【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
「着いたぞ、ここだ」
「お腹、減った……」
一時的に砲撃により消滅させた肉壁は次第に部屋を包み始めていた。
本当はその場に座り込んで休みたい二人だったが、ふらふらの状態で認証システムへと向かって行く。
「もう少し我慢してくれ。餌付けよりも指揮者の復活が優先だ」
「うぅ……わかったよ」
「よし、じゃあその辺に求道者を置いてくれ」
データロイドは背負っていた求道者を地面に転がす。
妙に扱いが雑なのは博士の命令を聞いているからだろうか。
「むにゃむにゃ……えへへ、いちばん、つよい……えへへ……」
「こいつだけはどんな幻想を見ているかわかりやすいな」
「あ、丁度求道者の理想が映し出されるみたい」
部屋の壁の肌色が映像を写しだす。
博士は一切の期待も興味もない様子で、冷めた目でその映像を見つめた。
『――はっはっは! 私がナンバーワンです!』
『くそっ、求道者に負けた!』
『流石は求道者だね。完敗だ』
『この博愛のソルシエラですら負けてしまうとはねぇ』
ラッカとルシエラと博愛のソルシエラの上に立って胸を張る求道者。
その姿があまりにも予想通り過ぎて博士は一切心が動かされなかった。
その隣で同時上映されていた、シエルの連続単発神引きの方がまだ興味がある。
『5連続限定人権キャラです故……! それにキャンペーンで私だけ配布ガチャチケットが5兆枚……!』
『ナナちゃんは頑張っているので、後でジルニアス製ゲーミングPCを買ってあげます』
『流石ミロクです故!』
七色に輝くゲーミングPCにしがみつき頬ずりをするシエルを見ながら、博士は考える。
「デモンズギアをここまで堕落させるのはある意味凄いな……」
「こ、これに関しては私達は何も知らないよぉ! 気が付いたらこうなったんだよぉ!」
『ガチャ大勝ちスクショで煽るの楽しすぎです故』
「これが自然発生する訳ないだろ」
まったく信じて貰えないトアは諦めて、さっさと指揮者を呼び覚ます事にした。
そもそもお腹が空いて限界なのである。
「それよりも早く指揮者を目覚めさせよう?」
「ああ、そうだな。また肉壁で囲まれる前に目覚めさせないと」
肉の増殖速度は増している。
くだらない妄想を眺めている余裕など、ある訳がないのだ。
「……はぁ、目覚めさせるのかぁ」
「そ、そんなに変な人なの?」
「ああ、変な人だ」
博士は意を決して自身の頬を叩く。
そして、手で銃の形を作り認証システムへと照準を合わせた。
「最初に言っておく。あいつの話はまともに聞くな」
「え、うん」
「じゃあ行くぞ」
博士はそれから指先で小さな砲撃を放った。
細い魔力光が最小限の威力で認証システムを破壊する。
同時に溢れ出たエネルギーを博士は求道者の中に流し込みながら、同時にデータロイドに調和の銘を埋め込み指揮者の再現を始めた。
「この状態で求道者に記憶が戻ると夢にも変化があるのだろうか。……いや、ないみたいだな。ずっと大口を開けて大満足に笑っている。あんなことしているから舐められるって学習しないのかあいつは」
博士は呆れながら、求道者への銘エネルギーの注入を完了した。
残るは、指揮者の構築だけである。
「うぅ、ドキドキする……仲良くできると良いけど……」
「悪意はないから、仲良くは出来るだろう。まあ、お前の場合は玩具扱いだろうけどな」
「えっ」
「教授に代わって指揮者の簡単な説明をしてやる。こいつは博愛のソルシエラにスカウトされるまで、でっち上げの宗教で大陸を侵略しようとしていた。というか、実際に複数の国がその宗教に染まった」
「そ、それって悪い人じゃ……」
「僕もそう思う。実際、僕は牢屋の中で何度か会った。でも毎回、何故か奴だけすぐに釈放されるんだ。奴はスターシャイニー☆彡教の教祖だというのに」
「え?」
聞き間違いのような宗教名が出てきて思わずトアは聞き直す。
しかし、その時には既に指揮者の構築の殆どが完了していた。
その姿にトアは今までの言葉を全て吹きとばされるほどの衝撃を受ける。
「綺麗……」
嫋やかに揺れる黄金の髪は、まるで夕日に照らされた麦畑のようで、この世界のなによりも美しいという確信があった。
小さな顔に、長く整ったまつ毛。可愛らしい唇ですら、思わずそれだけ見惚れてしまう程だ。
背の程はトアよりも少し小さいくらいだろうが、すらりと伸びた手足は長く見ているだけで恐ろしい程の情欲と感動が湧く。
仮に、トアに意中の人間が居なければ即座に恋に落ちていただろう。
声も聞かず、まだ目覚めてすらいない、そして何故か下着姿である筈なのに、そんな事は全て放っておいてしまう程に指揮者と呼ばれる少女はあまりにも美として完成していた。
フェクトムというやたらと顔の整った者達がいる学園ですら、彼女には太刀打ちできないだろう。
しかしその事すら当然に思えた。
「……ま、まだ目が覚めないのかな」
トアが空腹すら忘れて指揮者の目覚めを待つ。
その異常事態に彼女自身が気が付くわけもなく、やがて指揮者の全ての構築過程が完了しその瞼が開かれた。
「…………ここは」
「目が覚めたか、指揮者」
「貴方は、博士ですか」
耳の奥へと入り込み脳を撫でまわすような美しく優しい声だった。
指揮者はそれからトアを見て、ゆっくりと礼をする。
「まだ状況が飲み込めていませんが、まずは挨拶を。私、名をルシエラ。今は銀の黄昏で教授を名乗っています」
「え……? し、指揮者じゃないの?」
「指揮者ですか……? いえ、私は教授ですが」
困惑したようにその美しい顔を歪める指揮者へと、博士がそっと近づく。
そして、彼女のこめかみへと指を添えた。
「真面目に話せ。お前の脳髄をぶちまけてもいいんだぞ」
「博士ったら、やきもちですか。大丈夫ですよ、そんなに心配しなくても私は貴方の伴侶で「コード999:崩壊――バン」あらあら」
遠慮なしの崩壊魔法式が指揮者へと放たれる。
それはまともに頭に直撃したが、効いた様子はなかった。
「は、伴侶……!?」
「一応言っておくが、嘘だぞ」
博士は既に疲れた様子で、もう一度崩壊魔法式の構築をしながら話す。
「指揮者、早速で悪いがお前にやって欲しい事がある」
「この不協和音の排除ですね?」
「……そうだ。というか、わかっていたのか」
「はい。調和の銘は世界の乱れに敏感ですから。それに」
指揮者が指をさす方向には、未だにルシエラ達の上で笑っている求道者の姿があった。
「なんて大変なんでしょう。恐らく、貴方たち以外は意識を別位相に幽閉されているのでしょうね」
「顔、にやけが止まってないぞ」
「まさか。…………ちなみに講師はどこにいますか?」
指揮者は博士ではなく、トアにそう問いかけた。
博士が制止する間もなく、トアは素直に答える。
「えっと、まだ目覚めさせていないです。皆を助けるためには指揮者さんの力が必要だったので、先に目覚めさせました」
「ああっこの馬鹿っ! 正直者っ!」
「え、え?」
「そうですか。講師はまだ目覚めていないのですね……」
指揮者は俯き、それから寝かされた教授を確認して、ゆっくりと顔を上げた。
その顔には微笑みが浮かんでいる。
まるで女神のような微笑みで、彼女は告げた。
「奇跡のカーニバルの幕開けです」
「えっ」
「やめろ! この迷宮と天使を破壊するだけでいい! それだけでいいんだ!」
「勿論、そのつもりですよ。任せてください、博士」
「ならどうして真っ直ぐ求道者の所に向かっているんだお前は!」
指揮者の覚醒が果たされた今、人類の勝利は確約された。
尤も、その過程は全て指揮者に一任されることになるのだが。
『なんて顔の良い美少女なんだ……! 美少女の輝きはちょっと濁ってるけど……』
『というかあの下着、ちょっと透けてないかい? 太もも曝け出したり、ぴっちりスーツだったり、銀の黄昏はとんだどスケベ集団だねぇ』
『あー! 逃げてください求道者!』
『うーん、顔は良いが、もう少し太ももはむっちりさせた方が良いのでは?』