【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第521話 対終末部隊「■■■」総隊長 1‐6

 銀の黄昏の構成員は全員が何かしらの突出した才を有する。

 それは頭脳であったり、魔法への並外れた適性であったり様々だ。

 故に本来彼女達は交わることはなく、それぞれのコミュニティの支配者となり生きる筈だった。

 そんな彼女達をなんとか集めた博愛のソルシエラだったが、一つだけ彼女が失念していることがあった。

 

 ――コミュニケーション能力である。

 

 彼女達は生まれながらの王であり神であり絶対的な支配者である。

 故に全員が誰かを見上げる事も、同じ視点に立つこともない。

 そんな者達が同じコミュニティに属した場合どうなるかなど、火を見るよりも明らかだろう。

 

 教授と講師を除いた全ての構成員での日夜行われる戦争に近い大喧嘩は、流石の博愛のソルシエラですら介入した程だ。

 

 七日間続いた銀の黄昏の戦争の果て、彼女達は博愛のソルシエラと教授と講師の前で、あるルールを制定される。

 その中で、もっともコミュニケーションを円滑に進めたルールがあった。

 

 それこそが、一対一の決闘で勝った者が正しいというぶっちぎりでイカれたルールである。

 

「私の攻撃は当たりますよ。それが理想ですから」

「曰く、桜庭ラッカの体はどんな攻撃にも傷つかない」

 

 長い時を経ても、いやだからこそ。

 この決闘は何よりも彼女達のコミュニケーションとして成立していた。

 

「どうした求道者! そんな生半可な攻撃で倒せると思ってんのかよォ! それともまだお眠かァ!? 昔っからお月様が昇る頃にはナイトキャップでおねんねだもんなァ!」

「なっ、なぜ貴女がそれを……! 私がまだ取り戻していない記憶の中で一体何をしたんですか!」

「勝ったら教えてやるよォ!」

 

 世界が停止し色を失った廊下を、高速で二人は駆け抜ける。

 それは交わるように交差したかと思えば、激しく反発し更に加速する。

 もはや決闘の舞台はあの小さな部屋に収まる事はなかった。

 銀の黄昏きっての戦士二人が戦うのだ。

 その程度で収まる筈がない。

 

「ってか、やっぱり自分の記憶が不完全な自覚はあるんだね。じゃあ、少しは教授について――っと、曰く、桜庭ラッカは心臓を持たない」

 

 胸を貫いた魔力砲が激しく廊下を揺らす。

 停止した世界では砂埃一つ起きないが、その威力は轟音から察することが出来た。

 ラッカの防御と動体視力を潜り抜けるだけの神速の魔力砲は、求道者がそれを理想と定めたが故にたった今至った攻撃だった。

 

「あっぶねー、心臓潰されたら流石に一回は死ぬからなぁ。曰く、桜庭ラッカの体は傷を許さない」

「そんな事を許すと思いますか?」

 

 既に求道者は動いている。

 廊下を縦横無尽に駆けながら、彼女は目につくすべての場所に転移魔法を仕掛けていた。

 その中から現れるのは自分自身と同一の存在。

 

 数百を超える求道者が、同時にラッカへと迫る――。

 

「うわああああ! こんな狭い場所で数に物を言わせるのかよぉ! お前、ガーデナーちゃんみたいな戦法取りやがって!」

「その割には余裕そうですが」

「まあ何回も同じ目に遭ってるし」

「……っ、私としては先ほど思いついた新しい戦法なのですが」

 

 記憶が欠落した求道者の中にあるのは、英雄譚の始まりと終わりだけだ。

 その過程に得た物や失った物は全て抜け落ち、彼女は裏切られたという事実だけで戦っている。

 

「私が知らない私の記憶には、教授を許すに足る答えがありますか?」

「無いね。むしろさらにキレるわ(笑)」

 

 何かを踏みにじられたという怒りと、深い悲しみが最後の記憶だった。

 残されたその記憶を頼りに動くのならば求道者の答えは一つしかない。

 

「そうですか。ではやはり、とりあえず教授は殺さないといけませんね」

「まあ私がお前と同じ立場でもそうするね。自分を殺した奴が目の前に居たら、まずは殺す。それから状況を整理するね」

 

 無数に襲い掛かって来る求道者に対して、ラッカは逸話をいくつも駆使しながら回避していく。

 しかしそれも限界が存在する。

 このまま鬼ごっこを続けるわけにはいかないだろう。

 

「貴女が洗脳されている可能性だってありますから」

「教授はそんな事はしないよ。馬鹿真面目だから」

「私はその教授を知りません!」

 

 少しでも疑念があるならば、求道者は殺す選択肢を選ぶ。

 そうするだけの過去が、確かに存在していたのだから。

 

「戦いとは、正しき力を振るう者が勝利する。いずれにせよ、私が負ければそれまでです! 全ての正義は強さにある!」

「でたその格言。入ったばっかの求道者はよく言って――ッ!?」

 

 慢心があったわけではない。

 強いて言うなら、ラッカの対求道者の戦闘論理が新しすぎた。

 多くの戦いを経て自身の銘の使い方を最大限理解し、柔軟な思考を得た彼女と対峙しているという無意識の前提が、ラッカの視野を狭めていたのだ。

 

 まさか、いくつもの理想を重ね掛けし、魔力砲を推進力として真正面から突っ込んでくるとは思うまい。

 

「雲零の王の言葉を馬鹿にする者は殺します!」

「っぐ!?」

 

 多重存在や転移魔法などの搦め手を無視した真正面からの攻撃。

 それは初めてラッカに有効打を与えた。

 

 真正面からの飛び蹴りにラッカは防御を余儀なくされ、壁に叩きつけられる。

 それはいくら銘を持つと言えども、ただでは済まない一撃であった。

 

「フンッ、私が正義であることは依然変わりないようですね!」

「……たかだか一撃当てただけだろ」

「なら次は二撃その体に叩き込んであげましょう」

 

 ラッカはゆっくりと立ち上がり、求道者へと向けて歩き出す。

 その背後、頭上、下方に同時に求道者が存在し、それぞれがラッカを蹴り殺す為の構えを終えていた。

 

「貴女を蹴り殺す事が、私の理想です」

「嫌な理想だなぁ」

 

 自分へと迫る攻撃に、ラッカは笑う。

 今のラッカの手札は無限にある。

 しかしだからこそ、求道者という人間に何が響くのかをよく考えて動かなければいけなかった。

 そんな中、彼女が選んだのは求道者にとっては未知の最強――。

 

「借りるぜ、後輩ちゃん」

 

 とある学園に君臨する頂点達の力だった。

 

「なっ……憧憬の逸話とは違う……!?」

「大元は一緒だァ……って物まねは流石に似てないかぁ! 私ってば可愛すぎるからなぁ!」

 

 彼女は求道者の攻撃を全てその体で受け止めた。

 中でも下方からの攻撃を、彼女はガラスの靴でまるでそよ風でも受け止めるかのようにぴたりと停止させている。

 

「12秒間、遊ぼうぜェ!」

「っ、自身の格を上位にすることによる一切の現象の無効化ですか!」

「お前、馬鹿の癖に頭良さそうな分析するよな」

「はぁ!? 私は頭も良いですがぁ!?」

 

 怒りに満ちた顔で求道者は再び動き出す。

 それを追うようにラッカも靴底で地面を叩いた。

 瞬間、今までよりもずっと速い桜色の光が求道者を追い越す。

 

「速――」

「だけじゃねェんだわ」

 

 ガラスの靴が求道者の眼前へと向けられる。

 その瞬間、求道者は自身の防御を理想とした。

 と、そこで違和感に気が付く。

 

(回避じゃなくて防御を選んだ……? 何故……?)

 

 自分の思考に思わず彼女は困惑する。

 ガラスの靴を目視して五秒で、彼女はその恐ろしさを見抜いていた。

 だからこそ彼女は本来ならその身軽さと転移魔法を生かして、翻弄する戦法を選ぶ。

 だというのに、たまたま気が変わってしまったようだ。

 

「その未来が欲しかったんだ」

「っ」

 

 身構えた求道者の足元に伸びる影がひとりでに動き出し、あろうことか影の元である求道者の足を絡めとる。

 ならばと展開した魔法陣は、全て生まれた瞬間に氷漬けになった。

 

「捕まえた♥」

 

 心底馬鹿にした笑顔でラッカはそう告げる。

 そして、下を指さす。

 

「一緒に内緒話しよう」

「なっ、体が影に沈んで――」

 

 ラッカと求道者は共に影の中に沈んでいく。

 その先で待っていたのは、何もない暗闇の空間であった。

 

「ここは、位相世界でしょうか……?」

「たぶんそう。私もよくわからんね。後輩ちゃんの力なんて、使う機会も余裕もなかったし」

「後輩……?」

「そうだ。あの後、色々あってね。私達はもう最終目標を果たす目前まで来たんだよ。未来は変わった。教授は再び仲間になったんだ」

 

 ラッカは闇の中で両手を広げて自身の存在をアピールしながら求道者へと歩いていく。

 その姿は明らかな挑発でしかなかった。

 しかし求道者は眉をしかめるばかりで、それどころか綺麗に一礼をする。

 

「……申し訳ございません。それでも私はまだ殺す事が正しいように思えます」

「それはわかってる。……でも、これ以上は求道者に恥をかかせないつもりでいるんだ、来てみなよ」

「遠慮なく」

 

 氷と影の拘束を引きちぎり、求道者は駆け出した。

 その瞬間彼女の存在は十人に増え、魔力砲と脚技を放つに至る。

 しかしそれもラッカからすれば見慣れた光景だ。

 

「もう慣らしは済んだし、二度と喰らわねえよ」

 

 魔力砲を氷の盾で防ぎ、蹴撃を軽い跳躍で回避し、背後に迫るもう一人の求道者の攻撃も振り向き様のカウンターキックで相殺する。

 それだけにとどまらず、ラッカは十人全ての攻撃を完全にさばききった。

 

「…………見事です」

「見事なもんか。こちとらズルしてる気分だっての」

 

 ラッカはつまらなそうに言った。

 

「求道者は終末決戦の最後の記憶と最初の記憶だけで戦っているんでしょ。言うなれば、初心者が攻略サイトをチラっと見て一番強いパーティーを使っているようなものだ。浅いんだよ、理想の銘への理解と敬意が」

「浅い……」

「そうだ。理想の銘が生まれた切っ掛けも、その銘に対する心構えも全てが存在していない。……多重存在は、お前と教授が力を合わせて生み出した戦術だ。それもまだ思い出せないだろ」

 

 今まさに多重存在を使用し始めていた求道者は思わず動きを止める。

 

「っ、そんな……いや、確かに大人数で一人に襲い掛かるのは本来の私の信条には反しますね」

「でもそうしなきゃ人類を守ることが出来なかった。そろそろ頭は冷えてきただろう。納得はしてないだろうが」

 

 ラッカは教授と同じくらいには求道者という少女を理解している。

 真っ直ぐで正しくあろうとするが故、彼女は自分自身にも妥協を許さないのだ。

 

「ですが、それでは指揮者や講師に顔向けができません……! 私はあの人たちの事を思い出せない。けれど、大切な戦友であったことは理解できます。残された記憶を無碍にして教授を信じるのは、彼女らへの冒涜に等しい」

「最後の記憶だけを頼りに義理を通そうとするか。そこは記憶が不完全でも求道者なんだね。だからこそ、私は今からお前をボコボコにするよ」

 

 ラッカは影の世界で優しい笑みでそう告げた。

 しかし空気は重く張りつめ、まるで世界が息を呑むようにしんと辺りが静まり返る。

 

「初めての決闘。私に負けたお前はボロボロに泣いた。悔しかったんだろう――二度目の初敗北をさせてやるよ。無様な姿や泣き顔はあいつらには見せないでおいてやる」

 

 記憶の不完全さを理解させ、この状況の異常性を理解させ、そして教授と言う人間を僅かに理解させた。

 求道者が理性を取り戻した今、ラッカに残された最後の仕事は求道者を完膚なきまでに叩きのめす事だった。

 決闘という形をとる事で、求道者が自分自身を無理矢理納得させるための状況を創り出すのである。

 

「ガーデナーちゃんだったら、こういうやり方はせずに教授との間を取り持てるんだろうけどなぁ」

「…………っ私は負けません」

「「――ッ」」

 

 本当の意味でここから始まった決闘は、僅か一分と掛からなかった。

 

「――っしゃ、オラァッ!」

「うぅ……」

 

 影の中で拳を天へと掲げるのは、勝者であるラッカただ一人。

 同じ銀の黄昏の構成員と言えど、今の彼女達の間にはそれだけの大きな壁が存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『(美少女とはいえ流石にやりすぎてドン引きしてる顔)』

『(自分の大元が見るも無残にボコボコにされて複雑な顔)』

『(筋肉質の太ももが程よいむっちり太ももをいじめていてなんとも言えない顔)』

『^^(合法リョナでいい笑顔)』

 

 

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