【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
戦闘の後とは思えない程に和やかに茶会は終わった。
求道者が放っていた刺すような殺気も今は鳴りを潜め、ルシエラと博士を警戒するにとどまっている。
一緒に好物のオレンジソルトティーこそ楽しんだが、それはそれとして求道者はきちんと切り替えができるタイプだった。
結局、彼女は次の認証システムに到着するまでケイとラッカの傍を離れる事はなかったのだ。
「……さて、到着したよ」
「ここが憧憬の認証部屋かぁ! ……やっぱ何も変わらないね。もっとそれぞれのメンバーに合わせたトラップとかあった方が良いのに」
「良い訳ないだろ馬鹿」
「良い訳ないでしょう馬鹿」
「もう、求道者と博士はロマンがわかってないね」
「少なくともお前のそれはロマンじゃないぞ」
「味方が扱う事が多いシステムに何故無駄なトラップを仕掛けるのですか?」
自分に正論を返す人間が増えたことでラッカは目に涙を溜めながら、ケイへと振り返る。
そして両手を広げて向かって行った。
「ネオ求道者~! 皆がいじめるよぉ!」
「誰がネオ求道者よ。いいからさっさと役割を果たしなさい」
ケイの冷たい視線がラッカを仕事へと送り出す。
ずっとブツブツ言っていたラッカは渋々、空気を掴むと槍をその手の中に生み出した。
「えー、じゃあもう本当にやっちゃうよ? こういうのって、ボスを倒して認証するものじゃないの? お茶楽しんでヘラヘラ笑って認証して良いものなの!?」
「ヘラヘラしていたのは貴女だけよラッカ。それに求道者との戦いがあったじゃない。アレで我慢しなさい」
「いつの間に銀の黄昏はこんなに甘い組織になったんだ。私はッ、この組織の在り方をッ、改めて問いたいッ!」
「いいから早くしてくれないかな先生。さもないと、次に目覚めさせるのは講師にするよ?」
「アッ、ごめんなさい」
ルシエラの言葉で明らかに動揺した様子のラッカは、そそくさと認証システムの前に立つ。
手に握られた透明な槍を投げれば、すぐに破壊できるだろう。
「じゃあ最後に……求道者、準備は良いかな? たぶん、これを破壊した瞬間に記憶がまた少し戻るから」
「問題ありません。もう倒れる事はないと、雲零の最も気高き剣として誓いましょう」
「出た、剣シリーズ」
「……剣シリーズ?」
「よしじゃあ行きまーす――そぉいっ!」
求道者の疑問を上書きするようにラッカは辺りにソニックブームをまき散らしながら槍を放つ。
その圧だけで槍が到着するよりも早く認証システムは木端微塵に破壊され、槍はその残骸をさらに細かい塵へと変化させた。
「今だよネオ求道者」
「その呼び方固定させようとしているわね貴女。絶対に許さないから」
文句を言いながらもケイは魔法陣を求道者の足元に展開する。
すると認証システムに込められていた憧憬の力の粒子が求道者へと集い始めた。
「前回はこれを吸収して記憶を取り戻すショックで気絶したようですね。しかし同じ負け方は雲零の戦士にはあり得なふにゃぁ……」
「あっ、気絶した」
「むしろ意識を保たれた方が脳に負担がかかるから眠らせたのよ」
ケイの補足に納得しながら、ラッカは倒れた求道者を抱きとめる。
ここでやるべきことは、これで全て完了した。
「よし、任務完了! 次に行こう!」
「そうしようか。求道者は君が背負ってくれ」
「あら、今回はもう移動するのね」
「求道者が足を引っ張ったと思っちゃうかもしれないしね。……って訳で、求道者を次の認証システムまで背負うじゃんけんしようぜー!」
拳を天に掲げぶんぶんと振っているラッカを見てケイは呆れる。既に求道者は、足元に雑に寝かされていた。
彼女の提案に、ミズヒとネームレスは何故か乗り気だ。
「鍛えられそうだ」
「面白そう」
「流石は私の教え子たちだ。よっし、じゃあ私達だけでじゃんけんね!」
「本人が知ったら怒らないかしら」
「大丈夫大丈夫! もう察しただろうけど、求道者ってまっすぐチョロかわちゃんだから。私と指揮者で即興で作ったルシエラの悲しい過去を信じちゃうくらいにはね! あの時はめっちゃ面白かったなぁ! あははっ」
「……君達があんな事を二度としないと信じているよ」
「よっしゃ行くぞ……ぎーんーのー! たそーがーれー!」
「知らない掛け声だ……」
「先生ズルい!」
三人で向かい合ってじゃんけんを始めようとしている姿を見てケイはミロクへと視線を向ける。
彼女は隣で成り行きを見守るルシエラとほぼ同時にため息をついていた。
「すやすや」
何も知らない求道者は今、床に転がされスヤスヤである。
■
求道者がアトラスティアに到着したのは、博愛のソルシエラとの戦いから一年後の事だった。
雲零の民を複数のグループに分け、毎回ルートを変えて移動させたのである。
必ず移動には博愛のソルシエラが同行したおかげで、特に危なげなく雲零の民は全員アトラスティアに避難することが出来た。
それらを全て見届けた後に、求道者はようやく玉座から離れたのである。
「――と言う訳で早速で悪いが君には銀の黄昏のリーダーと会って貰うよ。他は顔合わせが済んでいるから君で最後なんだ」
「そうなのですか……」
求道者は首を傾げる。
そして困惑しながら辺りを見渡した。
そこはアトラスティアでも数少ない温室であり、種保存の目的も兼ねて作られた小規模な植物園になっている。
研究者のみが立ち入ることを許された場所だが、銀の黄昏は特別に許されているらしい。
が、そんな事は今はどうでも良い。
「こんな所で顔合わせをしたら、全て壊れてしまいますよ?」
「うん、一度雲零の常識を遠くに置いておこうか」
単純に自分のお気に入りの場所の一つを提供しただけなのに挨拶がてら破壊されては困る。
博愛のソルシエラは笑顔だが、ほんの少しだけ焦っていた。
「君と今から会う子は非常に真面目でまともだ。銀の黄昏でも頼りになるだろう。以前、転移魔法と収束砲撃を見せただろう。あれは彼女の考案なんだ」
「以前にお気に入りと言っていた子ですね。旅路で幾度となく聞かされてもう覚えていますよ」
うんざりしながら肩をすくめて求道者は覚えてしまったその台詞を吐き出す。
「このアトラスティアで一番の美人で最強で賢くて慈悲深くてとにかく凄い完全無欠の子だと」
「その通り!」
「ち、違いますよ!」
新たな声が登場を知らせる。
声の主は走って来たのか、頬に髪を張り付かせたまま肩で息をしていた。
黒い髪に知性を感じさせる瞳とほんのり赤くなった頬。
成程、確かに美人ではあると求道者は内心で頷く。
が、どう見ても完全無欠ではなかった。
彼女から感じるのはあどけなさや無垢さそして、ひたむきさだ。
長く玉座に居たからこそ、求道者は対面しただけである程度はその人がわかる。
つまりこの少女は。
「いい子ちゃんですか」
「え、いい子ちゃん……?」
「いや、何でもないです。私は雲零の王。今は大変不本意ながら求道者を名乗っています」
差し出された手を少女はなんの警戒心も無く握る。
その仕草は間違いなくただの少女であるのに、握られた手の感触は想像以上に硬い物だった。
(戦っている者の手ですね)
庇護から対等へ。
この瞬間求道者はようやく目の前の少女を同じ銀の黄昏の人間として認めた。
「私はルシ……じゃなくて、教授って言います」
「教授……何か、専門に教鞭を振るっているのですか?」
「い、いえ。その……」
教授は傍に立つ博愛のソルシエラを一瞥して、ため息と共に白状する。
「はぁ……この方が、カッコいいからと私に名づけました」
「成程」
求道者は頷く。
対等から同類へ。
教授から感じる苦労のオーラは、他人事とは思えない。
「馬鹿みたいなコードネーム制度にお互い苦労させられますね!」
「! ですよね!? 私がおかしい訳じゃないですよね!? 他の方は皆、受け入れてしまっているので」
「いいじゃないかコードネーム」
「「良くないです」」
完璧に重なった声に、一瞬博愛のソルシエラはきょとんとする。
それから満足そうに頷いた。
「君達、仲良くなれそうだねぇ」
『えっ、ここからあんな感じになるんですか!? 宿敵百合進化型のコンテンツ個体!? これは学会が荒れるぞぉ……!』
『そんな学会潰れてください』
『むぅ、この時期のルシエラはスカートが長くて太ももが楽しめないな。余、これは流石に厄災を強めちゃうぞ。厳しく採点だ』
『スカートが長い方が色々と仕込めんだよ^^ 後で相棒で実例を出してあげようか?』
『せめて俺に許可取ってね』