【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第517話 対終末部隊「■■■」総隊長 1‐2

 全てが静止した世界は、仮初めの平穏が支配していた。

 元は深い黒に光沢が映える長い廊下も、今となっては灰色の世界の一部である。

 銀の黄昏の帰還を喜ぶ者も、厄災の為に再び猛威を振るう天使もいない。

 そのため、静止した世界で目的地にたどり着く事などただの散歩と変わりがなかった。

 

「着いた。まずはここだ」

 

 博士が告げたとき、ケイ達の目の前には小さな台座が存在していた。

 機械が所狭しと並ぶ何かの観測室のような場所の中心に鎮座する長方形の立方体は、その中に淡く光を放つ何かを収めている。

 宝石というよりは、白熱電球に近いだろうか。

 芸術品よりも科学の結晶と言うべきであろうそれこそが、銘による世界停止システムの解除装置の一つである。

 

「やる事は簡単だ。アレを破壊すれば良い。そうすれば時間を縛る鎖が一つ無くなる」

「誰が壊しても良いの? なら私がぶっ壊すけど」

 

 ラッカの問いに博士は頷く。

 

「銘を持つ者なら誰でも良いさ。ただ注意するべきは求道者、君だ」

「わ、私ですか……?」

 

 名前を呼ばれた求道者が肩を震わせる。

 辺りの重い空気に無意識の内に彼女はケイの後ろへと隠れており、顔だけを覗かせていた。

 

「破壊と同時に放出される銘のエネルギーを用いて記憶を再構築するつもりだろうから、タイミングは重要だ。勝手に先走って全部壊されては、彼女が記憶を取り戻すエネルギーが無駄になってしまうだろう」

「あっぶね、見た瞬間槍投げなくてよかったぁ」

「……やっぱり大人しくていてくれ。そっちの保護者達、先生を頼む」

「えっ、逆……」

 

 心底ショックを受けた様子のラッカをミズヒがひょいと担ぎ上げ、ミロク達の元へと戻る。

 担がれている間「おっきくなったねぇ」と感慨深そうにしていたので、本当に傷ついているわけではなさそうだ。

 

「最初は求道者に壊して貰うのが良いんじゃないかな? もしかしたら動作から記憶の一端を取り戻すかもしれない」

「教授の言う通りそれが良いな。じゃあそういう事だ。来い、求道者」

「うぅ」

「博士、もう少し優しく言ってあげてくれ。彼女が怖がっているじゃないか」

「記憶が戻ったらどうせ生意気になるだろコイツは。僕と大して身長が変わらない癖にいつも見下ろしてきてムカついてたんだ」

「……博士の身長が伸びる事を信じ「もう遅いしプライドってものがあるぞ」……すまない」

 

 体を自在に作り替えられる博士は既に身長という概念からは逸脱している。

 が、それはそれとして過去の憂さ晴らしは必須だった。

 

 そんな彼の棘のある物言いに求道者は完全に怯えてしまっているのか、ケイの影に隠れてしまっている。

 

 

「あーあ、怖がらせたー! やーいやーい! 博士のいじめっ子ー!」

「お前後で覚えて置けよ。絶対に講師に説教させるからな」

「ははは、曰く桜庭ラッカはどんな状況でも逃げ出せるー!」

「先生、お願いですから静かにしててくださいね……。なんだか、私の理想だった人のイメージが……」

「理想か、へへっ悪くないね!」

「それが崩れそうだって話だぞ先生」

 

 ミズヒの指摘を華麗に無視してラッカは求道者へとスポーツ観戦のように声を上げる。

 

「いけー! 求道者、気にせずアレをぶっ壊せ―! 大丈夫! 隣にいるインテリクソバイザー野郎は怖くないから! あいつ、アレで幽霊とかクソビビ「コード444:衝撃――バン」げほっ、このやったなお前! 曰く桜庭ラッカは――」

 

 大人げない戦いが始まろうとしたその時、ルシエラが蒼銀の剣を取り出し、地面を小突く。

 その音は博士と先生の動きを止めるに十分だった。

 

「また黙らされたいのかい……?」

「だって先生があまりにも愚かだから」

「あいつが先に手ェだしたしー?」

「お願いだから、大人しくしてくれ。銀の黄昏がこういう集団だと思われてしまう。見ろ、牙塔トウラクを」

 

 指さす方向には、所在なさげにラッカ達を見守るトウラクの姿があった。

 彼の表情はあの決戦では見られなかった程に何ともいえないものになっている。

 

「アレが私達を助けに来てくれた者のする苦笑いか? 申し訳ないだろ。もっと銀の黄昏の構成員としての自覚を持つんだ。博愛のソルシエラが見たらどう思う?」

「すんません」

「僕も少し大人げなかった」

 

 まったく心の籠っていない慣れた謝罪が、遥か昔の日常で彼女達がどのように過ごしてきたのかを示している。

 根本からの解決は無理だと諦めているルシエラは求道者の方を見ると、穏やかな顔で手招きをした。

 

「すまない、彼女達には私からきつく言いつけておくよ。だから、どうか今は力を貸してくれないかな」

「えっと……」

 

 求道者はケイの答えを求めるように見上げる。

 すると彼女は求道者の肩を掴み、優しく前に押し出した。

 

「行きなさい。少なくとも、今の彼女は銀の黄昏でも一二を争うくらいにまともよ。信頼して良いわ」

「はい、わかりました」

 

 おずおずと前に出た求道者は、そのままルシエラへと歩み寄る。

 その姿をルシエラは優しく見守り、それから「ありがとう」と心からの感謝を示した。

 素直に言う事を聞く構成員という者は、それだけで価値があるのである。

 

「記憶はなくとも、身体は既に仕上がっているようだ。だから何も恐れずあれに杖を向け、砲撃を放つと良い」

「砲撃?」

「ああ。ケイの方は記憶の再構築作業があるだろうから、砲撃のサポートは私に任せて貰っても良いかな」

「ええ、是非お願い」

 

 ケイはそう言って魔法陣を自身と求道者の足元に展開する。

 足元に広がった輝きに一瞬驚いた求道者だったが、その肩をそっと抱き寄せたルシエラによりすぐさま落ち着きを取り戻した。

 

「君に砲撃を教えるなんて、なんだか不思議な気分だ。さあ、杖をあの台座に向けて」

「こ、こうですか」

「そうだ。それから体の中をめぐる魔力に集中してくれ。大丈夫、私が感知しやすいように体外から操作しよう」

 

 途端に体が温まるのを感じ、魔力の存在を自覚させる。

 手のひらに集まる確かな熱は、解放の時を待ちわびているようだった。

 

「杖は君の思うがままに砲撃を放ってくれる。だから想像するんだ、理想の軌道、威力、大きさ。その全てを」

「理想の……うーん」

 

 求道者は目を瞑り、必死に脳内で自身が砲撃を放つ様を想像する。

 うんうんと唸り続け数秒、彼女は恐る恐る目を開いて、小さな声を合図に砲撃を放った。

 

「えいっ」

 

 可愛らしい声とは裏腹に、鮮やかな水色の魔力が放出され真っ直ぐに台座へと向かう。

 それはなんの抵抗もなく台座を破壊し、その後ろの壁にも直撃した。

 仮に全てが静止した世界でなければ、後ろの壁にも大穴が空いていたであろう威力に、何よりも放った本人が驚いている。

 

「す、すご……」

「呆けていないで、ここから記憶を再構築するわ」

「あ、はいっ」

 

 辺りに散った銘のエネルギーがケイにより巧みに操作され求道者へと集う。

 輝きの一かけらすら余すところなく全てが彼女の体の中へと吸収されていった。

 

「う、頭がふわふわして……」

「えっちなこと言ってる……?」

「先生、静かにしてください」

 

 ミロクがラッカを華麗に黙らせているその目の前で、求道者の脳は得も言われぬ浮遊感に満たされていた。

 それから間もなく、彼女の頭はふらふらと軌道を描き、ゆっくりとその場に崩れ落ちる。

 

「おっと、大丈夫かな」

 

 ルシエラが優しく受け止める。

 求道者は目を閉じ、夢を見ているかのようにうわ言を呟いていた。

 

「……う……」

「この様子だと、記憶の構築が開始されたわね。今のこの子は夢を見ているような気分のはず」

 

 ケイはそう言って優しい手つきで求道者の前髪を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『天上の意思、そっちの『しょうもな記憶ファイル』をもうアップロードしちゃってください! 私はこっちの再構築を完了させ次第、第一段階の記憶として求道者に埋め込みます!』

『わかった。余に任せると良い』

『なんか大変だなぁ』

『暇なら、どんな形でクラムとミロクの前に出たいか考えておくと良い。ある程度の希望は叶えたコンテンツにしよう』

『うーん、何が良いかなぁ』

『おすすめはミユメの発明品でどうにかなってしまうシリーズだねぇ^^』

『迷うなぁ、せっかくならダンジョンに潜っても良いしなぁ』

『『うーん……』』

『お二人も手伝って貰って良いですかねぇ!?』

 

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