【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
銀の黄昏流のコミュニケーションを無事に終えたラッカと求道者の帰還により、一行はすぐに次のシステムの解除へと――向かわなかった。
「ぷはぁっ! うめえ!」
目の前に好物を出されてしまっては先を急ぐなど出来る筈もない。
元より全てが停止した世界だ。ここは交流を深める方が大事だろう。
そう考えて、今まさにラッカはカップの中身を飲み干したところだった。
「……先生、いつも言っているが、もう少し味わって飲んで欲しいんだ」
ルシエラは少しだけ悲し気に告げる。
彼女はラッカに差し出されたカップに新たなオレンジソルトティーを注いでいた。
「やっぱり決闘の後はオレンジソルトティーに限るわ! あ、トアこのクッキー貰って……ああいやごめん、冗談だからそんな泣きそうな顔しないでよ。嘘だって、嘘嘘」
目に涙を溜めながらクッキーを差し出すトアを見てしまっては、流石のラッカも受け取ることはできない。
ならばとルトラの方を見れば、こっちはこっちで睨み返してきた。
「食いしん坊しかいねえのな」
「……ルトラがすみません」
「いいんだよトウラク君。同じ問題児の保護者として、君には近しいものを感じるからね」
「貴女が問題児では?」
求道者の言葉にラッカは答えない。
代わりに小指を立てて紅茶に静かに口を付けた。
今度はやたらと大人しい。
これで床に胡坐で座っていなければまだマシであっただろう。
「それにしても……驚きました。貴女がこの茶を淹れられるとは」
「気に入ってくれたかな」
「……悔しいですが、なかなかの腕ですね」
求道者は今、ルシエラの対面に座っている。
小さくちょこんと座った彼女は、先ほどまでの野蛮なやり取りからは考えられない程に流麗な所作で紅茶を楽しんでいた。
今の彼女を見て、かつて一国を率いていたという言葉を疑う者はいないだろう。
「雲零でもこれだけのオレンジソルトティーを淹れられる者はかなり限られてくるでしょう」
「ふふ、そうか。実は、これは君に教わったんだよ」
「私ですか? ……成程、道理で私好みの香りに仕上がっている筈です。通常のものよりも熟していない果実を使っているでしょう?」
「! そうなんだ、流石は求道者だね! 実はクローマに流通している果物の中に雲零で採れる物に限りなく近い種があってね。特別なルートで仕入れてダンジョン空間で数日間天日干しを……申し訳ない、少しはしたなかったね。私まではしゃぐべきではなかった」
「良い茶を淹れる事ができたら自然と語りたくなるものです。わかりますよ、その気持ちは」
求道者はそう言ってもう一度カップに口を付ける。
思考は既に冷静であった。
自称銀の黄昏のブレインの名は伊達ではない。
(記憶の中の教授は最悪の人物でした。裏切りは雲零の民にとっては何よりも重い罪です)
それは間違いなく過去に存在した悲劇である。
しかしこうして会話をしてみると、どうにも今の彼女と過去の彼女が重ならない。
(何が彼女をあそこまでさせたのか、私は知る必要があります)
ラッカにより求道者はもうルシエラをむやみやたらに襲わないようにと約束させられている。
だがそれ以上に彼女は、ルシエラという女性に興味を示し始めていた。
(銀の黄昏に、一体何があったのでしょう)
これだけ穏やかに笑う女性が裏切り、仲間を殺したのだ。
未だに警戒心はぬぐえないが、それよりも。
(私は全てを知った後、彼女を如何するべきなのでしょうか)
ラッカ曰く、なおさら怒り殺すだろうと。
であれば知るべきではないのかもしれない。
今のまま彼女と交流していけば、きっと許すことが出来てしまうだろうから。
(全ては天の巡り合わせ。私がこうして目覚めた事にも理由があるのでしょう)
絆されそうになる自分に喝を入れながら、求道者はオレンジソルトティーの香りをもう一度堪能する。
鼻腔を抜け、脳の奥へと爽やかな風が吹き抜けるような良い香りが思考に疲れた頭を癒す。
例え記憶を失っていたとしても、やはり求道者はこの味と香りが好きだった。
■
おいおい、まさかこんなにでっけえコンテンツが銀の黄昏に眠っているとは。
この全知全能原作知識搭載型最強美少女である俺ですら見抜けなかったよ。
『いっつも節穴じゃないですか』
そんな事ないだろ!
今まで俺の思い通りにならなかった事があったかい?
手のひらの上でコーロコロだったじゃないか!
『……ソルシエランド』
それ出すの反則だよぉ。
まさか対向車線から大型コンテンツが爆速かつブレーキがぶっ壊れた状態で向かってくるなんて想像できないじゃん。
『大型コンテンツじゃなくて、銘の研鑽です。まるで私の趣味みたいにしないでください』
『しかしシステム先輩よ、余から見れば大概コンテンツ狂いだぞ。求道者のあの細むっちりした太ももを見ればわかる。あれはコンテンツ好きの作った美少女だ』
『気持ち悪い判別方法ですね!?』
テム子はやっぱり俺のソウルメイトだったんだねぇ。
もう星詠みの杖君に突っ込みいれても全部ブーメランになるんじゃないの?
ねえ星詠みの杖君……星詠みの杖君?
『ああ、すまない。この光景を見ていると何故だが妙に嬉しくなってねぇ。少しだけ浸っていた』
星詠みの杖君……まさか、君にも博愛の剥がし忘れみたいなのが残っていたのかい!?
『そんなシール痕みたいな……』
『よくわからないねぇ。私に記憶は残っていない筈だ。私は女王の棺の中枢権能を引き継いだだけなのだから』
『星詠みの杖……』
『まるでバッドエンドで終わった美少女ゲーの質の高い救済二次創作を見ている気分だよ』
『例えで台無し……』
『私は傷ついてボロボロになって欲しいが、死んでほしい訳じゃないからねぇ。かつて博愛のソルシエラもこのような愛を銀の黄昏に向けていたのだろう』
『うーん? いやちょっと違うのでは?』
きっとそうさ、星詠みの杖君。
君の中に残った博愛のソルシエラがこの光景を見て喜んでいるんだよ。
『私の意見って、都合悪い時は全部無視されますよね?』
『余は聞いているぞシステム先輩』
『頼りないですが、ありがとうございます』
よし、そういう事なら星詠みの杖君の為にも今回はソルシエラは可能な限り添えるだけにして銀の黄昏メインコンテンツをジュルジュルしようじゃないか。
滅多にないコンテンツ鉱脈だ。巧く掘りつくすぞ!
そのためにも何か俺達も行動を起こさないと。
『嫌な使命感で動かないでください。大人しくしていれば勝手にコンテンツが動くんですから。私の求道者コンテンツは完璧なんです!』
『先導者よ、こんな事もあろうかと天上エマージェンシーコールにより、停止世界で動ける天使を鏡界より呼び寄せた。同時にこの世界の天使にも停止世界への適応式を施したので、じきに動き出すだろう』
『ああっ、やっぱり余計な事をしているじゃないですか! 貴女が叱らないからこうやって後輩が暴走するんですよ!』
『よしよし^^ 丁度、生ぬるいと思っていたんだ』
『絶対にコレに博愛は残ってないですって!』
なんてことだ、ルシエラ達の帰還によって生まれた歪から本来はあり得ないはずの第七の天使が来るって……!?
定められた滅びだけじゃなくて、新たな敵もいるなんて一体どうなってしまうんだ……!
『こうなれば銀の黄昏を全員復活させるしかない。余もドキドキである』
『派遣したの貴女ですよね?』
『ドキドキである!』
『パワーで押し切ろうとするところまで飼い主に似てきた……』
行くぞ皆、今こそ銀の黄昏をサポートする時だ!
臨機応変に対応して、コンテンツの可食部は余すところなくいただくぞ!
『『応ッ!』』
『自分で困難を用意して楽しむなんて……』
それブーメランだよ。