【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第520話 対終末部隊「■■■」総隊長 1‐5

 弛緩した空気が一瞬にして張り詰める。

 気を抜くことを本能が拒否し、全員が敵意の有無にかかわらず得物を構えて事の成り行きを見守る事となった。

 

 全員の視線の中心には今目覚めたばかりの求道者の姿。

 彼女は杖を二本の杖をルシエラへと向けて今すぐにでも砲撃を放たんとする勢いで叫ぶ。

 

「理想に二度の敗北はありません! 特に今のお前だけには負けてはならないッ!」

 

 烈火の如き怒りは即座に行動へ現れる。

 記憶を失っていた先ほどまでの無垢な少女とは違う。

 過程は抜け落ちていても、終末決戦を経た銀の黄昏の戦士であった。

 

「戯れは無しです」

 

 求道者の足元に最小限の転移魔法陣が展開される。

 それはアトラスティアで開発され進化した独自の魔法であり、そこに雲零の民だけが持つ独特の魔力循環方法が組み合わさりただの魔法の域を越えた現象として現れる。

 求道者の姿が消え、同時にルシエラの周囲に無数の転移魔法陣が出現した。

 その全てから求道者が姿を現し、収束が終わった杖を二つ構えている。

 

「……転移魔法を応用した同時存在か。相変わらずだね」

 

 幻覚やダミーではなく、全てが本物。

 この場に出現した百を超える求道者全員が独立した思考と動作を可能とする。

 それが一時的なものだとしても、自身を同時に複数存在させることが出来るからこそ彼女は完成された銘の名を手にしたのだ。

 

 無法にして頂点。

 全ての民の最強という理想を背負う者としては相応しい力だろう。

 

「消し飛びなさい」

 

 同時に魔力砲が放たれる。

 収束砲撃とは違い、自身の魔力だけで放たれるそれはしかし今、空気を焼き尽くし辺りの空間を歪めながら直進した。

 

「教授!」

「大丈夫だよ、博士。……求道者の砲撃は弾けると信じているよ」

 

 ルシエラは蒼銀の剣を杖のようにつきながら、静かにそう呟いた。

 その瞬間に全ての砲撃が内側から膨れ始め、風船のように弾ける。

 中から飛び出し溢れた水色の魔力は、求道者のものだ。

 

「その程度は想定済みです」

 

 既に次手は打たれていた。

 転移によりルシエラの背後に移動した求道者は、杖を腰に戻し脚技を放っている。

 頸椎を蹴り潰す為だけに振るわれた脚を、ルシエラは振り向くことなく蒼銀の剣を後ろへと向けて受け止めた。

 

「私も想定済みだ」

「だったら、これはどうですか!」

 

 攻撃は止まない。

 足技を主体とした嵐のような連撃が、次第にルシエラを後退させる。

 一手一手が理想の一撃であり、理想の繋ぎ方で次の攻撃へつながった。

 こと肉弾戦において求道者は銀の黄昏の中でもトップクラスの実力を誇る。

 純粋に肉体だけでルシエラと戦った場合、勝者は求道者で確定する程だ。

 

「っ、求道者の攻撃は当たらないと信じているよ」

「私の攻撃は必ず当たりますよ。それが理想です」

 

 ルシエラに当たる直前で止まった筈の脚が急加速を始め、攻撃を再開する。

 蒼銀の剣で受け止めたルシエラであったが、その衝撃を殺しきれずに大きく後ろに下がった。

 しかしそれではまだ足りない。

 

 求道者が求めるのは、ルシエラの死なのだから。

 

「信奉と理想、格は同じですよ。以前のような騙し討ちも効きませんし、彼女達の死は受け入れました。それが私の理想です」

 

 それは理想の銘の持つ本来の権能であった。

 自身が理想と定めた状態への強制的な自己進化。

 故に求道者は理論上、自身が望む限り無限に進化を続ける。

 

「もっと速く――」

 

 脚撃の速度が音を越える。

 

「もっと重く――」

 

 一撃の重みが収束砲撃に比肩する。

 

「もっと、もっと――」

 

 加速度的に進化を続ける求道者の目にはルシエラしか映っていない。

 憎悪と責務が混ざり合い、彼女はこの場で必ずルシエラを殺すという覚悟だけで目覚めてすぐに理想の銘の力を100%引き出して見せたのだ。

 

「お前だけは同じ銀の黄昏である私達が殺さなければッ! あの人に顔向けができません!」

「……ああ、相変わらずで安心した」

 

 ルシエラは攻撃を寸前で受け流しながら安堵の笑みを浮かべた。

 それが余計に求道者を苛立たせるというのに。

 

「ッ、何が可笑しいッ! お前は殺す。それが私の理想です!」

「そうだね。君には私を殺す権利がある」

 

 求道者の流れるような連撃はまるで舞のようにも見えた。

 それは次第にルシエラを圧倒し、そして遂に蒼銀の剣を弾くに至る。

 

「っ、マズイ。助けるぞネームレス!」

「え? あ、ああ!」

 

 ここまできてようやくミズヒとネームレスが我を取り戻したかのように動き出した。

 見入っていたのだ。

 次第に理想に近づいていく一挙手一投足は、戦う者にとってはどんな絵画よりも美しい。早い話が、これが戦いであると忘れていた。

 それは戦いに真摯に向き合えば向き合う程に顕著になる。

 

 だから、求道者の隣で戦うなら戦いそのものに意味を見出す者は相応しくない。

 義務で馬鹿真面目に戦っているか、あるいは戦いそのものには不真面目でなければ足を引っ張るだけだ。

 故にかつて十全な求道者と共に二人だけで戦えたのは銀の黄昏の首領であるルシエラと、そして――。

 

「曰く、桜庭ラッカは如何なる戦争にも介入できる」

 

 理由もなくただ強さだけを手に入れたラッカだけだ。

 焔よりも無敵の靴よりも速く、ラッカは既に動き出していた。

 彼女は求道者とルシエラの中に生まれた僅かな隙間に体を滑り込ませると、不可視の槍で求道者の脚を受け止める。

 

「っ、何故ですか先生!」

「そりゃ受けとめるだろ。オイ教授、てめえ罪滅ぼしのつもりか? 暫くサンドバックに徹するつもりだったろ。少しは許してやったがこれ以上は無理だ。時間の無駄だ」

「……だが私は彼女にそれだけの事をしたのだ」

「ンなもん、後で飯でも食いながら腹割って話せよ。馬鹿真面目と馬鹿真面目が戦うとこれだからなー」

 

 ラッカは槍を巧みに操り、求道者の脚を払う。

 予想外の乱入に一瞬思考が停止した彼女は、そのまま宙に浮かせられた。

 

「っ」

 

 そして次の攻撃を予想した求道者が理想の防御を形成する最中、ラッカは求道者ではなくルシエラの腹部を蹴り飛ばす。

 

「オラァッ!」

「うぐっ」

「えっ!?」

 

 今までで一番大きく後退したルシエラは、そのまま博士とケイに受け止められる。

 その顔は苦しそうだがそれ以上に困惑していた。 

 

「お前が口を開くと余計に求道者が苛立つから少し離れてろ!」

「やり方ってもんがあるだろ先生!」

「うるせえ博士! お前も教授の意志を尊重して見守ってんじゃねえよアホ! そして求道者!」

 

 ラッカは求道者を指さし、挑発的に告げる。

 

「ゴタゴタ言っても仕方ねえからさ、今までのように決闘しよっか。負けた方がなんでも言う事を聞くって感じで」

「……裏切るのですか」

「まさか。少し遊ぶだけだよ、昔みたいに。それとも……ビビってんの?」

 

 ラッカはわざとらしい笑みと共にやれやれと首を横に振る。

 

「記憶を取り戻したばかりで私に勝てるか不安ですぅ(裏声)って感じで。雲零の王ってビビりだねぇ」

 

 あまりにも安い挑発だ。

 この場にいる誰もがそれが自分に注意を向けるための物であると理解している。

 唯一、求道者を除いて。

 

「お前ぇ! 絶対に許しません! まずはお前を叩きのめします! そしてまた一緒に教授を殺して貰いますよ!」

「相変わらず単純で助かるね」

 

 ラッカは足で空を蹴る。

 するとそこに在った何かが回転し、ラッカの手の中へと納まった。

 2本目の不可視の槍だ。

 

「これでお揃い☆」

「くっ、 またボコボコにしますから!」

 

 怒髪冠を衝き、求道者はラッカを睨み叫ぶ。

 激昂と共に銀の黄昏の構成員同士の戦争が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『コンテンツの代わりに戦いを脳に詰めたテム子?』

『私、あんなに単純じゃないですよ! 求道者と違って、私はどう見ても冷静沈着な皆のブレインじゃないですか!』

『君、自分をそんな風に思ってたんだねぇ^^』

『な、なんですか』

『……システム先輩、余はどんな愚かなシステム先輩でもその意思と生き方と太ももを尊重するぞ。安心してくれ』

『今、私の事を愚かなシステムって言いました?』

 

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