【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
ルシエラによる懇切丁寧な説明を終えた後、学者は感動した様子で何度も頷いた。
「うんうん成程ぉ! わかったよ!」
「あんな事件を起こしてしまった私には本来お願いする権利はないのだが、どうか協力して欲しい」
「そんな風に卑下しないで」
学者はルシエラを抱きしめる。
力強い抱擁は自分がここにいるとルシエラに示しているかのようだった。
「貴女が誰よりも優しくて真面目なのは皆わかっているよぉ。きっと指揮者と講師もそれは同じ。だから、今度は皆で世界を救おう?」
「……すまないね、学者」
「大丈夫だよ、任せてぇ。……求道者も大丈夫だからね!」
「え?」
自分に話が向けられると思ってなかった求道者は、顔を上げる。
いつの間にか目の間にいた学者は求道者をひょいと抱えると、そのまままるで子供でもあやすかのように高く掲げた。
「記憶が無いと不安でしょぉ? 辛くなったら私にこっそり相談してね? 何か力になれるかもしれないしぃ?」
「放してください! 私は子供じゃありません!」
「そうだねぇ、求道者は頼れる皆のお姉ちゃんだもんねぇ」
「言葉と行動が一致していませんよ!? 私は大丈夫ですから! 記憶、ちょっとずつ戻ってきていますから!」
じたばたと暴れる求道者は、ようやく地面へと下ろされる。
彼女は学者をひと睨みすると駆けて行き、ケイの後ろへと隠れた。
「私を助けたいならさっさと認証システムを破壊してください。そうすれば記憶が少し戻りますから!」
「貴女どうして私の後ろに隠れるのよ」
「どうしてもこうしても無いでしょう!? 雲零の剣として恥ずかしい限りですよ!」
顔を真っ赤にして抗議する求道者を見て、ケイは意地悪な笑みを浮かべる。
なだめる様に頭を撫でながら、彼女はわざとらしくこう言った。
「あら、あんなに嬉しそうにしていたのに」
「嬉しそうじゃないですよ!」
「ふふっ、そんなに照れなくても良いじゃない。私、少し羨ましくなっちゃうわ」
「むっ……貴女、ちょっと意地悪ですよ!」
ケイの態度に求道者は頬を膨らませる。
と、そこへ再び巨大な影が迫った。
「ほら、また来――え?」
予想外な結果にケイはつい間抜けな声を上げる。
学者は求道者ではなく、何故かケイを持ち上げていたのだ。
「羨ましいなら、貴女にもやってあげるよぉ」
「ちっ、違うわ! 降ろしなさい!」
「あっはははは! 良いザマですね! 雲零の剣を馬鹿にするからそうなるんです! たかいたかいが羨ましかったのでしょう? 堪能してくださいよ!」
ここぞとばかりに求道者は手を叩いて笑う。
一方ケイは何よりも周囲を気にして顔を赤くした。
この場には、こういった姿を見せたくない仲間があまりにも多すぎる。
「解説のネムトアちゃん、これは……?」
「ケイは真正面からくる善意にえげつない程弱い。ヒカリやちびっ子に優しいのが良い例だね。だから皮肉が効かない相手には、ああやって逆に手玉に取られることがあるんだ」
学者にたかいたかいをされながら、くるくる回るケイをミロクとネームレスが見逃す筈がない。
彼女達は既に何枚も写真に収めていた。
「~っ! やめなさい学者!」
遂に我慢の限界に達したケイは転移魔法陣を展開させ、その場から姿を消す。
そして、トウラクとミズヒの近くに姿を現した。
「二人共、さっきのは忘れて」
「「わかった」」
真面目な二人は素直に頷き忘れようと努め始める。
しかし素直でない者はそれぞれエクスギアに情報を保存、あるいはシエルの超高性能タブレットにデータを保存していた。
「エクスギアがケイの赤面フォルダで満たされていく……!」
「ミロク、自分の欲望に素直過ぎるのは良くないといつも言っているのに自分は良いのですか? 不公平です故」
「……今月の課金上限を3万増やします」
「10万」
「4万」
「5万で手を打ちます故」
「……わかりました」
「デモンズギア成功体第二号の名に誓ってこのデータは守り通します故」
利害の一致により、ミロクが激写したケイの赤面たかいたかいはシエルの厳重な電子セキュリティの元に管理されることとなった。
ケイはそのやり取りを聞いて、シエルを指さす。
「博士、どうにかして」
「嫌だね。それにこういうのは抵抗すればするほど需要が高まってしまうぞ。求道者を見てみろ。ずっとあんな調子だったから、ずっと先生と指揮者の玩具だし、皆に末っ子だと思われている」
「えっ、私末っ子……!? が、学者ぁ……私、皆のお姉ちゃんじゃないんですか……?」
「お姉ちゃんだよ!」
「ふふん!」
学者の言葉に気を良くして見せつけるように胸を張る求道者を呆れた様子で見ながら博士は「ほらな?」とでも言いたげだ。
ケイはミロクとネームレスを交互に見て、それから複雑そうな表情で渋々現状を受け入れたようである。
「ミロク先輩……その、絶対に流出させないでください。ネームレスも流出させたら死ぬよりひどい目に遭わせるから」
「はい、約束ですよケイちゃん」
「任せてよ!」
「特に先生には渡さないで」
「「勿論」」
「不安過ぎる……」
この口約束に効果があるとは到底思えないのだが、今のケイには信じることしか出来ない。
まさかこの場で自分の写真をめぐって本気で争う訳にはいかないだろう。
代わりに彼女はせめてもの抵抗とばかりに、自分から無理やり注目を逸らす事にしたようだ。
認証システムを指さし、学者へとそこへ向かうように顎で示す。
「もういいからさっさとやるべき事を終わらせましょう。学者、あの認証システムを破壊して頂戴」
「わかったよぉ」
学者は和やかな笑顔で了承し、認証システムの前に立つ。
それから少し眺めてルシエラ達の方を向いた。
「
「当然用意している。ほら受け取れ」
「ありがとぉ博士ぇ!」
「髪が乱れるから撫でるな」
まるで犬を撫でるようにわしゃわしゃと撫でられている博士は慣れた様子で表情一つ変えず、拡張領域から何かを取り出す。
それは何も書かれていない白いロール紙のようだった。
「よし、これがあれば大丈夫!」
博士から受け取った学者はそこから三十cm程の長さを引き出すと、勢いよく破った。
「殴って壊すよぉ!」
ちぎれた紙から魔法式があふれ出し、その場で何かを構築していく。
それは巨大なロボットの腕だけを抽出したようなデザインをしており、学者の背後で浮いていた。
「じゃあ行くよぉ、パーンチ!」
学者が殴るそぶりを見せると背後の拳も一気に動き出す。
それは見た目相応の質量を凄まじい速度で認証システムへと直撃させた。
ソルシエラの収束砲撃やラッカの逸話などとは違う完全な質量による攻撃は、派手に認証システムに直撃し粉々にして見せた。
「よぉし!」
「今度こそ眠りませふにゃぁ」
「毎回抵抗するのやめて欲しいのだけれど」
例のごとく寝かされてしまった求道者がその場に崩れ落ちないようにケイは受け止める。
それから学者の方へと求道者を運び、一方的に押し付けた。
「あげるわ」
「ありがとぉ。これで求道者の記憶が戻るんだよね?」
「そうよ。今、貴女が破壊した認証システムの力の残滓を使って、記憶の再構築を行っているわ。夢を見ている感覚が近いかしら」
「成程ねぇ。じゃあもっと眠れるようにおんぶして――」
学者が求道者を背負おうとしたその時である。
部屋の外、廊下の奥から反響するようにして何かのけたたましい咆哮が聞こえた。
「教授」
「ああ、わかっているよ先生」
自分たち以外に自由に行動できる者はいない。
その前提は銀の黄昏が作り出した強固な停止プログラムにより作られている。
ならば、それを超えた存在がいるとすれば思い当たるのは一つのみ。
「どうやら、自由にこの空間を動き回れる天使がいるようだね」
常識を破壊し、安寧を嘲笑い、定説を覆す。
それらを前に絶対という言葉が存在しないという事を、彼女達はよく知っていた。
『まずは太ももコカトリス、通称モモトリスだ』
『名前からしてキモそうなんだけど、太もも天使って美少女じゃないの?』
『美少女にしたら先導者が殺させないだろう。余、流石に学んでいるぞ』
『かしこい^^』
『かしこいですかこれ?』