【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

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第526話 アトラスティアの女王1‐1

 次の認証システムが備わっている部屋までの道のりは、非常に穏やかであった。

 求道者がミズヒの背中で再び眠りについたというのも一つの理由だろう。

 ラッカに大量に寝顔を撮影されたことに気が付かない限りは、もう一度争いが起きるという事もない筈だ。

 

「着いたぞ求道者」

「むにゃ……ハッ、私はいつの間に眠っていたのですか」

「私の異能で背中をほんのり温めていたからだろうか。これからの戦いに向けて少しでも休めたのなら幸いだ」

「む、そう言う事なら素直に感謝するべきですね。ありがとうございます、ミズヒ」

 

 英気を養うという理由があれば、おんぶからのスヤスヤは求道者にとっては十分に許容範囲であった。

 礼と共にミズヒの背中から降りる求道者を見ていたミロクは、そっと隣のケイへと視線を向ける。

 

「……ケイちゃんって、たしか小さくなれましたよね」

「先輩……?」

 

 何か良からぬ感情を察知したケイはそそくさとミロクの傍を離れ、今となっては一番まともかつ安全なルシエラとトウラクのいるグループへと向かった。

 

「ここでは学者を蘇らせるのよね?」

「ああそのつもりだよ。ところで、君自身は学者についての記憶は残っているのかな」

 

 ルシエラの問いにケイは記憶を探るように視線を彷徨わせた後「そうね」と言葉を続けた。

 

「たしか、アトラスティアの女王と呼ばれていたわね。しいて言えばその程度かしら」

「成程、殆ど覚えていないようだね。なら、復活させる前に私から軽く説明してあげよう」

「別にいいわよ。目覚めた本人から聞けば良いし」

「……そうか」

 

 ルシエラが悲し気に目を伏せた瞬間、博士がケイを肘で小突き、隣にいたトウラクがわざとらしい声を上げた。

 

「あ、あー! 僕は知りたいかも! 会う前に人となりを知っていた方が円滑なコミュニケーションが出来るしね! ね、ケイ!」

「え? ええ、まあそうね」

「教授、二人もこう言っている事だし説明をしてやってくれ。別に誰もお前の説明癖を疎ましく思っていない」

 

 ルシエラは一瞬探るように博士を見たが、彼は馴れた様子で素面のまま頷いただけだった。

 やがてルシエラは一度咳払いをして空気を変えると、どこか嬉しそうに説明を始める。

 

「では改めて説明をしようか。彼女は一言で表すならば天才だ。博士とは対極に位置するね」

「対極……具体的には?」

「博士は理論に基づき、多くの実験を重ねて最良の結果を得る。対して学者は、最初に結果ありきで、その道のりを逆算していくんだ」

 

 解説しているルシエラの傍では、博士が淡々と準備を始めていた。

 データロイドの一体をその場に召喚し、学者の復活に必要な工程を次々とクリアしていく。

 

「私や博士などは、アトラスティアが都市となってから来たのだが学者は最初からアトラスティアにいたんだ。まだここが都市ではなく天使迎撃用基地だった頃からね。それもその筈だ――彼女がアトラスティアの殆どを一人で作ったのだから」

「これを!? 御景学園の本校舎よりもずっと広いこの建物を一人で!?」

「彼女は様々な偉業を残しているが、アトラスティア建造が一番の偉業として語られている。だから皆、アトラスティアの女王と呼ぶんだ」

「アトラスティアの女王……随分な肩書ね」

「本人もあまり好んではいなかったね。そう呼んだところで怒りはしないだろうが、どうか学者と呼んでやってくれ。あと、そこの戦闘狂二人と比べるとずっと友好的でまともだ」

 

 指さしでそう説明をされたラッカと求道者はきょとんとした後、ニッコリ笑い歩き出す。

 その手には透明の槍と杖がそれぞれ握られていた。

 

「おし喧嘩だな求道者右回れ」

「もう回り込んでますよ先生私の足を引っ張らないでくださいね」

 

 呼吸も隙も惜しいと言わんばかりに一息で言葉を吐き出した二人は次の瞬間にはルシエラへと襲い掛かっていた。

 が、傍を固めていた異世界常識人達がそれを許さない。

 

「『一振り』」

「やめなさい求道者」

 

 次元の切断がラッカを強制的に部屋の外に移動させ、求道者は銀の鎖でグルグル巻きになり地面に転がされる。

 そのまま鎖の先端をミズヒに握られ求道者は回収されていった。

 

「うわー! 離してくださーい!><」

 

 必死に懇願する求道者と、入り口でミロクとトアに宥められているラッカを見て、ケイは呆れたように呟く。

 

「銀の黄昏っていつもこうなのかしら?」

「ああ、そうだね」

「なんで少し誇らしげなのよ。貴女、ここに来てからちょっと変よ?」

「そうだろうか。……もしかすると、気が抜けているのかもしれないね」

 

 ケイに遠回しに『問題を起こすな』と言われていることに気が付いてはいるのだろう。

 しかしルシエラはそれでも優しい笑みを浮かべていた。

 そんな彼女へ、博士が呼びかける。

 

「教授、智慧の銘を」

「ああわかった」

 

 ルシエラは自身の中に格納していた輝きを一つ放出する。

 智慧と呼ばれるその銘は、学者の為に作られたものだった。

 

「これをデータロイドに埋め込めば、学者が蘇るだろう」

「彼女にも本当にすまない事をした。一番、争いを嫌っていたというのに」

 

 過去を思い出した瞬間、ルシエラの顔からは笑みが消えた。

 これから目覚める者を前に、怯えと期待が混ざり合った視線を向けながらやがてそっと智慧の銘を流し込む。

 

「じゃあインストールを始めるぞ。5秒もあれば十分だ」

 

 博士の言葉の通り、足元から構築が始まった学者の体はみるみるうちに完成していった。

 最初は足元に集中していた視線はやがて上へと向かっていき、全員がほぼ同時に呟く。

 

「でっか……」

 

 タイトなスーツに身を包んでいるところも、蛍光色のスニーカーも鮮やかなクリーム色のウェーブがかった髪も一見しておかしなところはない。

 しかし、約二メートルの身長が彼女達の感想を一致させたのだ。

 と言っても、銀の黄昏の構成員達はそれに慣れた様子で眉一つ動かさなかったが。

 

「さあ目覚めるんだ学者」

 

 ルシエラの声にデータロイドは学者へと完全に切り替わる。

 間もなく、学者は長い眠りから目覚めるようにゆっくりと目を開けた。

 

「……ん」

 

 彼女は困惑したように辺りを見渡して、目の前のルシエラを見るとハッとして動き出した。

 トウラクとケイはほぼ同時に束縛しようと動き出すが、それよりも先にルシエラが手で制す。

 間もなく、学者はルシエラを――思い切り抱きしめた。

 

「うわぁん! 教授ぅ……生きてたんだね~!」

 

 まるで大型犬が飼い主に久しぶりに再会したかのように遠慮なくルシエラを抱きしめながら、学者は大粒の涙をこぼす。

 少し間延びしてほわほわとした話し方で相殺されてはいるが、殆んどルシエラが抱き締め殺されようとしているようにしか見えない。

 

 そんな彼女の頭を撫でながら、若干の苦しさをにじませてルシエラは笑みを浮かべた。

 

「随分と待たせてしまったね。そっちに博士と求道者もいるよ」

「えぇっ!? よかったぁ……二人ともごめんねぇ! あたし、どっちつかずで結局どっちも裏切っちゃったからぁ~!」

「先生も無事だ」

「先生は……まあ……」

「おい学者、お前どういうことだ張っ倒すぞ」

「求道者ぁ~! 博士ぇ~!」

「うわっ、おい離せデカブツ」

「ちょ、こっち来ないでください!」

 

 襟を掴まれ一気に抱き寄せられた博士は、まるでラグビーボールのように抱えられ、そのまま学者は求道者の所へと向かう。

 そして鎖でグルグル巻きにされた求道者を抱き上げると、博士と同時にまるでお気に入りのぬいぐるみのように抱きしめた。

 

「生きて会えてよかったよぉ!」

「く、苦し……」

「雲零の剣をまるで抱き枕のようにするなんて……!」

 

 二人に顔をこすりつけながら涙を流し笑う彼女こそ、この都市を作り上げた天才であり、最高責任者である。

 与えられた名を学者。

 アトラスティアでも最も慈悲深き女王として人々から親しまれた少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『太ももがでっかいぞ! 余、あそこに住む! あそこに根源つくる!』

『絶対にやめてください! それに学者は実験失敗で大きくなったので、身長は気にしているんです! でっかいとか言わないであげてください!』

『ふむ、なら巨女シエラはどうだろうか? 二メートル越えのミステリアス美少女に弄ばれたくはないかな?』

『今、代案を差し込む隙ありました? ねじ込まないでください!』

『それはエッチすぎるので、ソルソル倫理委員会が許さないよ!』

『ほう、倫理などと力の無いもので止めるか?』

『変な委員会と変な思想が争ってる……? なぜこの短期間で仲間割れを……?』

『今後全ての天使にむっちり太ももを付ける事を義務付けるべきだろうか』

『かわいそうなのでやめてあげてください』

 

 

 

 

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