【書籍化決定】かませ役♂に憑依転生した俺はTSを諦めない 作:不破ふわる
「――それじゃあ、改めて今後の動き方だけれどそれぞれに干渉して意識が目覚めるようにすれば良いのね」
「ああ。既に調和の銘の力で意識は覚醒の傾向にある。そこにお前の干渉の力があればすぐに目覚められるだろう」
「そう、わかったわ。それじゃあ、そこのどうしようもない嘘つきは放っておいて良いわね」
見下すような視線をケイが向ける先には、銀の鎖で簀巻きにされた指揮者の姿があった。
その後方には先程まで指揮者がめり込んでいた穴がある。
「そんなぁ。私の事を信じてくださいよぉ。仲良くなりたかったから、少し揶揄っただけじゃないですかぁ」
「……チッ」
下着姿でグルグル巻きにされているその姿は官能的にも見える。
が、そんな事はケイにとってはどうでも良かった。
この少女のせいで晒さなくても良い恥を晒したのだから。
「あ、あのケイちゃん……大丈夫?」
「トアちゃん」
ケイはトアの方を向くと、その肩に手を置いて真面目な顔で告げる。
「何もなかった。そうでしょう?」
「うん」
「そう、それでいいの。さ、それじゃあ始めましょう」
「待ってください私って本当にこのままですか? 皆の為に寝起き一発目で頑張ったのに? 終わったら即座にポイですか。……まるで、あの人達みたいですね」
目を伏せ悲し気に呟かれた言葉は、確かな感情が乗っていた。
ケイは動きを止め、指揮者の方を振り返る。
「あの人達……?」
「ケイちゃん、たぶんそれも嘘だよ」
「はい、嘘です」
「っ……博士、こいつは殺しても良いかしら。何が調和の銘よ。自分が楽しむためだけに人を騙して一体何がしたいのよ」
「ケイちゃんってすっごくピュアなんですね」
「~っ!」
「(木漏れ日とせせらぎが脳裏に浮かぶような優しい爆笑)」
華麗に笑う指揮者へとケイは大鎌を向ける。
その刃には魔力が収束を始めており、仮に振るわれれば指揮者の首は跳ね飛ばされるだろう。
「わあ、待ってください。私を殺すのは後でも良いでしょう。今はやるべき事がある筈ですよ。優先順位を間違えないでください」
「誰のせいでややこしくなっていると思ってるんだお前」
呆れた博士は、仕方がなく仲裁に入る。
性格はどうしようもないが、銘が強力であることに変わりはない。ここで嘘を理由に失う訳にはいかなかった。
「ケイ、待ってやってくれ。こいつには後で講師の説教が待っている。それは奴にとって死よりも恐ろしい事だ」
「……今回だけは博士の顔を立てて見逃してあげる」
「ふふ、ありがとうございます。まあ、それが無くとも貴女は私を殺せませんでしたけれどね」
指揮者はそう言って当然のように立ち上がる。
巻き付かれていた鎖は糸の様に解け、黄金の粒子となって指揮者を飾り立てる。
そうある事が正しいと世界を調和したのだ。
「なら試してみる?」
「勘違いさせてしまったのなら申し訳ございません。まだそこの子の夢の調和が終わっていないので、生かしておくべきだと言いたかったのです」
「ネームレスがまだだったのね」
「はい。夢を少し覗いただけなので、遊ん……調和がまだなんです」
「遊ぶって言った……!」
トアの指摘を指揮者は華麗にスルーしてネームレスの傍に向かう。
そしてその傍にあった肌色の壁を人差し指で軽く小突いた。
映し出されるのは、ケイやトアにとっては見覚えのある場所だ。
古びた校舎に、いつものメンバー。
フェクトム総合学園の日常がそこには存在していた。
『もう、トアちゃんったら相変わらず食いしん坊なんだね』
『ちゃんと噛まないと駄目ですよー』
『皆が生きているってわかったらなんだか安心してお腹が空いちゃってぇ……! 美味しいよぉ!』
食堂でご飯をもりもりと食べるネームレスと、それを見守るケイとミロク。
まるで実際に過去にそのやり取りがあったのではないか、そう思えてしまう程に目の前の光景は既視感しかない。
彼女達にとっては普遍的な日常。
しかし、ネームレスにとってはもはやそれは理想なのだ。
「ネームレス……」
「どうやら訳アリのようですねぇ」
指揮者はネームレスの傍に座る。
そして、その膝にネームレスの頭を乗せて髪を梳かすように撫で始めた。
「この子を後回しにしたのは、私の調和でも夢が簡単には崩れそうになかったからです。それだけ強固な理想という事は、常日頃から思い続けてきたのでしょう。なんと健気な子なのでしょうか」
「そうね。ネームレスは誰よりも皆が大好きな子だったから」
ケイも傍に寄り、ネームレスの頭を撫でる。
彼女と戦ったからこそ、その気持ちは痛い程に理解していた。
「あ、あの指揮者さん。もしかしてこれから、ネームレスの夢にもあんなことを?」
トアは静かな空気を打ち破り、恐る恐る求道者の方を指さす。
彼女の傍の壁には、大量のトラックを連れて荒野を爆走する車の先頭でたかいたかいをされている求道者が映し出されていた。
『うわーん! もう最強はこりごりですよぉ~!』
悪夢にしてもそれは奇妙で後味が悪そうだ。
「……もしかして、夢の調和って今まで全部がああなのかしら?」
「ああですね」
ケイの問いに指揮者は笑顔で頷く。
それを聞いてケイは眉を顰めた。
「私の夢が突然、おかしくなったのも?」
「はて、何もなかった筈では? 私はよくわかりませんねぇ」
ネームレスを撫でながら笑う指揮者の姿は聖母のようで、一瞬その言葉を信じそうになってしまう。
「ふふ、もしもこの子の夢で調和の希望があるなら、言ってください」
「一体何の目的?」
「とても楽しませて貰ったのでお礼ですよ。それに」
指揮者はこの会話の間もネームレスから視線を逸らすことはなかった。
彼女は少しでもネームレスの中に在る何かを見ようとじっと見つめている。
「この子の夢の輝きは虚飾まみれで非常に美しいので」
「夢の輝きって、何ですか?」
トアの問いに指揮者はネームレスの胸を指さす。
「私達銀の黄昏は、それぞれ銘に対応して人々の魂の色が見えます。博士であればそれは知識への探求、教授であれば誰かを信じる心など」
「珍しく事実だ」
ケイとトアの視線を受けて、博士は頷く。
まともな人間のお墨付きを得て、ようやく二人は真面目に指揮者の話に耳を傾けた。
「私の場合、それは魂の安定具合が輝きとなって見えるのです。が、輝き方は人それぞれ。様々な輝きがありますが……この子はとても美しいです。自分の魂を必死に安定させようとして、自らを騙している。この子、これまで多くの事を偽って生きてきたのではないですか?」
「……捉え方によっては、そうかもしれないわね」
「そうでしょうともそうでしょうとも! だってこんなに寒々しく美しい輝きなのだから。まるで凍てついた泉の中心に咲く青い薔薇。決してあり得てはならない輝きに私、感心しております。美しい芸術品の上から自分の絵を描くような無粋な真似は致しません。私、人の夢と嘘は誰よりも尊重しているので」
「じゃああれは何だ」
『うわーん!』
「(月夜の薄明りの様に静かで穏やかな爆笑)」
指揮者は「さて」と言って、ケイを見る。
「貴女は特にこの方にとって大切な様子。であれば、夢の調和の方向性は貴女に任せるべきでしょう」
「……なら、なるべく幸せに目覚めさせて欲しい。この子にこれ以上の別れを体験させたくはないの。それが例え夢でも」
「そうだね、十分にこの子は頑張った。だからどうか気持ちよく起きれるようにして」
「成程成程……」
指揮者は二人の意見を聞いて真摯に頷く。
そして、優しい声色でそっとこう提案した。
「では、破廉恥な貴女が夢に現れて、興奮で目覚めるのはいかがでしょうか(事後承諾)」
「ちょっと貴女なにをやろうとしているの!?」
「私、しっとりしたの苦手なんです。それよりもカラってしていたり、パチパチってしていた方が好きなんですよ」
「うわっ、まずいよケイちゃん! さっきもそうやって私を夢の中に送り込んだんだよ! は、破廉恥なケイちゃんが夢に出て来ちゃうよぉ!」
「(大聖堂に響き渡る聖歌のような大爆笑)」
『あっちから破廉恥ケイコンテンツを!? こんな不労所得コンテンツに慣れちまったら、オイラ駄目になっちまうよぉ~!』
『おいあっちの破廉恥は良いのに私のどスケベが駄目なのはどういう理屈だ! 遺憾だねぇ!』
『破廉恥という事は、太ももがむっちむちなのか!? そうなのだな!?』
『待ってください天上の意思。それは早計というものです。ムチムチでなくとも破廉恥にはなります。特にソシャゲでは――』