【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第525話 対終末部隊「ラッカ」総隊長 1‐10

 一日目は挨拶だけ。二日目には剣を交え、三日目にはお茶を共に楽しむようになった。

 一か月を超えた今は、互いに友人と呼べる程の関係に至っている。

 それだけ求道者とルシエラの相性は良かったのだ。

 特にルシエラが誰に対しても誠実な人間であったのが求道者にとっては好ましく思えていた。

 背が小さく子供のような求道者に対しても、ルシエラは礼節を重んじ自分の先輩として接してくれるのである。

 端的に言って、お子ちゃま扱いされないので好きだった。

 

「求道者、今日も助かりました。あの天使の群れをこの短期間で対処できたのは貴女のおかげです」

「貴女の砲撃も見事でした」

 

 銀の黄昏として出撃した二人は、僅か一時間ほどで天使の群れを壊滅させた。

 湧き上がる歓声と羨望の眼差しを背に、彼女達は基地へと戻っていく。

 

「背中を安心して預けられる後衛がいるというのは新鮮で中々良い経験をさせて貰いましたよ」

「雲零の皆さんの方が私なんかより、強いと思うのですが……」

「雲零に後衛という概念はありません。全員で前に出て蹂躙すれば良いのですから、サポートなんて誰もしないのですよ」

「えぇ……」

「それに『私なんか』と言わないでください。貴女のもたらした一般戦術級の魔法式は確かに軍のレベルを一つ上げたのです。現に私も転移魔法を愛用しています。これは良いです。全ての角度から相手を殴れますから」

「そうですかね。雲零の剣と呼ばれた貴女にそう言われるとなんだか現実感が無くて、照れる事すら恐れ多い気がします」

 

 外壁に沿うように作られた通路からは、都市の様子が確認できた。

 噴水で無邪気に遊ぶ幼子とその面倒を見ようと少し背伸びした態度をとる姉。

 そしてそれを遠くから見守る親や、公園の端で音色を響かせる楽団と、この世界最後の平和の都市は依然として揺るぎない堅牢な守りを維持していた。

 

 先ほどまで天使が目前に迫っていたとは思えない程に平和だ。

 

「……私は、この風景が守れればそれで良いので」

「謙虚ですね。ですが、背中を預けるならもう少し私に踏み込んで良いのですよ」

 

 求道者はそう言って歩き出す。

 まだ一か月程度の付き合いだが、後ろでルシエラがどんな顔をしているのかは簡単に想像できていた。

 彼女は世界を見るとき、まるで花でも愛でるかのような優しい目をするのだ。

 まるで全てを愛しているかのように。

 

「私を雲零の剣として尊敬するのは当たり前の事ですが、そこまで畏まらなくてもいいんです。この一か月でわかったでしょう? 私と貴女は同じ戦場に立つ戦友。だからこそ、称賛は素直に受け取って良いのです」

「戦友……友達なんて、光栄です」

「大げさですよ。……ああ、そうだ」

 

 求道者はパッと笑みを浮かべ振り返る。

 そしてルシエラを見上げながら得意げに言った。

 

「夜にオレンジソルトティーの作り方を伝授してあげます。以前、気に入っていたようですので」

「いいんですか!? ありがとうございます!」

「雲零の茶を気に入ってくれて私も嬉しいです。それを祝杯としましょう」

「はいっ。天使撃破おめでとうお茶会ですね」

「それもありますが……私が地上最強になった事への祝いが大きいでしょう」

「え?」

 

 求道者は腕を組み胸を張る。

 それでも小さいものは小さいので変わらずルシエラに見下ろされていた。

 

「今日、これからあのラッカの名を持つ者と顔合わせをすることになりました。訓練場を貸し切っていますから、軽い挨拶として倒させて貰いましょう」

「え、え?」

「私を抜きにして地上最強を名乗るなんて……きっとその重圧に夜中めそめそ泣いていたに違いありません。私がボコボコにして最強の名を取り上げてあげないと」

 

 求道者は至って本気でそう思っていた。

 自分より強い人間などこの世には存在しない。

 それなのに地上最強と呼ばれる人間が自分以外にいるらしい。

 なんと可哀そうな事か。 

 その名の持つ重圧に押しつぶされてはいないか。

 彼女は本気でそう心配していたのだ。

 

「先生と戦うつもりですか?」

「ああ、今は先生と呼ぶのでしたね。そうですよ。私は先生を倒し、どちらが強いのか教えてあげます。その後、私の最強を祝って祝勝会ですよ。たしか銀の黄昏に奏者が居ましたね。祝いの演奏を予約しておきましょうか」

「……あ、あーどうだろう。万が一もあると思うので、一旦戦った後で良いんじゃないですか?」

「ふふふ、心配ないですよ。私はただの一度も誰にも負けたことがないのです。…………博愛のソルシエラ以外には(早口&小声)」

 

 全戦全勝(例外は除く)の求道者に敗北はあり得ない。

 確信と共に求道者はルシエラを連れて、意気揚々と訓練場に向かう。

 

「いやぁ、少しは楽しませてくれると良いんですけどねぇ」

「本当に戦わなきゃ駄目ですか? その、私の時みたいに仲良くお話とか」

「貴女とも結局、一度剣を交えたでしょう。大丈夫ですよ。先生を泣かせる程、痛めつけるつもりはありませんから」

「そ、そうですか……」

「何か言いたげですね」

「先生ってすっごく強いので、油断は禁物かと」

 

 負けの可能性を極力オブラートに包んでルシエラは進言する。

 しかしそれを求道者は笑って一蹴した。

 

「油断も最強に与えられた特権ですよ」

 

 それから求道者はキメ顔でこう告げた。

 

「雲零の剣の実力、お見せしましょう」

 

 それから6時間後『ドンマイ! 惜しかったしカッコよかった! 雲零の剣を励ます会』が、求道者、ルシエラ、ラッカの三人で開かれることになる事を本人はまだ知る由もない。

 

 

 

 

 

 

「なんて嫌な思い出を……!」

 

 二度目の記憶の海からの浮上は、何とも最悪な気分だった。

 自分はどうやら誰かに背負われているらしいと気が付いたのは、目の前に揺れる赤いポニーテールがあったからだ。

 

「貴女は……」

「む、目を覚ましたか。今更ながら、私は照上ミズヒだ。よろしく頼む」

 

 じゃんけん無敗の逸話と、幼馴染のメタ読みの前ではミズヒはあまりにも無力だった。

 その光景を見ていた者は全員察していた通りの結果として、彼女は求道者を背負って次の認証システムまで向かっているのである。

 

「そうですか。ミズヒ、迷惑を掛けましたね。まさか意識を二度も失ってしまうとは思わず」

「構わない。それよりも、うなされていたが大丈夫か?」

「うなされていた……?」

「ああ。最初は幸せそうに笑っていたのだが、途中から『なんでぇ……』とか『もう一回です』とか『今度こそは』とか言いながら苦しそうだった」

「忘れてください」

「わかった」

 

 ミズヒは非常に素直な子であった。

 よって、求道者の好感度が増した。

 

「それにしても随分と鍛えていますね。良い体です」

「ありがとう。最近は特に鍛えているんだ。たくさんの後輩の前では負けられないからな」

「上に立つ者としての矜持ですか。良い心掛けです」

「貴女こそ。あの戦いに対する姿勢は見習いたい」

 

 求道者とルシエラは、正反対故に噛み合った。

 対して求道者とミズヒは、本質的に似通っていたが故に変に噛み合ってしまった。

 

「……後で手合わせ願いたい」

「喜んで。貴女が言わなければ私から誘っていたところです」

 

 強さを追い求める者同士の間に謎の結束力が生まれる。

 それを後ろから見ていたミロクとケイは、呆れた笑いを浮かべながら互いを見合って首を横に振った。

 

「二人共、戦うのは全てが終わった後よ。お願いだから、途中で決闘とかやめて頂戴」

「それくらいの分別はついていますよ」

 

 じゃあラッカとの戦いはなんだったんだ、と言いかけたケイはぐっと言葉を飲み込む。

 ここで正論を返して、顔を真っ赤にして襲い掛かられてはたまったものではない。

 

「そういえば、次はどの銘の認証システムなんですか?」

 

 気になった様子の求道者へとミズヒが答える。

 

「確か智慧だから……えっと、智慧って誰だ?」

「学者ですよ先輩」

「そうだ。学者だ」

 

 優秀な後輩からの助けを借り、ミズヒはそう答える。

 

「学者ですか……」

 

 その答えを聞いて求道者は複雑そうに顔を顰めた。

 忘れる筈もない。

 銀の黄昏が二分された時、教授の側についたのは博士ともう一人――学者だったのだから。

 

「目覚めたときに混乱で暴れ出さないように先に殴らないと(使命感)」

「求道者、貴女は少し離れて見ていなさい」

「何故ですか!?」

 

 本気でわかっていなさそうな求道者を背中に乗せたまま、一行は進む。

 それを遠くから監視する何かが居るとは知らずに。

 都市に新たな異物が入り込んでいる事を知る者は、まだ誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ん、来たな。余が頼んでおいた天使だ。厄災レベルMAXで調整しておいたぞ』

『それ調整って言いませんよ』

『ギャン泣き求道者可愛かったねぇ^^』

『思い出さないでください! あの時は本気で先生に勝てると思ってたんです! 実際、惜しかったし!』

『ところで学者って女? 男? 調べてみよう! …………いかがでしたか? 今回は学者について調べてみましたが、何もわかりませんでした!』

『普通に私に聞けばよいじゃないですか! ああもうっ、私一人じゃ対処しきれないですよ! 先輩、カメ先生、早く帰ってきてぇ!』

 

 

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