【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
深層心理にあった夢を自ら否定させることで目覚めることが出来ると指揮者は語った。
その理屈は理解できるし、当然それしか現状手立てがない事もわかっている。
しかし、いくら世界を救う為とは言えその絵面は非常に最悪であった。
『ひっぐ……うぐっ、もう、離してぇ……たかいたかいやめてぇ……』
「(夕日とさざ波の美しい景色が脳裏に浮かぶ爆笑)」
お淑やかに、魅かれるほどに指揮者は腹を抱えて笑っていた。
その視線の先では悪夢を見せられた少女たちの映像が広がっている。
『ち、違うんだミハヤ! これはただ決闘なんだ。別に君が想像しているような卑しい事では……いや、違うんだ。さっきまで模擬戦用の会場だったのに急にベッドにいて……信じてくれ! 銃口をこっちに向けないでくれないか!?』
『こ、これで10連続天井到達……終わらないインフレ……脚本の明らかな手抜き……新キャラも実装されない……私はなぜこのゲームに課金をしたのでしょう。返して欲しいです故……』
『焼肉を皆で食べられなかった……またモヤシに逆戻り……』
『け、ケイ君がクラムと明日結婚を……!? 何故!? 私とは恋人ごっこだったんですか!?』
『トウラク、明日からお水だけは流石に死ぬ。最強のデモンズギアでも死んじゃう』
死屍累々。
廊下に映される鮮やかな悪夢と、背負われる者達の苦悶の顔。
その二つが重なり生み出す絶妙なハーモニーを指揮者は全身で堪能していた。
「順調ですね」
「お前それ僕の目を見て言ってみろよ」
「順調ですね」
「見るな気持ち悪い」
平然と美しい目で見つめてきた指揮者に汚物を見るような視線を返した博士の気分は憂鬱だった。
何故、指揮者を自分一人で御しきらなければならないのだろうか。これ自体が悪夢ではないか?
「ふふふ、美しい画たちですね。飾っておきたいくらいです」
「お前、目覚めた瞬間に全員からタコ殴りだぞ」
「何故ですか? 私はこれほどまでに皆さんに協力しているというのに。目覚めてすぐ、裏切り者である貴方達も纏めて助けてあげているんですよ? ……ああ、礼は結構です。仲間として当然のことをしたまでですから」
指揮者はそう言って何も映されていない肌色の壁に手を添える。
その瞬間、そこにはトアの見慣れた少女の姿が映し出された。
「あ、ケイちゃん!」
『二人とお出かけなんて初めてですね。私、久しぶりに楽しみで眠れませんでしたよ』
白い制服のスカートを風にひらりと揺らすケイとミロクとミズヒが映し出される。
その光景は幸せな夢そのものだ。
が、そこに悪魔の救いの手が伸びる。
「さて、ではこの子にはどんな飾りつけをしてあげましょうか」
「うぅケイちゃんごめん……」
何もできないトアは謝りながら目の前の光景が好き放題にされる姿を見ることしか出来なかった。
現にクローマへのお出かけだった筈が、妙なお店に到着している。
その扉を開けた瞬間、辺りは普遍的な一人暮らしの部屋になった。
落ち着いた色合いの家具と、カレンダーの端に書かれた『一日一ソル』という狂った目標が、誰の脳内から出力された空間であるのかを物語っている。
『先輩方、ここは……?』
『何をおかしなことを言っているんだケイ。お前の部屋だろう』
『やっぱりケイちゃんは家具のセンスが良いですね。一人暮らしをすると言ってフェクトムを離れましたけど……相変わらず、大丈夫そうですね』
「ん? 私の調和と違う……? なんですかこれ」
「僕が聞きたい」
「な、なにこれ……」
トアは困惑した。
何故、ケイは一人暮らし用のマンションにいるのか。
何故、三人は微妙に成長をしているのか。
ミズヒはTシャツにデニムパンツの簡素な恰好だが、それがむしろ自然体の彼女を引き立てている。
ミロクは白ニットに淡いミントカラーのレーススカートという出で立ちであり、普段よりもずっと柔らかな雰囲気だ。
そして何よりも。
『ああ、そうでした。……すみません、急に来ると言ったものですからこんなふざけた格好で』
先ほどまで制服だった筈のケイは、薄い白Tシャツに黒のドルフィンパンツという絶対にあり得ないだらけきった姿であった。
髪はソルシエラの時ほどではないがセミロングにまで伸ばされており、前髪を星のヘアピンでとめている。
良く知る姿よりも身長が伸び、若さの中に大人の色香が少しだけ感じられた。
「な、なにこのケイちゃん……」
トアの心の中ににょっきり生えたネームレスセンサーがびんびんに反応している。
仮に今の彼女の首にエッチ探知ッチを装着すれば、けたたましく鳴った事だろう。
「ケイちゃんが、こんなにだらしない恰好で……な、なんだかそれって、すごく……」
トアにとってのケイはいつも真面目で仲間思い。
誰の前でもきっちりとして、いかにも優等生という感じだった。
それが今はどうだろう。
油断しきった格好でやたらと美しい脚を見せながら、先輩二人を家に招き入れたのである。
仮にこの場にソルシエラ大好き四天王が居れば、その姿を網膜に焼き付けた事だろう。
「ちょ、ちょっとこれを見てもいいですか?」
「勿論です」
トアの言葉に指揮者は快く頷く。
博士だけは疲れ切った目で二人を見ていた。
『今日は私達の事をお姉ちゃんと呼んで甘えていいですからね』
『……ありがとうございます』
『敬語もいらん。さ、甘えてくれケイ』
『う、うん……お、お姉ちゃん』
『そうだ。私がミズヒお姉ちゃんだ』
『私はミロクお姉ちゃんですね』
『えへへ……なんだが、本当にお姉ちゃんが二人になったみたいです』
――ゾクッ。
トアの中を何かが駆け抜けた。
(そう言えばケイちゃんって、上にお兄ちゃんが二人いるんだった。もしかして、お姉ちゃんが欲しかったのかな)
見た目は姉だが、性別は兄の特殊個体が二人も上にいる環境はトアにはよくわからない。
が、ケイの深層心理が甘えられる姉を求めていることは分かった。
「成程、そういう事ですか。どうやらこのケイという女の子は相当警戒心が強いようですね」
「というと?」
「私が介入した瞬間に夢が切り替わりました。まるで病魔に侵された部分を切り離すように。つまりこれはまた別の理想です。……ほう、意識を失っていながらもこうして対抗してくるとは」
そこでトアはふと気が付く。
「そう言えば、ケイちゃんだけ私達に攻撃をしてないよ!」
「余程の精神力ですね。彼女、何者ですか」
「別の世界で天上の意思を殺した戦士だ。僕達の協力者でもある」
「へえ、それは丁重にもてなしてあげないといけませんね!」
「おい何をするつもりだ」
「求道者たちにしたように直接の嫌がらせではまた夢を切り替えられてしまうだけ。なら、夢から覚めたいようにすれば良いんです」
「どういうことだ」
「――羞恥」
指揮者は指をぱちんと鳴らしてそう答える。
およそ正気の沙汰ではなかった。
「トアさん、貴女を借りますね」
「え?」
指揮者は再び肌色の壁に触れる。
向こうでは、ケイがミズヒとミロクに妹のように甘えているところだった。
『せっかく来たことですし、今日は私が料理を振る舞います。キッチン借りますね。ケイちゃんはミズヒとゆっくりしていてください』
『ありがとう、み、ミロクお姉ちゃん』
『ふふ、徐々に慣れていきましょうね』
『うん……』
普段の真面目な顔つきは緩み、見ていると本当に二人の妹なのではないかと思ってしまう程だ。
そんな穏やか風景に、指揮者は新たに介入する。
「もっと自分を曝け出した所で、トアさんが現れたとしたら彼女はどうなるでしょうか」
「え」
「親しい間柄の人間との遭遇に嫌悪は生まれない。しかし見られたくはない。そこで生まれる美しき歪な感情――羞恥。それが、この子を救うのです」
「…………僕は迷宮を破壊したら、すぐにこの光景を忘れる事を誓おう」
「わ、私は……」
何かとてつもない尊厳破壊が行われようとしている。
それをトアは確信していた。
『大人ソルシエラ概念に妹ソルシエラ概念をクロス! 更に事前に唱えていた飲酒ソルシエラによりこのソルシエラはトリプルコンテンツブレイカーになるよ!』
『相棒、君はどれだけ私を楽しませれば気が済むんだい……!?』
『成程、考えましたね。確かに普段のソルシエラでは未来はお出しできない。飲酒も女子高生のコンテンツとしては使えない。なら、夢と言う形でお披露目すれば良い。言うなれば、【幻想未来図】ソルシエラ ☆5と言った所でしょうか。この形なら、他の子の未来の姿も出せる。一度で終わらせず、恒例イベントとして毎年開催すれば毎キャラごとに広がりもあります。それに季節感を気にしなくて良いで、どのタイミングでこのイベントを開催しても――』
『システム先輩が突っ込みを放棄した……!?』
『テム子はソシャゲ的に美味しいコンテンツだとこんな感じだよ』