【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第522話 対終末部隊「■■■」総隊長 1‐7

 求道者とラッカが激しい戦闘と共に部屋を飛び出して10分が経過していた。

 残された者達は、その帰りを待っている状態である。

 心配そうにラッカ達が消えて行った方を見る者や、隙を見てケイに膝枕をねだろうとしている者など様々だ。

 中でもルシエラと博士はそれに慣れた様子でそれぞれが自分の為に時間を使う事を決めたようである。

 

 ルシエラは拡張領域から椅子とテーブルを取り出し、即席のティータイムに移行していた。

 そこには誘われるままにホイホイとついて行った食いしん坊二人が当然のように同席している。

 

「クッキー美味しい」

「紅茶も凄い美味しいです……!」

 

 ルトラとトアは警戒心0で気に入った様子で紅茶とクッキーを楽しんでいる。

 その姿をルシエラは優しい微笑を携えながら見つめ、自身も紅茶を口へ運んだ。

 

「ん、拡張領域の開発は紅茶の持ち運びにおいて革新的だと言えるね。博士も一緒にどうかな」

「僕は遠慮する。先生はともかく、あの状態の求道者が教授のティータイムなんて見たら、余計に怒りそうだからな。挑発か? それはわざとやっていると思って良いのか?」

「まさか。求道者と先生が帰って来たところを労う為にオレンジソルトティーを用意しようと思ったんだ」

「教授が飲みたいだけだろ」

「……そうではないと信じているよ」

 

 少しの沈黙の後にルシエラはそう答えた。

 その間、博士とは一切目を合わせようとはしない。

 

 博士は本に目を落としながら、傍に立つトウラクだけに聞こえるように呟く。

 

「紅茶は自分を落ち着かせるルーティンだ。あれで求道者に襲われたのがショックだったんだろう。例え当然の怒りだと理解していてもな」

「……そうなんだね」

「良ければお前も同席してやれ。アイツは誰かと茶を飲むのが好きな奴なんだ」

 

 トウラクは頷き、まず初めにケイへと視線を送った。

 折角なら彼女がいれば心強いと思ったのだが――。

 

「お願いだよぉ! 私にも膝枕してよぉ!」

「ネームレス、貴女は目線が気持ち悪いわ(直球)」

「うっ、駄目かな……? あぁ、ごめんね。その……私の知ってるケイはよくやってくれたからつい懐かしくなっちゃって。忘れて!」

「…………はぁ、わかったよ。ほら来なさ「あマジ!? よっしゃ失礼しまーす!」やっぱり駄目よ。そこで簀巻きになってなさい」

 

 鎖で転がされるネームレスとそれを冷徹な目で見下ろすケイ。

 到底、お茶に誘える雰囲気ではない。

 

(……ケイって意外と押しに弱いのかな)

 

 本人が聞いたら怒りそうな事を考えながらトウラクはルシエラへと近寄る。

 彼の接近に気が付いたルシエラは指を鳴らすと、新たに一つの椅子を召喚した。

 

「良ければどうかな」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

「トウラク、これ美味い。貴方も食べて」

「あんまり食べ過ぎちゃ駄目だよルトラ。ミハヤに怒られるのは僕なんだから」

「でもトアも食べてる」

「……他所は他所、うちはうちだよ」

 

 確かにルトラに負けず劣らずの大盛りのクッキーであった。

 トアは一瞬気まずそうにしたが、ルシエラが追加で自分の皿にクッキーを乗せてくれたことで再びクッキーを食べ始める。

 一つのクッキーを小さな口でリスのように食べているにも関わらず、その速度は尋常ではない。

 

「良ければ君も飲んでくれ。そして感想を聞かせて欲しい」

 

 そうして彼の前に現れたのは綺麗な橙色の紅茶であった。

 オレンジの華やかな香りが鼻孔いっぱいに広がり、思わず頬が緩んでしまう。

 

「いい香りだね」

「味も一級品に近い」

 

 言われるがままに彼は一口飲む。

 やはりと言うべきか爽やかな香りが彼の中を風のように吹き抜けるが、その後に感じたのは程よい塩味であった。

 

「美味しい……! 紅茶って、こんな味もあるんだ」

「それはオレンジソルトティー。雲零で親しまれる紅茶なんだ。あそこの名産は塩でね、それを利用したものが多いんだ」

「雲零……求道者がその名を口にしていたな」

「ああ。雲零は彼女の故郷だ。だから当然、彼女もオレンジソルトティーを淹れられる。……私なんかよりもずっと美味しくてね、材料も手順も同じはずなのに、不思議と超えられないんだ」

 

 そう説明する彼女の口調は穏やかで、どこか懐かしそうであった。

 今の彼女を見ていると、学園都市であれ程の惨劇を引き起こした大罪人とは思えない。

 

(本来はこんなに気性が穏やか人だったのか)

 

 慕われる訳だ、と彼は内心で納得する。

 博士もラッカも求道者も、それぞれやり方は違っていてもルシエラを信用していたから、あるいは信用しているからこそ行動を起こしていた。

 

「先生の好物でもある。何度か三人でこうしてテーブルを囲んだものだ。紅茶を飲んでいる間は、二人共大人しかったのを覚えているよ」

「確かに、こんな美味しい物を前に暴れようという気にはならないな。……ちなみにこれは心配性故の質問なんだが、良いかな?」

「どうぞ」

「ラッカさんは確実に勝てるのか? 万が一があるのなら、次の手立てを用意しておいた方が良い気もする」

 

 全員がリラックスをしているこの状況は、トウラクからすれば異常に思えた。

 最初の方こそ、ミロクも心配そうにしていたが今はミズヒやケイと一緒に楽しそうに談笑している。

 まるで一人だけ戦場に残されたような気分だった。

 

「大丈夫だよ。私の銘を使うまでも無く、先生は勝つさ」

「そうなんだろうか。……蒸し返すようだけど、貴女との戦いのときのラッカさんはひどく疲弊していた。貴女との戦いの結果と言うよりは、身体に欠陥があるようだった」

「ほう、君は目がいいね。それは銘を分割したからだろう。彼女の最大出力にエネルギーの総量が追い付いていなかったんだ。でも大丈夫だよ。既に博士が憧憬の銘の補完を完了させ、先生は万全の状態だ。仮の話だが、もしも今の彼女と私が戦ったら勝率は4割に落ちるだろう」

「……そんなに本来のラッカさんは強いのか」

 

 間違いなく彼の人生の中でも強敵と言って良いルシエラの口からそう聞かされてしまっては興味が湧くのが剣士の性だ。

 相棒は相変わらず紅茶とクッキーにお熱だが、彼も彼でまだ戦ったことのない戦士に興味津々であった。

 

 そしてルシエラもまた、自分の仲間に興味を持たれたことが嬉しいのか元来の説明好きが加速する。

 

「もしも武器、魔法や銘の使用を禁じた戦いの場合、銀の黄昏で彼女に勝てる者はいないね。講師が多少は食らいつくだろうが、それでも勝つのは先生だ」

「ほう……!」

「それもその筈、彼女は銀の黄昏の中で一番長い間天使と戦っていたからね。それも魔法がまだ一般戦術として広まる前から」

 

 そう語るルシエラの顔はどこか誇らしげだ。

 自分の恩師の話題に流石に気になったのか、トアも控えめに口を開く。

 

「先生、そんなに戦ってたんだ」

「ああそうだよ。君達の先生は本当に皆の先生だ。銀の黄昏で戦闘指南をしてくれることもあった。流石は年長者と言うべきだろう」

「えっ……先生って、何歳なんですか?」

 

 自分よりも少し年上だと思っていたトアは恐る恐る問いかける。

 しかしそれは無言の笑顔と共に封殺された。

 それから話題を切り替えるように、意図的にルシエラは話を続ける。

 

「特定の拠点を持たず、世界を駆け天使を殺す。対終末部隊と呼ばれる特殊部隊の総隊長だったんだよ。ラッカの名もその証だ」

「先生の名前ですか?」

「そうだよ。元々の彼女の名前はサクラバだ。対終末部隊の総隊長は、部隊名を自身の名前として名乗る習わしがあるんだよ。だから、ラッカ・サクラバ。かつて世界最強と言われた部隊の最後の総隊長は、今もその名を背負っている」

 

 銀の黄昏が生まれるより以前に存在した世界を守るための組織の最後の生き残りにして歴代最強。

 博愛のソルシエラが対終末部隊を解体してまで銀の黄昏に引き入れた理由はただ一つ。

 

「彼女だけだろうね。純粋な強さだけが理由で銀の黄昏にスカウトされたのは」

「――お待たせー!」

 

 声が部屋に響き、話題の中心であった人物が今まさに到着した。

 小脇に腕を組んで仏頂面の求道者を抱えたまま、ラッカはキメ顔で告げる。

 

「マジ拳で友情語り合ったわ(笑)」

「私コイツ嫌いです。まだ思い出せないですが、絶対に仲悪かったでしょう?」

「そんなことないよ? すっごく仲良しだったんだから!」

「近づかないでください。抱きしめないでください、頬をスリスリしないでください」

「勝者に逆らうの?」

「うぐっ…………やっぱりコイツ嫌いです!」

 

 あれだけルシエラが流暢かつ誇らしげに説明してくれたラッカは、今はちびっ子をいじめているようにしか見えない。

 

「……順番を変えて講師を早く目覚めさせた方が良いかもしれないね」

 

 諦めたようにそう呟くルシエラの顔は、しかしやはりどこか嬉しそうで懐かしげだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……もしかしてルシエラってでっけえコンテンツの真ん中?』

『いろんな矢印がコイツに向いている気がするねぇ! そしてルシエラと求道者は受けだ。私の演算がそう告げている』

『何故か求道者を応援している私がいます。頑張れ求道者……! 私は貴女の味方ですよ……!』

『システム先輩、それは自分のコンテンツとして消費した者の言葉ではないのではないだろうか』

 

 

 

 

 

 

 

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