【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
「改めまして、学者です! よろしくねぇ!」
ひとしきりのハグの後、学者はそう言ってケイ達へとぺこりと頭を下げた。
最初目にした時こそ身長に圧倒されたが、彼女が非常にフレンドリーであることは、もみくちゃにされた博士と求道者が証明している。
髪の毛が荒れた二人は、それぞれルシエラとラッカに直してもらっているところだった。
「まだ詳しいお話は聞いていないけど、きっと貴女達が教授達を救ってくれたんだよね、ありがとぉ」
まるで陽だまりのようにほわほわとした笑みを浮かべながら、学者は次々とフェクトムのメンバーを抱きしめていく。
彼女の人柄故にそれを受け入れた面々だったが、ケイとトウラクだけは違った。
「……あれぇ」
今まさにトウラクとケイを同時に抱きしめようとした学者の動きが止まる。
それからそれぞれの顔をよく観察して、首を傾げた。
「貴女達の中に誰かいる?」
「『よく気が付きましたね』」
トウラクは目を閉じ、自身とルトラを分離する。
その光景を見て学者は驚きのあまり後ろにひっくり返った。
「ふえぇぇ!? 人が増えたぁ!」
「私はルトラ。最強のデモンズギア」
「訳があって一度あの姿になっていました。本来の僕はこの姿です。無駄に驚かせてしまってすみません」
まさか銀の黄昏の喧嘩を止めるために星斬り・神羅になったとは口が裂けても言えないだろう。
言ったが最後、学者が何度も謝る事は目に見えていた。
「見て見て求道者! 髪の毛で鳥作った!」
「私の髪で遊ばないでください! 大人しく整えてくれれば良いんです!」
彼が力を使う事になった二人はのんきにくだらないやり取りをしているようだった。
「じゃあ二人共、改めてよろしくねぇ」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
二人を抱きしめた後、学者はケイに向き直る。
そして何も言わずにケイを見つめた。
暫く沈黙に困惑していたケイだったが、何かに気が付いたように口を開く。
「……私の方も彼と似たようなものよ。と言っても、私の中から出てくるつもりはないでしょうけれどね」
「ルトラちゃんと同じ、デモンズギア?」
「そうよ。私は0号って呼んでる」
「そっか……そうなんだ。デモンズギア、ちゃんと完成したんだねぇ。私、何も役に立てなかったから、良かったよぉ」
「デモンズギアについて知っているの?」
「一応は、私が考えたんだよぉ。難しくて、途中で博士に計画を譲渡したんだけどね。私って学者って名前だけどそこまで頭が良い訳じゃないんだぁ。美味しいクッキーの焼き方くらいしか知らないし」
学者はルトラとケイを見る。
長い時を経て自身の残した物が形になったと知った彼女の心境は、そう簡単に計り知れるものではないだろう。
「殆んど丸投げだったけど、きちんとあの人の残した物を形に出来たんだ」
「なら貴女にも礼を言わないとね。おかげで相当助けられたわ。ありがとう」
「っ! うぅ~!」
感極まった学者はケイを優しく抱きしめる。
周囲の視線を気にしながらもケイはそれを渋々受け入れた。
「貴女、随分と人懐っこいのね」
「そうかな? えへへっ、貴女もきっとそうだよね。優しい人の体温だもん」
「……はい、もう終わりよ」
「えぇ、ポカポカだったのに」
「いいから、さっさと次の目的の話をするわ」
自分へ向けられる温かい視線(一部変態的)から逃れるように学者から離れたケイは、ルシエラの方を見る。
そして、彼女を動かすための言葉を言い放った。
「ルシエラ、学者に現状を説明して頂戴。貴女が一番の適任でしょう?」
「! そうだね、私が説明するのが銀の黄昏の首領としての義務だ」
「教授、嬉しそうだねぇ。昔から説明大好きだもんねぇ。私に聞かせてよ、今の状況を」
学者に求められたルシエラは、意気揚々と説明を始める。
その傍らで髪を整えられていた博士はその手が止まった事で不服そうにケイを見ると、ルシエラの説明の邪魔にならないようにそっと離れた。
「まず初めに私達の最終目標を伝えるべきだろう――」
■
と言う訳で学者が説明を受けている間に俺達もそろそろ仕事を始めるよ。
春のコンテンツ祭り開催だ!
今回、ソルシエラホールディングスは天使と厄災を展示、体験して貰おうと思う。
『なんでそんな事をする必要があるんですか?』
『成程、システム先輩の疑問ももっともだ。確かに余が放っておいた選定システムだけでも、天使と厄災は提供できるだろう。銀の黄昏による勝利も確実だ。しかしそれはアトラスティアの無事を保証するものではない』
『今、理屈を並べて押し通そうとしています? 私、騙されませんよ』
まあまあ一度聞いてみようよテム子。
そうやって最初から印象で決めつけると求道者になっちゃうよ?
『求道者を悪例として挙げないでください! 彼女は銀の黄昏で最も知的で優れた人物です!』
『うーん、流石は理想の銘の修復システム。求道者贔屓が凄いな』
『そんな太もも先輩でも納得してくれるように説明しよう』
『誰が太もも先輩ですか!』
『銀の黄昏は強い。それこそ、選定システムの脅威度を殆どMAXにしてしまうくらにはな。別世界の観測に銘の分割、他にも一つあれば厄災と対峙する資格がある力がいくつも集まっていた。余もついうっかり熾天使をいっぱい送ってしまうくらいには強い。だからこそ、強者同士の争いはこの都市を破壊してしまうだろう。それはあまりも惜しい。学者の太ももが泣いてしまう』
『こいつ気色が悪いです』
確かに銀の黄昏だけならそうかもしれないね。
けど、俺達がいるじゃないか!
『足りないだろうな。先導者や愉快な仲間達は相当な手練れだ。しかし、それ以上に天使が民を殺す速度が速い。余、そんな風に作っちゃった……』
何してんだ君。
流石の俺もびっくりだよ。
『皆があまりに強いから、じゃあ民を殺す方向にスキルツリーを伸ばして選定してあげようと思ったのだ。余はきちんとテストがしたい。個の強さは文句なしの合格だったから、他者を守れるのかを知りたかったのだ。学園都市の天使とはまた違うのだよ』
『それに今はカメと赫夜牟がいないから、星天形態も祝福形態も使用できない。万が一を考えるなら、慎重になるべきだろう』
まさか二人の休暇がこんな所で響いてくるとは。
この世界の美少女を救えないとショックで俺がうっかりソルシエラダイナマイトを使用して世界を消し飛ばす可能性がある。
『貴女は帰った方がむしろこの世界の為なのでは?』
『だから、裏側から選定システムにこっそり介入して新たな厄災と戦わせるのだ。いきなり天使が死ねばそれはそれで銀の黄昏が怪しむだろう。この集団、本当に将来有望だから、怪しいというだけで根源まで観測して干渉しかねない』
つまり今回は、銀の黄昏の皆に納得できる終わり方を提供してあげたいという事だね?
『目指すは苦労して勝利するギリギリのライン。なおかつ性能を民殲滅型から一対一の特化型にしようと思う。それが余からのプレゼントだ』
『……うーん、やっぱり傲慢すぎでは?』
『お前、求道者の記憶の戻る順番どういう理屈で決めたかもう一度説明して見ろよ^^ 大して変わらないと思うがねぇ^^』
『う、うるさいです! 私はその……皆さんに迷惑を掛けないから良いんですよ!』
『ルシエラに襲い掛かったのに?』
『うぅ……で、でも……』
テム子は俺が留守の間、頑張ってコンテンツを作ってくれたよね?
『え、なんですか急に』
このコンテンツを終えたら、どこか好きな場所へ遊びに行ってくると良いよ。
必要なものがあれば手配しよう。
『か、懐柔しようとしているのですか!? なんと浅はかな! 私はそんなものにつられませんよ!』
赫夜牟君と一緒に行っていいよ。
あの子も君と遊びたいと言っていたし。
『……銀の黄昏にほんっとうに迷惑は掛けないんですよね? あくまで彼女達の為なんですよね?』
『余、嘘つかない』
『私はよく嘘つくよ^^』
星詠みの杖君、ややこしくなるから今言わないでよ。
『……わかりました。いいでしょう』
『よし! 余、次の天使は太ももむっちりで作ったのだ! これが今の余の考える光である!』
『はっはっは、元気な後輩だねぇ』
よーし、それじゃあ銀の黄昏へ俺達からの想いの籠ったプレゼントを用意するんだ。
ソルシエラホールディングスは世界を跨ぎ人々に笑顔を提供することを企業理念としているからね!