【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない   作:不破ふわる

555 / 564
第543話 この世で最も華麗な魔法使い1-10

 ケイはこの日の為に完璧な根回しをしていた。

 自分の家に来る可能性があり、なおかつ合い鍵を持っている者にそれぞれの趣味趣向に合わせた足止めを用意したのである。

 ネームレスやトアなどはわかりやすく、食べ放題の店の新情報と開店記念クーポンまで渡していたのだ。

 そうすることで、この泥酔甘々妹タイムを邪魔されないように完璧にプランニングをしていたのである。

 

 が、悲しいかなこの数年の間に彼女の予測能力や慎重さは失われたようだ。

 

「ぁ、な、なぁ……(絶望)」

「三人とも、これはどういう状況かな……」

 

 それがかつて学園都市を騒がせ、世界すら救ったソルシエラだと誰がわかるだろうか。

 へそが出ている事すら気にしないだらしのない姿で、ミロクの太ももに頭を乗せているケイ。

 その姿は見る者が見れば卒倒するだろう。

 

「こ、これは違うのぉ」

「何が違うの? ……え、ていうか、酔ってる?」

「酔ってない!」

 

 ケイは起き上がり、トアをじっと見つめて否定した。

 が、その顔は赤らんでおり、数秒のにらみ合いの末にケイはふにゃりと体が曲がって再びミロクの太ももへと戻っていった。

 

「うぅ……ミロク先輩、私はもう駄目です……全部、お終いです……」

「あらあら、とりあえず今はミロクお姉ちゃんって呼んでください」

「うぅ……ミロクお姉ちゃん……」

「本当に何この状況……」

 

 トアは驚愕というよりはドン引きしていた。

 同年代で誰よりも真面目だと思っていた彼女が、まさか幼馴染を相手に泥酔甘々妹タイムをかましているとは思うまい。

 

「……私だけで良かったね。もう一人の私が居たら、多分ケイちゃん今日の内に色々と失っていたよ」

「怖いよぉ、ミロクお姉ちゃん、ミズヒお姉ちゃん」

「私が守ってあげますからねぇ。規則規則」

「お前守られるほど弱くはないだろ。戦え」

「うぅ、守ってぇ」

「む」

 

 今度は、突き放したミズヒへとケイは迫る。

 潤んだ瞳で四つん這いで近づいたケイは、そのままミズヒの太ももへと横になった。

 

「んぅ……」

「成程、ケイは酒を飲むとこうなるのか」

「甘えん坊さんで可愛いですねぇ……」

「これ絶対に明日悶絶するよこの子。というか、お酒無理矢理飲ませたでしょ! もうっ、ケイちゃんはお酒を飲まないんだから!」

「そんな事はない。こいつは自分から挑戦したいと言ったんだ。な?」

「うぅん」

「今のはどっち?」

 

 ケイは寝返りを打つようにトアから視線を外した。

 とりあえず視界に入れず、現実逃避をしたいらしい。

 

「……ケイちゃん、お酒を飲んで酔うのが怖かったらしいです。だから、年長者がいる場所で最初は試したかったんじゃないですか?」

「もうっ」

 

 同年代でいるときは、いつも周りに気を配り全員が楽しめるように務めるのがケイだ。

 だからこそ、羽目を外したかったのかもしれない。そう考えると、なんだか少しだけ寂しい気もした。

 

「そういう時くらい私達を頼ってくれていいのに」

「トアちゃんはともかく、ネムトアちゃんはお酒の席でスーパー大粗相をしたと聞きましたが? それと、ミユメちゃんは店のアルコールを全て飲み干したとか。それを見てお酒が怖くなったのでは?」

「せめて私には相談してよぉ! 私だけは大丈夫だよぉ!?」

 

 自分の事を一番マシだと思っているトアは自らを指さす。

 するとすかさず、ケイが告げた。

 

「トアちゃんもお酒飲むと凄いから怖い……。時々、私を食べ物を見る時と同じ目で見てない?」

「見てないよぉ!?」

「で、でも前にミユメちゃんの部屋でパーティーした時、私の耳を「ケイちゃん!」……え?」

 

 トアはその場に正座し、自分の太ももをパンパンと叩いた。

 その顔には笑顔が張り付いている。

 

「今日は私もお姉ちゃんになるからおいでー」

「え、え?」

「ほら、トアお姉ちゃんだよぉ? お姉ちゃん相手だったら、恥ずかしがる必要はないよね?」

「????」

 

 困惑しながらも、アルコールに脳を侵食されたケイは「まあお姉ちゃんなら……」と意味の分からない納得をしながら近づいていく。

 そして、とうとうケイはトアの太ももの魅力に抗えずにそのまま頭を乗せてしまった。

 

「ほら、トアお姉ちゃんの膝枕だよ~」

「トアお姉ちゃん……」

 

(っ! これは確かに可愛いかも。でも……ちょっとこれ怖い領域に片足入ってるね。可愛すぎる)

 

 端的に言って可愛すぎるのだ。

 赤らんだ顔と潤んだ瞳が、普段のケイから考えられないギャップを生み出している。

 仮にネームレスがこの場に居たら、と考えるとあまりにも恐ろしい。

 

「ミズヒちゃん、これ本当に普通のお酒? 正気とは思えない酔い方してるけど」

「ああ、別に普通だ。これをロックで飲ませただけだ」

 

 ミズヒは瓶を掲げる。

 それを見てトアはぎょっと固まった。

 

「そ、それ……一本80万するやつじゃなかったっけ?」

「そうなのか? リュウコがくれたからわからん」

「それに、初めての人が飲むにはアルコール度数が高いよそれ。え、それをロックで? ケイちゃんを社会的に殺す計画?」

「違うぞ」

 

 ミロクとミズヒはケイとは違い、涼しい顔をしている。

 この部屋で醜態をさらしているのはただ一人、膝枕の上で何かむにゃむにゃ言っているケイだけだった。

 

(こ、これ以上はケイちゃんの威厳に関わるよぉ! このまま私のことをずっとお姉ちゃんって言いながら甘えてきたら、正気に戻ったケイちゃんが死ぬ!)

 

 ミロクとミズヒは微笑ましい物を見ているように止めようとはしない。

 事の重大さを理解していないのだろう。

 

「トアちゃんも来たことですし、もう少し何かおつまみを作りましょうかね」

「それなら私も手伝おう」

 

 ミロクとミズヒはのんびりキッチンへ向かっている。

 トアは膝の上にケイを乗せた状態で残されてしまった。

 

「……こ、これは……早急にどうにかしないと」

「トアお姉ちゃん……えへへ……頭、撫でて」

「これ以上自分を殺すのは駄目だよぉ!」

 

 トアは必死に頭をフル回転させる。

 そして遂に打開策を見つけた。

 

「そうだ、これを使って……!」

 

 それはつい最近、ミユメから渡されたものだった。

 これがあれば、翌晩の超絶な悪夢と引き換えに一瞬で酔いが覚めるらしい。

 ネームレスが暴走した時用にと持っていたのだが、トアは仕方なくその切り札をここで切った。

 

「この酔いさまシート【禍】を張れば――」

「んきゅ!?」

 

 額にびたーんと勢いよく、紫色の小さな長方形の何かが張り付けられる。

 それは淡く怪しい光を放ちながら、ケイの体から酔いを奪い去り、代わりに悪夢を予約していった。

 そして5分後。

 

「……ぁ(絶望)」

「おはよう、ケイちゃん」

「と、トアちゃん」

「何?」

「ころして」

「駄目だよぉ」

 

 顔を真っ赤にしてケイは目を瞑る。

 頭の裏には、しっかりとトアの太ももの感触があった。

 

「わ、私ったら、なんて事を――」

 

 怖ろしいまでの羞恥が、この現実そのものを否定する。

 そうして一つの夢が終わりを迎え、一人の少女が救われたのだ。

 

 

■

 

 

 

「(一面に咲いた花のような笑顔)」

「こ、これで救われたの? ケイちゃんの羞恥プレイを見せられただけなのに?」

「お前それ絶対に本人の前で言うなよ? 知らないふりをするんだぞ?」

「あ、うん」

 

 壁の前でケイの羞恥プレイ大上映会を終えた後、一人は満足そうに、二人は気まずそうだった。

 ミロクやルシエラとはまた違った気まずさがここにはある。

 

「可愛らしい夢じゃないですか。ええ、本当に。私の事もお姉ちゃんと呼んで欲しいですね」

「絶対に止めるからな」

「私たちは何も見ていないってことにするんだから、お願いします!」

「(YESともNOとも言わないが美しい笑顔)」

「絶対に言うじゃないですかぁ!」

「さて、どうでしょうね。私は銘の特性があるので、正直に話すことしかできませんし」

「それ嘘ですよねぇ!?」

「あら、もうバレるようになってしまいましたか」

 

 指揮者はニコニコと笑いながら、ケイの方へと近づきその髪をそっと撫でた。

 

(それにしても……私の想定では配信中のトアさんに見つかりそのまま世界に生中継されて世界規模での羞恥プレイで目覚める予定だったのですが……)

 

 明確に、何かに調和の主導権が奪われた瞬間があった。

 それは指揮者にしかわからない、刹那で不可視の攻防戦。

 

 しかしそれは最終的に、指揮者の勝利という形で幕を閉じた。

 

(意識の世界であれだけ主導権を奪い合うことなんて初めてです。この子の意識が羞恥プレイの内容を選り好みしていたわけではないでしょうし……天使がいよいよ抵抗を強めたということですかね)

 

 指揮者は冷静に考える。

 相手は天使なのだから、油断など出来ない。

 それに、何より。

 

(どれだけ皆さんで遊べるか、見極めないと)

 

 出来ればラッカが目覚めるまではこのフィーバータイムが続いて欲しい。

 彼女は澄んだ心でそう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『へへっ、俺の夢で好き勝手なんてさせねえ! 指揮者、今回のコンテンツバトルは俺の勝ちだな!』

『天上の意思、君欲張ったねぇ。まさか全員の膝枕を望むとは』

『やはりあのトアという子がいいな。むっっっっっちりしてて、良い。余、これは流石に花丸あげちゃう』

『ああっ、ここから期間限定イベント【拝啓、彼方(みらい)の君へ】が始まるのでは!?』

『真面目にしなよテム子』

『は?』

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。