【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
次なる目的地は講師の銘が使用された認証システムである。
天使が目覚めた今、戦力を補強するのは当然と言えるだろう。
故に、その方針に異議を唱える者はいなかった。
一人を除いて。
「ねー! やーめーよーうーよー!」
「黙りなさい、先生」
「ネオ求道者からも止めてよ! 絶対に指揮者の方が良いってぇ!」
「黙りなさいと言っているのだけれど」
最初はルシエラに縋りつき、次に博士に縋りつき、それから学者に縋りつこうとして求道者に阻止され、流れ流れてラッカは最後にケイに縋りついていた。
袖をつまみ、行く手を阻もうとするラッカへケイは軽蔑した視線を送る。
「貴女だけついてこなければ良いじゃない。その指揮者の部屋とやらで待っていれば?」
「それはつまんない。それに最初に講師だと、私と指揮者のハイパーおふざけタイムが発動しない……」
「そのつもりで講師にしているんだよ、先生。君がもう少し大人しくしてくれるならそれも考えるんだがね」
「無理だろうな」
ルシエラと博士は既に自分達でラッカを制御することを諦めていた。
それよりもさっさとかつてのお目付け役を目覚めさせた方が早いという合理的な判断でもある。
「……そんなに講師って怖い人なのか?」
「そんな事はないさ。牙塔トウラクのように真面目な青年であれば、彼はむしろ好ましく思うだろう」
説明の好機とみたルシエラは意気揚々と彼について語り始める。
「彼は生まれたときから怪力でね。単純に力が強い。銘を受け取ってからはそれが更に顕著になったようで、天使に囲まれ脱出が出来なくなったある島の民達を救う為に、彼は島ごと引っ張ってアトラスティアに連れてきたこともある」
「神話か何か?」
「狂楽は彼が肉体の限界を超えるために特に調整された銘だ。彼のパワーはもはや異能と言ってもいいだろうね」
「それは……気になるな」
トウラクの数少ない良くない部分が、くすぐられる。
そう言った強い逸話を持つ者とは、あわよくば一戦を交えたいと思っていた。
「気になるかい? 全てが終わった後で良ければ、彼との模擬戦の場を設けてあげよう」
「本当!? ……い、いや、別に僕はここに遊びに来たんじゃない」
フェクトムの大半がアレなので、自分だけでも真面目でいなければならないと彼は自覚していた。
ここにミハヤがいれば、止めてくれるという信頼の元トウラクもそちら側にいっていただろう。
「別に構わないよ。それに彼も断らないだろう。優しい人だからね」
ルシエラが銀の黄昏の構成員について語るときは必ずその目が優しく細められる。
そしてそれは講師について語るときは尚更顕著に見えた。
「博愛のソルシエラにスカウトされるまで、彼はずっと一人で各地を回り戦場に残された孤児を集めて旅をしていた。そして一定周期でアトラスティアに立ち寄り、子供たちを預けて、再び旅に出る。……彼はね、その精神性が博愛のソルシエラに近いんだよ。人を愛しているんだ」
「……偉大な人なんだな」
「私なんかよりもよっぽど首領に相応しい人だったよ。そんな人だから、先生も指揮者も彼の説教だけは真面目に聞いてしまうんだ」
「そうなんだ……あの、ちなみにその指揮者ってそんなにひどいの?」
彼はずっと気になっていた。
時折名前が挙がる指揮者について。
その名前が挙がる度、全員の中でふわっと流れる「あぁ~」という空気が、どうしても気になったのだ。
「ああ、彼女は……まあ、あれだ。第一印象に騙されない方が良いだろう。一見すると寡黙で絶世の美少女なんだが、中身は先生より酷い」
「えぇ……」
「倫理感が無く、嘘をつき、どうしようもない魔法をよく開発している。講師が蘇るよりも前に彼女と先生が揃ってしまったらと思うと私は頭が痛くなるんだ」
「そ、そっか。無理に聞いてごめん……」
あの教師が説明を自ら切り上げたことで、トウラクはうっすらと指揮者と言う少女について悟った。
同時に、何故講師を目覚めさせるのかも。
「目覚めさせる理由の大半は、指揮者の人格が問題なんだ。けど、講師を優先するのはそれだけじゃない。さっきも言ったようにいち早く戦力が欲しいんだ」
「……天使が現れたからか?」
「その通り。博士、データを」
博士はトウラクの前に仮想ウィンドウを出現させる。
「これはお前達がさっき倒した天使のデータだ。学者が映像と体組織のデータを持ち帰ってくれた。……にしても気持ち悪いが」
「それ食べた人がいるんだよ博士」
「そんなのいる訳ないだろ」
ルシエラの言葉は、一蹴された。
「この体組織や魔力の構成パターンが、アトラスティアとお前達の世界の第一の天使と酷似している。銀の黄昏では、規格が定められた六つのコアに、文明の発展度合いに合わせて後から力が注ぎ込まれていると考えられている。これはその仮説をさらに補強する興味深いものだ」
「それって……!」
「ああ、そうだ。このアトラスティアに何故か二度目の裁定が始まろうとしているようだ」
「けど、あの時僕達で天上の意思は倒した筈だ」
「僕は力そのものを倒せるとは考えていない。……おい、そこでお菓子で餌付けしようとしている奴、こっちに来い」
彼の呼びかけに、後列を進んでいたケイが反応する。
彼女は今まさに天使を全て食べられなくて落ち込んでいるトアにお菓子をこっそりとあげようとしているところだった。
「あっ、ケイがまた甘やかそうとした! 駄目だって言ってるでしょ!」
「私呼ばれたみたいだからちょっと行ってくるわね(早口)」
その必要もないのに転移魔法でより早く彼女は博士とトウラクの間に現れる。
そして恨みの籠った視線を博士に向けたが、彼はそんなもので怯えた様子はない。
「お前は天上の意思の力を安定化させるために根源にいただろ。お前から見て天上の意思そのものは本当に死んだと思えるか?」
「……いいえ、それはあり得ないわね」
ケイは真剣な表情で首を横に振った。
「あれは死という概念が存在しないわ。意識は散ったでしょうが、エネルギーは残っている。あの時トウラクに切り離して貰ったのは意識だけ。エネルギーが循環するように私がシステムを構築はしたけれど……どうかしたの?」
「この世界で再び剪定が始まった」
「っ……それは、もしかして私のシステムが」
「いや、違うだろう。あの時のお前と牙塔トウラクは天上の意思に等しい存在だった。故にそんなミスはあり得ない……が、そうか」
「何かわかったのかしら」
博士は仮想ウィンドウにいくつものデータを映し出しながらぶつぶつと呟き何かを考え始める。
答えを待っていたケイとトウラクだったが、しばらく彼が何も言わないのを見て再び問いかけた。
「さっさと答えなさい。待たされるのは好きじゃないわ」
「ああ、すまない。が、今は言う事は出来ないな。仮説の段階だ」
「チッ、私それ嫌いなのよ」
「ま、まあまあケイ。それじゃあ、邪魔をしないようにしようか」
「博士はこうなると止まらないからね。今頃、多重提唱空間で議論でもしているのだろう。私達も、邪魔にならないように少し離れて進もうか」
ルシエラにそう促されて、ケイは渋々従う。
一行が目指すのは講師の復活。
しかし、その裏では既に第二の厄災が始まろうとしていた。
――ムチッ。
『天上の意思君、意識がもう無い事になってるね(笑)』
『笑い事ではないぞ先導者。……まあ、それも含めて今回の厄災を始めたのだが、既に一人気付きそうで余は怖いぞ。銀の黄昏ってマジでやべーのだ』
『講師ですか……これで少しは求道者も安心できるでしょう。常識人が少ないと辛いでしょうしね』
『アイツ常識人枠じゃないだろ。それよりも、また勿体ぶっていたね。銀の黄昏ってそういう傾向にあるのかい?』