……わかりました……」

 

 ケイの言葉に素直に従う様子を見せた彼女を見て、全員が取り敢えずは成功したのだと悟る。

 緊張の糸が一気に弛緩し、中にはその場にへたり込んだ者もいた。

 そして遠慮なく駆け出す者も。

 

「求道者ー!」

「うわっ……貴女は誰ですか?」

「私は先生! ラッカちゃんって呼んで! そしていつもみたいにオレンジソルトティー作ってぇ!」

「? すみません、私は、まだ……よく、思い出せなくて」

 

 助けを求めるような求道者の視線に気が付いたケイだったが、仕方がないと笑うだけで解放するような事はしなかった。

 ラッカが求道者をどれだけ大切にしていたのかを理解しているからだ。

 

「暫くは抱きしめられていなさい。何か思いだすかもしれないわ」

「うぅ、苦しいですが、わかりました……」

「うおっ、求道者が抱きしめさせてくれるなんて滅多にないよ。ルシエラ、博士、お前達もどう?」

「興味ないね」

「私も遠慮するよ。記憶を取り戻した時、どうなるのかは考えなくてもわかる」

 

 求道者を良く知る者なら、抱きしめる事などしないだろう。

 例え、記憶を失っていてもだ。

 

「それで、これからどうするんだ求道者……いや、これからはケイと呼んだ方が良いかな?」

「好きにすればいいわ。それで今後の方針だけれど、変わらずアトラスティアに直行で構わない。邪魔をするつもりはないから、立てた計画通りに行きましょう」

「良いのかい?」

「七つの認証に使用されたそれぞれの銘の力を使って、この子の記憶も再構築するから問題ないわ」

 

 ケイはそう言って求道者の頭を撫でる。

 抱きしめられ続けている彼女は、ケイに撫でられるとくすぐったそうにしてほほ笑んだ。

 

「なんだか、貴女に撫でられると落ち着きます」

「そう、ならよかった」

 

 二人は違う顔で、しかし似た笑顔を浮かべる。

 こうして作戦に新たな仲間が加わった。

 

 今はまだ記憶が不完全ではあるが、その実力を疑う者などいない。

 彼女こそが銀の黄昏において全ての天使討伐作戦に参加した唯一の構成員であり、銘との親和性が最も高かった戦士である。

 求道者と呼ばれる彼女の肩書は数多く存在するが、その全てが銘に関するものであった。

 中でも最も有名な肩書、それは――完成された銘。

 信奉や憧憬と共に、世界へ生存の光明をもたらした銘にふさわしい称号であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……なんか、想定より脚がむっちりしてないですか?』

『気のせいだシステム先輩』

『フッ、なかなかやるな星詠みの杖君』

『ああ、いいバトルだった^^』

 

 

 

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