【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第516話 対終末部隊「■■■」総隊長 1‐1

 ソルシエランドに留まれる時間はそう多くはない。

 あくまでここは目的地への通過点でしかないのだ。

 

「ここです」

 

 悲哀のソルシエラに連れられてきたのは、水族館に隣接する森林公園であった。

 今は出入り口に立ち入り禁止の看板が立てられているため、ソルシエラ達の姿はない。

 

 極彩色の木漏れ日に揺れる木々とよく手入れがなされゴミ一つ見当たらない道は、決戦の場所に続いているとは到底思えなかった。

 

「時空の歪みはこの向こうに存在します。探索係さんと計算係さんの事前調査によると、座標はS-17521」

「……ああ、間違いなくアトラスティアの座標だ。まさかこんな形で僕の座標探知機の開発が無駄になるとは思わなかったが、願ってもない事だな」

 

 彼の言葉には好奇心が見え隠れしていた。

 その隣ではラッカに絡まれている求道者が、少しだけ窮屈そうに歩いている。

 

「求道者ー、そのお洋服可愛いねぇ。銀の黄昏に支給されたやつだねぇ。お気に入りだったもんねぇ」

「そ、その……うぅ」

「やめるんだ先生。求道者が怖がっているだろう。……すまない求道者。先生は出会った時から少し頭がおかしいんだ。耐えられないようなら私の影に隠れていると良い」

「……ありがとうございます、教授さん」

「ぶはっ、教授さんだって。わっはははははは!」

 

 派手な笑い声に肩を震わせた求道者は、サッとルシエラの影に隠れる。

 それから後方を歩くケイに助けを求めるような視線を送ったが、帰って来たのは肩をすくめた仕方のない笑みだけであった。

 代わりに彼女を助けたのは、合流してからため息の数が明らかに増えたルシエラである。

 

「桜庭ラッカは黙ると信じているよ」

「――――」

 

 ラッカは見事に口を閉ざしルシエラを恨むように睨みつけるが、当の本人は涼しい顔で求道者と共に去っていく。

 続いて来たケイや教え子たちに助けを求めるようなジェスチャーを送ったが、ミロクとケイが無視したため、トウラクやミズヒとトアもやや心配そうにしながら立ち去っていく。

 

「哀れです故」

「ダサい」

「――――!」

 

 最後尾にいたデモンズギア二機にそう言われて、ラッカの心はもうズタボロだった。

 

「――到着しました。この場所に歪みがあります」

 

 真面目に目的地を目指していた博士やルシエラは、公園に突然現れた渦を前に足を止める。

 間もなく到着したケイとトウラクもまた、それを興味深そうに観察していた。

 

「この渦……天上の意思が操っていた根源によく似ているわね」

「確かに。熾天使級なら限定的に同じ事が可能なのかな。あの時のように反則的な攻撃が飛び出してくることはないみたいだけど」

 

 トウラクは穏やかに話しながらも手を伸ばす。

 すると、後方にいた筈のルトラがそれにすぐさま気が付き自身を白亜の太刀へと変えてその手の中へと飛来した。

 

『斬る?』

「用心しているだけだよ。斬るのはこの中に入ってから」

『早く斬りたい。天使を斬るのは楽しいから』

「デモンズギアとしての本能のようなものかしら」

「頼もしい限りだね。安心すると良いルトラ。私達の世界には、数えきれないほどの天使がいるから」

「ちなみに僕は300億を超えたあたりで数えるのをやめた。斬り放題だから、好きに暴れると良いさ。誰も止める者はいない」

 

 博士の補足にルトラが刀状態のまま興奮したように震える。

 

『トウラク! 私はどうやら遊園地に行くみたい!』

「遊園地ではないけど……まあ、ルシエラ達の期待に応えられるだけの働きは約束しよう」

「あら、いつもと違って随分と強気なのねトウラク」

「当然だよ。君がいるからね」

「……そう」

 

 悪気など一切ないトウラクの返答に、ケイは一瞬面食らってしまう。

 返答も尻すぼみであり、その態度にミロクとネームレスが危機感を覚えるのは当然の事だった。

 

(彼が結婚していて本当に良かったですね……)

(このやり取りをミハヤに密告して後で絞めてもらおう!)

 

 二人の表情が硬くなったのを見て、何かを勘違いしたミズヒとトアも背筋を伸ばす。

 これからアトラスティアに行くために、覚悟を新たにしたようだ。

 

「では向かうとしよう。私達の故郷アトラスティアに」

「渦を活性化させる。引き込まれる感覚があるだろうが、抗わず身を任せてくれ」

 

 博士がそう告げると、渦はそのうねりを大きくしケイ達の体を引き寄せ始めた。

 まるで世界そのものが口を広げ、飲み込もうとしているような光景だが、ルシエラは手本を示す様に初めにその中へと飛び込んでいく。

 

 そして一人、また一人と渦の中に姿を消していった。

 最後に残されたのは、引き寄せられないように必死に近くの木にしがみついていた悲哀のソルシエラだけである。

 

「無事に帰ってきてください……」

 

 悲哀のソルシエラには、そう願うことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 渦の先でケイ達を出迎えたのは一面に広がる灰色だった。

 

 アトラスティアの巨大な外壁の上に現れた彼女達は、街の中と外を同時に見る事になる。

 外は人体を組み合わせたような歪な天使が群れを成し、今まさにアトラスティアへと侵攻を進めている所であった。

 その場所に元は何があったのか想像することが出来ない程に全てが天使で埋め尽くされている。

 

「……久しぶりだな、この景色は」

「ああ。僕達が旅立つ時と全く同じだ」

 

 都市内部も当然、停止していた。

 弧を描くように連なる巨大な壁とその中に密集し、まるでパズルの様に組み合わさっている建造物と、その中心にそびえる塔。

 壁には大量の重砲がはめ込まれ、塔の至る所から飛び出た銃身は空の何かへと狙いを定めているようだった。

 

 街というよりは、街の機能を最低限取り入れた要塞と言うべきだろう。

 少なくともここで心穏やかに過ごすには長い年月をかけて慣れる必要がありそうだ。

 

「システムは問題なく稼働し続けていたようだ。世界は滅ぶ数分前で停止している」

 

 争いの音に逃げるように飛び立った鳥も、空を見上げ固まる子供の手を引く親も、そして遥か上空で灰色の輝きを放ったまま停止している禍々しくも神々しい何かも。

 全てが停止したままだった。

 

「ここがアトラスティア。……早速天使が大量にいるね」

『斬り放題……!』

 

 外壁の上から獲物を見下ろし、ルトラは興奮気味にカタカタと震える。

 今すぐにでも飛び降りて斬りかかりそうな様子の彼らを見て、ルシエラは先んじて言った。

 

「この停止した世界では斬れないよ。まずはこの世界を動かす所から始めないと」

『そうなんだ……』

「待っている子もいるみたいだし、さっさと認証をしに行きましょうか」

 

 辺りを珍し気に観察するミロク達とは違い、ケイは見馴れた様子である。

 先を急ぐように促す彼女に頷き、ルシエラは全員へと向けて言った。

 

「まずは求道者の認証を終える。幸いにも、ここからそう離れてはいないしね。それから一番近い場所にある銘の認証を順に行っていこうか」

「理想の次に近いのは――」

「ぷはっ、私! 私だよ!」

 

 信奉による強制的な沈黙が終わり、ラッカは目立つように外壁のギリギリに立って手を上げる。

 その様は、この場にいる誰よりも幼く見えた。

 

「この憧憬の銘を持つ私こそが、次の認証には相応しいね!」

「……別に順番に意味とか無いぞ」

「っしゃあ、行くぞー!」

 

 博士の呆れた指摘は、ラッカには通用しなかったようだ。

 元気に目的地へと向かうラッカと、それを追うように歩き出す面々。

 と、その時ルシエラが足を止めた。

 

「あら、どうかしたの?」

「……いや」

 

 ルシエラの目は、都市中央の塔の上に顕現した天使に向けられている。

 それに追従するようにケイもそれを見上げた。

 手が羽のように重なり、一対の巨大な翼を形成した鳥型の天使。

 このアトラスティアに終末をもたらす最後の厄災は、他と同様に停止している。

 

「気のせいだ、先を急ごう」

「ええ、そうしましょう」

 

 やがてルシエラが視線を外してから暫くして。

 

『――――』

 

 その目が僅かに動いたことに気が付いた者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これで良し』

『……今、何かしましたか天上の意思』

『このままでは順当に認証され、太もも躍動チャンスが減る。だから余がサポートをする事にした』

『天上が余計な事をしてますよ! 叱ってください!』

『美少女を傷つけない?』

『うん』

『じゃあいいよ』

『ありがとう、先導者』

『うわーん! 助けてカメ先生、赫夜牟先輩ー!』

『なんだかここは懐かしい気がするねぇ^^ まだ見ぬコンテンツに出会えそうだ』

 

 

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